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オーダースーツ企業への企画提案

第27期クロスメディアエキスパート認証試験が2019年3月17日(日)に実施された。第2部の論述試験は、「オーダースーツを製造・販売する企業にコミュニケーション戦略を企画提案する」という設定であった。

オーダースーツを取り巻く市場環境

近年、紳士スーツ市場はたいへん厳しい状況になっているという。総務省の家計調査によると世帯当たりのスーツ関連(スーツ、ネクタイ、ワイシャツ)の年間支出は、ピーク時の1991年に2万5,000円を超えていたが、2016年には6,959円と30%以下のレベルとなっている。
生産年齢人口の減少やクールビズの浸透、ビジネスウェアのカジュアル化など、さまざまな原因が指摘されている。

その一方でオーダースーツに参入する企業が増えている。以前は高級品が中心であったが、近年では既製服と同等の価格で高級感やフィット感が得られる製品が増えており、人気が高まっている。

2018年には、大手ファッション通販サイトがオーダースーツビジネスに参入し、話題となった。自宅で採寸用のニットスーツを着用し、スマホで撮影するだけで3Dの体型データが保存され、オーダーできるというものである。

格安オーダースーツから新ブランド創設へ

与件として設定されていたのは、かつて大手百貨店のオーダー部門のスーツ製造に特化していた企業である。早くから中国に製造拠点を立ち上げ、アパレル用のCAD/CAMを活用して効率化を実現していた。

百貨店の破たんによって経営危機に陥ったが、格安のオーダースーツ直販ビジネスに切替えることで再建を果たしたとされている。

しかし、大手紳士服チェーンを始めとしてオーダースーツ参入業者が増え、競合が激しくなったため、より高級感のある新ブランドを創設した、という設定である。

大学生を始めとした若者や女子向けに新ブランドを浸透させるには、どのようなメディア、コンテンツを用意すべきか。SNSや動画配信を通じて双方向コミュニケーションを実現するには何をすべきか。会員登録促進のため、どのような施策を講じるのか。イベントを開催し、集客や認知を広める方法など。
クロスメディアエキスパートの論述試験では、これらを提案書としてまとめることが求められる。

アパレル業界やスーツ市場の専門知識があるかどうかではない。
与件から当該企業の課題を読み取り、対象を絞り込んで訴求できること、どのメディアにどんなコンテンツを用意するか、どのような手法で発信し、ファンを育成するのか、適切なスケジュールと費用を提案書としてまとめることが求められている。
そして、最終的に課題を解決できるコミュニケーション戦略となっているかどうかが問われている。

「デジタル×紙×マーケティング」のスキル とは

現在の印刷企業には、デジタルメディアと紙メディアの強みを組合せ、クライアントの課題を解決すること、つまり、「デジタル×紙×マーケティング」が求められている。
これを実践するスキルを磨くには、何よりも経験が重要である。実践経験なしに、このようなビジネスを推進することはできないだろう。

しかし、基礎的なマーケティング知識や企画提案の考え方を身に付け、将来的に「デジタル×紙×マーケティング」プロジェクトのリーダーとなるには、クロスメディアエキスパート認証試験を通じて得られるものも多い。

(研究調査部 千葉弘幸)

クロスメディア 記述試験 【過去問題と解答例】

更新試験開始のご案内

本日より更新試験を開始しました。

更新申請された方々には、3月29日(金)ご登録メールアドレス(自宅)あてに試験専用サイトへのログインパスワードをご案内しております。

未着の場合は、下記いずれかの方法でパスワードを入手してください。

試験専用サイトログイン画面の「パスワードをお忘れですか?」より自動取得

ログイン画面の「パスワードをお忘れですか?」から、IDおよび受験申請時に申請されたご自宅メールアドレスを入力いただくと、パスワードを自動再通知いたします。 IDは、エキスパートIDと共通です。 

※試験専用サイトへのログインパスワードは、エキスパートWeb基本台帳のパスワードとは異なりますのでご注意ください。

○上記で解決しない場合は、サポート窓口までお問い合わせください。

CBT 方式試験のシステムや取り組み方に関するお問い合わせ
株式会社 イー・コミュニケーションズ サポート窓口
TEL 03-3560-3905 E-MAIL cbt-support@e-coms.co.jp
受付期間:試験期間内のみ対応 受付時間:平日10:00~17:00
制度内容に関するお問い合わせ
公益社団法人 日本印刷技術協会 資格制度事務局
TEL 03-3384-3115 E-MAIL expert@jagat.or.jp

第51期実技試験課題A支給素材訂正

第51期試験受験者各位

【課題A支給素材訂正】
実技試験サイト上からダウンロードいただく支給素材データについて、 課題制作の手引きに示しているものと異なっていることが判明しました。

訂正個所:
A課題制作の手引き8ページに記載の「photo_1.tif 」 と支給素材データ「photo_1.tif 」 が異なっている。

3月25日(月)16:43時点で正しい素材データに差し替えましたをお知らせします。

なお、すでにデータをダウンロードのうえ制作を進めていらっしゃる方については、差し替え前の素材データのまま進めていただいても採点上不利になることのないよう対処いたしますのでご安心ください。


JAGAT資格制度事務局

新たな仕事にチャレンジしながら自分を成長させる

産業用ロボットメーカーの広告宣伝業務に長年携わってきた水野雪氏は、実業務を通した自らの成長を次の新たな業務に生かしながら、多様な経験を積んできた。成長のプロセスに資格取得をどのように活用されたかをはじめ、自律的なキャリアの蓄積と展開について、お話を伺った。

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【資格者インタビュー】水野 雪氏 株式会社C.C. デザイン

これまでのお仕事の経歴や現在の状況についてお話しください。

(株)安川電機にて、中国事業の立ち上げ支援業務などを経て、社内CS 推進業務を担当していました。当初は事務職ではありましたが、社内広報、宣伝活動を通して、社内イントラなどの業務知識を身に付けました。その後グループ会社の広告代理店である安川オビアス(株)へ出向となり、約12 年間にわたり、広告、情報誌、カタログ、ウェブなどの企画・編集・デザイン制作の業務に携わりました。

2015年に都内のPR 会社に転職し、クリエイティブディレクターとして主にウェブ広告やPR を中心に仕事の幅を広げ、2017 年にフリーランスとしての活動を開始しました。

昨年には(株)C.C. デザインとして法人化し、広告・宣伝物の編集、デザイン制作やイベントの開催など、企画・PRを中心に活動しています。

さまざまな資格にチャレンジしていますが、どのような経緯からですか。

常に新しい仕事や、自分のレベルより少し難易度が高めの仕事に手を挙げてチャレンジするようにしてきました。

会社員時代は、新たな業務に取り組むには、まずはOJT で先輩や上司に教えていただきながら仕事をしてきました。そうして何らかの壁にぶつかったり、それをクリアしたりという経験をしていると、それらの業務について体系的に学びたいと思うようになります。そのように仕事をしながら学びたいテーマが定まってきたら、関連の資格を利用して全体像を把握しながら勉強するという方法をとってきました。実務に関連して既にさまざまな疑問や質問点を持って資格取得に臨んでいるので、吸収しやすく身に付きやすいように思います。

例えば広告の案件を単発で制作しているうちに、マーケティングやメディア、広告手法、効果測定などを全体的に理解する必要を感じるようになり、上司の推薦で関連講座を学習し、BtoB 広告マスターを取得しました。

また日々の編集制作を担当している中、著作権などの問題によく出会いました。当初は一つ一つ調べたり、上司に確認相談したりしていましたが、法律の全体像を把握することが不可欠だと思い、会社の推奨資格でもあった著作権検定を受けました。

こうして学習と実践を繰り返すことによって、仕事も徐々にお客様への提案型スタイルに変わりました。お客様に喜んでいただけたことで、さらに仕事を任せていただけるような良い循環につながりました。

資格試験の合格は目的ではなく、むしろプロとして仕事をするうえでのスタートラインだと思っています。資格を取得すると自分に自信がつきますし、こうした経験を積み重ねていくことで、本来の意味での成長ができるのではないかと思います。

勉強する方法は人それぞれですが、人生は長く、時代はどんどん変わっていきます。新しいものを吸収していかなければついていけなくなりますから、学び続けることは当然のことだと思っています。

資格で習得したことがご自身の実務に生きていると感じるのはどのような点ですか。

クロスメディアエキスパート認証試験を初めて受けた時は合格には至りませんでしたが、私にとっては、この試験を受けたことそのものに大きな意味がありました。というのは、論述試験で試される課題抽出と解決のための施策立案という考え方は、この試験で初めて触れた捉え方であり、大変刺激になったからです。課題に対するアプローチの仕方を知ったことで仕事への向き合い方が変わり、よりよい仕事につながるようになったと思います。この時の受験料は、仕事の仕方、捉え方を知るための授業料よりも価値のあるものだと思ったほどです。

今では、全ての仕事は「問題もしくは課題を解決すること」だと捉えて臨んでいます。さまざまな勉強を続けることで、解決のツールを増やすことができると思っています。

クロスメディアエキスパート資格の学習教材は、実業務にあたる際、今でも振り返って参考にすることもあります。会社員時代は、企業規模の大きいプロモーション業務の中の一部を担当するというパターンが多かったのですが、独立後は中小規模企業のプロモーションを総合的に提案する機会も増えてきました。そういった場面での企画提案については、クロスメディアの論述試験で学んだことが大いに役立っていると思います。

さまざまな領域に意欲的に取り組んでいらっしゃいますが、その秘訣は何ですか。

自分はお客様に鍛えられ、育てられてきたと思っています。業務知識がないとお客様からのニーズに応えられないため、勉強せざるを得ない状況となります。それを乗り越えると、お客様からの信頼につながり、次の依頼が来るということが何度もありました。自ら自身の現状よりも少し高めのレベルの仕事に手を挙げ、お客様からチャンスをいただき、その対応をしながら業務の幅を広げる、という繰り返しにより、強くなってきたように思います。

例えば安川電機時代は、主力商品である産業用ロボットの商品紹介制作物を作ることもあったのですが、最初は技術者の説明が理解できずにいました。私の仕事は商品を知ってもらえるような案内物を作ることですから、人に知ってもらうためにはまず自分が商品を理解しなければなりません。「自分が理解することで誰にでも分かりやすい内容での商品紹介をする」という目標を立て、どんどん自分から技術知識についても調べ、また社内の技術者にもよく質問するようになり、その結果社内外から「案内物の内容が良くなった」と評価をいただきました。常に自身の力と現実の間にあるギャップを課題として認識し、それを埋めるために勉強するようにした結果、学ぶこと自体も面白く思えてきましたし、お客様にも認めてもらえるようになったのだと思います。

最近では、ある企業のカタログ制作を受注したのですが、その仕事の展開として商品パッケージ自体のデザイン制作の依頼をいただきました。実はパッケージ制作の経験はないのですが、これもさまざまな方法で学びながら、取り組んでいるところです。

もともと自分をアピールしていくタイプではないので、特に独立後は周囲の方との関係作りや人脈によって仕事が軌道に乗ってきた面も大きいと思います。

ご自身の現在の課題は何ですか?

業務進捗管理や制作時間管理、価格設定などの数字に関わる面が、今後の課題だと思います。

会社員時代は、価格テーブルやある程度の費用感などが取引の前提としてあったので、あまり意識しなくても仕事ができたのですが、独立後はより「時間」「コスト」といった数字の意味を理解し、意識するようになりました。また以前は、会社にいるだけでも情報が自然とインプットされました。独立後は、自らアンテナを張ってセミナーや勉強会に参加し、見識を広げる努力をしています。

そういったこだわりと数字意識を持ちながら、プロジェクトを捉えていけるようにしたいと思っています。

取材・まとめ JAGAT CS部 丹羽 朋子
-JAGAT info 2019年2月号より転載-

3月17日(日)実施試験受験票発送

2019年3月17日(日)に実施いたします下記試験の受験票を発送しました。(受験申請時に指定いただいた連絡先ご住所あて普通郵便発送)

  • 第51期DTPエキスパート認証試験
  • 第27期クロスメディアエキスパート認証試験

受験当日のご案内を下記に掲載しておりますので、併せてお読みください。

DTPエキスパート認証試験 受験上のご注意

クロスメディアエキスパート認証試験 受験上のご注意

なお、3月11日(月)を過ぎましても受験票が届かない場合は、JAGAT資格制度事務局までご一報ください。代わりの受験票を発行いたします。

JAGAT資格制度事務局
e-mail: expert@jagat.or.jp
tel: 03-3384-3115

2019年4月実施更新試験申請期間延長

2019年4月に実施します更新試験の申請期間を
~3/8(金)23:59まで
延長いたします。

更新対象者で更新ご希望の方は、上記期日までに

  • 受験料のお振込み
  • 基本台帳よりの更新申請操作

を必ず完了いただけますようお願いいたします。

申請および更新試験について詳しくは、下記よりご覧ください。
DTPエキスパート認証更新申請方法のご案内
クロスメディアエキスパート認証更新申請方法のご案内

「デジタル×紙×マーケティング」を実践する人材の育成

先般のpage2019は「デジタル×紙×マーケティング」をメインテーマとして開催し、盛況のうちに終えることができた。「印刷物の価値を高めるために何をすべきか」という答えのヒントを見つけた方も少なくないだろう。

「デジタル×紙×マーケティング」の基礎力

「デジタル×紙×マーケティング」を一言で表すと、デジタルの良いところと紙の良いところをうまく使って、顧客のマーケティング活動に貢献することである。

それを実現するには、「デジタル×紙×マーケティング」の基礎力をアップすることが重要である。顧客が考えているマーケティングとはどういうものか、デジタルの強みと紙の強みとは何か、まず一般的な知識として身に付けなければならない。

そして、実際に「デジタル×紙×マーケティング」ビジネスをスタートするは、企画・提案力が必要である。

これらは相談や依頼があって始まる受動的ビジネスではなく、自ら企画・提案することで始まる能動的ビジネスである。デジタルの強みと紙の強みを組合せ、顧客が抱えている課題を解決する方策を企画・提案しなければ、ビジネスは始まらない。他社と差別化することもできない。

クロスメディアエキスパートと「デジタル×紙×マーケティング」

JAGATでは、クロスメディアエキスパート認証試験を実施している。ここでは、「マーケティング」「メディアとコンテンツ」「デジタルメディア技術」の3分野に関する知識が問われる。

ここでいうマーケティングは、基本的なマーケティングに最新のデジタルマーケティングを加えた内容である。「メディアとコンテンツ」は、クロスメディアという言葉通り、デジタルの強みと紙の強みを正確に把握しているかどうか問う内容である。

第2部の論述試験は、架空の企業に関する与件文を読み、顧客の課題を解決するコミュニケーション戦略の提案書を作成するものである。
試験形式であるため、制限時間内に与件文を理解し、一人で解決策を考え、提案書にまとめなければならない。そのため、基礎的な知識や理解力、企画・提案の実力が問われることとなる。

第26期試験では、「コインランドリービジネスをおこなうA社」が与件として出題された。

優秀解答では、以下のような内容が提示されていた。
(1)店舗近隣の住民に対する来店促進キャンペーン
・Web広告
・近隣の駅ポスター、サイネージ
・QRコードでWebサイトのキャンペーンページに誘導
・キャンペーンページで、クーポンを発行し、会員登録を促す
(2)SNS公式アカウントの開設
・twitter、インスタグラムに公式アカウントを開設、発信と交流をおこなう
・サービス紹介、洗たくモノの実用的知識や動画を発信
・画像投稿キャンペーンによる来店促進、ファン化促進
(3)Webサイトコンテンツのリニューアル
・サービス体験談をマンガにして配信
・ランドリーサービスのコストシミュレーションを算出・発信。
・プロが教えるシミぬき・汚れ落としを動画で紹介。
・安全性のPR

顧客から見て、「やってみたい」と思える期待感のある提案内容となっている。
クロスメディアエキスパート認証試験を通じて学習することが、「デジタル×紙×マーケティング」の実践に役立つことは疑いないと言える。

(研究調査部 千葉弘幸)

(※関連ページ)
クロスメディアエキスパート記述試験 【過去問題と解答例】

DTPエキスパートとは?~第51期DTPエキスパート認証試験 申請受付締切迫る(2/22)

エキスパート(Expert)を日本語訳すれば、「専門家、達人」などと表現されますが、当制度はDTPの専門家、達人を作るための制度ではありません。DTPが達人芸を要求する現状は過渡的な状況で、本当に必要なエキスパートとは、印刷物をつくる役割分野でのエキスパートのはずです。

上記はJAGATがDTPエキスパート認証試験を開始した当初、その案内パンフレット「受験の手引き」の冒頭にあった記述である。
続けて以下のように説明している。

デザイナーはあくまでデザイナー、エディターはあくまでエディター、プリンティングディレクターはあくまでプリンティングディレクターなのです。それらの人がDTPの知識を広く、正しく理解したうえでお互いにうまくパートナーとなることが目的です。

当時、DTPという新たな制作環境の出現によって、従来の伝統的な製版・印刷業以外の多くのバラバラの出自の人が、これまでの領域を超えて印刷物製作に直接かかわるようになって来た。そのため、DTPの正しい知識を持って、それぞれが持っている大きく違う文化的風土のギャップを埋め、よい印刷物の実現に向けて、制作環境やコミュニケーション作りを行うテクニカル・スーパーバイザーの養成が急務となり、その役割を担う者としてDTPエキスパートを想定し、カリキュラムを編成した。

それから四半世紀が経過し、DTPを取り巻く環境も大きく進化した。さらには社会が求める印刷の役割も変化して来た。
DTPが当たり前になり、当時のようなトラブルもなくなってきた。機械やソフトの進歩は様々な自動化やスキルレス化をもたらし、デジタル・ネットワーク社会の発展によって文化風土のギャップも小さくなってきたと言えるだろう。
そしてその頃は、DTPエキスパートの最終成果物は紙の印刷物であると言えたものが、そうはいかなくなってきたのだ。「正しい知識」がなくとも何とかなる時代に、DTPエキスパートの役割はもう終わったのだろうか?

いや、我々はグラフィックアーツ業界のプロであることを再び自覚しなければならない。
先日のpage2019での資格セミナーや対策講座でお馴染みの石塚講師がいつも言うのは「携帯電話のディスプレイに表示される文字組がばらばらになっているのは致し方がないが、それをキャプチャーしたままパンフレットとして印刷にするのは、プロとして許してはいけない」ということである。
プロはこうした評価がきちんとできるということであり、そうした人がいなければこの業界の将来は暗く、大げさに言えば文化の継承もままならないのではなかろうか。


1993年の初版発行以来、改訂を重ねてきた「DTPエキスパートカリキュラム」(第13版/2018年11月)には、印刷ビジネスの動向と展望をふまえ、今の時代にプロとして必要な正しい知識が集積されている。印刷物制作に留まらない周辺ビジネスとの連携をも視野に入れている。DTPエキスパートには新たに担うべき役割があるのである。

25年前の「受験の手引き」の記述の最後は「方向を見定める知識を持とう!」として以下のように結んでいる。

理想のDTPのモデルを追い求めるのではなく、まずは現実世界の問題解決に取り組まなければなりません。しかし現実は流動的であり、あまり目の前の事象に囚われると方向を見失ってしまいます。日々の努力が蓄積されて着実に前進できるような、中期的ロードマップを持たなければなりません。つまり時代に左右されない戦略で、時代に切り込む戦略を建てるのです。そのために、もともと印刷物を何のために作ろうとしていたのかを探り、よい印刷物とはどういうものかを理解し、それを最も効率よく作り出す制作環境を計画できる能力が必要です。

「もともと印刷物を何のために作ろうとしていたのかを探り」、「よい印刷物というものはどういうものかを理解し」とは今の時代においてもなかなか示唆に富んだ言葉ではないであろうか。

(CS部資格制度事務局 橋本和弥)

【関連情報】
第51期DTPエキスパート認証試験(3/17) 申請受付締切 2月22日(金) 
第27期クロスメディアエキスパート認証試験(3/17) 申請受付締切 2月22日(金)

【資格者インタビュー】脳脊髄液減少症で療養中も次の仕事のために

渡辺 博一 氏 DTPエキスパート

第50期DTPエキスパートを取得した渡辺博一さんは現在、脳脊髄液減少症という病気に苦しめられている。この病気は脳と脊髄の周りを満たす髄液が少なくなることによって、頭痛・めまい・首の痛み・耳鳴り・視力低下・全身倦怠感などのさまざまな症状が現れる病気だ。渡辺さんも頭痛がひどく、集中力も続かない、長時間起きて居られないなどの症状があり、継続的に業務を行うことが困難だ。

「この病気はあまり知られていないし、また症状が表に出ずに、見た目では病気と判断しづらいために、やる気がないなどと根性論で片づけられてしまい、なかなかその辛さが理解してもらえないのです」という。

それでも、体調の許す限り体力を落とさないためにもリハビリを兼ねて興味あるセミナーやイベントに参加するなど、体調が回復した時に役立つようにと、高い意欲で知識習得に励んでいる。

実務を通してさらなるスキル習得の必要性を感じ資格取得へ

渡辺さんは大学で機械⼯学を学んだ後メーカーを経て、独学でDTP ソフトを習得して就職情報誌の誌面制作の仕事に就いた。同時期に専門学校でDTP を体系的に学習した。もともと学生時代には埼玉県の印刷会社でインターンシップを経験しており、印刷という仕事には親近感を持っていた。

仕事をしていく中で、さらなるDTP の知識やスキル習得の必要性を感じて2006 年にはDTP 検定II種を取得した。また、その頃に大手印刷会社の友人にDTP エキスパートを有する人が、社内でも一目置かれているという仕事ぶりを聞き、よりレベルの高い資格としてDTP エキスパートの資格取得を意識するようになった。その後、印刷会社に転職し、刷版業務を担当することになった。

実際に印刷の版作りを担当するようになると、Mac・Windowsで誌面制作していた経験だけでは、良い印刷物を作るための知識が足りないことを実感する場面が幾度もあった。

渡辺さんは、自分が担当する工程だけではなく、制作工程全般の知識がお客様の満足できる印刷物制作には不可欠だとの思いを強くする。さらにその職場では、いろいろと渡辺さんにアドバイスをしてくれる尊敬する先輩がDTPエキスパートだったことも資格取得意欲を高めた。しかし、脳脊髄液減少症を発症し、長期の傷病休暇を取り、治療に専念したが、期間内に回復せず退職して療養することになった。現在、頭痛などの症状に悩まされる中でも、回復後、仕事に復帰するために向上心、問題意識を持って勉強に取り組んでいる。

資格取得後もレベルアップを

「これまでの就職情報誌でのデザイン・DTP 制作、印刷会社での刷版と生産管理の経験、専門学校での学習の成果を整理し、自分の知識と技量を客観的に評価してみようと思ってDTP エキスパート試験を受験することにしました。体調面・体力面など不安な要素がありましたが、JAGATのスタッフによる試験当日のサポートがあったので、安心して試験に臨むことができました」(渡辺さん)

試験に合格したことは、復帰に向けての自信になっているとのことだ。また、DTP エキスパート試験に合格したことによって、改めて自分の知識をもっとレベルアップさせる部分も見えてきた。

「カラーマネジメントの重要性を再確認しました。以前はあまり意識していなかったグラフィックカードやモニターのキャリブレーションや写真撮影時の照明(色温度)、Color Checker の必要性を再認識しました。資格を取ったことで、仕事を再開するときには、資格にふさわしいだけのレベルで仕事ができるように、これからも体調をみながらセミナーやイベントに参加して勉強や情報収集をしていきたいと思います」

病気療養中にもかかわらず復帰を目指し、知識習得に励む渡辺さんには、一日も早く病気を克服し、活躍を期待したい。