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【DTPエキスパートカリキュラムver.12】[コミュニケーション]5 コミュニケーション

印刷物などのメディアは、情報の移動・伝達=コミュニケーションの手段のひとつであり、コミュニケーションについての理解はメディアビジネスの根幹である。
メディア制作の源泉となる顧客企業のマーケティング活動では、コミュニケーション施策が重視される。情報収集と分析を基にメディア施策を立案し、多様化した各種メディアの特性を理解したうえで的確なメディアデザインを行うことが求められる。
印刷物をはじめとしたメディア制作にあたっては、制作目的を把握したうえで適切な仕様に落とし込むことが、情報の効果的な展開を効率よく行うためのポイントとなる。

【DTPエキスパートカリキュラムver.12】[コミュニケーション]5-1 情報デザイン

5-1-1 情報収集

情報と知識は区別すべきである。現状把握、問題解決、未来予測など目的によって、情報収集の情報源や方法は異なる。
情報は闇雲に集めるものではなく、効率よく情報収集することが重要である。
そのためには、「誰のために・何のために」(WHY)、「何を」(WHAT)、「どこから」(WHERE)、「誰が」(WHO)、「いつ」(WHEN)または「どの期間」(HOW LONG)、「どのように」(HOW TO)、「どのくらい」(HOW MANY)、集めるかが重要である。

➢ 調査

  • 調査は物事の実態や動向を明確にするために調べることである。それには、これまでの経緯を知るための調査、現状を把握するための調査、仮説を検証するための調査、問題を解決するための調査等がある。
  • 調査はこれらの物事を進めるための出発点であり、何を理解したいかを明確な目的としなければならない。
  • まず目的を設定し、調査の手法を決める。その後に具体的な調査計画を行い実際の調査に臨む。調査された結果は整理・分析して、自分や関係者が理解しやすいように表現して共有できるようにまとめる。

➢ 定性調査と定量調査

  • 調査は大きく分けて定性調査と定量調査の2つがある。
  • 定性調査は、調査対象者の思いや感じたこと、また生の声や行動等の数値化できない情報のことで、得られたデータを定性データという。インタビューや観察法等がある。
  • 定量調査は対象を量的な情報で数値化して把握できる調査のことで、得られたデータを定量データという。質問とそれに対応した回答が予め用意されているアンケート等がある。

➢ 分析

  • 分析とは特徴を捉えることである。何らかの目的で収集された複雑な文字や符号、数値等の事柄を一つ一つの要素や成分等に分類、整理、成型、取捨選択した上で解釈し、構成を明らかにして、価値のある意味を見出す作業である。
  • 分析の手法は、分析したい元の情報の形態や得たい結果によってさまざまであり、どのような分析手法が目的に合っているかを見極めることも大切である。また分析結果に対する判断力も重要である。

➢ 定性データの分析

  • 定性調査で得られるものとして、インタビューでのメモや録音、観察で得た写真や映像等のデータがある。これらを分析するには、次の手順で行う。
    1) 要素化。個別の要素に分類し新たな視点で構成する。
    2) グループ化とラベリング。互いに関係のあるデータを1つにまとめて意味を理解し、適切なラベルを付ける。
    3) 構造化。グループ同士の因果関係や包含などの関係性を見出し、構造を整理する。必要であれば説明用に文字や図を用いる場合もある。

➢ 定量データの分析
• 定量データを分析するには主に3つの種類に分けることができる。
1) 比較(比率)、2) 構成(数量やボリューム)、3) 変化(推移)、である。

➢ グラフ化(定量データ)

  • 定量調査等で得られた文字や符号、数値等のデータは、グラフ等を用いて可視化すると良い。
  • 円グラフ、棒グラフ、レーダーチャート、ヒストグラム、折れ線グラフなど、適切な結果を表現できるグラフを選ぶことが重要である。

➢ クロス集計(定量データ)

  • 複数の項目を縦横に分けて分析する手法をクロス集計という。多くの表計算ソフトがこの機能を持っている。
  • 例えば1つないし2つの項目を縦に並べ、もう1つの項目を横に並べて、異なる要素を掛け合わせて集計(クロス集計)することで、単純な集計では得られない傾向や値を見ることができる。

➢ 統計処理(定量データ)

  • 統計分析とも言い、統計学の手法のひとつである。データを客観的に説明できる方法である。単純な集計では得られない隠れた情報を捉えることが可能になる。またデータ全体の概要を理解することもできる。
  • 統計の処理には目的に応じて多くの手法がある。例えば「予測要因分析」、「パターン分類」、「知見の発見」等がある。
  • 標本の分布の特徴を現す平均値、最頻値、中央値といった「代表値」、データのばらつきを現す「分散」、「標準偏差」、2つの異なる集合間に違いがあるかを検証する「検定」といった統計処理の手法がある。

5-1-2 プレゼンテーション

  • プレゼンテーションは限られた条件のもとで、話し手の持つ情報・事実・意見・考え等を聞き手に分かりやすく正確に伝え、受け入れてもらうための行動である。
  • 主役は聞き手であり双方向のコミュニケーションによって話し手と聞き手の要望が一致することが大切である。
  • プレゼンテーションは目的、伝える内容等によって「提案・説得型」、「報告・共有型」、「講演・スピーチ型」の3種類に分けられる。

➢ ペルソナ・シナリオ

  • 製品開発やサービスの目的やコンセプトを明確にするために、調査で示された典型的なターゲットユーザーの特徴や人格を設定した架空の人物をペルソナという。
  • この人物の生活行動や利用パターン、思考、感情等をシミュレーションしストーリー化することをシナリオという。
  • 人物像を設定することで、開発やサービスを提供する異なる分野や立場の関係者間でイメージやビジョンを共有でき、効率的で精度の高い検討を進めることができる。

5-1-3 論理的思考

論理は思考の形式や法則を意味し、思考は思いめぐらせ考えることを意味する。つまり議論や物事に対して筋道を立てて、論理的に考えることをいう。
論理的とは、前提となる考えや根拠となる事実が客観的で正しく、その前提や事実と主張との関係が明確であることを指す。論理的に組み立てられた主張は、客観的で不足や過剰がなく説得力が増す。
近年では課題解決や戦略策定など構造的に物事を考えるために必要なビジネススキルのひとつとして注目されており、学校においても思考力を高める教育が進められている。

➢ 問題認識

  • 問題には、認識されているものと、そうでないものがある。認識されていない問題には、表面化しているが気が付いてないものと、表面化されずに隠れていて分からないものがある。気が付いていないものには、慣れてしまっている、あるいは不便さを感じていない場合等がある。隠れているものには、問題が表面化されずに進行中であり、放っておけば問題が発生する状態であるものがある。
  • また問題には、現在起きてしまった、または進行中の発生型。次の段階や目標等と、現状との差で生じる設定型。予め推測でき将来生じる潜在的問題の将来型がある。
  • 問題認識は問題を定義付け、何のために解決するか目的を明確にする必要がある。

➢ 目標設定

  • 何のため(目的)に何をする(目標)のか、目標は目的達成のために設定するものである。目的と目標は明確に区別しなければならない。
  • 目標は、1) 現状値:現状がどのレベルにあるのか把握する、2) 目標値:現状をどのレベルにするのか、3) 達成期限:いつまでに達成するのか、4) 評価:達成度合いを何で測るのか、といったことを最初に明確にしておかなければならない。

➢ 原因分析

  • 目標が達成されない場合や、問題が生じた場合、また問題が予測される場合には、何らかの原因がある。
  • 問題はあるべき姿と現状との差異であり、この差異の中に原因が存在する。この原因は解決すべき課題である。
  • 原因を調査する手順は、
    1) 現状調査:事実と情報を収集する。
    2) 原因調査:原因を分析する。分析方法には、特性要因図(魚骨図)やこれを反映したQC工程表などがある。
    3) 問題分析:関係する要素を見つけ出し問題を整理して、ロジックツリー等で体系化する。ロジックツリーでは横の要因(区分の異なる原因)と縦の要因(原因のさらなる原因)とを組み合わせて図解化する。

➢ 解決策の立案

  • • 問題の解決策は、原因分析で特定された原因を取り除くことで、問題が起きる前の状態に戻し、これから起こりうる問題を防ぐことである。しかし原因を取り除くことができなければ、新しい方法を考えなければならない。
  • • 新しい方法とは、問題が起きる前の状態に戻すことではなく、あるべき状態への目標に近づけるための別の方法のことである。未知の解決策を考えなければならない場合もあり、柔軟かつ斬新な発想力、幅広い知識と過去の事例の活用力、コミュニケーション能力等が必要になってくる。


➢ 発想の手法

  • • 創造的な発想の種類は大きく分けて次の4つがある。
    1) 発散手法:発散的に思考することで事実やアイデアを出すための発想法で、自由連想法、制限連想法、類比連想等がある。
    2) 収束手法:発散手法で出されたアイデア等をまとめて行く方法である。空間型(演繹法、帰納法)、系列型(因果法、時系列法)等がある。
    3) 統合手法:発散と収束を繰り返す方法である。
    4) 態度手法:創造的な態度を身に付け、心理的な行動等から発想する方法で、瞑想型法、交流型法、演劇型法等がある。

➢ ブレインストーミング

  • 米国アレックス・F・オズボーンが考案した、アイデアを創造する発散型の集団思考法で、自由連想法のひとつである。
  • この手法は、
    1) 批判禁止:相手の意見を批判しない。
    2) 自由奔放:つまらないアイデア、見当違いなアイデアでも良い。思いついたことを何でも歓迎する。
    3) 質より量:アイデアは多い程良い。
    4) 連想・結合:他人のアイデアから関連するアイデアを出したり、組み合わせたりしても良い。

➢ チェックリスト法

  • 発想の視点となる項目を並べて、アイデアを洗い出す発散型の強制連想法のひとつである。
  • 例えばオズボーンのチェックリストでは、
     他に利用したらどうか?
     アイデアを借りたらどうか?
     大きくしたらどうか?
     小さくしたらどうか?
     変更したらどうか?
     代用したらどうか?
     入れ換えたらどうか?
     逆にしたらどうか?
     組み合わせたらどうか?
    という項目がある。
  • 項目に制限はなく、目的に合わせてリストを準備する。

➢ マトリックス法

  • 変数2つを組み合わせ、そこから発想する発散型で、帰納法のひとつである。
  • 例えば、メニュー開発等のテーマを決めて、これに関連する変数(言葉や事象等)を洗い出して2つに絞り込む。例えば季節と食材。次にこの変数を元に関連する要素を洗い出す。例えば春、夏、秋、冬、と海の食材、山の食材、家畜、主食等。次にこれらを表の縦と横の項目に並べる。そして交差するすべての欄に連想するアイデアを記述していく方法である。

➢ NM法

  • 創造工学研究所所長の中山正和氏が考案した発散型類比法のひとつである。思考のプロセスを手順化することで手順に沿ってイメージ発想を行う。
    1) 課題を決める。
    2) キーワードを決める。
    3) 類比を発想する。
    4) 類比の背景を探る。
    5) アイデアを類比の背景と結びつけて発想する。
    6) 5) を使って解決策にまとめる。

➢ KJ法

  • 文化人類学者の川喜多次郎氏が考案した収束型の帰納法のひとつである。川喜多次郎氏の頭文字をとってKJ法と名付けられた。
    1) テーマを決める。
    2) ブレインストーミング等で意見やアイデアを1件1枚の小さな紙に書き出して模造紙等に並べる。
    3) 似たものを小グループとして見出しを付ける。さらに似たものを集めて中グループ、大グループとしてまとめて(10グループ以内程度)見出しをつける。
    4) グループ同士を構造化(上位と下位、原因と結果等)して、線や矢印等で関連性を作図する。
    5) 図や文章等でまとめる。

5-1-4 情報の構造

1つの要素(単体)の情報では価値は低いが、関連するものを1つにまとめたり、まとまった情報同士の関連性を見出したりすることで、新たな価値を生むことができる。また、既にまとめられた情報を新たな視点で再度構造化することで、当初とは異なった価値を生むこともある。
情報の構造化とは、目的に合わせて情報の関係性を示し意味を分かりやすくすることである。

➢ 情報の組織化

  • 個別の情報を1つのまとまりとして扱うことで価値を持たせることを情報の組織化または情報の構造化という。
  • 米国の建築家リチャード・ソール・ワーマン(Wurman, Richard Saul)がLATCH(5つの帽子掛け)という情報の組織化を提唱した。
  • LATCHは次の5つである。
    1) Location(位置):地図やエリア等でまとめる。
    2) Alphabet(アルファベット):順番や順序等でまとめる。
    3) Time(時間):時系列や時間軸等でまとめる。
    4) Category(分野):科目や範囲、関連等でまとめる。
    5) Hierarchy(階層・連続量):大小、重要度等でまとめる。

➢ 情報構造の種類

  • 情報の一要素は他の要素と何らかの関係性を持たせることができる。
  • この関係性は7つの種類に分けることができる。
    1) 線形構造。順序があり直線的な流れを表す。
    2) 階層構造。カテゴリ等の上下の関係を表す。
    3) 並列構造。時間軸や空間軸等において別々の情報が並行に並ぶ関係を表す。
    4) 行列構造。縦横2方向の直線的な情報を表す。
    5) 放射状構造。情報同士がさまざまな関係を表す。
    6) 重ね合わせ構造。情報同士を重ね合わせる関係を表す。
    7) 拡大構造。元の情報から一部を拡大して詳細な情報を表す。

5-1-5 メディア特性

コミュニケーションは、メディアの特性を捉えてその特性に沿った情報発信をすることにより効果を増す。多様化する各メディアの特性を捉えた上で、対象や状況に応じたメディアの選定とコンテンツ展開を計画するコミュニケーションデザインの観点が不可欠となる。

➢ クロスメディア

  • クロスメディアとは、ある情報について、文字や音、映像などのさまざまな素材と、印刷やインターネットなど、複数のメディアを用いて効果的な伝達を行う手法である。インターネットとそれに対応したモバイル端末が普及するに従い、複数のメディアを横断的に使用する手法が一般化している。

➢ 紙メディア

  • IT技術の進歩に伴って情報伝達の手段が多様化しているが、紙メディア(印刷物)には、さまざまな利点があり、重要な媒体として位置づけられる。
  • 紙メディアは、サイズをさまざまに変えることができるのでB全ポスターからチラシやペットボトルなどに貼る小さいシールまで幅広い用途に対応できる。形状も多様に変えることが可能で、多角形、円、不定形、折ることで立体的にすることもできる。また、使われる場ごとで要求される大きさに応じて折る、丸める、などが可能で、携帯性に優れている。
  • 紙メディアは、インタフェースに関しては、使うために特別な道具を必要とせず、子供から大人まで、いつでもどこでも利用できるメディアである。
  • 紙メディアは、文字や写真、イラストはもとより、他の方法でも情報伝達、配信ができる。例えばJANコードに代表される一次元バーコードを印字すれば、商品管理機能の一端を担わせることもできる。
  • 携帯電話やスマートフォンなどモバイルのリーダーからも読み取りが可能になったことで、紙メディアは情報収集のツールとしても考えることができる。二次元コードを印字すれば、インターネット経由でサーバー上のコンテンツや各種の仕掛けにアクセスさせることができる。
  • 個別ニーズの把握・分析が要求されている現在、商品ごとや個人ごとの紐づけを紙メディアへ付加することで、その分析端末とも考えられる。このように、紙メディアは先端技術との連携も可能である。マスメディアだけでなく新しい情報媒体が現れている中、「紙メディア」がネットワークの中心になることも可能である。
  • 新聞折り込みのスーパーマーケットのチラシは、読み手の第一印象や視線を測って設計され、多くの情報が載っている。このようなものをWeb上へ置いた場合、掲載できる情報量は半無限であるが、読み手が一瞥できる範囲は比較的小さい。折り込みのチラシはテレビ、ラジオのマス広告とは異なり、対象地域を絞り込んで重点的に宣伝できる。またチラシからWebページに誘導するためにWebページのアドレスを印刷して紙メディアと電子メディアのそれぞれの利点を活かそうとする方法もある。
  • 環境問題が叫ばれる現在では紙の素材も多様になってきている。CO2削減に向けた動きとともにCSRと密接に関わった環境配慮の姿勢からエコに通じる紙の選択が増えている。代表的なエコ用紙には、リサイクル用紙(再生紙)があるが、最近は環境対応用紙としてケナフやバガスなどの非木材系の紙を使うことも多くなってきた。
  • カーボン・オフセットとは、企業活動や商品製造等によって排出してしまう温室効果ガス排出量(二酸化炭素)のうち、どうしても削減できない量の全部または一部を、他の場所での排出削減・吸収量で埋め合わせする仕組みである。発生してしまった二酸化炭素の量を何らかの方法で相殺し排出を実質ゼロに近づけようという発想である。

➢ デジタルメディア

  • デジタルメディアの特徴として、1) 双方向性、2) 速報性、リアルタイム性、3) 検索性の高さ、4) 再利用、再編集の容易さ、5) 情報量の制約が少ない(大容量のデータが扱える)、6) 配信コストが安い、などが挙げられる。
  • SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)は、インターネット上で提供される、利用者を限定したコミュニティー型の情報サービスで、代表的なものにFacebookやmixi、Twitterなどがある。こうしたサービスの総称をソーシャルメディアという。マスメディアに匹敵するほどのユーザー数を持つようになり、広告・販促活動やECへの影響力が増している。
  • 無料で誰でも始められるという手軽さもあり、商品の情報をFacebookで写真付きで紹介したり、セール情報をTwitterでツイートして誘客する店舗も多い。
  • O2O(オー・ツー・オー)とは「Online to Offline」を略した言葉である。オンラインからオフラインへ、とはすなわちインターネット上での集客を実店舗へ誘導することを指している。このキーワードを耳にする機会が近年増えた背景には、スマートフォンの普及とそこで動作するアプリ、ソーシャルメディアを組み合わせやすくなったことがある。
  • オムニチャネルのオムニ(OMNI-)は「すべて」とか「広く、あまねく」という意味があり、インターネットや実店舗など、あらゆる顧客との接点を連携させて拡販するマーケティング戦略を指している。具体的には、小売業などで実店舗とテレビショッピング、テレビCM、カタログ通販、Eコマースや商品の情報ページ、SNSなど、あらゆる顧客接点を連携させて販売につなげようとする考え方や施策をいう。
  • 顧客が商品を認知して、購入を検討し、実際に購入するまでのプロセスで、どのチャネルを経由して販売店側にアプローチしても、不利益を感じることなく買い物ができる環境を提供するというのが基本コンセプトである。

【DTPエキスパートカリキュラムver.12】[コミュニケーション]5-2 マーケティング活動と印刷メディア

5-2-1 マーケティング

  • マーケティングとは、本来は顧客のニーズを解明し、顧客価値を生み出すための経営哲学、戦略、プロセスを指す言葉である。日本マーケティング協会は「企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合活動である。」と定義している。
  • マーケティングミックスとは、マーケティング戦略においてマーケティング・ツールを組み合わせて、望ましい反応を市場から引き出すことである。代表的なものとして、製品(Product)、価格(Price)、販促(Promotion)、流通(Place)からなる4P理論がある。また、買い手側の視点から、顧客価値(Customer Value)、経費(Cost)、顧客とのコミュニケーション(Communication)、顧客利便性(Convenience)を4C理論とする考え方もある。

5-2-2 インターネットマーケティング

  • インターネットマーケティングとは、インターネット上での商品やサービスのマーケティングである。Webマーケティング、オンラインマーケティング、ネットマーケティングと呼ばれることもある。狭義にはインターネットや電子メールなどを利用したマーケティングを指すが、広義にはデジタル化された顧客データ管理システムや電子的な顧客関係管理システムを含む。

5-2-3 デジタルマーケティング

  • デジタルマーケティングとは、顧客にリーチし、顧客をリードし、顧客に購入を促し、顧客を保持するために、デジタルテクノロジーを用いた測定可能でインタラクティブな手法である。インターネットマーケティング、またはWebマーケティングに留まらず、オフラインを含むあらゆるチャネルのマーケティングを総括的に管理するものである。

5-2-4 マーケティングオートメーション

  • マーケティングオートメーションは、メールやソーシャルメディア、Webなどを活用したマーケティング活動を効率化し、効果的にすることであり、またはそれを目的としたソフトウェアである。一般に、メール配信や登録フォーム、キャンペーン管理、リード(見込客)管理・リードナーチャリング、マーケティング分析、Web解析、リードの行動分析などの機能を実装し、それらのワークフローを自動化することができる。また、これらの一連の活動の1つとして、重要顧客に対してDMやパーソナライズされた紙メディアを制作・送付することもある。

【DTPエキスパートカリキュラムver.12】[DTP]1-4 ワークフロー

印刷物の制作工程は、プリプレス工程のデジタル化によりシームレスになっている。全体工程を見渡したワークフロー設計と、各工程での責任範囲を決める必要がある。
プリプレス工程では、造本、印刷・後加工の仕様に適合するように、作業の設計を行う必要がある。

1-4-1 全体工程

  • 印刷物の制作工程および役割分担は、おおよそ下記のようになる。(制作物の特性によっては、下記のほかにアートディレクターやクリエイティブディレクターという立場の人が関わる場合もある。)
    制作物内容の企画(編集者・ディレクター)
    誰に向けたどのような情報を伝える制作物かを決めるとともに、その目的に即した情報の表現と演出を検討する。
    制作工程確定(編集者・ディレクター)
    全体工程と進行の管理をする。
    企画に沿った制作物の仕様設計(エディトリアルデザイナー、グラフィックデザイナー:造本設計・紙面設計)
    制作物の形状からレイアウトデザインフォーマットまで確定する。
    各要素の作成(原稿執筆:ライター、撮影:カメラマン、描画:イラストレーターなど)
    DTP制作環境の準備(編集者・ディレクター・システム担当者)
    使用するアプリケーション(ソフトウェア)やデータ受け渡し方法などの環境を整える。
    レイアウトデータの作成(DTPオペレーター)
    ページの基本デザインフォーマットに従って、各ページに要素をレイアウトする。
    校正(編集者・各要素作成者)
    校正紙を確認し、修正を的確に指示する。
    印刷出力用データの準備(DTPオペレーター)
    データの印刷適性を確認し、出力環境に沿ったデータ形式で準備する。
    色校正(編集者・各要素作成者)
    校了
    印刷仕様とともにデータを出力側に渡す。
    面付け(出力オペレーター)
    印刷機にかける版のサイズに合わせて各ページを面付けする。頁物の面付けは、製本の綴じ方や折り方などの仕様によって変わる。
    CTP(または無版印刷へ)(出力オペレーター)
    印刷(印刷機オペーレーター)
    折り(折加工機オペレーター)
    丁合・製本・断裁(製本機オペレーター)
    その他
  • 端物の制作工程では、端物独自の特殊な折り加工(巻三つ折りや経本折り、観音折りなど)を必要とする場合があるので、最終加工を想定したレイアウトデザインをする。

1-4-2 企画と制作工程管理

  • 制作の前提条件は、発注者の意向を確かめ、よく吟味して確認することが重要である。
  • 制作物は、その内容と目的に沿って設計されることが重要であるため、下記の前提条件の確認が必須となる。
     目的:制作物が何のために用いられるものであるかを明確にする。
     ターゲット:誰に向けたものであるかを明確にする。
     内容:どんな情報を発信するのかを明確にする。
     場所:どのような状況で使用するのかを明確にする。
     時期:いつ使用するのかを明確にする。
     値段:プロジェクト予算や制作物の費用対効果を考慮する。
     数量:制作物の発行部数、露出量を明確にする。
     方法:どのようなメディアを使用するのかを明確にする。

➢ 制作工程の計画
工程の計画・費用

  • 企画に沿った制作物を具現化するための工程を計画する。
  • 計画に際しては、実作業者が計画を継承して制作を進めるために必要な仕様設計や制作手法、作業工程、詳細設定などを制作工程表などとしてまとめる。
  • 制作工程表には一般に下記の項目が必要となる。
    1) 制作コンセプト(企画意図)
    2) 費用(各種費用および作業工数に基づく制作工程の数値化)
    3) 制作環境(ハードウェア、ソフトウェア、環境設定、データの授受方法など)
    4) 制作工程(全体のワークフローとスケジュール、各種役割分担など)
    5) 制作物の仕様(造本設計や紙面設計、納品形態、必要に応じて各コンテンツの詳細指定など)
    6) その他制作上の注意点(制作工程の標準化や効率化など)

工程の進行・管理

  • 制作工程の進行・管理にあたっては、指示書をわかりやすく、用語を正しく用いることにより、作業者がスムーズに業務にとりかかれることが望ましい。
  • 一連の作業管理のために、作業予定を時系列に記した進行表に基づき、各工程の制作を進行する。
  • 書籍制作においては、編集企画段階ではどのページに何が入るかを確認するためのページ割表を作成し、印刷段階ではページ順とノンブルの関係、折りと表裏の関係を明確にするために別途台割表を作成する。

【DTPエキスパートカリキュラムver.12】[DTP]1-6 校正

1-6-1 原稿整理

  • 原稿表記の様式は、著者の思想および感情の表現の一部であり、また一冊の本の中での表記形式の不統一は、読者が内容を理解するときに混乱を起こす。よって原稿整理が必要となる。
  • 原稿整理においては、第一に著者の意向を尊重して執筆方針を読み取った上で作業を進め、その中で未整理の部分、不統一の部分を正す。表記については、あらかじめ著者との間の「執筆要項」および出版社における原稿表記ルールを明文化したハウスルールを作成するなどし、表記形式や組版原則、書籍体裁を決めておく。

1-6-2 支援ツール

  • 情報がデジタル化され、情報発信媒体が多様化する中、精度やスピード、コスト面で有効とされている日本語変換のための専用辞書や文章校正支援ツール、また新聞社や出版社独自の表記ルールや用字用語規則データベースから入力時点での表記のゆれや用字用語の統一を可能とするツールなどが活用されている。

1-6-3 表記統一

  • 下記の項目について注意し、一定の基準を設けることが望ましい。
     ・文体
     ・漢字の使用範囲
     ・漢字の字体
     ・仮名づかい
     ・数字の表記
     ・単位の表記
     ・記号の統一
     ・句読点の使い方
     ・学術用語、専門用語の表記
     ・固有名詞と普通名詞の表記
     ・外来語の表記
     ・欧文表記
  • 表記統一の基準については、社会一般で慣用として使われている常識・ルール、内閣告示や文化審議会国語分科会報告、新聞社・出版社で独自に定めているルール(ハウスルール)などが参考に挙げられる。

1-6-4 校正記号

  • 組版されたページ(ゲラ)に対し、原稿整理の基準に照らし合わせてチェックをし、修正作業者に正しく簡潔に修正の指示が伝わるよう、JIS Z 8208:2007として定められている校正記号にしたがって修正の指示をする。

1-6-5 校正と校閲

  • 文字の誤りや用語・表記の不統一などを正す校正に対し、書かれた内容が事実と合っているかを確認する作業を校閲という。

1-6-6 色校正

  • 顧客に提出する色校正は、顧客にカラー画像の品質のチェックをしてもらい、本刷りの了承を得るためのものである。校正結果は、製版工程への修正の作業指示となり、印刷工程への本刷りの作業指示となる。
  • 色校正には、画像の質は問わず、文字・線画が色指定どおりに製版されているかを確認するために作成されるものもある。

➢ 手法

  • 色校正の方法には、大別すると印刷機を使うインキ校正とデジタルプルーフ(DDCPや大判インクジェットプリンターなどを使うもの)がある。
  • インキ校正は、印刷本紙と印刷用インキを使うことで、最終印刷物と同等の品質を得ることも可能である。しかし、版を作成して印刷する方法のため、コスト面、納期面の制約が大きい。
  • インキ校正には、平台校正機と呼ばれる校正専用印刷機を使用する場合と本機を使用する場合がある。平台校正機は印刷条件が安定しないことなどから、昨今ではめったに使用されなくなっている。
  • デジタルプルーフの場合、カラーマネジメントが組み込まれていることが一般的であり、色再現の精度も高くなっている。

【DTPエキスパートカリキュラムver.12】[DTP]1.1 概要

DTPに必要な環境の構築から、印刷物制作における各構成要素について理解し、適切な制作フローを踏まえた工程管理までを理解する。

1-1-1 DTPの変遷

  • DTP登場以前のプリプレス工程においてはリライト原稿、レイアウト用紙、版下、フィルム、刷版といった中間生成物があった。これに対し1985年、DTPに必要な3つの要素Macintosh(パソコン)、LaserWriter(プリンター)、PageMaker(レイアウトソフト)が登場した。これによりデザイナーや編集者、制作担当者など、印刷物作りに関わる人の間で、文書データが場所を問わず扱えるようになった。
  • DTPはデザイン、写植・版下、製版という3つの工程を結びつけた。AdobeのIllustratorというソフトウェアによりカラー処理が可能となり、1990年頃からカラー印刷物のDTP化が盛んになった。1992年頃からは生産性においても製版の専用システムに太刀打ちできるようになった。今日では、DTPは世界の印刷物制作の標準になっている。

1-1-2 DTPの3要素

  • DTPにおける第1の要素は、WYSIWYG(What You See Is What You Get:見たままが得られる)である。当初からMacintoshは、ディスプレイ上で紙面と同様のイメージを表現することができるWYSIWYG機能を備えていた。
  • 第2の要素は、ページ記述言語であるPDL(Page Description Language)の標準化である。PostScriptは、1982年Adobeにより開発されたPDLである。AppleのLaserWriter NTXは、PostScript言語で記述されたデータを解析するインタープリターを備えた最初のプリンターであった。PostScriptは言語仕様が公開されており、対応したインタープリターを搭載する出力装置であれば、異なる機種であっても同一の紙面データからは同等の出力を可能にする。
  • 第3の要素は、パソコン(パーソナルコンピューター)上で文字や画像、図表が扱えるページレイアウトソフトである。PageMakerは、レイアウト(組版)機能によって文字や画像を画面上で統合してレイアウトし、PostScriptデータとしてプリンターに送信することを可能にしたソフトウェアである。

【DTPエキスパートカリキュラムver.12】[DTP]1-3 印刷物

1-3-1 企画

  • 印刷物を制作するにあたっては必ず目的と用途がある。これらに基づいて制作のプロセスが進行する。

➢ 設計

  • レイアウトの基本設計は企画コンセプトによって決定される。コンセプトに基づいて全体の構成や写真の配置、色使い、見出しや文字の大きさ、書体などを決めていく。また、組版の禁則処理や校正など、印刷物を製作するにあたって必要なルールを知っておく必要がある。

1-3-2 原稿

  • 原稿には大きく分けて、写真などの階調原稿と、文字・図版などの原稿がある。

1-3-3 印刷物のサイズと用紙

  • 印刷用紙のサイズには、「原紙寸法」と「紙加工仕上り寸法」の2つがある。
  • 原紙は、印刷や製本を経た後に、仕上りサイズに加工される。
  • JISの規格となっている「原紙寸法」には、
     ・四六判(788×1,091mm)
     ・B列本判(765×1,085mm)
     ・菊判(636×939mm)
     ・A列本判(625×880mm)
     ・ハトロン判(900×1,200mm)
    の5つがあり、名称についてはJISにより規格化されている。
  • 原紙サイズを1/2(半裁:はんさい)、または、1/4(四裁:よんさい)に裁ってから印刷することもあるため、元のサイズを便宜上「全判」と呼ぶのが一般的である。
     ・A列本判=A全判
     ・B列本判=B全判
     ・菊判=菊全判
     ・四六判=四六全判
    また、JIS規格ではないが、A倍判やB倍判などといった、大きなサイズの原紙もある。
  • 仕上り寸法がA列の場合は、「A列本判」や「菊判」の原紙を使用することが多い。B列の場合も同様に、「B列本判」や「四六判」の原紙を使用することが多い。原紙サイズで印刷した後に仕上げ段階で余分な部分を断裁して仕上げるのが一般的である。
  • 印刷物のサイズは仕上り寸法であり、A1のサイズは841×594mm、B1のサイズは1,030×728mmである。一般的には印刷物の仕上りサイズは、倍判や全判の長辺を何度か2分割したものとするのが原則である。短辺と長辺の比率は、1:√2の関係である。A5は原紙を4回分割したもの(サイズは、210×148mm)であり、原紙から16枚とれる。
  • 規格外の仕上り寸法が使用されることも多く、新書のサイズは182×103mmであり、B列本判から40枚とれる。AB判のサイズが257×210mmであるように、特殊な寸法は紙の無駄となる考えから、変形サイズであっても原紙や印刷を考慮して定められたサイズが使用されることが多い。このほか、148×100mmのハガキや、他の規格、慣例的に定められたサイズに則り、印刷物は設計される。

1-3-4 印刷用紙の選択

  • 印刷物の品質は、印刷方式や用紙などの条件により、大きく左右される。
  • 発色については、紙質の影響を受ける。印刷面に光沢をもたせるときは、塗工紙であるアート系やコート系の用紙を使用する。アート系やコート系の用紙は、カラー印刷物の場合、濃度が高くなり、彩度が高く感じられる。表面が粗く、乱反射を起こす用紙は、濃度が低くなる可能性が高い。また印刷物の発色には、紙の白色度が大きな影響を与える。

➢ 上質紙

  • 上質紙は四六判で55~90kg程度のものが本文用紙として使用される。
  • 紙質として淡いクリーム色の上質紙は、「裏ヌケ」が目立たず好まれる傾向がある。
  • 色上質紙は、「扉」や「見返し」に使用されることが多く、名称が同一であっても製造元によって色合いが異なる。
  • 色上質紙を分類する厚さの種類は、「特薄」や「特厚」といった名称で呼ばれ、連量表示とは異なる。

➢ ファンシーペーパー

  • 表紙用として、装飾性のある「ファンシーペーパー」が使用されることがある。
  • 「ファンシーペーパー」は、四六判のみが提供されているものが多く、連量も限定されている。

1-3-5 印刷用紙と光源

  • 光源は種類により、含まれる波長とエネルギーが異なる。したがって、用紙上の色材の色の見え方に影響を与えることがある。印刷の色評価を行うためには標準光源の下で観察することが求められる。
  • 用紙上の色材の色は、用紙自体の色、平滑性、吸油度、蛍光物質などの塗工材特性の影響を受ける。

【DTPエキスパートカリキュラムver.12】[DTP]1-8 画像

連続的に濃度が変化する画像や線画などの図版のデータ形式や扱い方などについて理解する。

1-8-1 デジタル化

  • 連続的に濃度が変化する画像をデジタル化する場合、画像を一定の間隔で最小の単位(画素=pixel)に分割し、各画素に対する平均の濃度を求める。これをサンプリング(標本化)という。
  • 各画素あたりの濃度の情報は、本来連続的に変化しているものを、一定数の段階に分けて処理する。これを量子化という。10ビットなら1024段階、8ビットなら256段階で量子化が行われる。
  • dpiとはdot(s) per inchの略で、レーザープロッターなどラスターイメージをドット単位で出力する際の露光の密度を表す。
  • ppiとはpixel (pels) per inchの略で、スキャナーでアナログの画像をデジタル化する際の画素のサンプリング密度を表す。
  • lpiとはline(s) per inchの略で、アナログのfaxのようなラスター信号を扱う場合やスクリーン線数を表す。

1-8-2 ビットマップデータ

  • ビットマップデータとは、ピクセルの集まりで構成されたデータのことで、ソフトウェアによりビットマップを生成し、そのビットイメージをディスプレイや出力装置に送り、画面表示や出力を行う。

➢ デジタルカメラ

  • 写真原稿の入稿はデジタルカメラ撮影によるデータ入稿が主流となっている。
  • デジタルカメラによる撮影では、事前に品質保証や要求品質にどのように応えるかなど、画像の要求仕様を整理しておくことが重要である。
  • デジタルカメラの撮影では、ピントさえきちんと合っていれば後工程でPhotoshopなどを使った画像処理で好みの画像に修正する自由度がアナログカメラなどよりは高い。ただし、色作り絵作りなどはアナログにはないデジタルカメラ独特の構造に依存するものもあるので注意が必要である。
  • デジタルカメラのデータ形式は、規格化されたフォーマットのデータと、CCD/C-MOSなどから出力された生のデータであるRAWデータがある。RAWデータとは、未現像の生フィルムのようなものであり、現像処理結果はソフトウェアにより異なるため、印刷原稿としては適していない。色演出一切を任されているカラーコーディネーターやフォトデザイナー(通称レタッチャー)への入稿の場合に、RAWデータが使われることがある。

➢ スキャニングデータ

  • 写真原稿などをDTPで扱う場合、スキャニングしてデジタルデータ化する。
  • スキャナーで入力する原稿は大きく分けて透過原稿と反射原稿がある。透過原稿の多くはカラーリバーサルなどポジ原稿であるが、反射原稿はカラーの印画紙をはじめ各種イラスト原画、印刷物、プリンター出力物など多岐にわたる。

➢ 解像度

  • 画像システムがどれだけ詳細に画像を再生できるかを表すのが解像度である。解像度が高ければ、再生される画像は細密になる。
  • 本来の解像とは、万線がベタにならない状態を指すが、デジタルシステムではピクセルの配置密度と同義に使われる。
  • デジタル画像は必要以上に精細にデータ化すると、作業効率が落ち、逆に出力に対して粗い設定になると、品質が著しくそこなわれる。そのため一般に出力に必要な大きさや解像度から逆算してスキャニングする。カラー画像をスキャニングする際に、仕上がりの画像で、解像度が300~350dpiあることが望まれる。

➢ 画像フォーマット

  • 濃度変化のある画像をデータ化するには、濃度レベルの段階数とその表現方法、記録する方向、画像の大きさその他の形式を決定しておく。
  • 画像データをファイルに書き出す場合には、画像データの形式とファイルフォーマットを選定する。
  • 図形と画像のフォーマットは、パソコンのようなプラットフォーム側が定めたPICTや、アプリケーションソフトが定めたTIFF、出力側が定めたPostScript / EPS、情報規格であるJPEG、そのほかそれぞれの分野での主流のものなどが混在している。

➢ レタッチ

  • 画像の調子や色調、ゴミやキズなど不要物の除去などを部分的に修正することをレタッチという。スキャナーで画像をデータ化するときに失われた情報やデジタルカメラで再現領域の狭い撮影モードで撮影して失われた領域外の情報は、後のレタッチでは回復できない。しかし、豊富に情報をもった画像データに対しては、色変更、シャープネス、ボケ、合成などの加工ができる。写真に対する基本的な調子や色調の修正と、絵柄ごとに常識的な色演出の方法があることを理解しておく。
  • よく見受けられる代表的な絵柄については、それらしい色や調子として認知されている記憶色(あるいはプリーズカラー)を意識してレタッチする。
    ・ガンマ補正:
    ガンマ曲線つまり入出力の関係を変化させて画像の濃淡を修正することにより、明るさ、調子、色のバランスなどを調整する。
    ・トーンカーブ:
    画像のどの濃度域に階調を豊富にもたせるか、どの濃度域を圧縮するかなどの調整をする。
    ・濃度ヒストグラム:
    濃度域の最少から最大を軸として、サンプリングされた画素の数を棒グラフ上に示した濃度ヒストグラムを用い、画像タイプを把握し、レベル補正やハイライトポイント、シャドーポイントなどを調整する。
    ・フィルター処理:
    画像データを構成する個々の画素に、周辺の画素との間で演算を行って、画像にぼかしやシャープネスなどの特殊効果を与える。
    ・合成:
    写真類や色面などを隣り合わせに配置するとき、境目がないようにぴったりくっつけてレイアウトすることを指す。
    色文字と色の図版が重なる場合、色文字を上に乗せる「ノセ」にせず、下の色を文字の形にくり抜いてから乗せる、抜き合わせ(ノックアウト)を髪の毛ほどの隙間もないほど正確に合わせることから「毛抜きあわせ」と呼ぶ。
    対して墨文字などの場合は、下地はそのままにして墨文字を重ねる墨ノセ(オーバープリント)が行われる。

1-8-3 ベクターデータ

  • ベクターデータとは、座標値と直線・曲線を定義する式から構成されるデータである。自由曲線の定義方法にはスプライン、ベジェなどがある。図形データのフォーマットには、WMF、EPS、DXF、SVGなどがある。

➢ スプライン曲線

  • スプライン曲線とは、指定した点をスプライン(自在定規の意味)関数を使って滑らかな曲線で結んで曲線を表現する。作図で用いられるものは、主に二次あるいは三次のスプライン曲線である。二次と三次は制御点を通らず、避けるようにして曲線を作り出すのを特長とする。
  • ベジェ曲線ほど操作の自由度は高くないが、すべての点が曲線上に位置するため、ベジェ曲線よりはコンピューターの演算処理が簡単になる。

➢ ベジェ曲線

  • 三次ベジェ曲線では、始点と終点およびその間に2つの制御点を指定する。制御点は曲線の外側にあり、これを移動させることにより曲線を変化させられる。任意の自由曲線が制御点の移動で描け、また一度描かれた曲線の変更が容易であるのが特徴である。
  • PostScriptでは、文字と図形の基本を直線と三次ベジェ曲線で表している。

【DTPエキスパートカリキュラムver.12】[DTP]1.2 環境

1-2-1 ハードウェア

  • DTPで最低限必要なハードウェアは、入力機器および編集機器、出力機器である。入力機器としては「キーボード」、「マウス」、「カメラ」、「スキャナー」、編集機器としては「コンピューター(パソコン)」、出力機器としては「ディスプレイ」や「プリンター」が挙げられる。作業環境により、さまざまな組み合わせが想定される。

1-2-2 ソフトウェア

  • コンピューターでさまざまなアプリケーションを動作させるには、Appleの「OS X」やMicrosoftの「Windows」など、OSが必要になる。
  • さらに、印刷物の素材である「文字」、写真や図表などの「画像」を処理するソフトウェアや、素材のレイアウトを行うソフトウェアが必要である。
  • 「文字」については、テキストデータ作成が基本となるため、OSに付属している「テキストエディット」や「メモ帳」のほか、さまざまなテキストエディターやワードプロセッサーなどのソフトウェアが利用される。
  • 代表的なソフトウェアとして、画像処理(ビットマップデータの処理)ではAdobeの「Photoshop」、イラストや図表といったベクターデータの作成や、端物のレイアウトでは、Adobeの「Illustrator」、頁物のレイアウトでは、Adobeの「InDesign」や、Quarkの「QuarkXPress」などが挙げられる。
  • このほか「フォント管理」や「データ圧縮解凍」、「PDFデータ作成」など、さまざまなソフトウェアが利用されている。

1-2-3 システム構成

➢ DTPシステム

  • DTPは、オープンなシステムとして発展した。さまざまなハードウェアやソフトウェアを利用するため、操作方法やデータ交換方法、業務効率、品質などに配慮し、システム設計を行うことで、個々のハードウェアやソフトウェアが持つ機能を有効に活用できる。
  • DTPシステムでは、ハードウェアやソフトウェアの選定、周辺機器とのインタフェースやネットワークへの接続、データベースの構築などが行われることがある。さらに、他のシステムとの連携が必要になる場合もある。

【DTPエキスパートカリキュラムver.12】[DTP]1-7 文字

文字データを異なるプラットフォームで出力すると、文字化けではないが文字の形状が一致しない場合がある。「書体」「フォント」「字種」「字体」「字形(グリフ)」の区別など、文字の同異判定の基準を理解する。

1-7-1 書体

  • 書体とは、統一的な理念に基づいて制作された1組の文字、または記号のデザインであり、タイプフェース(typeface)と同義である。ある書体における文字の太さ、字幅、傾きなどのバリエーションの集合を書体ファミリーという。
  • 欧文書体は、中世後期のグーテンベルクの活字から、その後ローマ時代に作られたローマン体を活字に置き換えた書体を経て、今に至っている。印刷技術や出版の発展に伴って、また印刷物の用途に合わせて可読性、美術性、新規性などを工夫し、多くの書体が開発されている。
  • 和文書体は、中国の伝統的「書」に由来する筆書系、伝統的活字書体、庶民文化に由来する江戸文字、写植以降非常に増えたディスプレイ書体、日本独特の仮名書体など、多様な起源を持つ。

1-7-2 字体

  • 文字は、何らかの意味を表すものであり、その意味によって字種に分類される。異なる字種は、原則としてそれぞれ異なる字体を有する。しかし、異なる字種が同一の字体を有する場合も稀にある。これらは同形異字と呼ばれ、視覚的には区別することができない。
  • 1つの字種に複数の字体が併存していることがある。それらの字体はそれぞれ異なる字源から成立している場合もあるし、同じ字源から発生しながらその表現が歴史的・地理的に変化していった場合もある。字義、字音が等しい同一の字種でありながら、互いに異なる字体を有する文字を異体字と呼ぶ。異体字のなかで、規範として選ばれている字体を正字体と呼ぶ。

1-7-3 字形(グリフ)

  • 字形(じけい)とは文字の具体的な形状であり、書体やデザインの違いなど文字の視覚的な差異はすべて字形の違いとして捉えられる。図形文字、グリフ(glyph)と呼ばれることもある。

1-7-4 タイポグラフィー

  • タイポグラフィーは、古くは活版術のことであるが、広く印刷における文字組の視覚効果や体裁の総称として用いられている。
  • タイポグラフィーは、グラフィック素材としてテレビや映像メディアにも活きる技法である。欧米では、タイポグラフィーには書体の歴史的な発達や書体デザインの知識も含む。日本でも、縦/横組、和欧混植、かな混植など伝統的慣習的なスタイルが確立している。もともと正方形の漢字書体を縦にも横にも組むものとして日本のタイポグラフィーは発展した。

1-7-5 符号化文字集合

  • コンピューターは、文字をコード(符号)化して、その値で識別している。文字コードとは、たとえば日本語のある文字の範囲(文字セットという)の文字の1つずつに識別番号を割り振ったものであり、その一式を符号化文字集合という。
  • 異なるコンピューターシステム間での文字データの交換を可能にするために、基本となる文字セットの文字コードは標準化が行われている。文字コード系が異なれば、コード化している範囲もコード番号も異なる。
  • 入力や編集の各段階で、文字データを受け渡しする場合は、どのような文字コードを使用して作成されているかを慎重に確認する。
  • 標準化された主な文字コードには、ASCIIコード、JISコード、シフトJISコード、Unicodeなどがある。
  • JIS X 0208は情報交換用の2バイト符号化文字集合を規定する日本工業規格で、6,879図形文字を含んでいる。1978年にJIS C 6226として制定され、1983年、1990年および1997年に改正された。
  • JIS X 0213は、JIS X 0208:1997を拡張した日本語の符号化文字集合を規定する日本工業規格である。2000年に制定、2004年、2012年に改正された。
  • JIS X 0213は、JIS X 0208を拡張した規格でJIS X 0208の6,879字の図形文字の集合に4,354字が追加され、計11,233字の図形文字を規定している。JIS X 0208を包含し、第三・第四水準漢字などを加えた上位集合である。

➢ フォント

  • フォント (font) は、本来「同じサイズ、同じ書体デザインの一揃いの活字」を指す言葉であったが、現在ではコンピューター画面に表示したり、紙面に印刷するために利用される字形データの一式を意味している。金属活字と区別して、デジタルフォントと呼ばれることもある。
  • また、書体という言葉は、現在ではフォント(の使用ライセンス数)を数える単位としても用いられている。
  • フォントフォーマットの代表的なものにTrueTypeとOpenTypeがある。TrueTypeは、AppleとMicrosoftが共同で開発したフォントフォーマットで、パソコンOS側がラスタライズ機能を備え、画面表示やプリント出力を行う。その後、AdobeとMicrosoftが共同で開発したのがOpenTypeであり、異なるプラットフォーム間でのフォント利用やフォント管理の効率化が実現されている。
  • ラスタライズとは、アウトラインフォントを出力するときに、文字の描画線を定義したデータを、指定された文字サイズにして補正し、出力機器の解像度に合ったビットイメージに変換する処理を指す。

1-7-6 文書データ

➢ テキストデータ

  • 目に見える文字以外はスペースや改行、タブコードだけを使って構成されたファイルをプレーンテキストという。
  • プレーンテキストは異なるコンピューター環境や、異なるアプリケーションでも文字コンテンツが変わらないので、文章原稿データの整理の段階や原稿データの保存に使われているが、実質的にシフトJIS相当の字種しか扱えないという問題がある。

➢ PDF

  • PDFはPortable Document Format(ポータブル・ドキュメント・フォーマット)の略称で、電子上の文書に関するファイルフォーマットである。特定の環境に左右されず、表現の再現性を確保しつつデジタル化された文書データとして利用することができる。
  • AdobeはPDF仕様を1993年より無償公開していた。2008年7月、国際標準化機構によってISO 32000-1として標準化された。
  • PDFはフォントの埋め込み(エンベット)、ICCプロファイルの埋め込みやプロファイルを参照した色変換を行うことができる。
  • PDFには、電子署名機能、コメント記入などが行える注釈(annotation)機能、パスワードと128ビット暗号化によるセキュリティ機能などが装備されている。
  • PDF/Xは、国際標準化機構によって規定されたグラフィックデータ交換を目的としたPDFのサブセットである。PDF/Xによるデータ入稿のもっとも大きな利点は、カラースペース、フォントや画像に関する規定が明確になっていることで、出力に関するトラブルを回避し信頼度が向上すること、またフォントやOS、アプリケーションのバージョン等、出力側の環境に依存しないことである。PDF/Xには、規格内容の追加により、PDF/X-1a、PDF/X-3、PDF/X-4など複数のバージョンがあるので、各バージョンの規格内容を把握し、印刷用データ受け渡しの際にどのバージョンに準拠したデータであるのかを確認する必要がある。
  • PDF/Aは、電子文書を長期保管用に作成、表示、および印刷するための仕様をISO規格として標準化したものである。またインタラクティブな交換に使用されるPDF/Eがある。

1-7-7 文字組版

  • 文章読解の妨げにならないように文字を配列する技術が組版である。DTPでは、ワープロに比べて、紙面設計の自在さや使用フォントの使い分けなどにより多様な組み方ができるため、紙面に表情をつけることができる。
  • 文字組版の要素には、組み(縦組み・横組み)、文字サイズ、書体、字送り、字詰、行間があり、それに加えて禁則処理、約物処理などを考慮して行う。
  • 日本語組版の基本的アルゴリズムは、JIS X 4051:2004「日本語文書の組版方法」に規定されている。
  • また、W3C(World Wide Web Consortium)は、2012年4月Requirements for Japanese Text Layout(日本語組版の要件)という技術ノートを英文、および日本語で発行した。JIS X 4051:2004の平易で実用的なガイドとして、世界的に参考にされている。

➢ 欧文組版

  • 欧文文字は、文字によって高さや幅が異なる。高さはいくつかの基準線に揃えられているが、各文字の幅は異なる。そのため、一定の字間で組むだけで、プロポーショナルな組版ができる。
  • 欧文では、文字はベースラインに揃うように設計され、また、アセンダライン、キャピタル(キャップ)ライン、ミーンライン、ディセンダラインという基準線をもつ。
  • 欧文組版では、ジャスティフィケーションは、①単語と単語の間のスペースを1行中で調整する、②1つの単語の字間をベタ組みではなく少し空けて調節する、③ハイフネーション処理をする、の順序で行う。ハイフンの位置はどこでもよいわけでなく、各国語別に異なるので各国語の辞書を参照する。
  • 欧文組版形式のひとつに、ジャスティフィケーションを行わないラグ組みがあり、一般的に本文組みの場合は、左揃えまたは右揃えの形式がある。

➢ 和欧混植

  • 和文ではフォントはセンターラインしか基準線がなく、一方欧文フォントはxハイトやディセンダが一定しないので、バランスのとれた書体選択に留意する必要がある。
  • 和文と欧文の間が接近しすぎるとき、また欧文のセット幅が異なるため行長に端数が生じる。