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速乾印刷を実現する資材と管理方法

日本アグフア・ゲバルト株式会社 プリンティング戦略部部長 知識 三富 氏

国内の印刷紙業が8兆円から5兆円、減少の段階である。印刷業界、特に製造部門の変化は著しい。小ロット化が非常に出てきて、増大する損紙、ジョブの台数は増加。納期、品質に厳しい状況である。なおさら、生産コストへの要求が高まっている。
この辺をどう切り盛りしながら、今後の状況にどう対応するか。生き残るためにやっていかなければならないことはどういうことなのか。

アグフア・ゲバルトは単に版を販売するだけではなく、経営革新、革新が必須と思っている。経営改革のために、速乾技術を導入していただき、既存の設備・人材をフルに活用して経営の健全化、儲かる企業への改革をしていただきたいと考えている。

Azuraの速乾印刷を立ち上げていただいている会社は、2013年度まででオフ輪、枚葉印刷含めて35社くらいになっている。

先般、「低環境負荷型ケミカルレスサーマルプレートAzura NEWSの共同開発」で、新聞協会の技術委員会賞を受賞した。日本経済新聞様と日経東京製作センター様が連名で受賞された。
技術委員会賞とは、新聞の製作部門での技術の向上、改善を促進する目的で技術委員会が表彰するものである。

Azuraとは

Azuraは、現像レスCTPプレートでは業界シェアナンバーワンである。90%以上である。
現像ありでは超ロングランCTPである。UVも使えるもので、特長が速乾印刷、省エネ、省資源、品質向上を狙ったプレートである。

シェアナンバーワンの理由としては、プレート制作方法の比較であるが、今までのアルカリの現像方式が、露光をかけて、現像、水洗、ガム、検版、それから印刷工程。もう1つが1世代前のものだが、プロセスレスの露光をかけて、機上現像があった。
私どもがご提供するのは、ガム洗浄方式、現像レスAzuraTS。露光をかけて、ガム洗浄、検版、印刷であり、現像液が不要である。検版ができ、機上現像がいらないという特長がある。

Azuraの現像レスの露光状態は未露光の版が全面的にこういう状態であるが、サーマルCTPで画像部を露光するというところで、画線のところはインキがつくが、これはクリーニングユニットというが、ここで洗浄し画線だけが残り、検版し、即印刷可能という工程である。

Azuraの砂目構造

砂目については、細かい砂目だが、向かって左が一般的な砂目。右がフラットサブストレートである。よく見ていただきたいのが、画線と非画線のエッジの部分、砂目の構造が大中小になっているが、フラットサブストレートは均一な砂目になっている。

ベースとなる砂目が細かいこと、より正確な画像形成を可能とする。また、現像液を使用しないために、画像形成の安定度が保たれている。別名デジタルプレートと言われている。
露光をかけてそのまま画像、劣化がほとんどないということである。つまり、カラーマネジメント軸の運用形態の印刷会社さん、クライアントをお持ちの会社さんは、非常に品質標準化がしやすいプレートということである。

まず、先端の砂目構造だが、イメージ的には大中小標準的な砂目だが、フラットサブストレートをよく見ていただくと、本当に均一なものである。水が絞れ、大中小の水の被膜を薄くしたいけど、一般的には砂目はできない状態である。
これは薄紙を刷っていただくとすぐに分かる。ファンナウトが出るかどうか。非画線で水持ちが良ければ、汚れないが紙に対してのダメージは大きい。その他に対しても大きいのである。
要するに、水を抱いている分だけ、インキの中に乳化するという原理が働くのである。つまり、砂目の構造違いで印刷の技術は変わるということである。

これは、一般的にアグフアで刷った、印刷条件を整えたものである。50%の網。98%の網の抜け。2次色の色の鮮やかさ。相当よく出る。ガモット色域を数字で拾うと非常によく出ていることが分かる。特に3色のグレーの鮮やかさ。格別なものである。プロセスの今お使いのインキでできるのである。すごいことである。
安定した色の再現。3点グレー。当然、こういう状態だと何が出てくるかというと、ハイライト、中間、シャドーのところが確保できる。この版を使うと、デジタルプレートといわれるほどの、データイコール、劣化があった版、もしくは変動があった版、経由してやるのではなく、版自体が安定しているので、印刷のところも安定させると、こういうものも比較的安定しやすいということになる、

私どもはこういう版を使い、オフセット印刷の原理である技術を抱き合わせた形で、印刷の工程の標準化、色の再現の標準化、速乾に取り組んでいる。枚葉油性、UV、オフセット輪転、低温乾燥も含む。

一昨年、去年、お客さんのところを回りながらやったが、そこのユーザーはオフ輪3台お持ちで24時間回っていて、インキの値段が1億8000万くらい使っていた。約1年、アグフアの版を使って適正化した結果、今年の5月に集計が出て、1割必ず出ている。つまり、1800万である。インク削減の数字しかお聞きしていないが、10%は削減。これは大きなことである。

実際に枚葉でどういう結果が出ているか。速乾技術により確実なコスト削減ということで、当然、印刷資材の延命が出ている。ローラーについては、2倍~3倍近く。枚葉であるが。毎日のメンテをしっかりするから、保つ。同時にコスト削減。損紙、インキ。それから品質改善の超安定というと、吸い出しの濃度安定、間違いない。網点の再現。特に枚葉で乾きが悪いという、特殊紙のバンヌーボ。これは1時間くらいで断裁できるのである。1時間あれば十分である。

それから超薄紙、ファンナウト。トライダウン。先ほど見ていただいた色彩値向上ということで2次色、3次色の鮮やかさ、これは間違いない。

当然、生産性の向上、A能率、B能率、段取り時間、ジョブの点数。それから印刷トラブル解消。全ていいことづくめである。これは現場、もしくは技術者さんの置かれている立場の前向きな姿、ご努力の結果である。版だけの問題ではない。ただし、版はこういう方向にもっていけるということである。

オフ輪の場合。速乾による確実な利益確保ということで、オフ輪ユーザーさんは紙支給が多い。ただし、2番目のインキ代については支払い額が大きい。諦めているユーザーが結構いる。「うちはこうだから」、「版くらい変えったって、なんでそんなもの出るのか」と。オフ輪をお持ちの会社さん、是非、チャレンジしていただければと思う。

また、乾燥温度を下げるのでヒジワ。特に薄手の微塗工紙については、ヒジワの軽減もかなりできる。ある会社では、枚葉で刷ったのかと言われるほどだそうである。

印刷のトラブルは物理現象なので、何らかの原因がある。皆様の中で、こういったことが日常茶飯事、起きているのかなと思う。

例えば、地汚れし易い。濃度が安定しない、刷り出しが不安定、乾燥が悪くなった。また、ドライダウンが大きい。網の抜けが悪いなど。ここをどのよう形に切り分けて判断し、訂正してその方向にもっていくのか。これが印刷会社さんのあるべき姿で、その積み重ねで利益確保ができるのではないか。

アグフア診断

機械を丸ごとスキャンして診断する。2日間の工程で、連続的に継続していく。ポイントは水舟、チラーの温度、壺の温度、版面、ゴム胴。シンプルに考えているが、ここが重要である。計ると見えてくる悪さ。利益が取れる状態からそうでない状態。こういうことをやっていかないと、機械のトラブルも未然に防げないということである。版面温度とか壺の温度、ゴム胴温度とか水舟温度など何が悪いのか調べていく。
計った結果、赤丸のところに非常に問題がある。これはすべて直せることである。壺の温度とか水舟温度、そういったものは直せるのである。

1色目が1度違う。版面とゴム胴。たかが1度であるが、これが大きな問題である。トラブル発生が多い要因。縦軸に温湿度、横軸に時間。24時間計っている。ここでも水舟の温度と給水タンク、印刷機の周りの温度と湿度を取っているが、水舟の温度で一番重要なことは、各ユニットの温度が違うこと、左右の温度が違うこと。これはオペレータにとっては問題がある。

次は、ロールの条件確保。まず、印刷機というのは各ロール、問題なく仕事をさせないとならないのである。各部門のチェックをしながら、最終的にはインキロールは完全に親油処理。水溶性のものがあったら絶対にあったらだめということである。

一方、給水ロールは、最終的にチェックして給水の親水処理。油性のものがあってはいけないのである。真逆である。特に給水ロールは、運転中でもちょっと風があると水膜が切れて汚れるという現象が起きるので、十分にそれなりの手当をしていかなくてはいけない。

これは非常にまずいパターンである。ニップがだぶっている。水が切れない原因とか耐刷にも問題がある。これは驚きだが、版面が錆びている。

では、印刷機の構造と条件がどうなるか。印刷機の原理原則を言うと、印刷機側は4色どこも、温度、印圧、どこも一緒にならなくてはいけないのである。2つ目はインキメーカーがよく考えているのだが、機械はすべて平らになっている。プロセスインキは全部そうである。相手の機械が平らでないと、印刷機に乗せるインキは墨がやや堅くて、黄色が一番柔らかいのである。トラッピングを重視するために、インキの乗りを安定的に印刷するために、そのようにしている。そこに印刷機側が各ユニットの温度差があったり、まちまちな印圧だと印刷にならない。安定するまでにヤレ紙をジャンジャン流して、安定させるということがある。

乾燥のメカニズムのもう1つが、酸化重合。これは空気中の酸素と重合し酸化被膜を作る。酸素と結合するというものである。

もう1つ同時進行で、紙の上にインキが乗った場合、浸透するのである。インキの中から溶剤、乾性油、顔料。紙の中にも酸素を持っているので、紙の繊維に沿ってすっと入るのである。すごいスピードである。オフセットの1度目から2度、3度、4度あるが、この間にインキがセットに入る。印圧、紙、インキの堅さ、水の入り方。微妙なバランスである。これが崩れるとヤレ損紙が非常に増えるのである。

原理としては、酸化重合と浸透乾燥の組み合せ。特に紙に乗って浸透し、ゲル化が入る。やや印刷の直後はベトベトすると思う。そのベトベトしたところからすぐに酸化重合が入り、乾燥が入る。

ゲル化直後から、UVだったらUVランプがポンとつくのである。オフ輪はそのまま乾燥の高温高熱でバンと乾く、酸化重合はそのまま自然乾燥ということになる。
非常に微妙なバランスでとっているということである。

それから汚れのメカニズムである。これはオフ輪も枚葉もUVも一緒である。原理としては、黒いラインが版である。水着があり、インキ着。このインキ着のところにインキがやや勾配になっている。水がここから上に上がろうと練られて、最終的には4本目のローラーで水のバランスをとって汚れを回収している。こういう状態になった場合、インキ着の3、4が強い、もしくはニップが強かったり、インキのバンランスが取れていないと水の膜より強くなる。これが何かというと、汚れである。汚れを解消するためには何をするかというと、水を上げるだけである。単に水を上げていくだけである。
これが今起きている印刷の現状である。つまり、乳化のメカニズムと地汚れのメカニズムは背中合わせである。

ではどうするかということである。
過剰乳化のギリギリのラインで印刷しているので、ブロッキングとか濃度変動などが起きてしまうのである。乾燥のメカニズムはローラーのところを調整していただく。プラス、Azuraの版は、同じように水が切れるのである。印刷条件がもともといいところについてはそれほど差がないが、柄、もしくは薄紙をしていくと、かなりその差が出てくる。

つまりインキの厚盛りをすると、柄が多いと、この中にインキの中に練られてしまい、その差があまり見えなくなる。またインキの中からはき出す水の量もある。総合的に見ると、水を絞れるので、この分だけ濃度が上がる。

濃度が上がった分だけ送り量を下げて、水に対するインキの量を適正化する。これが速乾の原理であり、まずやらなくてはいけないことである。

オフ輪はこの効果でインキの削減量10%くらいいっている。実機量の検証とほぼ同じような状態だと思っている。

速乾もそうであるが、高濃度とか網点再現とか、2次色、3次色が鮮やかである。皆さんでもできるのではなかろうかと。ただ、しやすさから言うと、安定度。他社さんの水を抱ける版はずっとやっていると慣れてしまうのである。私どもはプロ仕様というか、要は範囲がちょっと狭い。
だからそこを超えると汚れる。超えないところのアジャストを皆さんで努力して作っていただきたい。決して難しい話ではない。

私どもがまだまだやらなくてはいけないと思っているのは、オフセット印刷の原理原則。インキの特性、乾燥のメカニズム、水の働き、色の再現。濃度をきっちり決めていただく算出方法。それから印刷のトラブル、解消方法。印刷の適正な維持管理の方法、数値化ということである。

そういうことをシミュレーションできるソフトも出てきている。印刷機は精密機械。機械だけではなく、化学、画像処理の幅広い知識が必要である。

管理者、機長として判断の遅れ、間違いはロスを増大する。アグフアが今、力強く進めている品質向上とか、生産性向上、現場のモチベーションアップ、営業活動の活性化、環境対応。是非、耳を傾けていただき、経営のお役立て、改善、利益を取っていただければと思っている。

2014年7月15日「速乾印刷を科学し、そのメリットを検証する」より(文責編集)

■澤田 善彦 略歴

sawada2■澤田 善彦 略歴

1930年7月15日生まれ 東京都出身

【学歴】千葉大学中退
【職歴】 1945年 大日本印刷(株)入社
ベントン彫刻母型による「秀英体」の改刻、全自動モノタイプの実用化および活版、オフセット関連の生産管理部門の管理職歴任。

1967年~75年 香港勤務後、(株)CTS大日本の工場長に就任。
1985年 同社退社。リョービイマジクス(株)に入社。取締役情報システム部長を経て顧問に就任。 1995年 ダイナラブジャパン(株)に入社し取締役副社長就任。
1998年1月 同社退社 その後リョービイマジクス(株)顧問。
1994年以降、JAGAT DTPエキスパート認証制度に認証委員として参画。
2014年7月 没

【著書】 MONZキーワード/ページネーションのすべて/変わるプリプレス技術/この一冊でDTPがわかる’98版/DTPエキスパート用語1200/ほか著書多数

【JAGATのサイトに執筆したコラム】 ● DTP玉手箱 ● フォント千夜一夜物語 ● 印刷100年の変革

【DTP玉手箱】【フォント千夜一夜物語】澤田善彦 コラム集

sawada2澤田 善彦

 

★ DTP玉手箱 ★

DTPはコンパクトカメラと違う(1999/8/2)
組版ルールは何のためにある(1999/8/16)
組版ルールと可読性(1999/9/3)
組版の良し悪しの物差し(1999/9/20)
かな漢字変換のミス(1999/10/18)
原稿は正確に書き,文字は正しく入力(1999/11/1)
直しはサービスではない。コストがかかる(1999/11/15)
DTP時代の校正ワークフロー (1999/11/29)
フォントデザインとつめ組みの功罪(1) (1999/12/8)
フォントデザインとつめ組みの功罪(2) (2000/1/21)

文字の特性とフォント(2000/1/24)
印刷メカニズムとフォント(2000/2/6)
和文フォントデザインの基本(1)(2000/2/18)
和文フォントデザインの基本(2)(2000/3/5)
和文フォントデザインの基本(3)(2000/3/19)
和文フォントデザインの基本(4)(2000/4/2)
欧文フォントデザインの基本(1)(2000/4/16)
欧文フォントデザインの基本(2)(2000/5/5)

欧文書体の歴史(2000/5/21)
ポイント・システムの由来(2000/6/4)
ジャスティフィケーションとハイフネーション(2000/6/19)
和欧混植の問題点(2000/7/1)
ポイント・システムの由来(2000/7/15)
ポイント・システムの由来(2000/8/12)
紙とインキの科学─知らないと損をする印刷の知識(1)(2000/9/1)
紙とインキの科学─知らないと損をする印刷の知識(2)(2000/9/25)
水を使うオフと水なしオフ─知らないと損をする印刷の知識(3)(2000/10/8)
版なし印刷と紙なし印刷─知らないと損をする印刷の知識(4)(2000/10/23)
印刷に関する雑学─知らないと損をする印刷の知識(5)(2000/11/05)
製本の知識が必要なDTP─知って得する製本の知識(1)(2000/11/18)
製本工程と様式─知って得する製本の知識(2)(2000/12/4)
製本様式と面付け─知って得する製本の知識(3)(2000/12/18)
製本様式とノドあき─知って得する製本の知識(4)(2001/01/05)
製本のトラブルと表面加工─知って得する製本の知識(5)(2001/01/19)

★ 印刷100年の変革 ★

●その1 文字処理システムの変遷(1)(2001/2/3)
●その2 文字処理システムの変遷(2)(2001/2/17)
●その3 近代活字母型製作の歩み(1)(2001/3/11)
●その4 近代活字母型製作の歩み(2)(2001/3/24)
●その5 活字組版の機械化の動き(2001/4/7)
●その6 テープ式自動モノタイプの登場(2001/4/21)
●その7 自動モノタイプの問題点(2001/5/12)
●その8 日本語入力方式の歴史 (2001/6/11)
●その9 写植組版の誕生(2001/6/30)
●その10 活版印刷のCTS(2001/7/16)
●その11 電算写植の歴史(2001/7/28)
●その12 電子式第3世代出力機の登場(2001/8/11)
●その13 国産化が進んだ第3世代出力機(2001/8/25)
●その14 ワープロから電子組版へ(2001/9/15)
●その15 ワープロから電子組版へ(2)(2001/9/30)
●その16 DTPは印刷を変えた(1)(2001/10/13)
●その17 DTPは印刷を変えた(2)(2001/10/27)
●その18 DTPは印刷を変えた(3)(2001/11/17)
●その19 DTPは印刷を変えた(4)(2001/12/8)
●その20 DTPは印刷を変えた(5)(2002/1/12)
●その21 DTPは印刷を変えた(6)(2002/1/28)
●その22 DTPは印刷を変えた(7)(2002/2/23)
●その23 DTPは印刷を変えた(8)(2002/3/9)

★ フォント千夜一夜物語 ★

●その1 デジタルプリプレスの黎明(2002/4/2)
●その2 写植フォントのオープン化(1)(2002/4/16)
●その3 写植フォントのオープン化(2)(2002/5/4)
●その4 写植フントのオープン化(3)(2002/5/25)
●その5 フォント戦争の幕開け(1)(2002/6/8)
●その6 フォント戦争の幕開け(2)(2002/6/22)
●その7 ポストスクリプト・クローンフォントの登場(2002/7/16)
●その8 Macシステム7とTrueType(2002/7/27)
●その9 Mac OS漢字Talk 7.1とTrueTypeの登場(2002/8/10)
●その10 Windows 3.0とWIFEフォントの登場(2002/8/24)
●その11 Windows 3.1とTrueType(2002/9/7)
●その12 平成フォント誕生物語(1)(2002/9/28)
●その13 平成フォント誕生物語(2)(2002/10/19)
●その14 平成フォント誕生物語(3)(2002/11/9)
●その15 平成フォント誕生物語(4)(2002/11/23)
●その16 フォント関連の知的財産権(1)(2002/12/7)
●その17 フォント関連の知的財産権(2)(2002/12/21)
●その18 フォント関連の知的財産権(3)(2003/1/11)
●その19 フォント関連の知的財産権(4)(2003/1/25)
●その20 フォント関連の知的財産権(5)(2003/2/5)
●その21 フォント関連の知的財産権(6)(2003/6/10)
●その22 ドットフォントの雑学(1)(2003/3/15)
●その23 ドットフォントの雑学(2)(2003/4/12)
●その24 ドットフォントの雑学(3)(2003/4/26)
●その25 ドットフォントの雑学(4)(2003/5/17)
●その26 ドットフォントの雑学(5)(2003/5/31)
●その27 ドットフォントの雑学(6)(2003/6/14)
●その28 ドットフォントの雑学(7)(2003/6/28)
●その29 アウトラインフォントの雑学(1)(2003/7/19)
●その30 アウトラインフォントの雑学(2)(2003/8/2)
●その31 アウトラインフォントの雑学(3)(2003/8/16)
●その32 アウトラインフォントの雑学(4)(2003/8/30)
●その33 アウトラインフォントの雑学(5)(2003/9/13)
●その34 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(1)(2003/10/4)
●その35 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(2)(2003/10/18)
●その36 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(3)(2003/11/1)
●その37 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(4)(2003/11/22)
●その38 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(5)(2003/12/13)
●その39 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(6)(2003/12/27)
●その40 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(7)(2004/2/21)
●その41 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(8)(2004/3/6)
●その42 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(9)(2004/3/20)
●その43 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(10)(2004/4/3)
●その44 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(11)(2004/4/17)
●その45 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(12)(2004/5/1)
●その46 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(13)(2004/5/15)
●その47 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(14)(2004/5/29)
●その48 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(15)(2004/6/12)
●その49 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(16)(2004/7/3)
●その50 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(17)(2004/7/24)
●その51 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(18)(2004/8/7)
●その52 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(19)(2004/8/25)
●その53 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(20)(2004/9/11)
●その54 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(21)(2004/9/25)
●その55 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(22)(2004/10/9)
●その56 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(23)(2004/10/23)
●その57 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(24)(2004/11/6)
●その58 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(25)(2005/1/1)
●その59 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(26)(2005/1/15)
●その60 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(27)(2005/2/19)
●その61 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(28)(2005/3/5)
●その62 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(29)(2005/4/9)
●その63 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(30)(2005/4/23)
●その64 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(31)(2005/5/14)
●その65 活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(32)(2005/5/28)

【澤田善彦:プロフィール】

1930年7月15日生まれ 東京都出身

【学歴】千葉大学中退
【職歴】 1945年 大日本印刷(株)入社
ベントン彫刻母型による「秀英体」の改刻、全自動モノタイプの実用化に携わる。活版、オフセット関連の生産管理部門の管理職を歴任。
1967年~75年 香港勤務後、(株)CTS大日本の工場長に就任。

1985年 同社退社。リョービイマジクス(株)に入社。取締役情報システム部長を経て顧問に就任。 1995年 ダイナラブジャパン(株)に入社し取締役副社長就任。

1998年1月 同社退社 その後リョービイマジクス(株)顧問。
1994年以降、JAGAT DTPエキスパート制度に認証委員として参画。印刷業界の人材育成に貢献。

2014年7月 没

【著書】 MONZキーワード/ページネーションのすべて/変わるプリプレス技術/この一冊でDTPがわかる’98版/DTPエキスパート用語1200/ほか著書多数。

HTMLBookから印刷とEPUB変換する方法

教育や法令、学術論文など構造的な文書を組版する手法として、XML技術は根強く利用されている。近年では、Webや電子書籍と印刷向けにコンテンツの一元化とマルチユースを実現する手法としても、注目されている。

XMLによる出版・制作を独自に調査しているXMLパブリッシング研究会の活動について、株式会社ウェブインパクトの西河貴史氏に聞いた。

■XMLオーサリングと組版・EPUBツールの開発

XMLパブリッシング研究会は、2010年4月に発足し、XMLコンテンツのオーサリング、自動組版、電子出版などのサンプル制作やツール開発を通じて、情報交換やスキルアップを目指す有志の集まりである。
実際のメンバーは20数名で出版社や印刷会社・制作会社、IT会社など多方面からの参加がある。

主な活動は、サンプル制作やワークフローを検討するワークフロー・グループとツール開発をおこなう技術グループがある。技術グループは、当初、XML技術を詳しく理解するため、仕様を限定したXML変換ツールを開発した。それがXMLオーサリングツールと、XML組版ツールである。
その後、機能を拡張してEPUB変換にも対応している。

日常的にSNSやFacebookで情報交換しているほか、月1回JAGATに集まってミーティングをおこなっている。
これまでに、これらのツールを使用して盲学校の教科書をXML化し、視覚障がい者向けの大活字本や背景色を反転させたPDFを制作し、全日本盲学校教育研究大会での発表したこともある。

DAISY(アクセシブル情報システム)のセミナーでは、DAISY4からXML経由でPDFを生成するという発表もおこなった。

また、減災行動手帳というコンテンツのXML化に取り組み、スマホやPCで利用できるための手法を検討した。

このようなワンソースマルチユースによる電子化、アクセシビリティ対応などを目的とした勉強会をおこなっている。

XMLオーサリングツールの「Jepasspo」とXMLからPDFやEPUBを作成するツール「FANTaStIKK」は、Vectorで無償公開している。
機能限定のため業務用に使うのは難しいが、ワンソースマルチユースのトライアル用としては十分である。
動作環境としてはJAVAが必要で、MacでもWindowsでもLinuxでも動作する。

「Jepasspo」は、日本電子出版協会が規定したJepaXに限定したオーサリングツールである。
GUIベースでXMLオーサリングが可能であり、ボタンを押すとタグが出るような方式である。JepaXのコンテンツに対して、版型や書体、サイズなどの組版指定を設定し、組版データ(XSL-FO)、またはEPUBに変換するツールが「FANTaStIKK」である。
XSL-FOは、Apache FOPやAH Formatterというツールを経由して印刷用のPDFを生成することができる。

組版指定はユーザーがGUIで変更することができる。例えば、本文とタイトル、目次・前書・後書きなどの単位で設定する。版型やページサイズ、余白などや書体・文字サイズ、インデント、段落間なども設定可能である。
組版指示はユーザーが一から設定することもできるが、プリセットの仕組みもある。プリセットをカスタマイズして、自分用のセットとして保存することもできる。
EPUBに変換する場合、EPUBは版型の設定がないし、文字サイズも相対的となる。

■HTMLBook対応

HTMLBookはXHTML5のサブセットであり、コンピュータ関連の専門書出版で著名な米国オライリー社が提唱し、XHTML5ベースで書籍を執筆・制作するための規格である。

XMLパブリッシング研究会では、現在HTMLBook規格の調査・習得とツール開発、サンプル制作を計画している。
HTMLBookの詳しい内容はWebで公開されており、その日本語訳を作成して公開した。今後のツール開発は、XHTML5の入力対応とDAISY対応、ユーザーインタフェースの多言語対応もおこなう。現時点のHTMLBookへの対応状況は9割方完成しているが、一部に未対応の部分が残っている。

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(JAGAT 研究調査部 千葉弘幸)

HTMLBookとCSSを利用した書籍組版の可能性

現在の電子書籍は、まず印刷の本を作り、そのデータを加工してEPUBを作るというやり方が多い。しかし、この方法ではマスターが2つになるため、管理面やコスト面でもムダが多い。

未来の書籍出版では、コンテンツを一元管理し、そこから印刷の本の組版と電子書籍を同時に作るというワンソースマルチユースが可能になる。
アンテナハウス取締役の村上真雄氏にそのための技術、HTMLBookとCSS組版について話を伺った。

■書籍出版のワンソースマルチユース

Webも電子書籍もHTMLというマークアップ言語で作られている。このHTMLをマスターデータにするという考えがHTMLBookである。

EPUB・Kindle・Web・PDF(印刷データ)など各媒体向けにCSSというスタイルシートでレイアウト指定し組版することをCSS組版と言う。CSSを使えば、マスターのHTMLからEPUB、Kindle、Webへと展開することができる。
ただし、現時点ではCSS仕様が未完成であり、PDF(印刷データ)を生成するには不十分なところもある。

現時点でCSS組版エンジンを提供、または公開しているのは、世界で3社だけである。
アンテナハウスのAHフォーマッターは日本語組版、縦書き、多言語にも対応しており、アメリカのオライリー社でも採用されている。
YesLogic社(オーストラリア)のPrinceは、アメリカの有名な出版社のアシェットブックグループ(HBG)等で採用されている。Princeは、CSSの生みの親であるホーコン・リー氏が関わっている。
オライリー社はブラウザ上で編集環境を共有し多媒体向けに組版する仕組み、Booktypeという書籍制作サービスを提供している。

■CSS組版のユーザー動向

日本のW3C関係者と有志がまとめた「W3C技術ノート 日本語組版処理の要件」(通称:JLreq)というドキュメントがある。XHTMLで作られ、W3Cのサイトで英語と日本語で公開されている。日本語版は書籍としても出版されているが、その際にAHフォーマッターでCSS組版を行い、PDF 出力している。

アシェット社は、世界的に巨大な出版社グループである。米国のアシェット社では多くの書籍において印刷版と電子版を同時制作するために、CSS組版に取り組んでいる。
アシェット社では、著者と編集者はMS Wordで編集作業をおこなっている。構造化を施して制作システムにインポートすると、その時点でHTMLに変換され、それ以降はHTMLでマスター管理する。制作システムはIGP:Digital Publisherというソフトで、CSSでレイアウトし、PDFを書き出す仕組みである。マスターが完成次第、電子書籍用のEPUBも生成することができる。

コンピュータ関連の書籍で世界的に有名なオライリー社では、以前からHTMLとAHフォーマッターのCSS組版で印刷用PDFが作られており、電子書籍用のEPUBも同時生成していた。
新しいバージョンが「Atlas」というシステムで、HTMLBookに対応する予定となっている。

HTMLBookとは、オライリー社が定義したHTML5で本の内容をマークアップする方法である。HTML5に書籍用のタグを追加している。また、XMLの文書変換技術であるXSLTを利用して目次や索引ページを自動生成することができる。
HTMLBookの一番の特徴はオープンソースで仕様やツールが公開されていることである。

■CSSの標準化動向とHTMLBookとCSS組版の可能性

CSSで本を組版する仕様の基本が「CSS3 Page」である。
「CSS3 GCPM」はその一部で、柱、脚注、相互参照など書籍組版に必要な機能を定義する。 現時点のCSSは未完成のドラフトである。CSSの標準化に向けた動きとして、WHATWGグループのCSSBooksという仕様やW3C内での標準化も進められている。

CSS組版の実用化が進むと、DTPに依存しないワンソースマルチユースなど、いろいろな可能性が大きくなる。Web ブラウザ上でCSS組版も可能になる。リフロー型の電子書籍でもページのレイアウトが色々できるようになるだろう。

(JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸)