レポート」カテゴリーアーカイブ

フリーペーパーの研究

 

|フリーペーパー研究のこれまで

JAGAT(日本印刷技術協会)は2014年から全国印刷会社からフリーペーパーを収集して分析する形で研究を進め、研究会や大学で議論や講義をするほか、レポートや論文を発表し、収集作品を展示するなどしてきた(別掲)。遡れば、フリーペーパー研究の基礎を築いたのはJAFNA(日本生活情報紙協会,1998-2018)であろう。早稲田大学メディア文化研究所(2013-2018)はフリーペーパーを地域メディアの一つに位置付け、大学の通期講義を確立するなど、研究はもちろん、普及啓蒙と教育にも大きな役割を果たした。2019年以降は、電通メディアイノベーションラボがJAFNAから国内市場の毎年の推計を引き継いだ。JAGATとともに毎年の研究成果の検討と共有、発表に取り組む形で現在に至っている。フリーペーパーは正規出版物ではないからか、活用シーンの多さの割には日の目を見ない時間が長かった。しかしこうして、様々な企業・団体や研究者の尽力や活動によって、近年徐々に市民権を得て解明の進みつつあるメディアといえる。さらに現在は、地方創生に役立つメディアとして、仲間内で楽しむZINEとして、古くて新しいメディアとしてさらに再評価と活用の波が広がっている。

page2024「印刷会社のフリーペーパー2024」特設展示コーナーのようす(2024.2.14-16)

|フリーペーパー関連のレポート&セミナー、イベント等

2024/3/7 Web展示会 印刷会社のフリーペーパー2023-2024
2023/12/12 フリーペーパー調査2023-事業インキュベーションとして
2023/7/20 フリーペーパーの最新動向と事例2023
2022/6/29 フリーペーパーと地域ニュースの最新事例
2021/5/26 フリーペーパーの動向と事例 2021
2020/9/11 フリーペーパービジネスの最新動向2020
2019/4/25 フリーペーパービジネスの最新動向2019
2018/11/15 早稲田大学で「印刷業界から見たフリーペーパー」講座を開催
2018/6/11 印刷会社が発行するフリーペーパー研究を通じて
2018/4/27 フリーペーパービジネスの最新動向2018
2018/3/31 論文「地域社会において CSV/CRSV を実践するビジネスモデルとその成立要件」
2017/7/6 「印刷会社のフリーペーパー展」page2017特別企画報告
2017/4/20 印刷会社とフリーペーパービジネス、その新たな可能性
2017/2/9 印刷会社と地域活性① 印刷会社の地域活性メディア戦略
2016/8/4 フリーペーパーを通して印刷会社の地域における役割を伝える
2016/7/5 日米成功事例に見るフリーペーパービジネスの可能性
2016/4/21 強みを実績に変えるフリーペーパービジネス最新事例
2015/6/3 日系企業駐在員向けフリーペーパー
2015/2/5 印刷会社と地域活性ビジネス(2)~地域情報、地域ブランディング
2014/11/13 早稲田大学で「印刷業界とフリーペーパーの関係」講座を開催

(JAGAT 研究調査部 藤井建人)

フリーペーパーのビジネスモデル

※フリーペーパー研究の一端が紹介されました(京都大学新聞24年9月16日号)

|無料という制約が育む創意工夫

印刷会社が発行するフリーペーパーの調査を始めて10 年が経った。集めた紙誌を分析し、page の特設コーナーで展示するほか、大学の授業やセミナーなどでの解説に用いる一連の取り組みである。フリーペーパーはどこかに正式登録されるわけではなく、創刊も休刊も自由な媒体だ。地域の発行者と読者、広告主だけが知る、いわば謎めいた存在であって、どこが何を発行しているのか? 全国でいくつ集まるのか? 調査まではさっぱり不明だった。
調査を開始すると、全国から毎回20~50 紙誌が集まった。創刊も休刊もあるため、入れ替わりながらも続いていく。そしてコンテンツは想像以上に多種多様だった。印刷会社も事業会社である以上、無料媒体とはいえさまざまなビジネスモデルを組み込み、何らかのマネタイズを試みている点も興味を引いた。

page2024「印刷会社のフリーペーパー2024」特設展示コーナーのようす(2024.2.14-16)

|ビジネスモデルを見る視点(1)広告と記事

フリーペーパーを見る視点の1つ目は、誌面における記事と広告の割合だ。商業目的の場合は記事3:広告7 で採算が成り立つ広告モデルが基本といわれる。有代誌のように購読料収入がないぶん、広告費を集める必要がある。しかし、印刷会社のフリーペーパーの大半はそこまで広告がないのに発行が続く。それは印刷が本業であるため、広告費が少なくても制作費の少なさでバランスできることによる。発行に際してのキャッシュアウトが少ないので、損益分岐点が低い。直接収支を合わせるべく広告を入れてもよい。だが、広告費のために広告主の意向を気にして窮屈な誌面にするくらいなら、最初から副次的なリターン(地域貢献など)を追求した方が合理的との判断が働き、結果としてソーシャルモデルに向かうことが多い。

|ビジネスモデルを見る視点(2)通算発行数

2つ目は通算発行数だ。月刊や季刊で40 号を超えていれば確たる理念やビジネスモデルがあり、見習うべき点があると見てよい。100号を超えるのなら、なおさらである。『トチペ(鈴木印刷・栃木)』 208 号、『ぷりおーる(きかんし・東京)』106 号、『ながの情報NEXT
(カシヨ・長野)』611 号、『月刊ぷらざ(ヨツハシ・岐阜)』369 号、『月刊パームス(宮崎南印刷・宮﨑)』388 号など。定期刊行物は企画・取材・執筆・デザイン・営業・印刷・配布などの総合力が問われるため、どれか一つでも欠けたら続かない。不景気でも多少の経営不振でも続ける基盤と信念があるから長く続くのだ。ひいては企業の知名度と地域の持続性を高めてメディア自らの存在感をも高めていく。

|ビジネスモデルを見る視点(3)バリューチェーン

3つ目はバリューチェーンである。これはコンテンツの制作体制・配布流通チャネル・収入源(金銭的/非金銭的)・読者・発行者の組み合わせのことを指す。よくできたフリーペーパーは発行理念の実現に向けて地域社会のステークホルダーが適切に配置されているので持続的な無料発行が可能なのだ。『おでかけ・みちこ(川口印刷工業・岩手)』『まなびのめ(笹氣出版印刷・宮城)』『Fのさかな(石川印刷)』『むるぶ(共立アイコム・静岡)』『ぬりえーる(中本本店・広島)』『ココロエえひめ(ハラプレックス・愛媛)』は、地域社会に好影響を与えた恩恵の波及を自社が受けるCSVモデルの完成度が高い。たとえ見かけ上の利益は多くなくても長期的に発行社に豊かな有形無形のリターンをもたらすメディア設計になっている。

|非財務資本の蓄積が生み出す新規事業

図らずも10 年にわたって発行企業を長期観察することになり、発行社が非発行社よりもスモールビジネスを多く創出していくプロセスを目の当たりにすることになった。発行社は日々の印刷営業では得られない取材先・連携先・読者との無数のネットワークといったリターンを手に入れたのである。金銭換算しづらいコンテンツやネットワークなどの、財務資本を生み出す基盤となる非財務資本を蓄積したともいえる。発行社の経営者が評価の難しい非財務資本と財務資本の包括的な事業性評価に長けている点も、企業のサステナビリティを考えるうえでのポイントだ。“ たかがフリーペーパー” だが、奥深い。

(JAGAT 研究調査部 藤井建人)

印刷ビジネス2023年の振り返りと2024年に向けて

コロナ禍明け初年となった2023年は、国内は物価高騰、国外はウクライナ危機に中東危機と不透明感がさらに濃くなった。とはいえ、売り上げ増も珍しくなくなり、いつになく明るい声も聞かれる。年末時点で見えている材料をもとに振り返る。

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フリーペーパー調査2023-事業インキュベーションとして

※被災した石川県『Fのさかな』クラウンドファンディングご支援を!(~2024年5月31日)
『Fのさかな』クラファンの取組みが中日新聞に取り上げられました。

フリーペーパーは地域メディアとして再評価されているが、地域外や業界外で知られる機会は少ない。印刷会社が地域社会のため主体的に発刊していることはもっと広く知られて良い。また、継続発行する企業からの持続的なスモールビジネスの誕生も観察され、事業インキュベーションの機能にも注目が集まる。

(さらに…)

日本のグラフィックデザイン2023

日本グラフィックデザイン協会の2023年版年鑑掲載作品を紹介する企画展「日本のグラフィックデザイン2023」(9月1日~10月19日 東京ミッドタウン・デザインハブ)から、印象に残った作品を紹介する。 続きを読む

2023年のグッドデザイン

「2023年度グッドデザイン賞受賞展」が10月25日~29日に開催された。1500点を超える受賞作品の中から印刷・メディアに関わるデザインを中心に紹介する。

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