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10年生き続けるデザイン

スタンダードなデザインを表彰するロングライフデザイン賞の受賞デザインを通じて、自社の商品・サービスを継続・発展させていくために必要な要素を考えてみる。 続きを読む

見える化の原点~ing思想とは

「ing 思想」とは、1970 年代後半から1980 年代前半において当時のJAGAT会長の塚田益男が提唱した印刷経営思想である。印刷需要が成熟化し、物的生産性の向上が必ずしも価値的生産性(売上、利益の向上)をもたらさないという予測をしていた頃の経営思想であった。
印刷産業は、製造業的側面だけではなくサービス業としての側面をもたなくてはならず、そこに付加価値を求めていき、2.5次産業と呼ばれるような産業にならなくてはいけないという問題意識が背景にあった。

ing は意志を表す、何かをしようという意志のことである。そこでは「印刷価格=原価+利益」という発想が成り立たない。つまり印刷価格は原価に利益を上乗せして出すものという考え方を否定する。
価格はあくまでも顧客の満足度に応じて決められるべきものであり、原価とは直接的関わりがないものである。営業の重要な役割は、日常的な努力によって顧客の満足度、信頼度を高めて、その価値も含めた価格を顧客に評価してもらうことである。

price(価格)、あるいはcost(原価)はそれぞれ1つの状況あるいは結果を示すに過ぎないが、そこに「ing」をつけることによって、それらは目標達成への意志と行動を意味することになる。
価格とは「原価+利益」によって算出されるだけではなく、営業の努力次第で変わり得るものである。価格は単なるprice としてあるのではなく、営業の日常的行動、ing の成果を含めて顧客に交渉して決めるもの、「pricing」すべきものである。

一方、生産現場は常に生産性向上によって原価低減に努力すべきであり、その努力は価格の高低とは関わりのないものである。cost(原価)は、ある状況下において一定の水準にあるが、様々な工夫や行動、つまりing によってその水準を下げていくこと「costing」が生産現場の重要な役割である。
社員が自ら考えてpricing、costing という行動をとることが企業の組織活性化と利益確保の源泉となる。これを「ing 思想」という。

「ing」が働くために不可欠なのが、正しい情報、正確な現状把握である。代表的なマネジメント手法としてPDCAサイクルがあるが、Plan(計画)の前にSee(見る)、Think(考える)を加える考え方もある。計画を立てる前に現状をきちんと見て、どうすべきかをじっくりと考えた上で、計画を立てることである。
目標が漠然としていては、具体的な行動にはつながらない。原価削減といっても現状の原価がわからなければ、なかなか具体策が打てない。現状に対しての改善結果を数値目標として設定して、はじめて「計画」となる。社員全員で情報を共有しベクトルを合わせた上で、社員一人ひとりが考えて「ing」を実践することが印刷経営に求められている。

システムやワークフローがしっかりしていてもそれを使うのは人である。「見える化」を進める上では面倒な仕事が増えたり、「見える化」することによって見せたくないものが見えてしまうことを嫌う社員が出てきたりと困難が伴う。それを解決するのは経営者の強い意志しかない。業務改善であると同時に企業風土改革の問題でもある。社員自らが経営者のマインドをもつことが求められる。

JAGATが主催している「見える化実践塾」の最大のポイントは、「見える化の実現」にコミットしていくことである。システム対応を含め全社的な取り組みとなるため、「やり切る」には大きなエネルギーがいる。業務が忙しくなるとどうしても後回しになりがちになり、やり方を変えるときには必ず出てくる「できない理由」を乗り越えなくてはならない。
小さくとも成果が出れば、それが原動力となり次に進むことができる。それが「見える化」による全員経営の利点でもある。

(研究調査部 花房 賢)

第3期見える化実践塾(2020年4月スタート予定)
詳細はこちらから

ユーザーとともに育つアイデア商品「himekuri」

株式会社ケープランニングが開発した卓上型の日めくり付せんカレンダー、himekuri(ヒメクリ)が、第27回日本文具大賞で機能部門の優秀賞を受賞し、第29回 国際 文具・紙製品展 ISOT(2018年7月4日(水)〜6日(金)/東京ビッグサイト)の会期初日に表彰式が行われた。

「himekuri」ラインアップ

himekuriの特徴は365日全ての絵柄を変えていることと、付箋加工されていることだ。
一週間・7日分の日付が一列に並び、左から順に剥がしていく仕組み。
週ごとに基調色を変えているので、今日の日付が一目で分かる。2018年に実用新案を取得している。

「himekuri」日付けの色の切れ目

▲週ごとに基調色が変わる。今週と来週の色の切れ目が今日だと分かる。

剥がした付箋は、ノートやメモ帳に貼ってオリジナルダイアリーに、また手作り料理を入れた容器に貼って作った日の記録にと、アイデア次第でいろいろな使い方ができる。

ケープランニングのメイン業務は紙卸売業であるが、別会社のカンベビジュアルとともに企画・印刷も手がけている。商品開発も行い、自社運営のECショップ「be-on」を通じて販売している。

himekuriも「be-on」の取り組みから生まれた商品だ。当初はモノトーンの日付だけが印字されたシンプルなデザインで、2017年7月のISOTに出展して注目された。その後、新柄を開発するためにクラウドファンディングを実施すると、目標金額 500,000円に対し1,511,000円と、達成率300%を超える資金が寄せられた。

参考記事:インスタ映えする日付シートとしても使える日めくり付箋カレンダーの新柄を作りたい! | Makuake(マクアケ)

新柄が発売されると、ユーザーが、イラスト日記にhimekuriを貼った紙面を撮影し、インスタグラムにアップするムーブメントが起きた。

「himekuri」を貼ったダイアリー

インスタグラムで #himekuri や #日めくり付箋カレンダー で検索すると、ユーザーがアップした画像を見ることができる。

2019年版は、サイズを一回り小さくし、ノートに貼りやすくした。ライアンアップは、白とグレーのモノトーンに加え、ツートンカラーを基調に数字を配した「colorkuri(カラクリ)」イラストレーター萩原まお氏のデザインによる「文房具柄」と「ねこ柄」の計4種類。

「文房具柄」と「ねこ柄」は、一週ごとにテーマをもたせている。文房具柄では、穴あけパンチの週や鉛筆の週、ねこ柄では箱入り猫の週、ひな祭りの週など、毎日めくることが楽しくなる仕掛けとなっている。

「文房具柄」と「ねこ柄」

▲「文房具柄」と「ねこ柄」

himekuriはノートに貼って使うユーザーが多いことから、専用の「himekuri note」も開発した。A5スリムサイズで糸かがり製本によって180度開くことができる。用紙は、薄くて裏に透けない万年筆向きの「トモエリバー」を採用している。

「himekuri note」

himekuri note

バリアブル印刷のユニークな活用事例であり、またSNSを通じてユーザーとともに開発を進めている点が、現代にふさわしいビジネスのあり方を示している。

※掲載画像は、第29回 国際 文具・紙製品展 ISOTでの展示風景。

*初出:「紙とデジタルと私たち」2018年7月26日

(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)

デジタル印刷×デザインの挑戦「INK de JET! JET! JET! 3」展

2018年8月1日(水)〜8月13日(月)まで、渋谷ヒカリエ 8Fの CUBE 1, 2, 3で、株式会社ショウエイが主催するUVインクジェットプリントによる展覧会「INK de JET! JET! JET! 3」が開催された。

デザイナー・フォトグラファー・イラストレーターなど、さまざまな分野のクリエイターの参加を得て、UVインクジェットプリントとカッティング加工などの技術を生かしたデザイン作品を展示した。

作品の一部を紹介しよう。

筒井 美希氏(アートディレクター)

「Crow」
反射シートにカラスの写真を印刷した作品。一面真っ黒な画面に見えるが、光を当てると絵柄が浮かび上がる。

清水 彩香氏(アートディレクター / グラフィックデザイナー)

「PRINTING OR PAPER 01」
紙の上にカットした紙を重ね、さらにホワイトやニスなどの特殊インキを重ねて、紙とインクの境界が曖昧になる効果を狙った。
プライマー(*)を土台となる用紙に印刷し、その上にカッティングした紙を手貼りしたという。

*プライマー:用紙に対してUVインクの付きを良くするために使う下塗り剤 参考

千倉 志野氏(フォトグラファー)
ロギール アウテンボーガルト氏(手漉き和紙作家・かみこや代表・土佐の匠・高知工科大学客員教授)

アウテンボーガルト氏は高知県梼原(ゆすはら)町で手漉き和紙作家として活動している。今回は、千倉氏が梼原の風景を撮影し、アウテンボーガルト氏が写真一点一点のイメージに合わせた和紙を制作し、そこにUVインクジェットプリントした。印刷される部分はフラットだが周囲はさまざまな質感をもち、一枚の和紙なのに、まるで額入りの作品を見ているかのような錯覚を覚える。

植村 忠透氏(フォトグラファー)
佐々木 香菜子氏(ペイントアーティスト)
山﨑 哲生氏(インテリアデザイナー)

「ONE(ワン)」
植村氏と佐々木氏によるユニット「CAT BUNNY CLUB(キャット バニー クラブ)」に2018年から山﨑氏が参入。今回は、PET素材でドライフラワー用の一輪挿しを制作した。簡単に組み立て、シールで壁に貼れる。デザインは40種類から選べる。


展示作品は一部を除いて購入可能だ。また会場の一角には展示作品に関連したオリジナル商品の販売コーナーも設けた。

ブランド構築への足掛かり

ショウエイは製版業からスタートし、現在はUVインクジェットプリンターを駆使した大判ポスター、ディスプレイ、POPなどクリエイティブな制作物で定評がある。

「INK de JET! JET! JET! 」展は、2015年と2016年にも開催し、印刷関係者やデザイナーの間で話題となった。2017年には多摩美術大学や東京造形大学で巡回展を実施し、学生や美術教育の関係者にも注目された。

3回めとなる今回は、更に広く消費者にアピールすることを狙った。前2回は印刷実験の要素が強かったが、3回めとなる今回はどちらかといえば、デザインの面白さにスポットを当てる企画となった。

会場は、渋谷ヒカリエの8Fのクリエイティブスペース「8/」の一角にあり、d47 MUSEUMなどのギャラリーやデザインショップが隣接する。アートやデザインに関心を持つ人々がふらっと立ち寄って、インクジェットプリントの世界を楽しんでいた。
今回の来場者は約4500人、商品の売れ行きも好調だったという。

蔦屋書店、伊東屋のほか大手メーカーや美術館などに、クオリティの高いプロモーションツールを提供してきたショウエイであるが、今後はB to C市場も視野に入れ、オリジナルブランドにもチャレンジしたい、そして本展をその足掛かりにしたいという。
今後の展開が楽しみだ。

展覧会特設Webサイト

*初出:「紙とデジタルと私たち」2018年8月29日

(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)

日本の近現代史をたどる写真展「後世に遺したい写真」

東京・品川区の光村印刷株式会社が運営する光村グラフィック・ギャラリー(以下MGG)で2018年10月25日から11月24日まで、公益社団法人日本写真家協会(JPS)・日本写真保存センター主催の写真展「『後世に遺したい写真』―写真が物語る日本の原風景―」が開催された。

「後世に遺したい写真」展示風景
1910年代から2000年にかけて写真家が捉えた日本の記録約100点を、写真原板からバライタ紙にプリントして展示した。

リーフレットに掲載された作品

▲リーフレットに掲載された作品
上段左:「原節子 芝浦製作所の扇風機」1936(昭和11)年 名取洋之助
上段右:「銀座4丁目 服部時計店前」1945(昭和20)年 菊池俊吉
下段左:「学童疎開 入浴を喜ぶ児童たち」1944(昭和19)年 中村立行(品川区立品川歴史館所蔵)
下段中:「白さぎ」1960(昭和35)年 田中徳太郎
下段右:「おにぎりを持つ親子 長崎」1945(昭和20)年8月10日 山端庸介

このほか、
江見写真館によるガラス乾板作品「津山高女全校生徒800人の記念写真」1930(昭和5)年
外国向けグラフ雑誌『NIPPON』14号に掲載された土門拳による「極東の共栄のために」1937(昭和12)年
戦後グラフジャーナリズムで活躍した吉岡専造による「鳩山一郎首相の退陣 日比谷公会堂」1957(昭和32)年
興福寺、法隆寺、唐招提寺などの国宝・重要文化財を記録した写真
品川区ゆかりの写真家 笹本恒子、若目田幸平、諸河久の作品
などが展示され、激動する歴史と人々の営みが、写真家の視点を通じて語られている。

写真原板を後世に遺す

写真原板とは、デジタルカメラ登場以前のカメラで記録されたフィルム、あるいはガラス乾板などを指す。
日本写真保存センターは、文化庁の委嘱を受けて2007年から「我が国の写真フィルムの保存・活用に関する調査研究」を始め、さらに2011年から「文化関係資料のアーカイブの構築に関する調査研究」を行っている。

この事業は、JPSが文化庁に働きかけて実現したものである。

日本には東京都写真美術館、横浜美術館など、写真のコレクションを持つ美術館がいくつかある。ただし、これらの施設が収集しているのは、原則として現像された写真である。
写真は、撮影するだけで完成するわけではなく、作家の、あるいは専門技術者の手で現像されて初めて作品となる。

だから写真原板そのものは作品とは呼べない。

一方、写真原板には、現像された作品にはない価値がある。
写真原板は新たなプリントを生み出す元となる。
作品を破損・紛失してしまっても、写真原板があれば再現が可能である。
また写真家は1点の作品を生み出すために、膨大な点数を撮影している。
写真原板を時系列で追うことで、作家の観察、思考過程をたどることができる。
だから作家研究のためにも、写真原板の保存は不可欠である。

しかし適切に保存されない写真原板は、経年変化や化学変化で劣化し、その価値を失ってしまう。

そこでJPSは写真原板を収集・保存する組織とその運営を企画し、2006年に「日本写真保存センター設立推進連盟」を設立、文化庁に「日本写真保存センター」設立要望書を提出し、その年の暮れに予算化、2007年から活動を本格的に開始した。
その後、東京国立近代美術館フィルムセンター相模原分館(現:国立映画アーカイブ)にある収蔵棟の一部を借り受けた。

収集・調査・保存の過程

日本写真保存センターのスタッフは、写真家が存命であれば本人、故人であれば著作権を継承した遺族を訪ねて写真原板の寄贈を依頼し、収集を行ってきた。
これまでに、1910年代以降に撮影された写真原板約30万点を収集している。

入手した写真原板は状態を確認し、長期保存可能な中性紙製の包材に入れ替える。

その後スキャンしデジタル化する。
撮影日時、場所、写真集に使用された画像などを記録し、画像とともにデータベースに登録する。

調査が終わった写真原板は相模原のフィルム収蔵庫に送り、温度10度、湿度40%の状態を保って保存される。

併せて、画像データを写真保存センターのWebサイトにある写真原板データベースで一般公開しており、現在約5000点を検索・閲覧することができる。

日本写真保存センターの活動

▲日本写真保存センターの活動(「後世に遺したい写真」展 パネル展示より)

写真原板の価値を多くの人に広める

日本写真保存センターは収集した写真原板を新たに現像し、写真展を開催することを通じて、センターの活動をアピールしてきた。
2018年3月には、カメラ・写真映像ショー CP+2018の一環として特別展示「『後世に遺したい写真』日本写真保存センター写真展」をみなとみらいギャラリーで開催し、約8000人の来場を得ている。

光村印刷は美術印刷で定評があり、JPSとは作品集などの制作を通じてつながりがあった。光村印刷がアート発信の場と位置付けるMGGを会場に、写真原板の価値をさらに多くの人に知らせたいという意図から、今回の写真展が企画された。
なお、光村印刷は同展の図録の制作・印刷も手がけている。

写真は歴史の語り部

歴史を変えた瞬間、今はなくなった建物や町並み、その時代特有の風俗など
写真は歴史の語り部として貴重な存在である。
日本写真保存センターの努力で、日本のどこかに眠っている写真が今後も蘇っていくだろう。

現在はデジタルカメラが主流となってはいるが、撮影されたオリジナルデータを保存することの大切さに変わりはない。
誰もが気軽に撮影し巷に溢れている写真は、今後どのように保存・継承されていくのだろうか。
そんなことも考えさせる展覧会である。

「後世に遺したい写真」―写真が物語る日本の原風景―

・会  期 :2018年10月25日(木)〜11月24日(土)
・会  場:光村グラフィック・ギャラリー(MGG)
・休 館 日 :日曜日
・開館時間 :11:00〜19:00(土曜・祝日 〜17:00)
・入 場 料 :無料
・主  催 :公益社団法人日本写真家協会・日本写真保存センター
・共  催 :光村印刷株式会社
・後  援 :品川区、公益財団法人品川文化振興事業団
・協  力 :一般社団法人日本写真著作権協会

日本写真保存センター Webサイト

*初出:「紙とデジタルと私たち」2018年11月7日

(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)

消費者ニーズを掘り起こしたウェアラブルメモ「wemo」

工業用粘着テープなど機能性フィルムのメーカーである株式会社コスモテックは、2017年にウェアラブルメモ「wemo(ウェモ)」を発売して、現場最前線で働く人々を中心にユーザーを増やしている。第27回日本文具大賞で機能部門の優秀賞を受賞し、第29回 国際 文具・紙製品展 ISOT(2018年7月4日(水)〜6日(金)/東京ビッグサイト)の初日に表彰を受けた。

2018年 国際 文具・紙製品展 ISOT 展示

▲2018年開催 第29回 国際 文具・紙製品展 ISOTの展示

「wemo」は「いつでも どこでも かける おもいだせる」を謳った、身に付けるメモだ。
現在販売されているのは、シリコンバンド型の「消せる」タイプ。細長い板を腕に当てて巻きつけるとバンド状になる。バンドの表面に特殊なコーティングを施すことにより、油性ボールペンで直接書き込むことができ、消しゴムや指でこすることで消せる。手軽に書ける上、何度でも使えるのが魅力だ。

wemo 消せるタイプ

▲「消せる」タイプのwemo(ISOT展示会場にて)

アワード受賞をきっかけに事業展開

開発のきっかけは2016年、コスモテックが東京都主催の事業提案コンペティション「東京ビジネスデザインアワード(TBDA)」に参加したこと。この時にテーマとしたのは自社独自の「肌用感圧型転写シール技術」。従来の転写シールは一旦水に浸す必要があったが、「肌用感圧型転写シール技術」は圧をかけることで絵柄を対象に貼り付けることができ、ファンデーションテープやタトゥーシールなどに応用されていた。
このテーマに対して、ビジネスコンサルティング会社 kenma inc.の今井 裕平氏、林 雄三氏、木村 美智子氏が「肌に貼って直接書けるメモシール」を提案し、見事優秀賞を獲得した。

コスモテックとkenma inc.は、受賞後も事業展開の方向を模索し続けた。

開発当初想定していたユーザーは、仕事中、手にメモをすることが多いという看護師たちだった。彼らにヒアリングし、試作品をテストしてもらいながら、製品の完成度を高めていったのである。

その一方で看護師以外にも、農家など、メモ帳やモバイル端末を頻繁に取り出すことができない現場で働く人たちがいることに気づき、ユーザーの対象を広げていった。

現在は医療、介護、保育、農業、施設運営、旅行、スポーツなど幅広い分野で活用されている。そのほか、ADHD患者など、記憶することにストレスを感じる方々にも愛用されているという。

製品の形も、TBDA受賞時は、手に貼り付けるシールタイプだったが、もっとビジネス展開できる素材を模索する中で、シリコンバンドのアイデアが浮かび、「消せる」タイプを商品化することになった。

製品開発と同時に販路開拓も進めた。2017年に第28回 国際 文具・紙製品展ISOT、病院/福祉設備機器の専門展示会 HOSPEX japan 2017に出展し、テレビキー局をはじめ、新聞、雑誌などのメディアに取り上げられることで次第に知名度を上げていった。

ラインアップの拡充を図る

「消せる」タイプは2017年11月にAmazonで販売を開始し、現在は東急ハンズ、ヨドバシカメラ、ビックカメラでも扱っている。今週以降、以下のタイプを順次発売予定だという。
・「貼れる」タイプ:「消せる」タイプに転写シールを貼って書き込む
・「隠せる」タイプ:転写シールを直接肌に貼って、目立たないようにできる
・「パッド」タイプ:シリコン製で裏面が吸着シートになっている
・「ケース」タイプ:シリコン製で、スマートフォンやタブレット端末のケースとして使える

wemo パッドタイプ

▲左:「パッド」タイプ 右:「ケース」タイプ(ISOT展示会場にて)

kenma inc.でコンサルティングディレクターを務める今井氏は、肌用感圧型転写シール技術の用途開発に当たり、事業戦略の観点から「ファッションよりファンクション(機能)」で勝負したいと考えたという。

*今井氏は、JAGATの印刷総合研究会「ビジネスをデザインする―新しい価値を生み出す思考法」(2018年10月19日開催)、「デザインの力でBtoC市場に挑む―自社技術の用途開発で新たな顧客と出会う道筋」(2019年3月13日開催)に登壇し、wemo開発の過程についてもお話しをいただいた

従来はファッション用途に使われることが多かったこの技術は、wemoによって新たな用途が見出され、マーケットも広がっている。

自社技術の活用と消費者ニーズの掘り起こしがうまく一致したこと、メディアを活用して販路を拓いたことなど、ものづくり企業の今後の発展方向を示唆する事例だといえる。
今後の展開に注目したい。

*初出:「紙とデジタルと私たち」2018年7月24日

(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)