資格制度」カテゴリーアーカイブ

新たな取り組みに向けてクロスメディアエキスパートを取得

共同印刷 株式会社
出版商印製造事業部 製造技術部 主事 浅野 正裕 様

DTPエキスパートに続き受験を決意

エキスパート認証試験というとDTPエキスパートが有名ですが、自分は2000年3月に取得しました。当時は今ほどDTPが複雑ではありませんでしたが、 DTPの経験が半年間しかなく、学科試験や実技試験では四苦八苦した記憶があります。試験勉強によってDTPについてひと通り理解できたので、試験後の仕 事では勉強したことが役に立ちました。

近年ではWebを利用したDTPデータのデータベース化やCRM(Customer Relationship Management)を活用している得意先ではクロスメディア的な展開が増え、専門用語の理解や知識が必要だと日々感じていました。自己啓発として何か 仕事に役立つ資格を取ろうと思い、クロスメディアエキスパートのことをホームページで知り、取り組もうと決めました。 また、DTPエキスパートと同様に2年に1度の更新試験があるため、新しい内容を勉強するきっかけになるので良いことだと思います。自分の場合は、 「DTP」と「クロスメディア」の更新が交互にあるため毎年3月は勉強の月になりそうです。

幅広く調べながら勉強

試験対策ですが、受験を決めたのが試験の1ケ月前で、通信教育に間に合わず、クロスメディアエキスパート向けの参考書や過去問題集がないので、試験範囲の用語 を中心にネットと書籍で調べました。勉強方法は通勤時に調べた内容を覚えたり、日曜日は図書館でも勉強をやりました。幸い、インターネット検定や初級シス アド試験での経験があり、ネット関連の知識は下地があったのでXMLや経営概論に重点を置きました。

試験対策の書籍があれば要点のみ勉強 できるため効率的だったと思いますが、関連することを幅広く調べ考えながら勉強できたので、合格には遠回りですが良かったと思います。これから受験される 方で、参考書が発売された時は、参考書+ネットでの最新情報で勉強すると合格後の仕事に効果的なのではないでしょうか。 論述試験では、普段利用している通信販売やネットクーポンなどを思い出しながら勉強しました。自分が使っていて良いサービスを思い出し、回答に盛り込むよ うにしました。実際に存在するサービスのほうが話にリアリティが出てきます。

常に新しいことに触れることが重要

クロス メディアはコンピューターに関する知識が多いので、常に新しいことに触れることが重要だと思います。 インターネットの広告は漠然と見ていると単なる宣伝ですが、注意深く見ると動きや音でクリックを誘う広告が多いです。動く広告は十数年前では珍しく、今後 も凝った広告は増えていくでしょう。それに対して、検索サイトのグーグルで表示される広告は、テキストのシンプルな作りで大きな効果を発揮しています。人 の好みにもよりますが、人のクリックを誘導するための広告でも手法は異なり奥深く面白いところです。

あるネットの通販では欲しい物をリス ト化し、友人に公開しプレゼントしてもらえる機能があります。これは顧客ごとに高度なカスタマイズされた広告と言えるでしょう。このようにインターネット では常に新しいことが始まっているので意識して広告を見ると新たなヒントが得られ、実際の仕事に役立つものが見つかるはずです。

資格の説明を通じてアピール

資格を名刺に載せましたが、取得後の顧客からの反応は良いです。資格を知っている人以外にもDTPエキスパートと並べて記入してあるため、DTPエキス パートを知っていれば資格の雰囲気が分かり、話に説得力が出てきます。両方とも知らない人からは「これってどんな資格?」と聞かれ、資格の説明を通じてア ピールできるので、大きなメリットになると思います。

他部門との連携がスムーズに

弊社の場合は、全社的な取り組みとし て、従来からDTPエキスパートの取得については、外部より講師を招き、定期的な勉強会を実施しています。クロスメディアエキスパートに関しては当初から 通信教育などでは推奨されており、特定の内容に関しての社員向けの教育はありました。 近年では印刷会社には、顧客から従来の受注を中心とした「印刷」以外にも、「最新の情報加工&活用知識と企画提案能力」が求められています。そこで昨年よ りクロスメディアを核とした、最新の情報加工と専門知識の習得+知識を生かすための、実践的企画書作成とプレゼンテーション能力を習得するために取り組み が行われています。

実践力を重視するために講義形式ではなくディスカッション形式が取られており、クロスメディアエキスパート取得者、ま たは詳しい人が説明を行います。例えば論述試験については、試験に沿った模擬的な内容について、各人が提案の企画を行って発表を行い、社内にいるプレゼン テーション名人が講評を行います。それによって、ほかのメンバーの良い点に取り入れていくことが可能になります。 これはプレゼンテーションがうまくなるだけではなく、学習を通じて交流の少なかった他部門との交流も生まれ、クロスメディアエキスパート認証試験を通じた ネットワークができつつあります。クロスメディアの展開ではさまざまな要素の複合のため、幅広い部門との関わり合いが必要になってきます。今後は、他部門 との連携がさらにスムーズになることが期待されます。

クロスメディアエキスパートに求められること

ネット上の仮想的な 空間で生活をするセカンドライフというサービスが2007年春夏ごろにテレビや雑誌で取り上げられました。それに伴い、今年に入ってセカンドライフの影響 を強く受けたようなネットサービスが複数出てきました。やれば面白いかと思いますが、自分の場合は、インターネットやテレビや読書など他人に気兼ねなく楽 しめるほうが気楽です。ネットの世界よりも現実の世界のほうが面白いです。仮想的な空間で新商品にいち早く触れるよりも、夜のビジネスニュース番組で見る か、ホームページで見たほうが詳しい説明が得られることは少なくないと思います。

クロスメディアの環境に当てはめてみると、同じことが言 えるもしれません。メールマガジンはいつの間にか迷惑メール扱いされ、カスタマイズされた情報は毎回同じような情報、個人情報保護の件でアンケートに対す る抵抗感などあるのではないでしょうか?そういった懸念を払しょくする必要がクロスメディアエキスパートには求められているとも思います。Web2.0以 降では革新的な仕組みはもちろんですが、内容が重要ではないかと思います。ほかでは得られない情報を、いち早く気軽に得られ、情報の流出のない強固なセ キュリティがあることがますます重視されると思います。

動画の広告というとCMなど多額の費用が掛かりますが、無料動画投稿サイトの Youtubeを使用したPRが増えています。動画を扱うサイトの場合は費用が多く掛かる傾向がありますが、無料で使用できるのでメリットは大きいです。 口コミによる効果も期待できるため、クロスメディアな展開には利用する価値があると思いますが、十分な注意が必要です。最近の事例では、自社の作業工程を PRのため公開したところ、一般的に危険な作業方法だったために動画の削除が余儀なくされることがありました。細心の注意を払わないとイメージダウンにな りかねませんが、こういった新しい取り組みを参考にしていく必要があると思います。

※本ページの内容は掲載当時のものです。

クロスメディアの活用でワンストップサービスを提供

株式会社 タカヨシ
情報開発部 システム課 桜井 剛 様

受験動機と試験対策

私は2007年度からホームページ関連の提案業務に携わるようになりました。それまでは、DTP・製版設備を含めたシステム構築・運用やデータ変換作業な どを主な業務として社内で作業を行っていました。今までの業務と違うホームページ関連の提案業務に携わるにあたって、DTP・製版設備やネットワークだけ ではなく、ホームページやその他媒体の知識が必要だと感じ、独自で勉強しながらホームページ関連の提案を行っていました。同時期に会社でもクロスメディア についての勉強をすることを方針としていましたので、自分のレベルアップのために目標が必要だと感じ、クロスメディアエキスパート認証試験を受験すること にしました。

クロスメディアエキスパート認証試験を受験することを決めた後、試験対策が必要だと思い、ホームページや雑誌などで試験情報 を集めましたが、なかなか試験情報は集まりませんでした。実際には、出題範囲(カリキュラム)に対して模擬試験問題や過去問題が少なく、実際の試験が想像 できない状態でした。何から手を着けるべきか分からない、出題範囲が広過ぎる。知らないキーワードはインターネットで検索して調べました。また、第2部試 験については、クロスメディアエキスパート認証試験関連講座を受講しました。これは、試験対策としても役に立ちましたが、普段の提案活動においても考え方 など非常に参考になったと思います。以上のような試験対策を行い、試験に臨みました。

クロスメディアエキスパートを取得して

クロスメディアエキスパート認証試験に合格し、自分のレベルアップという目的は果たすことができました。また、まだまだレベルは十分とは言えませんが、提 案活動においても本当にお客様の事業に対して効果があるか、お客様の事業を考えた提案をするようになったと思います。クロスメディアエキスパートの試験 は、単なる知識の向上だけではなく、お客様の立場に立って考えるという意識の向上につながりました。

しかし、試験に合格しただけでは、ス タートラインに立っただけです。クロスメディアエキスパート自体ができたばかりで、まだまだ世間一般に認知されているとは言い難いのが現状です。現在、ク ロスメディアエキスパートを取得している人たちは、クロスメディアエキスパートという資格を価値あるものにする義務があります。そのためには、自分自身も 常にレベルアップしていかなければなりません。また、会社にとって求められる人材になってこそ、クロスメディアエキスパートという資格の価値が上がると思 います。私もクロスメディアエキスパートの資格を少しでも認知向上させることができるように日々努力し、そして、会社に求められる人材に成長したいと思い ます。

クロスメディアとは何か

ワンユースマルチソース、マルチメディア、メディアミックスとさまざまな言葉(キーワー ド)がありますが、それらとクロスメディアの違いは何なのでしょうか。私は、利用者(お客様のターゲット)に合わせたメディアの選択を行うことだと思いま す。お客様の視点に立ったキーワードです。

これまでのマルチメディアやワンユースマルチソースなど複数のメディアを扱う総称としてのキー ワードは、どちらかと言うとメディアを制作する側でデータの扱いが便利になる、作業が簡単になるという考えで、実際に利用する側の立場・視点でのキーワー ドではありませんでした。お客様のターゲットに一番見てもらえる、利用してもらえるメディアを選択する。それは、ホームページかもしれませんし、DMやパ ンフレットなど紙媒体かもしれません。お客様の事業やターゲット層によって、一番メリットのあるメディアは違うものです。印刷会社は、当然ですが印刷を中 心に物事を考えがちです。しかし、お客様は印刷物中心ではなく自社のターゲットに効果のあるメディアを求めています。お客様の事業に本当に役に立つメディ アを提案することが、今後、印刷会社に求められるものではないでしょうか。

これからはホームページ制作会社やソフトメーカーなど他業種が 競合になる場合も多くなるのではないでしょうか。ホームページを中心に考えられているお客様も多くなってきています。そういったお客様へ他業種からの提案 に対抗できるようにする必要があります。また、そういった他業種の企業とアライアンスを取ることも必要になるかもしれません。クロスメディアという幅広い キーワードの中で、お客様により良い提案活動を行うためには、他業種の企業とお互いが有益になるアライアンスを取ることも必要になってくるのではないで しょうか。

当社のクロスメディアへの取り組み

当社のクロスメディアへの取り組みとしては、現在、当社で行っているクロ スメディアの仕事を体系化し、クロスメディア事業を本格化させるプロジェクトチームを発足させました。参加メンバー全員が、クロスメディア事業が今後、当 社が発展していくための核となる事業と位置付けて、「クロスメディアを活用して、ワンストップサービスを提供し、お客様の事業の成功に貢献する」をテーマ に取り組みを行っています。ひと言でクロスメディア事業と言っても、さまざまなビジネスがありますが、当社では、テーマにもあるとおり、「メディアに関し てワンストップサービスを提供すること」「お客様の事業の成功に貢献すること」を目的として事業内容・サービスメニューを考えています。

具体的には「メ ディア・コンサルティングサービス」「ドキュメントの管理・運用サービス」「独自コンテンツの保有」の3つの柱をクロスメディア事業展開の中心として、戦 略の立案・活動計画の作成を行っています。中心となるものは「メディア・コンサルティングサービス」で、今までの紙媒体のクリエイティブな提案は体系的に 行っていましたが、お客様のターゲットに効果のあるメディアの選定・コンサルティング、効果測定や集計など、今までは個々の案件にそれぞれ対応していたも のをメニュー化・体系化し、ワンストップで提供するサービスをより充実させていきます。

今年6月中に新事業基本計画を作成し、その計画を 元に今後のクロスメディア事業のさらなる充実を進めていく予定です。本格的な始動はこれからですが、今後の当社の核になる事業と位置付け、取り組んでいま す。 これからの印刷会社は、ただお客様から言われたものを印刷するだけでは、お客様からの要望・要求にこたえられないと思います。印刷を中心としたメディア選 定から商品キャンペーンの施策・効果測定など、印刷の枠を超えて、お客様と一緒になってお客様の事業を成功させる印刷会社にならなければならないのではな いでしょうか。当社もクロスメディア事業を充実させ、よりお客様の要望・要求にこたえられる会社を目指して、今後も取り組んでいきます。

※本ページの内容は掲載当時のものです。

クロスメディアはユーザー視点

株式会社 ビー・ユー・ジー
事業開発室 戦略マーケティングマネージャ 田崎 勇二 様

ネットに関わるすべての人に有用

クロスメディアエキスパート認証制度は、次世代の経営を担う企画・営業担当の方をターゲットに設定されているそうですが、実際に取り組んでみて、印刷・出 版のほか、IT関連から広告、情報サービスまで、さまざまな業界に従事する者が知っておくべき知識と必要な企画提案力を問う、素晴らしい試験だと思いました。
確かに、出題範囲はマクルーハンからSQL言語まで広範囲で、かつ各分野についての深く詳細な知識が問われ、それをいつものPCから離れて鉛筆と消しゴムで取り組まなければならないという、非常に厳しい試験であり、難易度も高いと思います。
笑いごとではなく、私はまず、鉛筆で漢字の練習をするところから始めなければなりませんでした。

きっかけはXMLコンソーシアム

まず、私のバックグラウンドをご紹介しておきます。 弊社はハード・ソフトの企画、設計、開発からシステム運用、BPOサービスに至るまで、広範囲な業務に取り組んでいるシステムハウスです。その中で、私は ソフトウエアの開発、システムの企画、設計を経て、現在は事業開発室で新規ビジネスを担当しており、業界動向を広く調査したり、ニーズの柔らかい客先に伺い、問題解決のための方向性を提案したりしております。
社外では、XMLコンソーシアムのクロスメディアパブリッシング部会にて、クロスメディアの事例研究や、XSLT/XSL-FOなど自動組版に関わる技術の研究に取り組んでおります。クロスメディアエキスパートに関しても、部会活動の一環として取得しようという話になり、部会の仲間と一緒に勉強を進めて受験しました。ご興味のある方はぜひ活動にご参加ください。

広範な試験範囲

Webサイトに示されているとおり、カリキュラムの範囲が広く、これらすべての分野に精通している人は非常に少ないと思います。私も経営などは系統立てて学んだことはなく、苦労しました。門外漢の分野について手っ取り早く知ることができるガイドが、参考図書となります。

特に自分の専門外の分野の書籍は、ぜ ひ一読することをお勧めします。時間がなければキーワードだけでも拾って、用語の定義を押さえておきましょう。私も鉛筆書きの練習も兼ねて、用語集を作りました。この時、一歩踏み込んだ定義を確認することが重要になります。

例えばSQLとは、RDB管理システムのための問い合わせ言語ですが、さらにSQL にはデータ定義言語(DDL)、データ操作言語(DML)、データ制御言語(DCL)の3種類があり、それぞれの代表的なコマンドは何かというレベルまで押さえておきたいところです。

系統立てた理解が不可欠

このように各分野の用語を深入りして調べていくと膨大な量になると感じるかもしれません。
しかし、例えばIT分野では、Web、BlogやSNSに代表されるネットワークサービスを支える技術基盤を、伝送路としてのネットワークを構成するTCP/IP、データをアプリケーションに伝えるインターフェイスとしてのHTTP、その上で動作するサービスであるWWW、Blog、SNSの系列と、データ表現の手段としてのXML、HTML/XHTML、Webアクセサビリティ、RDF/OWL、セマンティックWebの系列、データを格納する光ディスク論理フォーマットからRDB、コンテンツマネジメントの系列の3つの系列として体系的に理解していけば整理がしやすいと思います。

第2部試験は事実に基づいて論理的に

記述試験に関しては、書籍『問題解決プロフェッショナル「思考と技術」』 で示される論理的な思考の手順に沿って、手を使いながら企画を練り上げる練習をする必要があります。

普段の業務で企画提案に関わっている方は、慣れもあっ ていきなり企画を書き始めることも多いと思いますが、試験においては、与件に示されている事実は何で、それを解決する手段として何が考えられ、そのうち、 どの手段を使って何を解決するのかを明らかに示す必要があります。

そのためには普段、頭の中で同時並行的に起こっていることを、ステップに分けて取り出す練習が欠かせません。また、既存のソリューションを単に当てはめるのではなく、ユーザーの立場に立って解決策を模索する必要があります。

これが意外と難し いところで、ITならば何かを開発しなければならないとか、印刷業では紙を増やさなければならないという考えに陥りがちです。私はJAGATのクロスメ ディアエキスパート認証試験の関連講座に参加させていただきましたが、そこでの演習が大変参考になりました。

マスメディアを猛追するインターネット

IT産業のトップ企業の一つであるgoogleの富の源泉が広告費と販売促進費であり、テレビCFからチラシまで、これまでITは制作技術の一つ程度に考えていた多くの業界が脅威にさらされています。これを、印刷・出版業界にとって競合が一つ増えたという程度に考えている方はもう少ないと思います。

電通によると、インターネット広告はマスコミ4媒体のうちラジオを抜き、雑誌に手が届くレベルに成長しています。しかし、一媒体としての力と同時に、多様化するライフスタイルやメディア接触に応じたコミュニケーションチャンネルを用意して、既存メディアと顧客を結ぶ接着剤のような機能にも注目しなければなりません。

クロスメディアはユーザー視点

クロスメディアはワンソースマルチユースやメディアミックスの同義語として用いられるケースがよく見られます。
しかし、ワンソースマルチユースは制作者の視点で効率的なコンテンツ制作を、メディアミックスは売る側の視点で複数メディアのパッケージングを目指すものであるのに対して、クロスメディアはユーザーの視点に立って、シームレスにコンテンツに接触、利用できる環境の提供を目指すものと考えることもできるのではないでしょうか。

そのように視点を変えてみると、これまで顧客とはなり得なかった新しい顧客や、既存の顧客の新しいニーズに気づくことができると思います。またそれらのニーズに対応するための、新たな協業相手も必要になってくるでしょう。

最後にお願いがあります。
クロスメディアエキスパートは広範な領域での活躍が期待できると思いますが、まだまだ発展途上であり、悩みも多いと思います。また、必要とされる知識領域の広さからそこに関連する人々も多種多様でしょう。
ぜひ、相互に交流して情報交換や連携を進めていきましょう。

※本ページの内容は掲載当時のものです。

クロスメディアの中心で印刷を叫ぶ

オンライン印刷のフデビン
取締役 伊藤 健太郎 様

印刷会社のディレクション機能を高める

充実した社内教育カリキュラムを独自に整備したり、定期的に専門講師を招いたりすることが難しい中小企業にとっては、DTPエキスパートやクロスメディアエキスパートのような資格制度は、個人や企業の目標設定や啓発にもなります。
クロスメディアエキスパートを力試しのつもりで受験してみて、DTPエキスパート認証試験でも感じたことですが、とにかく時間に追われる試験だなと思いました。印刷業界の資格だけに、これは納期に追われる焦燥感を体感させるのが目的なのかなと思ってしまうほどでした。
特に論述試験では、事例に対して企画書を作るという内容でしたが、普段はパワーポイントやアクロバットなどで企画書を作成しているため、コピー&ペーストのできない手書きでの文書作成に、消しゴムが予想以上に減ってしまうほど大変苦労しました。

合格して今度はこれをいかに社内にフィードバックするのかを検討しました。印刷営業はホームページなどの受注にあまり積極的ではありません。それは、単に得意・不得意だけではなく、長時間にわたる打ち合わせや企画書の作成、お客様業界情報の調査などに掛かる時間が、なかなか確保できないところにあると思いました。また、制作側もWebデザイナーやSEなど各専門技術はあっても、プロジェクト全体を企画し推進していく機能が弱いと感じました。それには営業と制作の間にディレクターという役割をはっきりと位置付け、印刷やWebだけでなくク ロスメディア的な発想でプロジェクトを進めていけるようにすることが重要だと思い、この役割の職能自体がまさにこの資格に重なることから、社内の推奨資格としてクロスメディアエキスパートを認定しました。

工場視点はDTPエキスパート、顧客視点はクロスメディアエキスパート

弊社では、特にDTPエキスパートを工程管理やデザイナーなど工場視点で働くスタッフに、クロスメディアエキスパートを営業やディレクターなど顧客視点で働くスタッフに取得を推奨しています。
DTPエキスパートは、取得することによってプリプレスを始めとした印刷工程全体の幅広い技術知識が習得できますので、新人教育はもちろん管理職の教育にも大変有用だと思います。

特に、最近増えてきているインターネットでのオンライン印刷注文では、サポート窓口のスタッフがお客様と直接お会いできない中で、ネットや電話を通じて入稿データの不備がないかチェックし、的確なアドバイスを伝えなくてはなりません。
このようにお客様との技術的なコミュニケーションを行いながら、工場内での横断的で密な連携を取るためには、DTPエキスパートレベルの知識が必須であると思います。これによって、工場全体の工程を把握しながら、営業にもお客様にも頼りにされる工場窓口ができると思います。 また、クロスメディアエキスパートは先述のディレクション機能だけでなく、印刷会社が扱うデジタル資産を印刷物以外のホームページなど新たな事業展開に導く市場開拓者としても大変有用だと思います。

最近では客先での商談やプレゼンテーションにおいても、何か一つクロスメディア的な提案がないと物足りないと感じるほどになりました。しかし、ただ目新しいメディア商品を押し売りするのではなく、お客様の仕事をよく理解してマーケティングストーリーを組み立て、AIDMAなどの購買段階で見込み客の離脱が少なくなるようコンバージョンを高めていくことが大切だと思います。

お客様からも競合会社のバリアブルDMをサンプルとして持って来ていただいたり、セカンドライフのSIMデザインのお話があったりとさまざまなお問い合わせをいただきますが、クロスメディアエキスパートは、それらを精査してマーケティングストーリーに落とし込めるか、お客様のブランド構築に効果的であるかを判断して、常に顧客視点であることが重要であると思います。そして、その活動の中で新たな技術や商品展開が生まれ、結果的に印刷会社の事業ドメインも広がってくると思います。

クロスメディア戦略はバーガーショップと同じ?

印刷会社のクロスメディア販売戦略はハンバーガーショップを参考にすると分かりやすいのではないかと思います。カウンターで「ご一緒にポテトもいかがですか? セットだとお得になっております」と言われ ると思わず追加オーダーしてしまうように、一緒にホームページやバリアブルDMもセットで売れるようなクロスメディアエキスパートが今後は社内に必要だと 思います。

また、ハンバーガーショップは子供向けセットやランチセット、さまざまなドリンク、季節モノなど、個別オーダーにもセット販売にも、ニーズの多様化に柔軟に合わせつつ内部に無駄の出ないメニュー構成を持っています。 印刷業界もメディアの多様化はさらに進み、クロスメディアの選択肢は今後さらに細分化されると予測されますが、すべてに対応することは非常に難しいことですし、お客様には高度な最新技術や細かい職人技は重要でない場合が多分にあります。
クロスメディア提案がお客様にとって本当に最適な状態になるためには、 クロスメディアエキスパートがお客様の状況をよく調査・理解し提案していくのも重要ですが、その前に必要なのは、それを一番理解しているお客様自身が自社 のマーケティングに最適なメディアを選択できるようなクロスメディアメニューを印刷会社側であらかじめ用意しておくことではないかと思います。

何と言ってもお客様のマーケティングについて一番理解しているのはお客様自身ですし、過去の経緯や失敗事例などは担当者とのヒアリングをいくら詰めても外部の人間では計り知れない部分があります。
まずは印刷会社自身が提供できるクロスメディアの選択肢を外注も含めてメニュー化し、その上にクロスメディア提案がされることで、より最適なクロスメディアマーケティングが行われるのではないかと思い、弊社ではホームページでお客様分類ごとのおすすめメニューを表示して、お客様自身にメディアを組み合わせ ていただく試みを一部始めています。

クロスメディアの中心で印刷を叫ぶ

印刷業界にいると印刷物がメディアの中心にある ような感覚がありますが、お客様のマーケティングにおいて最近Webが優先されるケースが増えてきているように思います。これまでのケースとしてホームページ制作を依頼されるお客様は「カタログのデータをホームページでも使いたい」という要望がほとんどでしたが、最近では逆に「ホームページのデータをカタログでも使いたい」というケースが増えています。これはデジタルデータのスタート地点が印刷用ではなく、Web用になってきていることを意味しますし、お客様の発注先も印刷会社ではなく、ホームページ作成会社になってしまう可能性を意味します。それでも、ほかのメディアに比べて高解像度が要求される印刷メディアは「元データ」という威厳がありますが、デジカメやケータイカメラの普及、お客様によるホームページやブログの更新 作業の簡易化などによって、最新のデータはホームページに集中していくという傾向は変わらないように思います。

クロスメディアの中心が印刷からWebに移ってしまう前に、印刷会社はクロスメディアカンパニーを目指し確固たる地位を築けるよう、今まさに行動を始める時だと思います。

※本ページの内容は掲載当時のものです。

DTPエキスパートで仲間増やし

福島カラー印刷株式会社 常務取締役 渡辺泰子

 

何かが違う?

「もうちょっと、どうにかならないの?」
私が福島カラー印刷(以下、当社)に常務取締役で入ったのは、そんなふうに思っていた2005年夏。グループ会社からの転籍で、それまでは印刷媒体を中心とした広告業務に携わっていて、当社とのやり取りも多く、互いに協力しながら、私は企画やデザインを当社から請け負い、私からは制作や印刷を当社へ発注していました。
当社は1982年に創業されましたが、印刷機をもたない、いわゆる営業会社としてのスタートでした。12年後の1994年に制作部を立ち上げ、Macintoshでの制作業務を請け負うようになりました。当時グループ会報紙の作成担当をしていた私は、制作部への取材で「福島県内でいち早くMacを導入し、最先端の技術を使いこなしている集団」という内容を聞き、何の疑いもなく記事にしていました。
制作部とやり取りをする機会が徐々に出てきた当初、確かに当社は面白そうな会社ではありました。社員は皆一生懸命仕事をするし、いろいろなことにチャレンジしているようにも見えました。しかし、5年、10年と歳月が過ぎ、私自身の経験も積まれていくうちに、「もうちょっとどうにかならないの?」という思いが芽生えてきたのです。

これでいいの?

それまでの私の仕事は広告の企画、編集、営業だったので、Illustoratorをちょっと動かせるくらいで、データ制作に関する知識も印刷物の工業製品としての知識もほとんどありませんでした。当時は、なぜ当社が私の好みに合わない書体ばかりを使うのかも、なぜ色校と実際の印刷物の色が変わってしまうのかも、なぜ「できない」とか「できなかった」と平気で言ってくるのかも分かりませんでした。だから、「もうちょっとどうにかならないの?」と思い続けていたのでしょう。
そして、転籍。役員として、経営をすることになりました。取りあえず、会社の現状を見ながら、印刷について勉強し始めました。社員を始め、同業者や外注先などいろいろな方とお話しをし、印刷関連の雑誌を読み、セミナーに参加し、知識を増やしていきました。そのうちに、福島県でMac導入ナンバーワンを自称する会社が、当社以外にもたくさんいること、今現在決して当社が最先端の技術を有してはいないこと、お客さまに納得してもらえる制作印刷に関しての説明能力が、当社には足りないことなどが分かってきました。
とはいえ、私は会社では後発。実務で制作部と話をしていると、技術的なことを言っても分からないだろうと思っているようで、時々言いくるめられているような感覚があるのです。当時制作部の部門長は30代で、部員は全員20代か30代。一方、当社の代表を始め営業部のベテラン社員は40代後半から50代。年代の上の方のほうが「ちんぷんかんぷん」という状態だったようで、制作部に「できない」と言われれば、それは「不可能なこと」なのだと解釈していたようでした。
営業部と制作部の関係は、今から思えば、何か力関係のようなものが存在していて、なぜか制作部がとても「偉そう」なのでした。お客様に最適な商品、サービスを提供するのが、私たちの一番の仕事なのに、「できない」理由をいろいろと言い放っては、妙なセクショナリズムを作っていました。時間的なこと、予算的なこと、技術的なこと、いろいろな面で「それってホント?」「不可能なことなの?」おやっと思うことが続くのです。

頭がアマチュアなのよ

人は、ウソをついたり、隠したり、かばったりする生き物で、かつ、基本的にだれもが怠け者なので、時代に追い越されていても気づかないふりをしたり、自分より優秀な人や集団がいてもあまり認めたがらないようです。
確かに当社は、10年前は最先端の技術を使いこなしていたのかもしれません。しかし、その思い込みが日々の業務に追われて、仕事量に合わせて人を増やし、ただただ仕事をこなすうちに、制作技術のアマチュア化を招いてしまったようです。新しいことに取り組む姿勢やそのために必要な継続した勉強の習慣が、欠如しているのです。このままではマズい、未来が見えてこないと、とにかく何か行動を起こさなければなりませんでした。
まず、当時の制作部の部門長にDTPエキスパートの取得を打診しました。すると「そんなの取って役に立つんでしょうかね」との答え。次に、制作部のナンバー2に打診。「時間があったらやってみます」という感じの答えでしたが、彼はきっちりDTPエキスパートを取ってくれたのです。当社DTPエキスパート第1号です。これが、私にはとても救いになりました。もしかしたら、制作部の中で彼が最も私の考えを敏感につかんでくれる人なのかもしれないと思いました。
資格の取得が本来の目的ではないのです。自らが新しいことにチャレンジすること、会社がすべてを準備してくれなければできないと受け身でいるのではなく、自らが機会や時間を作り出して学んでいくこと。これしか機能や能力をアップさせる方法はないと思うのです。多分勉強を始めることは、だれでもできることだと思います。ただし、それを継続してやれるかどうかがその人やその人の所属する企業の行方を決めていくように思うのです。

次につなげようよ

これからは、毎年1人でいいからDTPエキスパートを増やして、文字どおり当社はプロ集団だと言いたい。私が当社に来る前に抱いていたような「何かが違うよ」という感想をお客様にはだれ一人として持ってもらいたくない。言いくるめるのではなく、納得してもらう話のできる集団でありたい。そう思い、自らが行動すべきだろうと、DTPエキスパートの勉強を始めました。
とにかく最短で、つまり1回で取得したかった。決してたっぷりと時間があるわけではないので、1日に勉強に費やせる時間はせいぜい30分。また、連続して時間を取ることは非常に難しいので、とにかく、5分や10分の細切れの時間でもいいから集中して勉強する工夫をしました。
勉強するにつれ感じたのは、印刷業界の共通認識として、これが最低限のことだということです。DTPエキスパート取得者というとまるで「すごい人」のような感覚が当社にはまだありますが、決してそうではないと思います。範囲も広く、常に情報も新しくなっています。昨年の試験問題の約20%は最新の内容に変わります。当社が制作部をもって10年。以来当社が変わらず、20%ずつ印刷業界が変わっていたとすれば、もう5年前に追いつかれ、今では5年も遅れてしまっていることになるのです。
試験を受けて合格することの意義は、系統立った勉強が必要であること。全分野に関して平均的に知識を網羅しなければならないことなのだと思います。
私たちを取り巻く環境は、印刷業に限らずものすごいスピードで変化しています。当社は遅れてしまったのだと思います。早くスタートラインに立つために、知識を欲すること、意欲を表すこと、自らが行動すること、このことを会社の中に広げたいと思っています。
私のDTPエキスパートの合否は、前述の当社DTPエキスパート第1号からのメールでした。5月なのにそのメールは「桜咲く。」でした。
彼は今、部門長として制作部を切り盛りしています。私の理解者をもっと増やしたい。当社の抱える現実に正面から向かっていく人材を増やしたい。DTPエキスパートを取得するという手段を使って、増殖していければと思っています。
 
(JAGAT info 2007年9月号)
※本記事の内容は、2007年9月掲載当時のものです。

グローバルな知識が物作りの源泉

株式会社アスカネット フォトパブリッシングラボ部 次長 八田次郎

最初はふらち、後から本気でDTP

ある日わが社で「DTPエキスパート」取得者には特別資格手当が出るという告知が発表されました。それに呼応して挑戦者が3名現れ、迷った揚げ句申し込み最終日に私も参加することにして大急ぎで写真を撮り申し込みをしました。体験するだけでもいいじゃないかという消極的な参加意識と、あわよくば資格手当ももぎ取ろうというふらちな思いからでした。
私の会社では、オンデマンド印刷機を使って、写真集を1冊から製作販売する仕事をしております。製作の責任者としてはお客様から来たデータから繰り広げられるスキャニング、組版、印刷そして製本という一連の流れを理解しておかなければなりません。もともと編集者でしたので、大まかには知っている「つもり」でしたが、出版と印刷とは似て非なるもので、専門的な知識はほとんどないに等しかったのです。問題集には今まさに欲しい知識が満載されていたので、良い機会だと思い参考書と首っ引きで勉強を始めました。

始めは時間切れで大失敗

参考書を2冊と問題集、そして直近に出た模擬問題を手に勉強を始めました。参考書は一から十まですべてに目をとおし、問題集は問題を覚えるくらい何度もやりました。残業で帰ってから食事を取ってから夜にできるだけ詰め込み、参考書で意味を取りながら理解を深めていきました。良い成績を残すには結局問題に当たるしかないので、朝の始業時間前にも問題集を開きました。ただし、時間をあまり気にせずにやっていたのが最後に仇(あだ)となりました。
試験当日、大阪会場の多くの受験生に気後れしながら試験を受けました。これは知っているという問題が頻出していましたが、問題集に当たっていた癖で全部の問題を「読んで」しまっていました。前半の時間内に後20問くらい残して時間切れ。時間配分を間違えてしまったのです。後半は何とか全問答えたものの、前半のショックで気分もなえてしまいました。
課題試験のほうは社員たちと議論しながら一緒に課題を提出するのはなかなか面白い体験でした。しかし結果は全員が不合格。これは侮れないぞというのが最初の受験の感想でした。

印刷に関わる範囲の広さに目を見張る

不合格したとは言え、印刷に関わる者にとって必要な情報を得ることができ、新しい企画を立ち上げる際には非常に役に立ちました。何よりも一緒に受験した社員たちとは同じ「言語」で話ができる土台ができたことが大きな収穫となりました。若い印刷や製本の社員たちがこのような知識を得てくれれば現場の活性化になり、またより高度な仕事を任せられるのではないかという思いを新たにしました。特にプリプレスからポストプレスまで満遍なく出題されるのも今のわが社の業態にマッチしており、自部署以外とのやり取りにも役に立つことが分かりました。これはまず自分が「パス」しなければ社員は付いてこないぞと再挑戦を心に決めました。

2度目にようやく「パス」

前回の受験で時間切れとなってしまったことで問題集を解くにも時間を意識して勉強を始めました。新しい模擬問題を手に入れたほかは同じ教材を一から勉強し、ほとんどの問題は覚えてしまっていました。最後のほうはマークシートに印を付ける練習までしていました。ペーパーテストはいけたかなとは思いました。実技には時間を掛けて、ちょっとした仕様書の文言まで気になってしまい提出する前日は徹夜となってしまいました。
そのかいがあってやっと「合格」通知をもらうことができました。

エキスパートとしての自覚

合格はうれしかったのですが、6名の受験者中受かったのは2名ということで非常に狭き門でした。
合格したとは言え付け焼き刃の問題集だけの知識では申し訳ないと思い、合格後は印刷、製本の専門書を読みあさりそれなりの知識を補充してきました。現場で印刷をしているわけではないので、印刷機は回せませんが、理論的なことは分かります。製本でも分からないところは自分で模型を作ってみて本を作って理解しました。わが社では「人のやっていないことをやろう」という社風をモットーとしています。そこでまず、「人のやっていることを知ろう」としたわけです。より良い製品作りをするには今われわれが置かれているレベルを知らなければなりません。仕事の中でそれを知ろうとすることは当たり前なのですが、「DTPエキスパート」であるという自覚があってこそ続けて勉強もできたのだと思いました。

後進への指導と協力

社内では受験についての告知および問題集などの貸し出しを一元化するために事務局を作りました。受験ガイダンスと銘打って受験勉強の方法、課題の考え方など、実際に体験したことを解説しました。
役職者として部下指導がこのような形でできるというのも「資格」の強みだと思いました。合格までの最短距離を狙ってほしいとの思いをくんで26期には4名が受験し2名が合格という実績を残せました。初受験の社員が一発で合格という快挙もあり、喜ばしい結果となりました。

グローバルな知識が物作りの源泉

入社前にPhotoshopやIllustratorを学校で習ってやってきますが、実際には印刷入稿も組版も分からないという人が大勢います。レイアウトやレタッチの部署で仕事は覚えても周辺的な知識は自分で勉強するしかないのが現状です。写真集を作っている会社ですが、若い人たちが専門書やデザインについての「本」をあまり読んでくれていません。ルーチンワークを無難にこなしてはくれるのですが、危機感があまりないようです。
私自身も出版社にいたから「本作りや印刷やいろいろなこと」を知っているだろうということで採用されたのですが、仕様書一つ満足に書いたことがない状態を何とかしようとしてエディタースクールの専門書と首っ引きで勉強しました。特にわが社のような新しい分野を広げていくような活動を求められると「経験」がかえって邪魔になって考えをスポイルすることがあり、一生懸命勉強した新鮮な知識のほうが現場に役に立つことが多いのではないかとも思っています。本作りや、それに付随したいろいろな技を知ることが工夫や改善につながるのだと思います。

姿勢が人間を作るのではないか?

これまでDTPエキスパートを受験した社員たちは多かれ少なかれ部門のリーダー的な存在となっている人ばかりでした。始めは資格手当目当てで始めた受験勉強もやってみればなかなか歯が立たない問題も多いようです。それをあえて挑戦しようという者たちですから優秀な人が多いのは当たり前です。社員であっても勉強していく人と、しない人との差は歴然とあり、その「姿勢」が私の立場から見ればよく分かります。試験を受けてみようという思う心が大事なのだと思います。コツコツと着実に問題を物にしていく、そういう姿勢が人間をはぐくむのではないでしょうか? 私は努力できる人がやがて報われるというような職場を作っていきたいと思っております。そういう中でこの「DTPエキスパート」試験はいい意味での試練を与えてくれる契機となっています。

(JAGAT info 2007年2月号)
※本記事の内容は、2007年2月掲載当時のものです。

DTPエキスパート奮闘記

日経印刷株式会社 第二営業部 部長 久保田 哲司

 

DTPエキスパートって何?

日経印刷は創業42年、東京飯田橋に本拠地を置き、デザイン、制作から製本まで一貫生産している総合印刷会社です。ページ物を主体に商業印刷物など幅広く営業部員74名と管理部門30名、制作・製造部門約200名で日夜対応しています。
社員研修に力を入れ、新入社員研修、階層別研修、管理職研修、個別外部セミナーへの参加、外部コンサルタントと一緒に改善活動を実行しているNPS活動など、会社主導の一般教育は充実していますが、印刷業界全般の幅広い知識を網羅したものはなく、営業の印刷知識教育と言えば、社内の制作部や営業企画部主催の勉強会を適宜開催する状況でした。

社内で「DTPエキスパート認証取得」を目指す動きが出たのが2005年初頭でした。私は「DTPエキスパート」の名称は知っておりましたが、何となく「DTPオペレーターが取得するもの」でその具体的中身に関しても一切知りませんでした。それがどうして急に弊社で取得を目指すことになったのかは、よく分からないところもありましたが、業界動向それもDTPオペレーターばかりでなく、営業が取得しているという事実などから、必要であると判断したものと思われます。
チャレンジ決定後の動きは早く、今後数年掛けて対象者全員取得、対象は営業職課長以下全員と制作部の選抜者と決まり、営業企画部が具体的方策を検討し、外部講師選定、講習スケジュール、受験、取得までの流れができました。社内に外部講師を招いて集合教育式で勉強していくことになり、期間はゴールデンウィーク明けの5月より7月までのDTPエキスパート総合講座と8月以降の直前対策講座、本試験、9月上旬の課題制作まで、毎週土曜日8時半から18時まで、マシン台数の制約やその他事情を考慮し、営業は半分ずつ受験しようと35名プラス制作部より8名、合計43名が初年度受講生となりました。

余裕のスタート、それが……

私はオブザーバーという立場で初回講習より参加をしていきました。狙いはどんな教育をするのかという興味と皆の応援の意味合いです。このスタートの段階では一応20年以上この業界にいますのでそれなりの自信をもって望みました。
しかし、模擬試験(本試験の約半分の時間とボリューム)をやってみると全然時間が足りない、全体の半分を超えた分くらいしか進まない。自分では分かっているつもりで自信をもって解答しても設問が意地悪?で間違えている個所も多々あり、初めての模擬試験は惨たんたる結果で、恥ずかしくて部員に見せられるシロモノではありませんでした。かなりショックを受けながらも、実機(Mac OS XでInDesign CS2使用)講習では、2人で1台だったので先輩F氏と勝手にいじくり講師の手をかなり煩わせながら、和気あいあいに楽しんでおりました。

本気、必死の受験勉強

和気あいあいとした実機講習を経て、いよいよ8月より直前対策講座が始まりました。これはひたすら過去問題をやり、答え合わせ、その解説を行うという、週休2日制に慣れた身体には5月からの疲れも重なり、精神的にも肉体的にも結構きつい講座です。この段階で今年は受験しないメンバーも出て、営業21名、制作8名の合計29名が受験までの本番モードに突入しました。私はと言えば、今さらオブザーバーうんぬんとも言えず、ついに受験メンバーとしての登録をいたしました。
ここからはひたすら暗記・過去問題の日々が続きます。しかし、実務を離れて10年以上たつと、なかなか頭に入ってこない。スピードにも付いていけない。イライラが募る中、土曜日は講座、日曜日は朝から会社の会議室にこもり、時間を計りながら過去問題をやる、でもとにかく最後の問題まで時間内にたどり着かない日々が延々と試験当日昼まで続きます。

開き直りの心境と奮起

「あーあ、最後までやっぱり時間内に全部できない」とあきらめなのか開き直りなのか複雑な心境で試験会場である東京渋谷の青山学院大学に到着。会場についてみてまず圧倒されたのは人の多さです。「こんなにいっぱい受けるの?」が率直な印象。皆若いのにがんばるなー(まるで他人事?)一応わが社の社員が皆来ているのを確認した後、校舎の外でタバコをふかしていると私より年配の方(50歳代)が必死にテキストを見ている姿が…。ガーン!
みんな私より若いしと弱気になっていたのに急に気合いが入りました。でもドラマのようにはうまくいかず、気合いと知識は別物で、最後の問題までたどり着けずに相当数を残して終了と相なりましたが、筆記試験の出来とは関係なく、すぐに課題制作に入り何とかかんとか苦しかった「DTPエキスパート受験期間」が9月中旬やっと終了。

結果発表

10月末になってそろそろ忘れたころに結果発表があり、日経印刷からは受験者29人、合格者18人、そのうちわが第2営業部からは8人中5人合格しました。制作部はさすがに8人中7人の合格者を出し、うち1名のO君は今回の受験者1829人の中で1位の成績であったそうです。かくいう私も何という強運なのか、年配の方を見て奮起したお陰か最後まで解けなかったのに合格しました。ヤッター。

体験して

やはりあっと言う間にドンドン忘れていきます。「範囲が広すぎる=日常業務との接点がないことも多い=すぐ忘れる」となりますので、自分で実践に生かすか、より深く掘り下げていく努力を継続するしかありません。
印刷業界はコンピュータ、ネットワーク、アプリケーションなどを活用、組み合わせ、応用することで効率化、差別化、受注促進につながることは、既にさまざまな形で実証されています。お客様の課題解決に向けて、何を切り出して何を組み合わせ改良してどう強調アピールしていくか?を印刷営業職こそ実践していく必要があると考えます。そのための基礎知識を習得する意味で「DTPエキスパート認証資格」を印刷営業職がチャレンジしているという流れは体験してこそ理解できるものでしょう(その大変さも)。

最後に

お客様の印刷会社を見る目の変化と言いますか、以前はお付き合いの度合いに応じて発注量もある程度読めましたが、もうそんな状況は大方消えています。特にここ数年は、「印刷会社はどこも変わらないから、これがいくらでできるのか?」と金額だけが関心事であることも増えています。また、作業工程についてもフィルムやプレートが出るまでは一緒に考えてくれることもありますが、それ以降の工程に関しては「できて当たり前」の感覚をもっている印象を強く感じます。
そんな環境下だからこそ、普段お客様と接している営業によって、その売り上げや利益が大きく変動していくチャンスでもあり恐れでもあります。「DTPエキスパート」の知識で直接お客様の課題解決につながることは少ないと思いますが、「こうすればもっと楽になるのでは? この方法は使えないか?」と気づく下地は十分に身に着くはずです。ぜひこの知識の下地に根を張って自らの実務に直結した分野の幹を太く高く伸ばし、お客様に喜ばれ、自らも充実感、達成感を味わってほしいと思っています。

(JAGAT info 2006年12月号)
※本記事の内容は、2006年12月掲載当時のものです。
 

DTPエキスパートに思うこと

株式会社トライペックス 取締役生産担当 大槻 辰弥

 
トライペックスは1996年に創立し、お陰さまで今年の5月で10周年を迎えることができました。
創立当初は、アナログ製版専業でスタートしたためCEPSを中心にしたワークフローで作業しておりました。その後、現在に至るまでにDTPの立ち上げ、制作部門の立ち上げ、ISO9001:2000の認証取得、高品位画像クリエイティブ事業の立ち上げ、ダミー制作工房の立ち上げなどに取り組んでまいりました。これらは従来のアナログ工程をデジタル工程に移行させ、さらに進化させ新たな付加価値を追求する取り組みでした。
DTPエキスパート認証試験も今回で第26回となり、DTPエキスパート認証制度も幅広く認知されるようになりました。
実際の仕事も、いつの間にか完全にDTPに移行し、最近では紙版下を見たこともない作業者も増えてまいりました。さらにパソコンのハードウエアの進歩、ソフトウエアの進歩により、DTPの技術もさらに進化し続け、新たな変革期が迫っております。

DTP導入時期とDTPエキスパート

弊社の創立当初は前述のようにCEPSで作業を行っており、手集版率をいかに下げるかを考えておりました。この当時は、Macの能力も低くMacを使用することによって逆に生産性が低下しコスト高になると認識しておりました。しかし、人間の心理とは面白いもので、まだ仕事では使えないと思いつつも、創業時点で最初に起こしたアクションは、秋葉原にMacを購入しに行きDTPの実験を始めたことでした。
実務でDTPを始めたのは、PowerMac9600のころからです。当時は、オペレーション的にも未熟な点も多く、毎日試行錯誤の繰り返しで作業を行っておりました。
当初は、ページ単位でDTPデータをネガ出力し手集版で面付けを行ったり、改訂版の改訂部分の文字をネガ出力して旧版にストリップ訂正を行ったりしておりました。まれに完全データと称するデータが入稿され、安易に作業に取り掛かると思わぬトラブルに巻き込まれ出力に何時間も費やすこともありました。
そのため弊社では、何とかDTPの技術レベルを向上させる必要がありました。その一環として、外部から講師を雇ってDTPの指導を受たり、DTPエキスパート認証取得を積極的に推進したりいたしました。
特に、DTPエキスパートについては社長方針により、会社が全面的に支援して取得を推進いたしました。また、社員はそれにこたえるべく努力して取得に当たりました。当時、自分の心情としても「何とか一人でも多くの社員にDTPエキスパートを取得してもらいたい」という思いから取得推進を行っておりました。その結果、現在では多くの社員がDTPエキスパート認証取得済みの状態となることができました。
そのころ自分は現場の進捗の仕事をやったり、次期導入する機材の情報収集や選定の仕事をやったり、ISO9001:2000の取得や維持管理の仕事をやったり、技術的に営業のサポートする仕事をやったりと、いろいろな業務を掛け持ちで行っておりました。そんな中、あるお客様との何気ない会話の中で「大槻さんってDTPエキスパートもってなかったのですか。てっきり、もっていると思っていました」と言われたことがあり、その一言がキッカケとなり自分もDTPエキスパートを取得することにいたしました。そのため、自分が取得したのは、かなり後になってからのことです。

DTPエキスパートのメリット

人からの聞いた話でなく、実際に自分でDTPエキスパート認証試験を体験することにより、その内容や難易度が正確に把握することができました。
初心者教育の一環並びにDTPの概要をマスターさせる最善の教材として、この認証試験を受けさせることは非常に効率的だと思っております。また、実務担当の方へは、前後工程の知識を概要的に把握する上で有用であり、営業の方にとっても広く浅くDTPの知識を身に着ける上で効果的なツールの一つだと思います。
個人に対するメリットだけでなく、企業としてお客様へ技術的な裏付けをアピールしたり、技術力に対する安心感を与えたりすることができたと感じております。

認証取得への環境

DTPエキスパートの取得は、ピーク時よりやや減少傾向ですが、それでもコンスタントに毎年3000名以上の方々が取得され、近年では非印刷関連企業の取得が30%を超えてきているようです。
DTPエキスパート認証制度は、単に認証試験があるだけでなく、問題集や解説書が充実しています。また、予算に応じていろいろな場所で試験対策講座などを受講することもできます。そのため、何をどのように勉強すればよいかが明確なので「よし、DTPエキスパートを取得するぞ」と心に決めた翌日から、筋道を立てチャレンジできます。
また、出題内容も毎回改訂され、DTPの発展に応じて時流に合った内容になっているため、陳腐化せずに生きた資格となっていることもDTPエキスパート認証制度の優れた点と言えるでしょう。
さらに、ひと口にDTPと言っても、印刷物には非常に幅広い用途や目的、要求品質が存在するため、各社が取り扱う製品により作業方法や基準がさまざまで、各社各様のハウスルールに基づいて仕事が行われているのが現実ではないでしょうか。それにもかかわらず、DTPエキスパート認証試験の出題は、極端に偏ることなく一般論としてバランスの取れた解答を正解としている点でも評価できます。

印刷業界の変革と当社の取り組み

時は移り変わり、作業環境が進化しPDF入稿が始まろうとしております。またアドビシステムズからPDF Print Engineが発表になりました。これは、今までのDTPのワークフローを覆す革命的な出来事のように思います。
現状では、まだネイティブデータでの入稿が大半を占めていますが、今後PDF Print Engineが実用化されることによって、確実にPDFデータをRIPすることが可能になると、PDF送稿が大幅に普及するでしょう。これにより、今までの製版の役割に終止符が打たれ、また一方で制作側にも下版に耐え得るデータ精度が要求されるでしょう。この環境変化への対応が企業存続のポイントになると思います。
弊社はこの10年間に、製版専業ではなく総合印刷企業として企画・制作から手がけられる会社に変革してまいりました。今後さらに、弊社のコアである画像処理技術を発展させ、今までの2D画像にとどまることなく3D画像や立体造形へのビジネス展開などの、勝ち進むための新たなビジネスの展開を模索しております。
私たちの仕事は、短納期対応のため出稿時間に追われる毎日を送っております。しかし、短納期・低価格・高品質については、今日に始まったわけではなく以前から言われ続けている課題です。毎年、1年ごとが勝負の年であり、企業が存続する限り延々と続くものだと肝に銘じて努力してまいりました。
DTPエキスパート取得のために学習したから仕事の業績が向上するというわけではありませんが、大切なのは「目標にチャレンジする心」だと思っております。チャレンジと言うと、無謀な大冒険をイメージしがちですが、可能なことを着実に積み重ねステップアップしていくことこそチャレンジだと思います。
 
(JAGAT info 2006年9月号)
※本記事の内容は、2006年9月掲載当時のものです。

「クロスメディアエキスパート認証試験」を受験して

豊嶋 隆 様

認証試験の受験動機

自分ではクロスメディアの企画提案らしき業務を担当しているつもりだが、果たしてクロスメディアに関してどれほどの知識をもっているのか大いに疑問であった。そもそも「クロスメディア」というものを意識して仕事をしていないので、分かったつもりでクロスメディアの企画提案をしていたのかもしれない。ならば クロスメディアエキスパート認証試験に挑戦し、自分の知識レベルやら適性を客観的に評価してみよう。これが受験の動機である。結果の合否は別として、自分に何が足りないかを知る上では格好の試験となった。足りないところは補っていけばよい。不合格になったからと言って今の担当業務をやめるわけにもいかな い。例えて言えば定期健康診断を受診する程度の軽い気持ちであった。合格したこと自体はうれしいが、自分に不足するものが見えたことに意義があった。

試験対策はほとんどしなかった。否、できなかったと言うほうが正しい。初めて実施される試験のため、DTPエキスパート認証試験の受験対策になるような参 考図書もなく、その上出題範囲も広いので何から手を着ければよいのかも分からない。私にとってはクロスメディアエキスパートの健康診断であると割り切る。 普段の健康状態で受診する。受診日前日にお酒を控える程度のことは必要だ。展示会会場で配布された試験資料は熟読した。あえて言うならこれが唯一の対策であり、多くの受験者も同じだったのではないだろうか。

求められる「T型人間」「π型人間」

クロスメディアの提案業務に携わる上で幅広い知識は必要だ。だから学科問題の出題範囲は妥当なところだろう。基本的には広く浅く知識を得ることが試験対策となる。だが知識だけでは実際の業務はできない。そこには深い知識や経験に裏付けされた専門性も要求される。

 知人のコンサルタントの言葉を借りると「T型人間」というのを次のように説明している。「T」という文字は縦に長い1本の直線「Ⅰ」と横長の直線「-」でできている。縦棒は「専門性」を表し、2時間以上話ができる分野を一つもっているということである。横棒は30分以上話ができる分野の幅を表している。つまり「T型人間」とは、「誰にも負けない一つの分野と、どんな人にも話を合わせられるくらいの幅広い知識を兼ね備えた人間」ということである。縦棒を1本増やして2本にしたのが「π型人間」である。
横棒(知識分野)は提案の幅であり、広いほど提案の切り口も増え柔軟な発想で考えることができる。縦棒(専門性)は提案の柱である。長いほど柱は太くなり、より専門性に富んだ提案となる。クロスメディア提案には、こうした縦棒と横棒の長さのバランスが取れた「T型人間」や「π型人間」が求められていると感じる。

認証試験に当てはめて考えると、第1部試験は横棒、第2部試験は縦棒、それぞれの長さを測定するものと勝手に解釈している。今回 の試験結果を見ると、私は縦棒と横棒の長さのバランスが極めて悪い「T型人間」だった。日常業務を通じて、横棒と縦棒の長さを伸ばしたり縦棒の本数を増やす努力を続けなければならない。

経験こそ最大の財産

私自身、もともとは前勤務先[嗜好品(しこうひん)メーカー]で営業、販売促進、広告宣伝、ブランドマネージャーなどの業務に従事していた。1993年に人事異動で印刷事業部門に配属になり、本業から見れば異業種部門への異動は社内転職みたいなものである。発注側から受注側に立場が変わり、大きな戸惑いと不安を伴ったが気持ちを切り替え、当時はまだそれほど普及していなかったDTPに着目した。「印刷」で先人たちに追いつくのは難しいが、DTPなら皆同じスタートラインとの考えがあってのことだ。実際には「印刷」の難しさを思い知らされたが、1995年にDTPエキスパートを取得した。

DTP業務では主にデータベースパブリッシングに取り組み、カタログや情報誌の自動組版システムを開発してきた。「DTPは従来の写植・製版の単なる代替設備ではない」との信念というか思い込みの下、DTPによる制作プロセスの構築に没頭したことは今でも忘れない。

自動組版に取り組む一方で、カタログや情報誌以外へのデータベースの活用を模索し始めた。自動組版で使用する商品情報データベースは、基本的な商品情報項目以外に、商品画像や商品コメント、場合によってはブランドコンセプトやターゲットなどの情報項目も整備されている必要がある。商品情報データベースの整備から請け負うことがほとんどだが、裏を返せば得意先に存在しないデータベースと言える。商品画像や商品コメントなどは、販売管理や在庫管理のための基幹システムでは不要なのだ。こうした商品情報データベースをカタログや情報誌だけにしか使わないのは実にもったいないことである。

メディアが違っても商品情報の内容が変わることはない。商品名や品番、スペックなどの情報がメディアごとに違うなんてあり得ない。厳密に言えば、商品画像や商品コメントなどはメディアごとに最適化しなければならないし、特定のターゲットには特別な価格を提示するケースもあるが、あらかじめ想定されるメディア用に情報内容を準備したり、条件分岐によって情報内容を動的に変えることができる。Webやイントラネットへの展開を始め、顧客接点における営業活動支援ツールの作製システムなどにデータベース活用を企画してきた。これが契機となってクロスメディア業務に携わるようになった。それ以来、データベースをネタにした仕事をやっている。

幸いなことに過去の業務経験から、自分が発注側だった時にこういうものがあったら便利だったに相違ない、あの時はこういうことで困っていた、というクライアントの気持ちで考えられる素地がある。発注者の立場はだれもが経験できることではない。だからこそ、その経験は今でも自分の大きな財産となっている。

得意先ビジネスの把握

得意先にクロスメディア提案する際、まずは上位概念のコミュニ ケーションからアプローチしている。コミュニケーションの具体的手段としてのクロスメディアである以上、得意先で行われているコミュニケーションの実態を把握することが第1歩である。換言すれば得意先のビジネスを知ることであり、その業界についても学習する必要がある。市場環境、競合状況、取引慣習、流通機構、法的規制等々、把握すべき項目は列挙し切れない。なかでも業界VANの実態や得意先におけるその活用状況の把握は欠かせない。そうして得意先のコ ミュニケーション課題を明確にした上でのクロスメディア提案となる。

ある得意先にデータベース自動組版を切り口に営業活動支援ツール作製システムを提案した。得意先の状況にもよるが、営業活動をサポートする具体的ツールをもっていない得意先は、こうした提案に強く反応する。企画書は営業活 動支援システムの提案として、コミュニケーションプロセスの改善というスタンスでまとめ、得意先の共感を得られるようなデモを用意した。「こういうのが欲 しかった」「これなら使える」という感触を抱かせることが重要になる。この感触は得意先ビジネスの現状をどれだけ把握しているかで決まる。これは簡単にできることではない。毎度のことだが営業活動の実態が把握し切れず、デモ作成にはとても苦労している。

得意先ビジネスについてどれだけ知っているかは、企画提案業務の基本である。この分野はクロスメディアエキスパート認証試験(第1部試験)では出題範囲外だが、実務においては最重要分野だ。

※本ページの内容は掲載当時のものです。

DTPエキスパートで自己変革

共同精版印刷株式会社 常務取締役 後藤義裕

 
印刷業界ではコンピュータの発達でデジタル化の波が押し寄せ,デジタルデバイスは広がるばかりです。実際の業務においてもお客様の知識も上がる一方,プロとしてこの変化に印刷人として対応していけるのかが,当社の課題でもありました。
そこで,業界・関連団体のセミナーに営業部門・プリプレス部門の対象者を受講させレベルアップを図ってきました。受講者は日々の仕事に役立てているものの,実際どれぐらいの知識が身に着いたかということについては把握し切れていません。そんな時,『プリンターズサークル』でDTPエキスパートのことを知りました。社内でも営業部門には紹介はしたものの会社としてどう取り組むか,以前取得した営業士とはどう違うのか。そこで,どんな内容なのか知るためにまず社内から2名挑戦してもらいました。予想どおりと言うか思ったより手強そうで時期が来れば社内に啓蒙していこうと考えていました。そんな時業界関連の商社では,社員の半数,営業のほとんどかDTPエキスパートの資格をもっていると聞きました。その話を聞いた社長は,決断が早く,当社も社員のレベルアップにつながるならば早速やってみようということでスタートしました。

当社では全社員対象に3年前からDTPエキスパートの認証試験を受けるよう勧めています。2年前から制度化し企業受験の体制を整えました。合格率が40%台ということでセミナーは1回,受験は2回まで会社で費用を負担することといたしました。それ以上は実費となります。現に2度目のセミナーを自己負担で受けている者もいます。
2年前は1名受験1名合格。一昨年は12名受験3名合格。昨年は5名受験し4名合格しました。全社員120名ですので8名ですと現状では取得率6.7%です。会社全体として25%まで上げたいと考えています。
当社では奈良本社・大阪支社の社員が受けるセミナーに奈印工組のセミナーを指定しました。東京支社は指定していません。一番仕事の落ちつく時でもある7月と8月の毎日曜日に行われます。それ故,セミナーを受講すると1年だけ夏休みがないような感覚にとらわれます。当社はこの時期は土曜日も休みですので,勉強するには良い環境とも考えました。ところが,この時期は意外と社員には不評で,夏休みがないと言う声もちらほら私の耳に入ります。20年ほど前には印刷営業士・営業管理士でも同様なパターンで資格を取得した経験があります。時代が変わると価値観も変わります。そんなにつらいのかなと,今回の私の受験動機は不純なもので,一度自分でやってみてそれからもう一度体験を基に全社員に勧めていくことを考え実行に移しました。

実際やってみて,驚きました,意外と難しい内容です。守備範囲がけっこう広いです。それ以上に自分自身の年齢による記憶力の衰えを痛感いたしました。既に取得済みの他社の方から「受けるなら50歳までが限界やで」とも言われていた49歳になっていました。1週間前に解いた模擬問題が答え合わせをしたにもかかわらず奇麗さっぱり数日後には忘れているのです。これは,毎日しないといけないと感じました。しかし,仕事などで夜遅く帰ってそこから模擬問題を1回分,解いて答え合わせをすると約2時間半,毎日日付が変わります。これは,翌日の仕事にこたえるなと。やはり週末しかない。その点,夏場は土日とも休みでしたのでこの2カ月,特に土曜日は近所にあります国会図書館に開館から閉館までまじめに勉強に通いました。過去3年の模擬問題を解いて回答しチェックを入れるサイクルにぴったりの時間です。どちらかと言うと,スポーツで汗を流すことが多かった週末の土曜日に勉強する習慣が付いたことは私にとっては収穫でした。
DTPエキスパートの内容の印刷関連部門は,25年の業界でのキャリアのお陰で基礎知識だけは身に着いていました。先輩からOJTで教えていただいたことが役立っています。ただ,結果だけが知識として身に着いており,なぜそうなるのかといったことがこの間の勉強で分かりました。業界に深くいればいるほど常識となっていることが理論立てて説明できなくなっています。私たちの世代は,先輩から知識を盗み取ることで学びましたが,結果しか身に着かなかったのが事実です。そういう意味では今の世代に教えるに当たって,結果よりはプロセスを中心とした内容を教えないと身に着かない,このプロセスを今回のDTPエキスパートの資格を取るに当たり不鮮明だったことがすべて明らかになり,自分の知識を理論立てて説明するのに多いに役立ったと言えます。私は,若い世代より,40歳代以上の世代に,社内の部課長たちに自分の経験と知識の確立を図るために多いに受験を進めたいと考えます。
コンピュータ関連の問題は,正直言って訳の分からないものも多かったです。この点については,繰り返し繰り返し頭と体に覚えさせました。理屈ではなく,結果がこうなのだと。それ故,これからじっくりこの部門については,再度勉強する必要があります。

自分が受験して,会社としてやはりこの資格を希望者には全員取ってもらうための環境を整えるのが私の役割の一つと考えます。また役職者には今後必須資格としていくことを検討しています。なぜなら印刷業界においては,仕事にも教育にも役立つからです。勉強して得た知識,学ぶことが習慣になったことも自分自身にも会社にもマイナスになることなどありません。プラスになることばかりであれば,どんどん皆に体験してもらいたいと考えて受験を奨励します。また,この年になって受験することでよい緊張感を味わえました。家庭においても,帰宅してから勉強している姿を子供が見て「お父さん何してるの」「難しい問題といてんのやな」とか,「私も隣で勉強するわ」など,親が勉強している姿は大学生や高校生の子供たちにも,今まで以上に会話を促進する副作用もありました。特に,試験日の朝,家族には高得点合格を目指すと宣言して出掛けたものの,難問にぶち当たって帰ってからの私の落ち込みようを見て,「あんなにがんばったんやから,いいやん」と逆に子供に慰められていました。コンピュータ関連の新規問題は,協会として受験生にもう少し範囲を知らせる方法を検討していただけたらと思います。全く理解できない問題で,私も含め今回受験した全員が未知との遭遇でした。

それ故,合格発表の日は朝からネットで何度も何度もアクセスし,自分の番号を発見した時の喜びは,心の中で叫んでいました,「やった」の一言でした。久しぶりの感激を味わえました,仕事に関連するものの,また違った一つの達成感です。
ところが,お客様の反応は,DTPエキスパートの認知度が低いせいか,それって何の資格ですかとか無関心の方もいらっしゃいます。ただ,パソコンの普及率から考えますとさすがにDTPという言葉も浸透しています。なかには,制度のことをご存じの方もいらっしゃり「けっこう難しい資格もっているな」と。私は今回,自分自身を追い込む意味でも,お客様も含めけっこう多くの方に自分が受験することやこの制度のことを話しました。自分にプレッシャーを掛けるとともにいろいろな方々にDTPエキスパートのことを知ってもらおうと,語り掛けました。DTPエキスパートに関心のある方は少なかったものの,デジタル知識を求められている方は多いなと感じました。われわれ印刷業に携わるものがリードしていかなくてはならないのではと感じました。

今,印刷業はデジタル化の流れの中で業態変革を迫られています。変革するための7Keysの中に営業戦略・生産戦略・IT基盤整備にデジタル化が当然含まれており,DTPエキスパートの資格をもつ人材が多いほど社内改革を進められ強い体質の会社を作れると確信しています。強い会社を作る人材に自己改革するために,自らを変革するためにもチャレンジされるのもよいのではないでしょうか。
 
(JAGAT info 2006年2月号)
※本記事の内容は、2006年2月掲載当時のものです。