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「測る化」でビジネスが変わるか【2019年クロスメディアはどうなる?②】

「測る化」とは、PDCAのCから始まるサイクルを回すことだろう。マーケティングで測定したいものは何か? その目的達成に必要なデータの取得法とは? そしてマーケティングの目的のためにメトリクスの結果をどう使うのか? が重要になる。

「測る化」って何だ?

製造業の「見える化」とは、一般には、製品開発から生産、販売に至る企業活動における諸問題を改善するための仕組みづくりを指す。だから現状を可視化して、把握することが不可欠になる。

「測る化」という言葉も最近よく聞かれるようになっている。それは数値で可視化すること、定量化することを意味する。ジョー・ウエブ博士『未来を創る』でも、今後のマーケティングには「メジャーメント(測定)」が重要と述べ、「マーケターがデジタルメディアを信頼するのは、それが効果測定可能なツールだからである。 顧客の行動解析が重要なのは、現在の販売行動の主役は消費者であるからだ」としている。

小売・流通業における「測る化」

レジなし無人スーパー「Amazon GO」が、アメリカ・ワシントン州シアトルで2018年1月22日、一般公開された。 ディープラーニングやセンサー技術が用いられている。日本上陸がどのようになるかはわからないが、 無人スーパーの試みは既に日本でも起きている。

2018年12月13日、福岡のトライアルカンパニーが「トライアル Quick 大野城店」を開店した。24時間営業で夜間の午後10時~午前5時は本格的な無人スーパーである。IoT利用による、店舗の管理や運営の自動化(リテールAI)が実現されるという。

そして、日本初といわれる3つのサービスが導入された。

①来店者の属性に合わせた品揃えや商品補充、広告・動画表示のサービス
リテールAIによって、既存の冷蔵ショーケースに対し、最適化されていく。

②AIカメラ200台による夜間無人化の実現
これにより、日本初の夜間無人店舗営業が可能になる。

③小売店では、初の試みであるキャッシュレスのプリペイドカード、チャージシステムの導入
キャッシュカードでそのままチャージができる機器が設置される。またスマホの専用アプリで、決済や残高の確認が可能になる。今後、スマホから直接プリペイドカードへのチャージができるような取り組みも進んでいる。

無人スーパーの特徴としては、「レジがなくなる」「万引きが減る」「ICタグも不要になる」などが挙げられる。メリットとしては、省人化とコスト削減、マーケティングデータの取得があるだろう。

特に、POSデータでは得られなかった非購買者のデータ収集も可能になることが大きなメリットである。例えば、購入はしなかったが、手に取った商品は何かを瞬時に把握できる。それだけでなく、手にした時間、どの陳列棚の前に何分立ち止まったかなどをリアルタイムで知ることができるようになる。

印刷業界はどうなるのか?

さて、印刷業界がこのような新たな情報を得ることのメリットは何だろうか。印刷会社だからスーパーや百貨店などのチラシやカタログ、DMなどの販促物を制作することがメインの業務になる。しかし、デジタルマーケティングにより小売・流通業の営業スタイルが大きく変わってきている。

購買の主役は消費者で主権を握っている。販売の主役も大手百貨店からスーパーやコンビニ、ECなどにも広がってきている。今後も新たな主役が登場してくる可能性もある。そのときには、販促手法も大きく変わるかもしれない。さらに全く印刷の知識がなくても販促物支援のスタートアップ企業が出てきて、印刷からWebまで販促に関するビジネスをそっくり持って行ってしまうことだってあり得る。

印刷業界にとって、チラシなどの商業印刷物は、顧客の販売促進支援そのものだが、これからは印刷物受注だけでないBPO的なアプローチが必要になる。顧客が印刷物を発注するのは来店促進や、一押し商品の訴求のためだ。つまり売り上げに対する明確な目標があるから印刷物を利用するのであり、大切なのは顧客の売り上げを伸ばすことである。

印刷物は顧客の目的のOne of themであって、そこに予算を投入してもらうには、紙ならではの強みを訴求することが必要になる。

印刷会社にとってビジネスの可能性はどこにあるのか。言われた通りの仕事を納期に合わせて納品するだけでない、その先のBtoBtoCのコンシューマーのことまで守備範囲を広めていきたい。デジタルデータの取得や印刷物とデジタルメディアとの連携、親和性は避けて通れない。印刷物を測定するツールにするにはどうすればよいのかも考えていくべきであろう。そこに不可欠な概念として「デジタル×紙×マーケティング」があるのだ。

(JAGAT CS部 上野寿)  

関連イベント

2月6日~8日に開催するイベント「page2019」では、2019年のデジタルメディア活用を知るためのカンファレンスを開催します。

商業印刷物の製品生産額に多大な影響を与える小売・流通業で始まっているデジタルマーケティングの動向を知り、BPOのヒントに活かしたい方はぜひご参加ください。

【CM4】 デジタルマーケティングでビジネスを広げる~「測る化」からはじまる業務改革~

【CM1】RPAとホワイトカラーの業務効率化

【CM2】企業の動画活用トレンド~SNS世代に響く動画と販促への展開2019

【CM3】リアル×デジタルで「伝えたい人に伝える」メディアづくり


ロボットはコピペ作業をなくせるか【2019年クロスメディアはどうなる?①】

人手不足解消の切り札としても期待されているRPA。2018年には海外製ツールの日本語対応やクラウドサービスなど利用しやすい環境が整ってきました。

足りない人手はロボットで

RPAとは、今まで人力で行っていた作業をプログラムが代行するしくみのことです。人間が行っている作業をExcelマクロのように記録したり、ブロックのように動作を組み合わせることで自動化できます。

Webサイトからデータを抽出して一覧化したり、交通費精算の金額チェックを行ったりといった定型的な業務はロボットが行います。さらにAIと組み合わせて高度な処理を行うこともできます。

2018年は人手不足による要因で企業が倒産する「人手不足倒産」が過去最高件数となりました。求人難で新たに人を採用することはむずかしい、かといって1人が担当する業務量を増やすこともできない、というなかで、RPAを活用した事務作業の効率化に取り組む企業が増えてきています。

比較的小さな規模の企業であっても「できるだけロボットに作業を任せて効率的に仕事をする」ことが現実的な選択肢になってきました。

最近では海外製の大手RPAツールの日本語対応も進み、使いやすくなったことに加えてサーバー設置の手間が不要で始めやすいクラウド型のサービス形態も増えてきたことが、RPA導入を後押ししています。

システムとシステムをつなげるのがRPAの強み

帳票の処理やデータ入力などの事務作業は、製造プロセスほど効率化が進みませんでした。IT化が進むにつれてさまざまな業務が個別にシステム化されましたが、システム間の連携は人間が担ってきました。

異なるシステムを連携するプログラムを開発するのは複雑で、開発費も高額になるためです。事務スタッフが手で対応したほうが合理的だと考えられ、コピペで転記、という方法が多く取られてきました。

RPAはWebサイトの情報をもとにチェックした金額をクラウドサービスへ登録したり、あるシステムから抽出したデータを加工して別の社内システムに入力したりといったシステム間をまたいだ作業も比較的容易に行えます。

コピペ作業に充てていた時間はそれほど長くはなく、「人がやったほうが早い」作業なのかもしれません。それが1日20分程度だったとしてもRPAで自動化できれば、年間で数十時間の削減効果があります。

2019年は中小規模の企業も含め、RPAを導入する企業がさらに増えていくと予測されます。RPAが担うことで効率化できる業務は少なくありません。自分の周りで行っているコピペ作業があれば、それを自動化できないか、別の方法で代替できないか、見直してみるのもよいかもしれません。

(JAGAT 研究調査部 中狭亜矢)

関連イベント

2月6日~8日に開催するイベント「page2019」では、2019年のデジタルメディア活用を知るためのカンファレンスを開催します。RPA、動画活用、空間メディアなどの情報をビジネスに活かしたい方はぜひご参加ください。

【CM1】RPAとホワイトカラーの業務効率化

プログラムで業務を自動化・効率化するRPA(Robotic Process Automation)は、企業規模を問わず導入が進んでいます。どこまで自動化できるか、投資効果はあるか、運用人材はどうするか、将来的なAIへのシフトなど、導入検討する企業が知りたいRPAの可能性や課題について議論します。

【CM2】企業の動画活用トレンド~SNS世代に響く動画と販促への展開2019

【CM3】リアル×デジタルで「伝えたい人に伝える」メディアづくり

【CM4】「測る化」からはじまる業務改革~小売・流通業のデジタルマーケティングでビジネスを広げる~


アプリレス、ゴーグルレスで利用できるWeb AR/VR

AR(拡張現実)は新たなユーザー体験を提供し、印刷物の効果をより高める技術として注目され、取り組む印刷会社も多い。しかしながら、利用するにはアプリのダウンロードが必要なことからユーザーからは敬遠されることも少なくない。エイシス株式会社は、2016年11月に設立されたベンチャー企業で現在の従業員は8名と小所帯ながら、Webデザイン、Webシステムの企画、開発、運用を行っている。柱となっている事業がWebAR、WebVRである。JAGAT印刷総合研究会において代表取締役の齋藤瑛史氏に取り組み状況を伺った。

アプリレス、ゴーグルレスが強み

一般的にARやVRを利用するにはヘッドセットやARグラスを身に着けるか、スマホの場合は、アプリをダウンロードして利用することになる。しかし、ヘッドセットを購入するには費用がかかるし、メガネをかけている人や髪形を気にする人には敬遠されがちである。また、アプリのダウンロードについては、最近アメリカで行われた調査では、スマートフォン所有者の最近1か月の新規アプリインストール数の平均はほぼ0であった。そして、1日に使用するアプリ数の平均が約3であった。したがって、スマートフォンにたくさんのアプリが入っていても普段使うものは非常に限定されている。かつ、アプリの8割から9割は一度使われただけで削除されている。

また、開発者側の視点からすると、どんどん登場する新しいデバイスへの対応やAndroidとiOSのどちらにも対応し、かつOSのバージョンアップに対応し続けるというのはかなりの開発負荷である。

これらの課題をクリアするものとして、当社が力を入れているのがWebAR/VRである。アプリをインストールする必要がなく、そしてヘッドセットを装着することもなくARやVRの体験が可能である。

WebVRのサンプルとして「寿司ぽっぷ」というゲームを紹介する。渋谷のスクランブル交差点の3D空間を舞台に空から降ってくるお寿司に視線を当てて地面に落とさないようにするという簡単なゲームである。3D空間のデータとシステムを組み合わせてWebブラウザ上でより気軽にVR体験することができる。

WebARのサンプルとして、「ウェブモン」というゲームを紹介する。マーカーであるカードをかざすと、ARコンテンツとしてモンスターが現れる。それを自分のキャラクターとして登録し、別のカードをかざすと敵役のモンスターが現れ3Dで対戦がはじまる。

多くの人にリーチ可能で拡張性が高い

WebAR/VRのメリットを整理する。一つ目は多くの人にリーチ可能であること。当社の事例ではアプリインストール型と比べて数倍のアクセス数となった実績がある。アプリをインストールするためにパスワードを入力したり、指紋認証したりという手間と新たなアプリを入れるという心理的障壁はかなり大きい。QRコードを読み取るだけで簡単にアクセスできるというWebARのメリットは大きい。

二つ目は開発や保守が容易であること。iOSとAndroidの双方に対応したり、複数のVRコンテンツストアに対応するのは大変である。OSのバージョンアップやストアの審査への対応もある。Webで動作すれば審査はないので、VRコンテンツを状況にあわせて柔軟に修正することができる。

三つ目はWebならではの拡張性があることである。既存のWebサイトに組み込むことができ、ECサイトとの親和性が高い。また、ブックマークやSNSシェアなどWebの機能をそのまま利用できる。Webの新しい技術でAndroidではWebサイトからユーザーにプッシュ通知ができるようになる。Webの進化に合わせていずれはアプリと同等の機能が実現されるだろう。

活用事例としては、人気ミュージシャンのライブプロモーションにWebARが採用されたケースがある。ライブグッズにQRコードが印字されており、そのリンクからミュージシャンのグッズや本人たちの映像が再生されるなど、よりライブを盛り上げる演出がされている。
また、食品メーカーのキャンペーンでWebARの採用が検討されている。お菓子のパッケージにマーカーが印刷されていて、読み取るとキャラクターが出現する。キャラクターと写真を撮ったりSNS投稿すると抽選でプレゼントが当たるというものである。アプリ不要という点が高く評価されている。

さらに製品メーカーのパンフレットにおいても採用する方向で検討が進んでいる。パンフレットを渡した相手だけでなく社内でもコンテンツを共有してほしいので、アプリ不要は魅力的である。印刷物との親和性が非常に高いので、今後の動向に是非、注目していただきたい。

(研究調査部 花房 賢)

「〇〇放題」の波はオーディオブックにもやってきている

音楽、雑誌、動画などで増えている定額制の波がオーディオブックにも広がっています。今回は、サブスクリプションでの提供やスマートスピーカーの普及によりユーザー数が増えているオーディオブックについて紹介します。

デジタルコンテンツの利用形態として広がるサブスクリプション

毎月一定の利用料を支払い、利用枠内で提供されているアイテムを制限なく利用できるサービス提供方式をサブスクリプションと呼びます。携帯電話事業者のソフトバンクが提供している「動画SNS放題」のCMを目にした方もいると思います(白戸家おとうさんが風呂敷に包まれてしまうやつです)。日本では「〇〇放題」という呼び方のほうがイメージしやすいかもしれません。

この〇〇放題型サービスは、Netflixやhuluなどの動画、AWA、Spotifyなどの音楽、dマガジン、ビューンなどの雑誌など、デジタル系サービスで広がっています。リアルでも洋服やバッグ、コーヒーなどで定額サービスが登場しており、人気を集めています。

ユーザーにとっては都度購入する手間がなく、たくさん利用すればかなりお得になる利点があります。サービス提供側にとっては毎月安定した収入が見込める、ファン育成に役立つといった利点があります。

オーディオブックでも定額制が増えてきた

最近ではオーディオブックでもサブスクリプション型で提供するサービスが登場しています。

オーディオブックとは、書籍をナレーターが読み上げた音声コンテンツを指します。昔はカセットテープやCDに録音されたものが本屋さんやCDショップで販売されていました。iPodなどの携帯音楽プレーヤーが普及してからはダウンロード販売、さらに最近ではストリーミング配信が一般的になっています。

音によるコンテンツは目や手を使わずに楽しめることから、「聴きながら何かをする」ことができるのが特徴です。オーディオブックを提供するオトバンクが2018年8月に公開した調査結果によると、オーディオブックを利用するシーンは移動中が58%ともっとも多く、ほか就寝前や家事の最中など何かをしながら読書する「ながら読書」が全体の9割を占めています。(オトバンクリリース

サブスクリプション型を提供しているオーディオブック提供サービスは下記のようなものがあります。

audioboook.jp(オーディオブックドットジェーピー)

オトバンクが運営するaudioboook.jpは、2007年からオーディオブック配信サービスを運営しているオーディオブック老舗です。2018年からは月額750円で対象書籍が「聴き放題」となるプランも導入されました。会員数30万人以上、作品点数2万点(2018年発表)で国内最大級のオーディオブック配信サービスです。

Flier(フライヤー)

フライヤーが運営するFlierは、2013年に開始したテキスト型の書籍要約サービス。「ビジネス書を短く要約する」という選書&要約モデルで短時間に情報を得たいビジネスパーソンを中心に利用者を増やしています。無料ユーザーは月20冊が利用できるほか、月額500円、月額2,000円の有料プランを提供。2018年からは書籍でテキストを音声で読み上げるAIを活用して自動読み上げの音声コンテンツを提供するサービスを開始しています(9割ほどの書籍で提供)。現在会員数18万人(2018年4月)、2016年よりメディアドゥ傘下になっています。

Audible(オーディブル)

アマゾンが運営するAudibleは、2015年からオーディオブックの定額サービスを国内で開始。2018年からはコイン制に移行。月額1500円で月1冊購入できるコインが付与されるほか、追加料金なしで楽しめるニュースや落語などのコンテンツを配信するAudible Stationを提供しています。AIアシスタントAlexaとの連携も進めており、「アレクサ、(コンテンツのタイトル)読んで」というとダウンロード済みコンテンツを再生できるようになっています。

2019年はオーディオブックがさらに伸びる期待も

オーディオブックはアメリカでは大きな市場で、2017年オーディオブック売上は前年22.7%増の25億ドル(約2800億円)以上あります(Audio Publishers Associationのリリース)。オーディオブックは世界的にも伸びており、2018年10月に開催されたフランクフルトブックフェアでもオーディオブックのカンファレンスが開催されるなど、成長分野として捉えられています。

国内ではそれほどの規模はまだないものの、スマホアプリでの利用が後押ししてオーディオブック利用者数は伸びてきています。

最近では前述のFlierのようにAI音声版の作品もあります。通常は声優やナレーターを起用するコストがかかりますが、自動化することで制作コスト削減やスピード化が期待できます。現在はビジネス書が中心ですが、将来的には小説などでもAI音声版が提供されていくでしょう。

またスマートスピーカーの影響も気になるところです。スマートスピーカーの普及が進むアメリカでは、オーディオブック利用者のおよそ4人に1人はスマートスピーカーで利用しているといわれています(前述APAリリース参照)。国内でもスマートスピーカーが増えていくのに合わせてオーディオブックの利用がさらに増えていく可能性があります。

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デジタルデータで提供されている書籍という意味ではオーディオブックも電子化された書籍です。テキストから音声にフォーマットを変えることで、視覚的な情報がなくなった代わりに「目や手を使わずに楽しめる」という新しい価値を提供しています。今後は電子書籍と同様に、新しいコンテンツの楽しみ方として広がっていくでしょう。

(JAGAT 研究調査部 中狭亜矢)

関連イベント

音声コンテンツの市場とビジネス可能性~ボイスUI時代に訪れる3つの変化、3つのチャンス~

【11/29開催】スマートスピーカーの普及に伴い音声ユーザーインターフェイス(VUI)が注目されている。VUIの現状と可能性を理解したうえで、音声コンテンツの事例から今後のビジネス可能性を考える。

早稲田大学で「印刷業界から見たフリーペーパー」講座を開催

JAGATでは、10月30日(火)、早稲田大学のフリーペーパー講座にて、「印刷業界から見たフリーペーパー」と題する講義を行った。 フリーペーパー講座は、メディア研究が盛んな同大学のメディア文化研究所などが協力し、2008年度(単位の取得できない講座としては2006年度から)に開講した。

開講前の2007年はフリーペーパー広告費がピークを迎え、部数だけでなく紙誌面の内容も飛躍的に向上、成熟したメディアとして、既存の新聞、テレビ、雑誌、ラジオなど4マス媒体と並ぶ新しいメディアという地位を確立し始めていた時期に当たる。しかし、フリーペーパーは日本の大学において調査・研究、あるいは授業科目の対象として取り上げられてこなかった。

そのため、先述した同学メディア文化研究所が中心となり、国内の大学における初の試みとして歴史、理論、実務という多角的な側面から、フリーペーパーの現状、そして将来の展望を追究する講座を開講、第一線の研究者や実務家を数多く招聘し、学ぶ機会を学生に提供し続けてきた。

早稲田大学は、メディアに興味を持つ学生が非常に多く研究・実践なども盛んで、実数は把握できていないが毎年数多くのフリーペーパーが学内で創刊されているという。そのため、最新の情報や事例を学ぶことのできる同講座への反響は毎年大きく、定員300人のところに1000人近い申込みが殺到する人気講座となっている。

詰めかけた講堂で熱心に講義を聴く学生

JAGATでは、公益性の観点で2014年から同講座に協力、今回は10月30日(火)に「印刷業界から見たフリーペーパー」と題して、90分にわたる講義を行った。 「印刷産業」「印刷メディア」「印刷会社と地域活性の関係」「変わるフリーペーパーの役割」「印刷会社のフリーペーパー事例」「フリーペーパーの平均像から」「フリーペーパーを活用したビジネスモデル」という、7つのコンテンツから、印刷業界の現状やフリーペーパーとの関係性、各地域のフリーペーパーなどを説明した。

講義をするJAGAT研究調査部長 藤井建人

講義中、学生は真剣なまなざしで多くのことを吸収しようとペンを走らせながら熱心に聞き入っており、講義後も学生から疑問点の質問が挙がるなど多くの反響が寄せられた。最後に、講座開催にご尽力されている早稲田大学非常勤講師の稲垣太郎氏、そして自社で企画・制作するフリーペーパーを送って下さったJAGAT会員企業の皆様に御礼を申し上げたい。

(研究調査部 古田優樹)