印刷会社におけるテレワークへの移行のネックのひとつが紙の伝票と承認印によって組み立てられている業務フローである。さらに、精緻なデータに基づく経営判断や製造の自動化を推進するうえでもMISのよりレベルアップした運用は今後欠かすことができない。
「テキスト&グラフィックス部会」カテゴリーアーカイブ
『ロウソクの科学』とデジタル印刷
出版市場が低迷しており、オフセットで大量に印刷して書籍のコストを下げ、大量に販売するというモデルが通用しにくくなっている。
一方でデジタル印刷が進化し、出版分野でも積極的に利用されるケースが増えている。例えば、在庫を持たないオンデマンド出版や極小ロット重版のようなフレキシブルな生産方式が増えつつある。
『ロウソクの科学』と緊急重版
2019年10月、リチウムイオン電池発明の功績によりノーベル化学賞を受賞した吉野彰博士が、自分の原点は『ロウソクの科学』という本であるとコメントし、話題となった。
KADOKAWAは、その翌日に『ロウソクの科学』(角川文庫)、『ロウソクの科学 世界一の先生が教える超おもしろい理科』(角川つばさ文庫)の緊急重版を決定し、プレスリリースやSNSを通じた広報活動を行った。メディアでも取り上げられ、書店からは注文が殺到したという。
そして自社のデジタル印刷機器で印刷・製本し、2営業日で書店に並べた。その結果、重版累計10万部を販売したとのことである。
(※KADOKAWA 2020年3月期 第2四半期決算説明資料より)
話題性の一番高いタイミングで緊急重版を決定し、発表した。さらに、通常10営業日以上のところ、わずか2営業日で製造・出荷した。これらは、自社内にデジタル印刷設備(輪転式大型インクジェット機)を保有するKADOKAWAならではの動きと言える。この事例のようなスピード感のある出版活動は、今後の参考となるのではないか。
小ロット出版とデジタル印刷
出版社が自社内にデジタル印刷設備を持つことは、資金面や人材面など容易ではない。生産設備を持つということは、機器を維持管理し、書籍を製造するだけでなく、資材の調達や保管、品質管理、梱包・発送などの業務を遂行することになる。
むしろ、印刷会社がそのような部分を代行し、スピード感のある出版活動を支えていくことの方が現実的だと考えられる。
また、『ロウソクの科学』は文庫という体裁であり、版型や用紙などの仕様が標準化されていたために、緊急重版がスムーズに実現したのではないか。つまり、出版分野でデジタル印刷を効果的に利用するには、仕様の統一などある程度の制約が伴うという側面もある。
書店・流通など出版界では、高い返本率が収益を圧迫しており、大きな課題となっている。デジタル印刷の活用がそのような課題を解決するキーになると考えられる。
(JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸)
【3月の研究会のお知らせ】日本写真学会共催 page2020報告 ~プリント技術セミナー~
JAGATではこの2年あまり「デジタル×紙×マーケティング」というスローガンを掲げてきた。page2020ではfor Businessを加えて「デジタル×紙×マーケティング for Business」をテーマとし、この路線をより具体的にすすめた。
印刷ビジネスの動向と展望2019-2020
最新データと現時点で予想しうる2020年の与件に基づき2020年の印刷ビジネスを分析する。2019年までの状況を整理、来たる2020年の印刷市場に影響するだろう周辺関連トピックを洗い出し、市場動向を予想する。 続きを読む
印刷画像検査へのディープラーニングの適用
AIによる印刷画像検査ソリューションを提供するタクトピクセルの取り組みを紹介する。
続きを読む2019の印刷関連トピックと技術を振り返る
12月になると流行語大賞や今年の漢字などが話題となり、年末には10大ニュースも発表される。このように1年を振り返ることが多くなる。
JAGATがその年を総括する目的で開催しているイベントがトピック技術セミナーである。1年間の印刷関連のトピックや技術を発表していただく。
12月恒例のイベントとして定着しており、今年で46年目の開催となる。
■これまでの特別講演
近年、特別講演として取り上げた内容には以下のようなものがある。
・2013年「3Dプリンター技術と新ビジネス展開」
・2014年「POD出版サービスNextPublishing」
・2015年「講談社のデジタル印刷と小部数出版」
・2016年「欧州の印刷ネット通販」
・2017年「家庭とビジネスを変えるスマートスピーカー」
・2018年「スマートファクトリーの目指すもの」
印刷ビジネス・技術や出版だけでなく、最新のIT機器なども幅広く取り上げている。
Think Smart Factory2019で見えてきたもの
2019年の特別講演ではホリゾン・ジャパンの宮崎氏に、11月11日~13日、京都「みやこめっせ」で開催された「Think Smart Factory2019(TSF2019)」について、振り返っていただく。
TSF2019では、近未来の印刷工程として自動化、省力化、スキルレスなどのソリューションや印刷業務管理システムと印刷・加工機器との連携などが提示され、密度の濃いセミナーも多数開催されていた。
国内外から多くの見学者が来場されていたとのことである。
オンライン校閲・推敲ツール「文賢」
もう1つの特別講演では、オンライン校閲・推敲ツール「文賢」による文章作成支援を取り上げる。
文章の言い回しや用字・用語などをオンラインでチェックし、適切な表現を提示するサービスである。
近年ではウェブなどの文章を作成するライターの質の低下が問題視されている。このサービスを利用することで、執筆に慣れていない人でも、平易で読み易く、伝わり易い文章を作成することが可能となる。
主要メーカーの講演
Samba JPC関連製品と技術(富士フイルムグローバルグラフィックシステムズ)
高画質インクジェットデジタル印刷機「Jet Press750S」の基幹部品であるインクジェットコンポーネントを製品化したもので、他の印刷機メーカー向けに先日、発売された。
Primefire(プライムファイア)106(ハイデルベルグ・ジャパン)
drupa2016で発表されたB1インクジェットデジタル印刷機である。CMYK+オレンジ・バイオレット・グリーンの7色でPantoneカラーの95%をカバーし、パッケージ印刷に対応することができる。
先般、国内1号機が共進ペイパー&パッケージ社に導入され、稼働したばかりである。
SCインクとTruepress Jet520HD(ScreenGPジャパン)
「Truepress Jet520HD」はフルカラー対応のインクジェット印刷機で、2006年の発売以来、累計1,500台の出荷実績がある。
SCインクは、前処理やプライマー処理を施すことなくコート紙に印刷することが可能であるため、応用範囲が広いことが特徴である。本セミナーでは、SCインクを中心に解説していただく。
Impremia NS40とナノグラフィー技術(小森コーポレーション)
「Impremia NS40」は、ランダ社のナノグラフィー技術を搭載したB1サイズデジタル印刷機である。超微細な粒子で水性のナノインクをブランケットに噴射し、原反に転写するという画期的な方式で、高速で高品質印刷を実現する。
2020年春から国内のベータサイトとして新和製作所が参加することが発表されており、注目されている。
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2019年を振り返ることで、今後の印刷技術とビジネスを考える機会としてもらいたい。
(JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸)
JAGAT トピック技術セミナー2019
「JAGATトピック技術セミナー2019」が今年も12月10日に開かれます。
次世代型の組版システム構築とAI自動レイアウト
インタラクティブ(対話式)にレイアウトをおこなうツールや手法は、既に成熟段階にあること、人的リソースに依存していることから、今後、大きく発展することは難しいだろう。
MIS連携による見える化の推進
「見える化」の速やかな立ち上げと効果的な運用にはIT活用が欠かせない。
特にMISの果たす役割は大きい。「見える化」の施策の核となる受注一品別の収支把握、日次付加価値の把握におけるMISの関わりについてPrintSapiensを例に具体的に解説する。
そしてコスト管理と同じくらい重要な要素である進捗状況の見える化、柔軟で精度の高い生産管理について、PrintSapiensとKPコネクトProの連携を題材に議論する。
日時
2019年11月26日(火) 14:00-16:00
構成
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・PrintSapiensとKPコネクトProの連携
・「見せる化」(情報共有とデータ分析)
会場
日本印刷技術協会 3Fセミナールーム(〒166-8539 東京都杉並区和田1-29-11)
参加費
一般:15,400円(税込)、JAGAT会員:11,000円(税込) 印刷総合研究会メンバー: 無料 [一般]2名まで [上級]3名まで [特別]5名まで →自社が研究会メンバーか確認したい場合は、こちらのフォームからお問合せください 。
申込み
満員御礼につき申し込みを締め切りました。
※研究会メンバーで参加希望の方は事務局までお問合せください。
問い合わせ
内容に関して 研究調査部 印刷総合研究会担当 電話:03-3384-3113(直通)
お申込み及びお支払に関して 管理部 電話:03-5385-7185(直通)
進捗管理の強化による「見える化」の推進
印刷業の収益改善における「見える化」の肝は、受注一品別の収支把握である。
実現のボトルネックのひとつが、精度の高い実績データの記録、収集である。手書きの作業日報からシステム入力への移行は進んでいるが、入力の手間が敬遠されたり、入力端末の台数が不足していたりするなどの課題が残っている。
製造設備から直接、実績データを取得する手法としてJDF/JMFの利用がある。作業指示書をJDFのジョブチケットとして電子化し、製造設備にダイレクトに送信し、実績情報はJMFというデータ形式で製造設備からダイレクトに受け取る。JDF/JMFはCIP4が策定した国際的な標準フォーマットでありメーカーを問わずに利用することができる。良い事づくめのようであるが普及は進んでいない。
その理由のひとつがMISの運用にある。もともとMISは販売管理を出発点に発展したものが多く、そうしたシステムは現場レベルの細かい作業指示を行うことが想定されていない。
例えば、印刷の作業指示でいえば「菊全 4/4 通し数 5,000の仕事が4台」、あるいは製本の作業指示でいえば「128頁の無線綴じ 5,000冊」といった単位である。業務に精通した人間が見るのであれば、このレベルで十分であるが、JDFのジョブチケットを発行しようとすると、印刷は4台のジョブ単位(片面機であればさらに表面と裏面)に分けてジョブ定義をする必要がある。製本であれば、「16頁折りの折り工程が8台」、そして、それらの折り丁を丁合して綴じて三方断裁する「無線綴じ」の工程とに分けてジョブ定義をする必要がある。
さらに、受注産業の宿命で予定変更が頻発することから予定組みはMISではなく変更の操作が容易で柔軟な対応ができるExcelを用いている印刷会社が多い。また、工程をまたがった変更は操作が非常に煩雑となるので、予定表の作成は印刷工程までで、製本の現場では、紙の印刷予定表をみて現場判断で対応しているケースも多くみられる。このように予定や進捗状況の情報が社内で分断されていることが多くのロスを生んでいる。特に営業所と工場とが離れている場合などは問い合わせの電話が頻繁に行き交うことになる。
これらの課題に対しては、MISと実績収集ツール、そして印刷会社の運用という三方面からの取組みが求められる。ある中堅印刷会社では、細かな仕様登録、ジョブ定義の作業負荷を軽減するため営業サポート部門を設置、そして間際での予定変更の抑止と変更への迅速な対応を図るために「48時間ルール」というものを運用している
「48時間ルール」とは、印刷予定を2営業日前に作成し、予定表を作成した後に仕様や日程の変更があった場合は、担当営業は営業部長に申請して承認をもらうというルールである。上長の承認がない限り、担当営業は独断で予定を動かすことはできない。設定当初は、ナンセンスなルールで手間を増やすばかりと営業からは大ブーイングであったが、強行した結果、このルールが抑止効果となり、スケジュールの先行管理が定着し、予定の精度が向上した。また、現在では変更の申請にLINEを使うことで外出先からも行うことができ、営業サポートチームとも即時に情報共有できるようになっている。
この会社ではMISはPrintSapiens(J Spirits)、実績収集ツールとしてKP-ConnectPro(小森コーポレーション)を導入している。小森製の印刷機からは作業実績データが自動でMISに送信されるほか他社印刷機やポストプレス機器の実績情報はタブレット端末を用いて入力している。タブレット端末は、設置場所が固定されるパソコンと異なり持ち運びが容易で、オペレータの配置が日々流動的であるポストプレスの現場と親和性が高い。また、各設備の進捗状況はリアルタイムで事務所の大型ディスプレイに表示され、一目で進捗状況が確認できるようになっている。
KP-ConnectProには実績データを詳細に分析するための各種ツールが用意されているが、同社では受注一品別の収支結果と結びつけて改善につなげたいと考えている。
生産性の改善を金額換算して「見せる化」することで、より改善の実感がわき「自分事」として取り組むことができる。従来は分析のための資料作成に多くの時間を費やしていたが、稼働状況のレポートはシステムで自動的に作成されるので、改善活動により多くの時間を割くことができるようになる。
「見える化」を支援するITツールは今後いろいろと登場してくるだろうが、ツールを活かすためには導入側の運用の工夫、改善も求められる。
(研究調査部 花房 賢)
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JAGAT研究会 11/26 MIS連携による見える化の推進