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進捗管理の強化による「見える化」の推進

印刷業の収益改善における「見える化」の肝は、受注一品別の収支把握である。

実現のボトルネックのひとつが、精度の高い実績データの記録、収集である。手書きの作業日報からシステム入力への移行は進んでいるが、入力の手間が敬遠されたり、入力端末の台数が不足していたりするなどの課題が残っている。

製造設備から直接、実績データを取得する手法としてJDF/JMFの利用がある。作業指示書をJDFのジョブチケットとして電子化し、製造設備にダイレクトに送信し、実績情報はJMFというデータ形式で製造設備からダイレクトに受け取る。JDF/JMFはCIP4が策定した国際的な標準フォーマットでありメーカーを問わずに利用することができる。良い事づくめのようであるが普及は進んでいない。

その理由のひとつがMISの運用にある。もともとMISは販売管理を出発点に発展したものが多く、そうしたシステムは現場レベルの細かい作業指示を行うことが想定されていない。

例えば、印刷の作業指示でいえば「菊全 4/4 通し数 5,000の仕事が4台」、あるいは製本の作業指示でいえば「128頁の無線綴じ 5,000冊」といった単位である。業務に精通した人間が見るのであれば、このレベルで十分であるが、JDFのジョブチケットを発行しようとすると、印刷は4台のジョブ単位(片面機であればさらに表面と裏面)に分けてジョブ定義をする必要がある。製本であれば、「16頁折りの折り工程が8台」、そして、それらの折り丁を丁合して綴じて三方断裁する「無線綴じ」の工程とに分けてジョブ定義をする必要がある。

さらに、受注産業の宿命で予定変更が頻発することから予定組みはMISではなく変更の操作が容易で柔軟な対応ができるExcelを用いている印刷会社が多い。また、工程をまたがった変更は操作が非常に煩雑となるので、予定表の作成は印刷工程までで、製本の現場では、紙の印刷予定表をみて現場判断で対応しているケースも多くみられる。このように予定や進捗状況の情報が社内で分断されていることが多くのロスを生んでいる。特に営業所と工場とが離れている場合などは問い合わせの電話が頻繁に行き交うことになる。

これらの課題に対しては、MISと実績収集ツール、そして印刷会社の運用という三方面からの取組みが求められる。ある中堅印刷会社では、細かな仕様登録、ジョブ定義の作業負荷を軽減するため営業サポート部門を設置、そして間際での予定変更の抑止と変更への迅速な対応を図るために「48時間ルール」というものを運用している

「48時間ルール」とは、印刷予定を2営業日前に作成し、予定表を作成した後に仕様や日程の変更があった場合は、担当営業は営業部長に申請して承認をもらうというルールである。上長の承認がない限り、担当営業は独断で予定を動かすことはできない。設定当初は、ナンセンスなルールで手間を増やすばかりと営業からは大ブーイングであったが、強行した結果、このルールが抑止効果となり、スケジュールの先行管理が定着し、予定の精度が向上した。また、現在では変更の申請にLINEを使うことで外出先からも行うことができ、営業サポートチームとも即時に情報共有できるようになっている。

この会社ではMISはPrintSapiens(J Spirits)、実績収集ツールとしてKP-ConnectPro(小森コーポレーション)を導入している。小森製の印刷機からは作業実績データが自動でMISに送信されるほか他社印刷機やポストプレス機器の実績情報はタブレット端末を用いて入力している。タブレット端末は、設置場所が固定されるパソコンと異なり持ち運びが容易で、オペレータの配置が日々流動的であるポストプレスの現場と親和性が高い。また、各設備の進捗状況はリアルタイムで事務所の大型ディスプレイに表示され、一目で進捗状況が確認できるようになっている。

KP-ConnectProには実績データを詳細に分析するための各種ツールが用意されているが、同社では受注一品別の収支結果と結びつけて改善につなげたいと考えている。

生産性の改善を金額換算して「見せる化」することで、より改善の実感がわき「自分事」として取り組むことができる。従来は分析のための資料作成に多くの時間を費やしていたが、稼働状況のレポートはシステムで自動的に作成されるので、改善活動により多くの時間を割くことができるようになる。

「見える化」を支援するITツールは今後いろいろと登場してくるだろうが、ツールを活かすためには導入側の運用の工夫、改善も求められる。

(研究調査部 花房 賢)

【関連イベント】
 JAGAT研究会 11/26 MIS連携による見える化の推進

印刷業定点調査 各地の声(2019年5月度)

5月の売上高は△1.7%、2カ月ぶりのマイナス。4月は10連休前の駆け込み需要が売上高を押し上げたため、5月はその反動減があった。4月と5月を合わせると通算0.4%増であり、差し引きで見れば表面的な売上高は決して悪くはない。価格の上昇傾向も売上高を押し上げる方向に働いている。 続きを読む

Webコンテンツ制作の現場における記事作成の未来

なぜ、文章作成アドバイスツール『文賢』を開発したのか?

ネット上には情報があふれ、いかに読んでもらうか、いかに検索して選んでもらうかの工夫が求められている。SNSは個人の情報発信のハードルを大きく引き下げる一方で誤解から生じる「炎上」と呼ばれるトラブルが多発している。読みやすく誤解のない文章表現を誰もができるようにするにはどうしたらよいだろうか。株式会社ウェブライダー代表取締役 松尾茂起氏に自社開発の文章作成アドバイスツール「文賢」についてうかがった。

ウェブライダーは、ウェブ集客を支援する、コンサルティング・ツール開発・コンテンツ制作を事業としており、京都に本社を置いている。世の中には多くの校正ツール、校閲支援ツール、推敲支援ツールがあるが、「文賢」の最大の特長はウェブライダー自身がコンテンツ制作をしやすくするために開発した点である。人はどのような文章を読みやすいと感じるのか、あるいは炎上を防ぐためにどのようなことに気をつけたほうがよいかを研究、分析した結果のノウハウが組み込まれている。ウェブでは、読み手が何名訪問して何分滞在して記事のどこからどこまで読んだのか、どのリンクがクリックされたのかといった行動を把握することができる。これが印刷物と決定的に違う点である。ウェブの読者の行動を徹底的に分析することで、わかりやすさや読みやすさの定義ができ、それがツール化されている。

「文賢」の基本機能は以下の7つである。

  1. 文章表現 文章内の表現を豊かにし、より伝わりやすくするための類語や言い換え言葉の候補を提案する
  2. 校閲支援  誤字脱字や誤った使い方をしている言葉、避けるべき言葉を指摘する
  3. 推敲支援  文章をもっと読みやすくするという視点でチェックする。例:同じ文末表現の連続使用、50文字以上の文に読点がないなど
  4. アドバイス  社内ルールなど気をつけたいことを登録しておき、チェックリストとして表示することで、書きあがった文章がルールに沿っているかの最終確認を促す
  5. 文章を確認する  書体を変えて見返したり、音声読み上げで書いたものを耳で確認したり、印刷物として読むことで、第三者視点での確認を促す
  6. 辞書登録  「文賢」が持っている辞書以外の文言をチェックしたい場合、文言の追加や削除ができる
  7. Chrome拡張機能 GoogleのウェブブラウザーのChrome拡張からスムーズに「文賢」にアクセスできる

文章表現機能は、文章をより魅力的にする機能である。例えばグルメライターであれば「美味しい」ということをただ「美味しい」と表現しても飽きられてしまう。表現のレパートリーが乏しいとすぐに行き詰ってしまうが、「文賢」を使えば候補となる表現がいくつも列挙される。「複雑で深みのある味」「スケール感が半端ない」「イマジネーションを刺激する」「言葉を並べつくしても伝えきれないくらいの」などの表現があり、言葉に困らなくなる。

炎上を予防するには

ウェブで炎上する代表的な原因は次の3つではないかとウェブライダーは考えている。

  1. さまざまな視点や価値観を持つ人が読むことを想定できていない
  2. 誤解を生む表現を用いている
  3. 本来はクローズドな範囲で留めておくべき内容を公の場で発信している

ウェブライダーが運営しているワインのサイトの中には閲覧者が50万人、平均滞在時間が18分という記事がある。この50万人の中に記事に対して嫌悪感を抱く人が2、3人いたとする。その人達が悪意のあるツイートをしたとすると、ごく少数派の意見がソーシャルメディア上を流れ多くの人が目にすることになる。ネット上では個人の声の影響力は非常に大きいためメディアを運営することは大きなリスクを背負うことになる。そこで「文賢」では炎上を防ぐためのチェックがある。

一例として、メールでのお客様対応の文章を紹介する。ウェブサービスを提供している会社にユーザーからログインできなくて困っているという問い合わせが入り、それに対してサポート担当からメールを返信するという想定で、文章を作成する。

「文賢」が指摘する改善点

この文章の改善点は図2の通りである。


3つ目にクエスチョンマークを使わないという指摘がある。これは文中にクエスチョンマークがあると「バカにしている」と感じるお客様がいるからである。ウェブライダーはWebサービスのサポートを12年間続けており、これまで27,000件の問い合わせにお応えした実績がある。この経験からお客様がどのような表現を使うと不快な思いをされるのかの理解を深め、社内で共有している。

メールは1回送ってしまったら後で取り返しがつかない。メールを利用したマーケティングツールは非常に進化しているが、文面についてはチェックが行き届かずにいまだにトラブルが起こっている。ウェブライダーは、「文賢」を通じてコミュニケーションスキルを磨いていただければと願っている。

「文賢」を使っていると知らず知らずに豊かな表現力が身につくし、誤解を招くような表現に気を付けるようになる。するとコミュニケーション不全によるトラブルが減って世の中が良くなるというのが開発コンセプトである。

また、「文賢」は、使う人たちが学びを得られるツールになることを強く意識している。そのためアドバイスにおいても「こうすべき」という断定はしない。「わかりやすいかもしれません」「可能性があります」というようにユーザに問い直すような表現にしている。なぜなら、直接、答えを返してしまうと「文賢」に丸投げしてしまい自分の頭で考えなくなるからである。問いが思考を生み、思考が言葉を生むという流れをツールで実現したい。Twitterでの騒ぎなどを見ていると言葉を不用意に発していると感じる。思いつくままに発しているので、配慮が足りず誰かを傷つけ、自分も傷ついてしまう。本来、言葉とは発するのではなく大切に紡いで、編むものである。ウェブライダーは「文賢」を通じて言葉を紡ぐお手伝いをしていきたいと考えている。

(文責 研究調査部 花房 賢)

印刷業定点調査 各地の声(2019年4月度)

4月の売上高は+1.9%。昨年4月は+0.1%と前年同月が高かったにも関わらずプラスとなったことは、体感的には数字以上の繁忙さだったと思われる。用紙調達難による需要減もあったが、大型連休前の駆け込み需要が上回った。用紙価格の転嫁、印刷の価格修正も一定程度ながら受け入れられ、表面的な売上高を押し上げた面もある。 続きを読む

アニメと地域活性に関する研究会を開催

6月11日、研究会セミナー「アニメを活かした地域活性化と事業展開」を開催し、好評を博した。また、セミナーの最後に発表された富山県南砺市の事例は現地での取材を含め『JAGAT info』9月号に掲載予定である。

コンテンツツーリズムの有力な一手段として

アニメの舞台となった場所を訪れる「聖地巡礼」。元々作品の舞台を訪れる行為は映画や文学などで昔から見られたが、アニメの舞台モデルを訪れる行為が近年注目され、政府の進めるインバウンド戦略の有力な一つとしても期待されている。

2018年2月に内閣府より発表された海外の日本通に対する調査では、欧州の75%、アジアの57%、北米の23%の人が、日本に興味を持ったきっかけとしてアニメ・マンガ・ゲームを上げている。また、日本アニメの海外市場は2014年から2017年にかけて約3倍へと急成長した。

アニメを題材とした地域の観光資源化は今後、成長分野の一つとなりうる可能性を秘めている。しかし、大きな期待とは裏腹に聖地巡礼をどのようにビジネスとして成立させ、地域の持続的な発展に役立てるかというノウハウの蓄積は進んでいない。そこで本研究会では、印刷会社や研究者、アニメの制作会社といった分野の専門家を招き、様々な視点から聖地巡礼ビジネスを考える研究会を企画した。

地域活性化に貢献するアニメの力

まず最初にJAGATの主幹研究員藤井建人から、印刷会社による地域活性化の動向について発表を行った。印刷会社では地域活性事業に取り組む企業が増えている。JAGATの調査では61.9%が既に取り組んでおり、残り39.1%の中でも必要性を感じないと答えた企業は15.3%に留まった。地域に根ざした印刷会社では周辺地域の活力を上げていくことが結果的に自社の利益に繋がると捉えることが多く、地域活性事業で関係性を深め、地域に新たな価値を創造する構図も生まれている。コンテンツツーリズムは関連グッズや観光MAP、ポスターなど印刷物に限らず地域に派生的な経済を多くもたらすと見られ、印刷会社の持続的な仕事になる部分もあるだろうと注目している。

アニメ関連産業に印刷会社が新規参入した事例について、近年アニメコラボカフェの事業を始めたサイバーネット社の会長、高原一博氏と村上直樹氏が講演した。コラボカフェとはアニメやゲームをテーマとした料理やサービス、内装などを提供し、数か月ごとにテーマ作品を切り替えていくコアファン向けのビジネスモデルである。サイバーネットでは、ザイコンのデジタル印刷機を保有しており、内装やグッズの制作コストを他のコラボカフェ事業者より安く、機動的に用意できる。こういった部分を強みとし、海外からもファンが訪れる一種の聖地を作りだした。

成長するアニメコンテンツにどう関わるか

デジタルハリウッド大学の荻野健一氏は地域から聖地を生み出す聖地創生という考え方を提唱している。日本のアニメ会社はほとんどが東京に集中しており、舞台に選ばれた地域が後から作品を知って作品のファンを受け入れるという流れが多い。聖地巡礼の成功には地域の協力が不可欠であるため、熱意のある地域と作品との高い偶然性が必要とされる。荻野氏は、今後は作品を待つだけではなく、地域の物語を発掘し、それを利用しやすい形でアニメ制作会社に提示することが必要だと考えている。地域が主体的に作品に関わることで、作品と一緒に地域の魅力も知ってもらう仕組みを作り、聖地巡礼を地方創生に結びつける方法を提示した。

ピーエーワークスは富山県に本社を置き、地域と関係の深いアニメ会社としては第一人者的な企業である。そんなピーエーワークスの役員が立ち上げ、現在のピーエーワークスの地域活性事業を担っているのが、一般社団法人地域発新力研究支援センター(PARUS)である。現代表は前職が印刷会社勤務だった佐古田宗幸氏であり、PARUSがアニメのコンテンツ力を地域の活力に繋げるために、どのような活動を行ってきたか講演を行った。聖地巡礼を地域振興に活用した最も先進的な例の一つと言える。詳しくは『JAGAT info』9月号で4ページに渡って掲載する。

おわりに

研究会当日は、コンテンツ事業に力を入れている大企業から地域活性に興味を持つ全国の中小印刷会社など、業界内外から40人以上が参加し盛会となった。アニメ・マンガ・ゲームといったコンテンツ産業は成長を続けており、波及効果も大きい。今後もクールジャパンやコンテンツツーリズムといった領域には引き続き注目し、研究会等でも取り上げていく予定である。

(JAGAT研究調査部 松永寛和)

■関連イベント

アニメを活かした地域活性化と事業展開 ~聖地巡礼によるツーリズムと印刷会社の役割を事例に~