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メールはどうやって送っているのか、基本のしくみを知ろう

仕事でもチャットなどで連絡を行うことが増え、メールを使う機会が減ってきました。それでも連絡手段として今でもメールは欠かせないものです。

今回は、メールはどうやって相手に送られるのかについてざっくりご紹介します。

メールを送信する基本的なしくみとは

メールは、送信するときと受信するときでは違う方法でデータをやりとりしています。

マイクロソフトのメールソフトOutlookやグーグルのメールサービスGmailなど多くのメールソフト・サービスでは、SMTPという手順に沿って送信します。SMTPのような手順のことを通信プロトコル、と呼びます。

通信プロトコルとは、通信するときの手順・決まりを指す用語です。メールを送信するときはSMTP、受信するときはPOP3IMAPが使われています。

メールソフトを設定するときにサーバー設定として「smtp」や「pop」といった項目を入力された経験がある方もいるかと思います。それは「どういう手順でメールを送る(または受け取る)」と指定していることになります。

メール送信時の手順を簡単に説明すると、次のような流れです。

  1. 自分(送信者)のPCからメールを送信する
  2. 契約しているメールサーバー【A】に届く
  3. メールサーバー【A】がDNSサーバーへ問合せて送信先の
    住所(IPアドレス)を把握する
  4. メールサーバー【A】から送信先のメールアドレスを管理する
    メールサーバー【B】に向けてメールを転送する
  5. 受信者が契約しているメールサーバー【B】に届く
  6. 受信者のPCが自分宛のメールを受信する(POP3・IMAP)

ここで登場するのが「メールサーバー」と「DNSサーバー」です。ここでのサーバーとは、何らかの機能(サービス)を提供するコンピューターのことです。

メールサーバーとは、その名のとおりメール配送の機能を提供するコンピューターで、送信用のSMTPサーバーと受信用のPOPサーバーを合わせて一般的にメールサーバーと呼んでいます。

DNSサーバーというのはあまり聞き馴染みがありませんが、メール送受信やWebサイトの閲覧時に日々お世話になっています。メールアドレスのドメイン部分(@より後ろ)やWebサイトのURLに対応するIPアドレス情報を返す機能を提供するコンピューターです。

なぜDNSが必要なのかというと、メールを送信するときや、Webサイトを表示するときにはメールアドレスやURLの裏側に隠されているIPアドレスが必要になるからです。メールを送信するときにはメールアドレスを指定しますが、裏にあるIPアドレスから「どのメールサーバーへ届けるか」の情報を得ています。

ポート番号ってなんの番号?

SMTPなどのプロトコルとセットで登場するのが「ポート番号」です。ポート番号とは、パソコンがどの手順(プロトコル)でデータをやりとりするかがわかるようにつけられた番号のことです。

ポート番号は、よく番号付きのドアで例えられます。DNSという手順を行うためにはサーバーについている53番のドアを通ります、ということを表しています。

代表的なポート番号には、こんなものがあります。

番号 サービス 用途
20 FTP (データ) データのやりとりをする
21 FTP (制御) データ転送のコントロールを行う
22 SSH セキュアなファイル転送
25 SMTP メールを送信する
53 DNS 名前を解決する
80 HTTP Webサイトへアクセスする
110 POP3 メールを受信する
143 IMAP メールを受信する
443 HTTPS SSLでWebサイトへアクセスする
587 SMTP メールを送信。SMTP AUTH対応

表では、SMTPのポート番号は25番と587番が割り当てられています。

ここで「おや?私のメールソフトでは違う番号を入れたぞ。」と思われた方も少なくないと思います。

実はそのままのSMTPの手順ではユーザー認証の機能に対応していないため、なりすましによる迷惑メールなどを防ぐことができません。そこで最近では、メール送信時にSMTPサーバーにIDとパスワードで認証を取るSMTP認証を導入してなりすましを防ぐようにしています。25番ポートは認証のしくみに対応していないので、SMTP認証を使ったメール送信をする場合には、それに対応している587番のポート番号を使います(465番を使うこともあります)。

マイクロソフトOfficeのメールソフトOutlookでは「送信(SMTP)サーバーには認証が必要」というチェックを入れるのはSMTP認証の設定です。

普段「どうやってメールを送っているか」なんて意識することはほとんどありませんが、基本的なしくみをなんとなく理解しておくと、アプリケーションの設定を行うときや、なんらかのトラブルが起きたとき、何をしているのか、何が起きているのかを理解しやすくなるので知っておいて損はないかと思います。

(JAGAT 研究調査部 中狭亜矢)

印刷工程を内製化。「デジタル印刷愛」でブックオブワンを実現したブランドオーナー

JAGAT info 4月号ではキヤノンメディカルシステムズ株式会社(以降、キヤノンメディカル)が取り組む、ブランドオーナーによる印刷・製本工程内製化の現状について報告した。
今回はその一部を抜粋して紹介する。

自社製品マニュアル内製化プロジェクトが始動
 キヤノンメディカルは、東芝グループに属していた東芝メディカルシステムズが2016年にキヤノンの子会社になった企業である。医療機器事業としては100年以上の歴史を持ち、世界の医療機器をリードしている企業である。
 各装置には一つの製品につき10〜15種類ほどの冊子が必要になることもある。印刷物は量、種類ともに膨大な数に上っていた。そんな中、印刷物の大部分を内製化するプロジェクトが立ち上がる。ブランドオーナー自らが印刷を内製化した場合のメリットや課題、そして今後の印刷会社の役割について、ドキュメンテーション部 印刷・製本センター主任の兵藤伊織氏にお話を伺った。

 

省人化された設備でコンパクトに運用
 印刷・製本センターでは、本文印刷用にはインクジェットロールプリンターでCanon Production Printing(旧Océ。以降、CPP)のColorStream 6700 Chroma、表紙用には電子写真カットシートタイプのimagePRESS C10000VPを使用している。製本ラインでは、ホリゾンとフンケラーの製本機がSmart Binding Systemでつながっている。
 マニュアルはブックオブワンになっており、厚さの違う印刷物が次々に吐き出されていた。トラブルさえなければ最小2名で運用可能である。必要なものを適時に印刷し、各部署に配送。印刷機の稼働時間は一日平均4時間ほどで、毎日20万ページ、多いときには50万ページ以上を印刷している。

 

徹底した標準化でトラブル回避
 では、このセンターはどのように運営されているのだろうか。印刷が分かっている人は兵藤氏だけだった。印刷業務をこなしていくために、トラブルが起きにくい環境を整備している。
 例えば使用している紙は三菱製紙のインクジェット専用紙一種類だけである。サイズはA4とA5に絞っている。徹底的に標準化して同じ仕事が続くようにデザインされている。
 合理化はプリプレスの領域でも行われている。現在は作成されたマスターデータをWorkspace ProというソフトのAsuraという機能に投げ込むと、閲覧用PDFと印刷用PDFが吐き出される仕組みになっている。Asuraで19時から翌日の3時までの間に2000以上のデータを作成し、朝から印刷ができる準備をしておくという流れになっている。
 ポストプレスではジクス社の自動検査装置が完備されている。不良品はリジェクトされ、再印刷の指示が出される。再印刷や、至急の印刷物に関してはキヤノンのimagePRESS C850、C800といった機種で対応している。この部分は近日中にCPPのVarioPrint i300を増設し、より生産性を高めていく。
 一連のシステムによって、リードタイムは 2日短縮、生産コストは従来比約30%削減。生産工数は従来の半分になった。印刷内製化のプロジェクトは無事成功を収めたのである。

 

デジタル印刷でビジネスモデルを構築する
 兵藤氏は東芝時代から印刷と関わる部門で働いており、デジタル印刷の仕事を始めてから16年目のベテランである。JAGATのDTPエキスパートも10年ほど前に取得しており、理解できない設問があれば、JAGATの講師に問い合わせをして一つ一つ学んでいった。 デジタル印刷機は動かすだけならスキルレスで稼働できるが、何かあったときには知識の土台が必要である。今後は職場全体でレベルアップし、日本のデジタル印刷といえばここ、という場所に育てていきたいとのだと兵藤氏は語った。
 デジタル印刷の場合、上流でデータを奇麗にまとめることが重要である。この点ではブランド自身が内製化する方がやりやすいのは事実である。しかし、Asuraのような入稿データを自動で整形するシステムを使えば、ある程度はカバーできる。
 紙やサイズを統一することは、印刷会社の側から提案するのは難しい。しかし、コストダウンや納期短縮と合わせて提案すれば、ブランド側にとってもメリットのある話である。
 デジタル印刷の大きな魅力はビジネスモデルをつくれる点にある。小ロット化やブックオブワンで部数自体は減少し、売上高は減るかもしれない。しかし、人件費の削減などで結果的に利益が増えるような形に変えていくことができる。ビジネスモデルを組み替えて、売り上げが減っても利益が出るような構造に変えていくことは、印刷会社が成長性を担保していく上で有効な方法ではないだろうか。その具体的な方法として、キヤノンメディカルの取組は注目すべき事例であると言えるだろう。

(「JAGAT info」2020年4月号より抜粋)

(研究調査部 松永 寛和)

『ロウソクの科学』とデジタル印刷

出版市場が低迷しており、オフセットで大量に印刷して書籍のコストを下げ、大量に販売するというモデルが通用しにくくなっている。
一方でデジタル印刷が進化し、出版分野でも積極的に利用されるケースが増えている。例えば、在庫を持たないオンデマンド出版や極小ロット重版のようなフレキシブルな生産方式が増えつつある。

『ロウソクの科学』と緊急重版

2019年10月、リチウムイオン電池発明の功績によりノーベル化学賞を受賞した吉野彰博士が、自分の原点は『ロウソクの科学』という本であるとコメントし、話題となった。

KADOKAWAは、その翌日に『ロウソクの科学』(角川文庫)、『ロウソクの科学 世界一の先生が教える超おもしろい理科』(角川つばさ文庫)の緊急重版を決定し、プレスリリースやSNSを通じた広報活動を行った。メディアでも取り上げられ、書店からは注文が殺到したという。

そして自社のデジタル印刷機器で印刷・製本し、2営業日で書店に並べた。その結果、重版累計10万部を販売したとのことである。

 角川文庫『ロウソクの科学』緊急重版2万部決定

(※KADOKAWA 2020年3月期 第2四半期決算説明資料より)

話題性の一番高いタイミングで緊急重版を決定し、発表した。さらに、通常10営業日以上のところ、わずか2営業日で製造・出荷した。これらは、自社内にデジタル印刷設備(輪転式大型インクジェット機)を保有するKADOKAWAならではの動きと言える。この事例のようなスピード感のある出版活動は、今後の参考となるのではないか。

小ロット出版とデジタル印刷

出版社が自社内にデジタル印刷設備を持つことは、資金面や人材面など容易ではない。生産設備を持つということは、機器を維持管理し、書籍を製造するだけでなく、資材の調達や保管、品質管理、梱包・発送などの業務を遂行することになる。
むしろ、印刷会社がそのような部分を代行し、スピード感のある出版活動を支えていくことの方が現実的だと考えられる。

また、『ロウソクの科学』は文庫という体裁であり、版型や用紙などの仕様が標準化されていたために、緊急重版がスムーズに実現したのではないか。つまり、出版分野でデジタル印刷を効果的に利用するには、仕様の統一などある程度の制約が伴うという側面もある。

書店・流通など出版界では、高い返本率が収益を圧迫しており、大きな課題となっている。デジタル印刷の活用がそのような課題を解決するキーになると考えられる。

(JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸)