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小ロットと高付加価値印刷で注目されるデジタル加飾

インクジェット技術によって微細なスポット・ニスコーティング加工や箔押し、透明厚盛などをおこなうデジタル加飾が注目されている。

デジタル加飾機は、版や型が不要で専門的なオペレーターやパートナー企業に頼ることなく、小ロットで自由度の高いデザイン表現、短納期でのサンプル製作や製造が可能である。インパクトやプレミアム感あるデザインや手触りを表現し、付加価値の高い印刷物を提供することができる。
世界では、DMやパンフレットなどの商業印刷分野やパッケージ分野などで導入が進んでいる。

株式会社研文社は、高速インクジェット機、トナー方式デジタル印刷機の導入に加え、極小ロットの高付加価値印刷を実現するために、デジタル加飾機「JetVarnish」を導入した。

デジタル加飾はやや特殊な分野で、顧客(または顧客サイドのデザイナー)の要望・依頼から実現するケースはほとんどない。印刷会社のデザイナーが提案したり、サンプルを製作したりして、採用に到ることがほとんどである。

「JetVarnish」を導入して、最初におこなったのは、デジタル加飾をブランディングするための「テクニカルブック」の制作だという。
スポット・ニスコーティング、透明厚盛、金箔・銀箔のサンプル、プレミアム感あるデザイン表現の可能性を目に見える形にして掲載した冊子である。営業マンを通じて既存顧客に配布し、デジタル加飾で何ができるか、通常の印刷物に高級感を与えることができることを発信した。
また、SNSや「研文社デジタルオンデマンドセンター」のWebサイトを通じて、デジタル加飾をアピールしている。

具体的な案件があると、テスト・サンプルを製作するなどして、その価値を理解してもらい、受注に繋げている。

ダイレクトメールの封筒にデジタル加飾を施した際には、開封率が上がったとして、顧客に喜ばれた事例もある。デジタル加飾を施した商品も好評だったという。

白山印刷株式会社は、元々、小ロットのカラーオフセット印刷と化成品・合成紙などの特殊印刷・コールドフォイルを得意としていた。
多品種小ロット・高付加価値印刷に対する顧客ニーズが、年々高まっているため、3年ほど前に、スポット・ニスコーティング、透明厚盛、金・銀箔が可能なデジタル加飾機「Scodix」を導入した。以来、順調に事業が拡大しているという。

先般、さらなる多品種小ロットに対応するため、HP Indigo 7Kデジタル印刷機を導入した。デジタル印刷とデジタル加飾の相乗効果により、今後の事業拡大を見込んでいる。

白山印刷では、以前からニスコーティング・コールドフォイルに精通した社内デザイナーによって、顧客へのデザイン提案を行い、受注に繋げていた。デジタル加飾機でプレミアム感のある表面加工を実現するには、繊細なデザイン表現とデータ製作が重要である。「Scodix」を導入して以来、社内デザイナー中心に経験を積んだことで着実にレベル向上を果たしているという。

また、Scodix社が2014年から毎年開催している全世界のScodixユーザー向けのコンテスト 「Scodix Design Awards 2021」 において、白山印刷はテクノロジー部門・商業印刷部門・出版部門の3部門、計4作品で賞を獲得している。

近年の印刷物製作は、多品種小ロットが日常化している。また、デザイン表現や高級・プレミアム感など、さらなる差別化も求められている。 デジタル印刷+デジタル加飾は、高級感ある印刷物を製作する手段として、今後の伸長が見込まれている。

(研究調査部 千葉 弘幸)

■ 5/17(火)印刷総合研究会 デジタル加飾の最新動向とユーザー事例

印刷顧客を生むメディア展開のヒント

印刷会社からこれまでになく、印刷営業におけるメディア展開の話を聞くようになった。容易に訪問営業できない時代の新規受注はどうするか。足で稼ぐことも重視しつつ、一方ではメディアによる接点創出の模索が活発化している。

 

テレワークによる新規営業の変化

メディアの使い方が変わっている。いままでは生活者や印刷発注者の動向を見てきたが、いま変わりつつあるのは印刷会社自身のメディア活用である。発注者がテレワークで自宅勤務になってしまい、気軽に訪問できなくなった。彼らにどのようにリーチすればよいのか。印刷会社がこれまでになく様々なメディアによるアプローチを試み始めている。

印刷におけるBtoBマーケティングの難しさ

そもそも、印刷会社の顧客はどこからどのように生まれるのか。仮説であっても、この問いへの答えを持っておくことが必要なように思われる。印刷ビジネスはBtoCではなく法人営業なので、どうにも一般的なマーケティング理論を適用しにくいのが難しいところだ。BtoBは消費財と違い、個人の選好や感情に左右されて取引されることは少ない。その購買プロセスは秘匿性が高く公開されるような成功モデルは少ないのである。とはいえ、自社なりの顧客創造シナリオをつくってみなければメディア設計ができない。

地域商圏での事例を広域発信

今までは訪問営業が絶対的な存在感だったが、コロナ禍によって大きく変わった。遠方への営業が難しくなり、地元商圏に回帰せざるを得なくなった。他方、情報発信に秀でた印刷会社では、ウェブサイト経由などで遠方の見知らぬ顧客から引き合いが舞い込み、受注にまで発展する例が増えている。つまり、オンライン体制を整えつつ地元商圏を重視すれば、地域での成功例を広く発信することで、商圏を広域に広げる手法が可能な時代なのである。

対面以外のチャネルを確保する

多くの受注が続々と飛び込むことを期待するのではなく、顧客が自然流入するようなメディアの導線をつくる。元々、飛び込み営業の打率はとても低いのだし、既存顧客の一定数が失注する分を補える仕組みができれば充分だ。コロナ後に向けて、いわば顧客が自然発生的に生まれるメディアの組合せをいくつ持つかが成長性を分けていく。そしてウェブサイトに来てもらうにもまず自らの発信が必要になる。

人的営業は依然強いがデジタル移行も確実

JAGATの調査では、コロナ前、印刷会社の顧客の6割強は訪問営業から生まれていた。しかしコロナ禍以降は5割強に低下、約1割がデジタル手法に移行した。独自製品開発志向や地域活性化志向の高かった企業は発信コンテンツに事欠かないが、従来型の受注スタイル企業において苦戦が顕著になっている。自社の強みや独自性がないと、注目を集めようにも発信するものがない。メディアに乗せる以前にコンテンツの制作から議論を始めることになる。

自社の強みとメディアで創注する

ただし、現代まで存続したすべての印刷会社には他社と違う何かがある。印刷会社が自社のウェブサイトなどのメディアを見直していくことは、自社の強みや独自性を再発見し、明確化していくことになる。コロナ禍で加速したデジタル化によって、メディアの全体動向はどのように変わり、自社はどのように対応していくべきか。印刷会社は顧客のデジタルメディア化に対応してきたが、自社のメディア展開を考えるべき局面になっている。
(研究調査部 藤井建人)

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2022年3月30日(水) 14:00~16:40
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-印刷顧客を生むメディア展開のヒント-