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【クロスメディアキーワード】メディアリテラシーとフィルタリング

メディアリテラシーの向上が求められる高度情報化社会において、未成年者の健全な育成を目的としたフィルタリングサービスが提供されている。

メディアリテラシー

メディアリテラシーとは、情報の受信者が主体的に内容を読み解き、メディアを活用する能力である。リテラシーとは読み書きに関する能力であるが、メディアの持つ様式にはメッセージ性があることから、マーシャル・マクルーハンは「メディアはメッセージである」と提言し、メディアリテラシーの重要性を喚起した。メディア特性を踏まえた、受信者の判断と活用が求められるようになったことに起因し、メディアリテラシーの重要性は増している。受信者は、メディアの多様化により、マスメディアのみならずミドルメディア(インターネット)やパーソナルメディアなど、さまざまなメディアから情報を取捨選択できる能力が必要である。受信者はマスメディアのような影響力のあるメディアで発信される情報においても、その情報の確実性を判断できるようになるべきである。情報の発信者はさまざまなメディアの特性を理解し、活用できる能力が求められ、受信者は主体的かつ批判的にメディアに接触する能力が求められる。

情報の信憑性

テレビ放送の情報は「正確」で「事実」であると判断することは、メディアリテラシーに欠けると考えられる。発信されている情報は、誰にどのように作られたかといった意図をくみ取る必要がある。広告表現においては利害関係や編集意図が介在し、必ずしも中立的な情報が発信されているとは限らない。しかしながら、メディアリテラシー向上の目的は、広告を否定するものではない。広告の役割や情報バイアス(偏り)を認識する必要がある。

メディア特性

情報化社会の進展により、パソコンやモバイル端末などのさまざまなメディアが生活者に普及することで、マーシャル・マクルーハンにとって想定外の事象が起きた。テレビや新聞、雑誌といった直感的に理解しやすいメディアから、インターネットに接続するさまざまなメディアの登場により、メディア特性を捉えることが難しくなった。
ブログとSNS(Social Networking Service)で見られるように、コンテンツの特性が異なっていても、共通点が多い技術やサービス名称でメディア特性を区分することは、本質的な意味を持たない。「メディア」と呼ばれるものが、すべて同質の「メディア」であるとは限らない。情報の受発信における特徴を考察し、メディアとしての役割や評価などの特性を熟考するべきである。
メディアリテラシーが向上することで、高度情報化社会を正確に捉え、充実したコミュニケーションを図るきっかけを得ることができる。ビデオカメラやインターネットを活用した市民チャンネルやインターネット放送が一般化し、情報の受信者が発信者でもあるような転換が起きている。

フィルタリングサービス

ケータイやスマートフォンなど、未成年者のモバイル端末利用の普及に伴い、コンテンツへの規制が求めらている。インターネット上には、犯罪につながる情報や、未成年者の健全な成長に有害な情報も存在している。ふさわしくない内容のコンテンツやコミュニティーサイトに対するアクセス制限である「フィルタリング」が行われている。
日本における「フィルタリング」は、総務省の要請で、移動体通信事業者が実施しているサービスである。利用者の設定により、有効か無効を切り替えることができる。一般的には、未成年者の保護者が設定を行い、未成年者に受け渡すこととなる。したがって、移動体通信事業者は、保護者に対し「フィルタリング」に関する意思の確認を行う。「フィルタリング」には、ホワイトリスト方式とブラックリスト方式の2 種類が存在する。

ブラックリスト方式

特定のカテゴリーに属するWeb コンテンツやWebサイトをリスト化し、アクセスを制限する方式である。一律的にWeb コンテンツやWeb サイトのカテゴリー分類を行うため、健全な運営を行っているWeb コンテンツやweb サイトにアクセスできない可能性がある。

ホワイトリスト方式

一定の基準を満たしたWeb コンテンツやWeb サイトのみをリスト化し、リストに入っていないWeb コンテンツやWeb サイトは、アクセスを制限する方式である。ホワイトリストへ指定できるものは、膨大な数が存在するWeb コンテンツやWeb サイトと比較すると、極々一部となってしまう。安全性については期待ができる反面、利便性が損なわれてしまう傾向がある。

フィルタリングの課題

「フィルタリング」は、Web コンテンツやWeb サイトごとに分類されており、フィルタリングソフト提供事業者が情報を収集し、移動体通信事業者へリストの提供を行っている。必ずしも内容詳細の解析を行った上で分類せず、特定語句による分類が行われている可能性があり、正確な「フィルタリング」が行われていない可能性が残っている。有用な情報を提供しているにも関わらず、アクセスが制限されてしまうこともあり、コンテンツ提供事業者から問題視されていることもある。

フィルタリングの動向

現在は、新規や既存を問わず、未成年が利用するモバイル端末契約者へ対する「フィルタリング」使用の原則化が完了した。今後は、更なる「フィルタリング」の普及促進がなされると同時に、機能のカスタマイズ化などの画一的な現行モデルの改善策の策定が進められている。一方、一部の地方自治体においては、未成年者に対するモバイル端末の「フィルタリング」を実質的に義務化する動きもある。

メディアリテラシーとフィルタリング

「フィルタリング」は、利用者の利便性が損なわれるだけでなく、メディアリテラシーの向上に対する阻害要因となる可能性を秘めている。未成年者も情報の選別ができるように、メディアリテラシーの向上に考慮した取り組みが必要になる。

JAGAT CS部
Jagat info 2013年9月号より転載

産業構造の変化とキャリア開発

技術革新による産業構造の変化は、産業の原動力となる人の働き方と密接に関わっている。
現在私たちが向き合う高度ネットワーク社会は、自律的な最適化を背景にした労働力のパラダイムシフトを引き起こし、価値労働への移行が求められている。

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【クロスメディアキーワード】クロスメディアとワンソースマルチユース

クロスメディアとは、ある情報について文字や音響、映像などのさまざまな素材と、プリントメディアやデジタルメディアといった複数のメディアを用い、効果的な情報伝達を行う手法である。
複数メディアの利用については、生活者のメディア導線を予測したシナリオにより、メディアごとに適したコンテンツを用意し情報発信を行う。
メディア利用の概念については、「ワンソースマルチユース」や「マルチメディア」「メディアミックス」など、「クロスメディア」と似たさまざまなものがある。

ワンソースマルチユース

ワンソースマルチユースとは、基となる印刷用データやWebサイト用データなどから、異なるメディアへコンテンツ展開を行う概念である。「マルチ(multi:複数の)」の意味としては、利用するメディアの数や、コンテンツの再利用回数といった解釈も可能であり、ワンソースマルチユースにより、コンテンツの制作効率を高めるといった意味を持ち合わせている。
印刷用に加工されたデータを利用し、ほかのメディアへ展開を行うにはデータの再加工が必要となる。ワンソースマルチユースを実現するために、印刷用データに含まれる寸法や書体指定のような情報は付加せず、ほかの印刷系メディアやWeb 系メディア向けといった複数の出力を想定したデータ作成が求められる。
マルチユースは、「データベースパブリッシング」の考え方と密接な関係がある。データベースパブリッシングは、リレーショナルデータベースを用い、条件に応じて自動レイアウトを行うシステムである。フォーマットがある程度定型化されている大型のカタログやパンフレットなどの制作には欠かせないものであり、データベースに蓄積されたデータの活用は、当初のメディアに対するコンテンツ制作や再利用だけに止まるものではない。リーフレットやWeb、デジタルサイネージなど、さまざまなメディアへのコンテンツ展開を可能にする。
出力メディアを構成するコンテンツに関する情報をデータベース化して、メディアに合わせた検索を行い、データ抽出後に自動レイアウトする手法が普及している。
文書の型を定義付けられるXML(ExtensibleMarkup Language)を利用したデータベースをシステムを中核にし、おのおののメディアに合わせたスタイルシートを用意することで、フレキシブルなコンテンツ展開も実現できる。
XML に対応したDTP アプリケーションを合わせて利用することで、変更や修正を行った箇所をデータベース内のデータに対し同期させることが可能である。データベースにより派生する、ほかのメディアのコンテンツに、自動的に反映することができる。このコンテンツ管理手法が「ワンソースマルチユース」といった概念であり、データベースパブリッシングは効率良く実現するための手段である。

クロスメディア

共通データのデータベース化は、情報のクロスメディア展開の際においても有効な資源となる。
クロスメディアの概念では、必ずしも「基となるデータ」が1 つである必要はない。情報発信の効果を最大限にするため、「基となるデータ」に対しメディア特性を考慮した加工を施すことや、新たな「データ」を追加することが求められる。
現代の生活者は、製品やサービスを購入する際に関連の詳細情報を求める傾向があり、得た情報の結果に満足しないと購買活動へと至らないことがある。
製品の機能を紹介する場合、プリントメディアでは文字や写真、図表での表現となるが、映像や音響の利用により製品の動きや音の表現が可能となり、機能の理解度が飛躍的に高まることが期待できる。映像や音響といった「データ」を追加することで、Webコンテンツにより効果的な製品の機能紹介を実現できる。また、モバイル端末向けWeb サイトを併設する場合、端末の動作を考慮し、コンテンツのデータ量を削減する取り組みも求められることがある。
映像や音響を扱うテレビ放送であっても、製品の詳細機能を訴求するメディアとしての活用が難しい点がある。テレビ放送は、インタラクティブ性や検索性に欠ける部分があり、生活者が情報を得る際、目的の情報を見つけ難いことがある。
クロスメディアを実現するためには、メディア特性を熟慮する必要がある。クロスメディアは、「基となるデータ」を効率よく展開することではない。情報の発信者が想定するシナリオを前提にして、情報の受信者である生活者が行動することを促すために、さまざまなメディアの持つ特性を理解しメリットを最大限に発揮させることが重要である。
コンテンツを構成する情報による相互作用や相乗効果を高めるために、クロスメディアの概念が活用される。また、クロスメディアではQR コードによるWebサイトへの誘導、ICカードを活用した本人認証・決済機能な、ど各メディアの連携をスムーズに行わせる「橋渡しの仕組み」も不可欠である。クロスメディアは制作効率の向上が目的ではなく、情報発信の目的を達成するためのメディア活用手法である。

メディアミックス

メディアミックスは、メディアを組み合わせて情報の到達を最大限にする、クロスメディアと近い概念である。
異なるメディアを組み合わせ、活用することにより、各メディアの弱点を補う手法といった原義がある。
コンテンツは、映像でなければ伝えられない情報や、熟読しないと伝えられない情報など複合的に存在するため、必然的に使用するメディアも複合的になる。映像での情報と紙面(誌面)での情報を連動させ、生活者のコンテンツに対する理解を強化するために、統一したビジュアル表現を採用することもある。個別のメディアにおいても、原則的には個別にコンテンツとして完結することを前提にしている。
現在では、特定の娯楽作品が一定の経済効果を持った時、その作品の副次的作品を数種類のメディアの利用を前提に多数製作することで、ファンサービスと販売促進を拡充する手法を指すことが多い。

JAGAT CS部
Jagat info 2013年8月号より転載

【クロスメディアキーワード】個人情報保護法

個人情報保護法は2005年4月1日から施行されたが、その後も個人情報の漏えい事故は多数発生している。

対策の重要性

個人情報保護法対策では、内部規定や組織体制を整えることも大変な作業だが、実質的に有効な内部管理を実現することも難しい。したがって、個人情報を取り扱う多くの方々は、個人情報保護法を理解し、管理体制のレベルを継続的に高めていくことが必要である。継続的な管理レベルの向上は、個人情報に対する倫理力を高め、個人情報に関する事故を起こしにくい体質への成長を促す。

適用範囲

個人情報保護法は基本法(第一章から三章)として、民間企業だけでなく独立行政法人や地方公共団体などにも厳格な義務を課している。一般法としては、行政機関個人情報保護法や独立行政法人等個人情報保護法、地方公共団体や地方独立行政法人に対する個人情報保護条例がある。民間企業(個人情報取扱事業者)については、個人情報保護法の第4 章以下が適用される。
氏名や住所などを組み合わせた情報から、生存中の個人を特定できる場合は、組み合わせの情報が「個人情報」となり、一定の要件を満たす「個人情報」データベースを事業で取り扱う事業者は、「個人情報取扱事業者」として法的な義務を負うことがある。したがって、自身の所属している組織が「個人情報取扱事業者」に該当するか、適切に判断することが求められる。
監督官庁は、管轄の組織を導くために、個人情報保護のためのガイドラインを策定し、公表をしている。「個人情報取扱事業者」に該当する組織は、該当するガイドラインに従った対策を立てる必要がある。事業免許を取得し事業を行っている場合や、法令に影響を受けて事業を行っている場合には、当該免許を管理している監督官庁がどこであるかを調べるとよい。また、原則としてどのような法人でも、雇用に関する個人情報は厚生労働省ガイドラインが適用される。

「個人情報取扱事業者」は個人情報を取得する際、その利用目的を特定し、本人に通知しなければならない義務がある。取得した個人情報は、本人の同意無く第三者に提供することができないが、裁判所や国税局、警察捜査の協力要請など法的な理由に基づく場合はその限りではない。

個人情報

個人情報とは、特定の個人を識別できる情報である。特定の個人を識別する方法は、名前や住所だけではない。コードや番号などで特定できたり、音声や画像、映像などにより識別される場合も含まれる。
また、個人情報は、個人が秘密にしているようなプライバシーに関する情報とは性質が異なるため、注意が必要である。個人情報保護法は、個人情報の取扱を規制しており、プライバシーの保護をしているわけではない。

個人データ

個人情報保護法が規定する義務のほとんどは、個人データに関する取扱いである。個人情報と個人データは必ずしも一致はしない。個人データは、「個人情報データベース等」を構成する個人情報である。「個人情報データベース等」には、コンピューターのデータ、紙媒体のものも含まれる。映像や音声も検索が可能な状態であれば、「個人情報データベース等」に該当する。

保有個人データ

本人から開示や訂正などに関する要求を受けることが求められるものは、保有個人データである。保有個人データは、個人情報取扱事業者が、開示、内容の訂正、追加または削除、利用の停止、消去、第三者への提供の停止を行うことができるすべての権限を有する個人データである。これらの権限の一部を有さない場合には、保有個人データにはならない。さらに、6 カ月以内に消去されるものや、存否が明らかになることにより公益その他の利益が害されるものは、保有個人データに当たらない。※

   ※保有個人データに当たらない例示
   1. 本人または第三者の生命、身体または財産に危害が及ぶとき
   2. 違法または不当な行為を助長したり、誘発するとき
   3. 国の安全が害するとき
   4. 犯罪の予防、鎮圧または捜査そのほかの公共の秩序の維持に支障が及ぶとき

個人情報保護法の要求事項

個人情報保護法は、個人情報、個人データ、保有個人データに分け、要求事項を規定している。事業者は、これらの要求を理解することが求められる。「取得や収集するときは、個人情報」であり、「取得や収集した後は、個人データ」「本人に対する義務を有するものは、保有個人データ」と簡単な区分けができる。

罰則

主務大臣は、個人情報取扱事業者に対し、報告の徴収、助言、勧告、命令、緊急命令の権限を持つ。不適正な個人情報の取扱いをしている事業者の存在が認められる場合には、命令および緊急命令を行うことができる。事業者が必要な対応を行わない場合は、6 カ月以下の懲役または30 万円以下の罰金が科せられる。

個人情報のリスク

個人情報保護法に違反した場合は、主務大臣からの改善命令を受ける。実際に漏えい事故を起こした場合には、損害賠償や企業イメージの低下による事業上の損失を招く恐れがある。すでに法制度が整備されている海外の企業と円滑に取引を行うためにも、個人情報の適切な取扱いは不可欠なものとなる。

個人情報保護対策

個人情報保護の対策を行うには、個人情報に関するリスク分析が必要となる。リスク評価には、個人情報の質的な要素と量的な要素がある。セキュリティー対策を完全に実施することは、極めて困難である。費用対効果を最大限に考慮し、対策を検討するべきである。漏えいや不適切な利用などの事象が発覚した際には、関係各所に速やかに正確な情報を連絡し、原因の特定とその後の対策を確実に講じることが大切である。個人情報を取扱う組織として、個人情報取扱いに関する規定作成だけではなく、事故対応マニュアルの作成を行うことも個人情報保護対策になる。

JAGAT CS部
Jagat info 2013年5月号より転載

【クロスメディアキーワード】口コミマーケティングと情報リテラシー

「口コミ」の特徴

「口コミ」とは、商品やサービスに関する評価や評判などの情報が、人々のコミュニケーションにより伝達されることを意味する。現代社会は、企業活動だけでなく、人々の日常生活に至るまで「口コミ」と関係した時代となったといえる。ポジティブな情報だけでなくネガティブな情報も存在するため、企業だけでなく個人にとって「口コミ」は、有効に活用すれば益に結びつくこともあるが、扱い方を誤ると損失を招く恐れもある。

口コミの傾向

「口コミ」は人々の歴史の中で、最も古いメディア(情報伝達手段)である。単なるメディアではなく、情報に対する個人の感情や解釈を加味したメディアともいえる。人々は、自身の感情を共有したいといった傾向がある。共有したい感情は、怒りや不満、恐怖を伴ったネガティブな情報が顕著になることもある。ネットワーク社会においては、情報は速く広範囲に伝達することから、「口コミ」による情報は、利便性と危険性を兼ね備えている。さらに、消費者が商品やサービスにする情報をインターネットの「口コミ」サービスを参考にする場合、ポジティブな情報よりもネガティブな情報を信用する傾向があるといった調査結果もある。

コミュニケーション手段としての「口コミ」

バイラルマーケティングやバズマーケティングは、「口コミ」を活用したマーケティング手法として利用されている。企業活動において「口コミ」は、「広告」や「販売促進」「人的販売」「パブリシティ」に並ぶ顧客とのコミュニケーション手段として活用されている。

バイラルマーケティングは、伝えたい情報を普及させるために、「紹介」や「推奨」といった方法で、人々の間に相互に伝え合うことを促進し、奨励するマーケティング・アプローチである。圧倒的な特徴(画期的、便利、格好いい、楽しいなど)のある商品やサービスの場合、自然発生することが期待できる。ネットワーク外部性が働く商品やサービスでも同様の傾向がある。こうした情報の波及的拡大(口コミ)を人為的に起こすことを狙うことをバズマーケティングという。
消費者への情報伝達の可能性が高く、接触頻度も高い4 マス媒体(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)は、広告費が高額になることが多い。一方、インターネットに代表されるデジタルメディアは、コスト構造が異なっている。インタラクティブ(双方向性)であり、パーソナライズ(個別化)できるため、消費者嗜好の多様化に対応できることから広く普及した。ブログやソーシャルネットワークサービスによる「口コミサービス」は、インターネットの特性を生かし、マスメディアと並ぶ情報伝達や認知形成ができる手段となった。マスメディアの役割の一部をデジタルメディアが担うようになり、消費者行動モデルの「AIDMA」は、マスメディアと非マスメディアの変遷につれて「AISAS」「AISCEAS」といったモデルも提唱されるようになった。「口コミ」は、昨今の消費者行動モデルにおいて、重要な役割を果たしている。

ステルスマーケティングと口コミ

「ステマ」という言葉が話題となった時期があった。これはステルスマーケティングを省略したもので、グルメサイトなどで「やらせ」的な投稿が表面化したことから急速に注目を集めた。報道の論調により、悪いイメージが定着してしまった「ステマ」であるが、本来的には、消費者に悟られることなくマーケティング活動を行うという意味である。
程度の差はあるが、「口コミマーケティング」と呼ばれる形で、ターゲット顧客に効率良く情報を浸透させる手段として、施策を提案してきた事実もある。「口コミマーケティング」の例としては、アルファブロガーと呼ばれた「ブログを通じて、ターゲット層に対して高い情報伝達力を持つ人物」に、企業がインセンティブを与えて情報を発信する手法がある。しかし、そこで発信される情報は、その人物の主観に頼ることになり、情報精度は必ずしも企業が意図した通りになるとは限らないものである。したがって、企業が望む形での情報を的確に発信したいという需要があり、呼応する形でサイトへの投稿を請け負うビジネスが生まれた。
景品表示法を所管する消費者庁のニュースリリース『「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」の公表について』(平成23 年10 月28 日)では、

『商品・サービスを提供する事業者が、顧客を誘引する手段として、口コミサイトに口コミ情報を自ら掲載し、又は第三者に依頼して掲載させ、当該「口コミ」情報が、当該事業者の商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるものである場合には、景品表示法上の不当表示として問題となる』
と指摘しているが、法の判断は個々の事例ごとに充分検討した上でなされなければならない。
消費者庁の指摘する問題が発生した場合の処罰は、実際に商品・役務を提供する得意先企業に下される。得意先に対して提案を行う際には、何の目的でソーシャルメディアを使うのかという理由と、リスクと対比してもそれがどれだけの利益を生むのかを明確にし、運用に当たっては、モラルを欠くことのないような人的・システム的仕組みを構築するべきである。
最近ではインターネット上の情報を単純に鵜呑みにしない利用者が増えている。また、不適切な発言が批判され、排除されていくように、インターネット上の情報にはある程度の自浄作用も働く。こういった経験を学習することで、情報の判断におけるリテラシーは徐々に高まっていく可能性がある。

JAGAT CS部
Jagat info 2013年4月号より転載

【クロスメディアキーワード】プログラム言語とオープンソース

COBOL、FORTRAN、PL/I、Pascal、C 言語などは、コンピューターに実行させる処理を記述するプログラム言語である。ジョブ制御言語(JCL)やオペレーティングシステム(OS)で使用するコマンドは、OSに対し動作指示を行う言語として捉えることができる。
一方、SQL やXQueryなどは、問い合わせ言語とも呼ばれることもあり、主にDB(データベース)からのデータ取得に対する記述をする。PostScript やHTML、XML などは、主にデータの内容を記述するための言語であり、データ記述言語とも呼ばれている。
PostScript やHTML は、主に内容の表示や描画のために使われるようになった。XML は、表示描画機能を切り分け、データに対し意味のある集合体や構造で表現することに主眼を置いた言語である。XML データをディスプレー表示や、印刷する場合は、PostScript やHTML などの形式に置き換え、専用アプリケーションやXSLT などを用いて変換する必要がある。XML データはPostScript やHTML と比較すると、ディスプレー表示や印刷するまでの手順が複雑になる。しかしながら、データ項目を文書構造に合わせて取得することが容易である。UML(Unified Modeling Language)は、ソフトウェア開発においてシステムの構造を表現するためのコンピューター言語であり、モデリング言語の代表的なものである。
プログラミング言語の中で、データを使い行う処理や操作の手順をパッケージ化した独立性があるものを「オブジェクト」と呼ぶ。オブジェクト指向のプログラム言語は、命令から相互に関連し、処理や操作を実行することで、ソフトウェア全体としての動作を制御する。オブジェクト指向は1970 年代から普及し、SmalltalkやCLOSなどオブジェクト指向のプログラム言語が開発された。オブジェクト指向では、すでに存在する「オブジェクト」は、利用の際にその内部構造や動作原理の詳細を知る必要がなく、特に大規模なソフトウェア開発において有効な考え方として知られている。
オープンソースは、無料でソースコードやプログラムが入手できるということを意味しているだけではない。オープンソースに関する定義は、Open Source Initiative(OSI)により策定されている。OSI認定を受けるためには、以下の頒布条件が定められている。

1. 再頒布の自由

「オープンソース」であるライセンス(以下「ライセンス」と略)は、出自のさまざまなプログラムを集めたソフトウェア頒布物(ディストリビューション)の一部として、ソフトウェアを販売あるいは無料で頒布することを制限してはならない。 ライセンスは、このような販売に関して印税そのほかの報酬を要求してはならない。

2. ソースコード

「オープンソース」であるプログラムはソースコードを含んでいなければならず 、コンパイル済形式と同様にソースコードでの頒布も許可されていなければならない。何らかの事情でソースコードと共に頒布しない場合には、 ソースコードを複製に要するコストとして妥当な額程度の費用で入手できる方法を用意し、それをはっきりと公表しなければならない。方法として好ましいのはインターネットを通じた無料ダウンロードである。ソースコードは、プログラマーがプログラムを変更しやすい形態でなければならない。意図的にソースコードを分かりにくくすることは許されず、プリプロセッサーや変換プログラムの出力のような中間形式は認められない。

3. 派生ソフトウェア

ライセンスは、ソフトウェアの変更と派生ソフトウェアの作成、並びに派生ソフトウェアを元のソフトウェアと同じライセンスの下で頒布することを許可しなければならない。

4. 作者のソースコードの完全性(Integrity)

バイナリ構築の際にプログラムを変更するため、ソースコードと一緒に「パッチファイル」を頒布することを認める場合に限り、ライセンスによって変更されたソースコードの頒布を制限することができる。ライセンスは、変更されたソースコードから構築されたソフ
トウェアの頒布を明確に許可していなければならないが、派生ソフトウェアに元のソフトウェアとは異なる名前やバージョン番号をつけるよう義務付けるのは構わない。

5. 個人やグループに対する差別の禁止

ライセンスは特定の個人やグループを差別してはならない。

6. 利用する分野(Fields of Endeavor)に対する差別の禁止

ライセンスはある特定の分野でプログラムを使うことを制限してはならない。 例えばプログラムの企業使用、遺伝子研究の分野での使用を制限してはならない。

7. ライセンスの分配(Distribution)

プログラムに付随する権利はそのプログラムが再頒布された者全てに等しく認められなければならず、彼らが何らかの追加的ライセンスに同意することを必要としてはならない。

8. 特定製品でのみ有効なライセンスの禁止

プログラムに付与された権利は、それがある特定のソフトウェア頒布物の一部であるということに依存するものであってはならない。プログラムをその頒布物から取り出したとしても、そのプログラム自身のライセンスの範囲内で使用あるいは頒布される限り、プログラムが再頒布される全ての人々が、元のソフトウェア頒布物において与えられていた権利と同等の権利を有することを保証しなければならない。

9. ほかのソフトウェアを制限するライセンスの禁止

ライセンスは、そのソフトウェアと共に頒布される他のソフトウェアに制限を設けてはならない。例えばライセンスは、同じ媒体で頒布されるほかのプログラムが全てオープンソースソフトウェアであることを要求してはならない。

10. ライセンスは技術中立的でなければならない

ライセンス中に、特定の技術やインターフェイスの様式に強く依存するような規定があってはならない。

JAGAT CS部
Jagat info 2013年3月号より転載

DTPエキスパートとコミュニケーション

今回の「DTPエキスパートカリキュラム」の改訂(第11版) により新たな項目として、また試験の新カテゴリーとして「コミュニケーション概論」が加わった。しかし、これまで改訂を重ねてきた「DTPエキスパートカリキュラム」の表紙には常に4つのキーワードとして“よいコミュニケーション”“よい制作環境”“よい印刷物”“高いパフォーマンス”が掲げられており、もともとその筆頭に“コミュニケーション”を謳ってきた。

コミュニケーションツールとしての印刷物

DTPエキスパートの人物像は、日本におけるDTPの導入期から普及、展開といったフェイズに応じて変化してきた。また、メディアの多様化、ビジネスの変化といった環境に応じてその役割が変化せざるを得なかったところもある。しかし、一貫しているのは“DTPに関する正しい知識と技術を保有し「高品質な製品としての印刷物(よい印刷物)」の提供を実現する、あるいは実現できる人”ということである。
ここで、今一度“よい印刷物”とは何か?を考えてみる。
鮮やかな色再現が実現できていたり、美しいレイアウトや素晴らしい組版体裁の印刷物は高品質であるといえるであろうが、それだけでは製品としては不完全である。印刷物という手段を通じて伝えたい情報が的確に受け手に伝達ができ、結果として期待された効果が得られなくてはならない。
いくら見た目にきれいなチラシを作成しても、それが購買や集客に結びつかなくてはまったく意味がないといえる。すなわちその印刷物が果たすべき役割、目的が達成されてこその“よい印刷物”なのである。
改訂「DTPエキスパートカリキュラム」の「コミュニケーション概論」の項の冒頭には以下のように記述されている。

印刷物などのメディアは、情報の移動・伝達=コミュニケーションの手段の一つであり、コミュニケーションについての理解はメディアビジネスの根幹である。

そもそもコミュニケーションツールとしての印刷物に対する理解は必要不可欠であるということである。

DTPエキスパートとして必要なコミュニケーション能力

情報を伝達するメディアは、紙のほか電子化されたものなど、多様化している。そうしたなかにおいては、コミュニケーションツール(手段)の選択肢も多様化したということであり、紙メディアにかぎらず各種メディアの特性も理解した上で選択と手法を最適化して制作物を設計していく必要がある。
コミュニケーションツールを効率的、効果的に作り上げていくに際して最も必要な能力はコミュニケーション能力である。
各種メディアの制作にあたって、まずはクライアントの要望をヒアリングなどによる情報収集と分析によって的確に把握する必要がある。この段階(クライアントとのコミュニケーション)が不十分であると、制作物を適切な仕様に落としこむことができず結果として“よい印刷物(制作物)”とはならないであろう。
さらに、制作プロセスにおいても、例えば制作プロジェクト進行管理において、各工程間での指示や伝達を始めとして各業務担当者の情報伝達能力=業務間コミュニケーション能力が円滑な業務遂行の要となるのだ。
今回のカリキュラム改訂で、コミュニケーションツールとしてのメディアの理解とともに、制作進行におけるコミュニケーション能力もDTPエキスパートに求められることをさらに明確化したということである。

(JAGAT CS部 橋本和弥)
※本記事は、2014年8月掲載当時のものです。
※DTPエキスパートカリキュラムは、2016年11月に改訂12版発行の予定です。