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『JIS漢字字典増補改定』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『JIS漢字字典増補改定』
発行所日本規格協会
芝野耕司著 A5判 本体5500円(税別)

 

とかくJIS漢字が社会問題化して,長年の間,実用面でいろいろな批判と議論を呼び起こしてきた。その批判に対して積極的に規格の公開,普及を目指して出版されたのが初版の「JIS漢字字典」で,本書は1997年に出版された初版の増補改訂版である。

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それぞれの文字を利用する際に,必要とする情報が掲載され,現代日本語を表記し,符号化するために十分な情報が提供されている「日本文字字典」の性格をもつ,他に類を見ない漢字字典で偉業ともいえる。

JIS漢字コードの正式名称は「情報交換用漢字符号系」で1978年に制定以来,1983年,1990年の改正作業を経て,1997年に制定されたのが「JIS X 0208:1997」である。漢字は第1水準2965字,第2水準3390字,非漢字524字,合計6879字となっている。

2000年に,JIS X 0208を補完する4344文字を定義し制定されたが,これがJIS X 0203で一般に第3水準・第4水準と呼ばれるものである。文字数は第3水準漢字1249字,第4水準漢字2436字,非漢字659字,合計4344字である。

本書の内容は,漢字が第1・第2水準に加え,第3・第4水準まで合計10040字,非漢字は1183字に拡大され,それぞれ「確かな用法が確認されている情報」とともに,各種文字コードや字形例が示され,加えて後見返しには「包摂基準一覧」が添付されているので,多目的に使いやすい字典といえる。

(プリンターズサークル2002年10月号「Book Review」より)       澤田善彦

 

(2002年11月29日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『印刷に恋して』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『印刷に恋して』 
発行所 昌文社
松田哲夫著  A5判変型 本体2600円(税別)

 

本書は,本の文化(印刷文化)からコンピュータ文化(デジタル文化)への移行過程の問題について,編集者の立場からルポルタージュしたもので,「季刊本とコンピュータ」に連載された内容をまとめたものである。

著者は,編集者の立場から印刷技術の勉強のためにルポしたと書いているが,印刷プロセスに対するアナログ時代の印刷技術と現代のデジタル技術を明確に捉えている。活字組版からCTSへの移行,オフセット製版・印刷,グラビア印刷まで,印刷現場の設備機械やシステムに加えて,現場の苦労話なども含めた技術的な解説をしている。

しかしよくある印刷技術関連のハウツウ書ではなく,印刷技術の歴史的変遷とともに現場的知識が得られるようになっている。しかも要所に機械や現場のイラストが挿入されているが,そのイラストが素晴らしい。単に写真で見るよりは詳細が理解できる。

肝に銘ずべきいくつかのフレーズがある。「レタッチはまさに絵描きの世界である」という。これはDTPのカラー処理に生きる言葉である。また組版や製版をDTPがやってくれる時代になったというが,では「印刷所の独自性はどこに」という課題を投げかけている。

印刷知識がある印刷人でも,興味深く楽しめる本である。印刷技術者が書いたものではないことが,内容を面白くしているのではないだろうか。特にDTP関係者に購読を薦めたい本である。

(プリンターズサークル2002年4月号「Book Review」より)       澤田善彦

 

(2002年12月10日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『活版印刷人ドラードの生涯』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『活版印刷人ドラードの生涯』 
発行所 印刷学会出版部
青山敦夫著 四六判 本体2000円(税別)

 

本書は,天正遣欧使節の従者として印刷術を学び,日本に初めて西欧生まれの「活版印刷」キリシタン版をもたらしたコンスタンチノ・ドラードの生涯を描いた伝記である。

世界的に見て,印刷は宗教文化に支えられてきた。つまり印刷術の必要性は教化,教義のための経典を作ることにある。このことは仏教もキリスト教も同じであろう。

活版印刷術がグーテンベルクにより1450年ころに発明されたが,日本における活版印刷といえば1870年ころ本木昌造により電胎母型と金属活字が開発され,近代活版印刷として生まれたことを思い浮かべる。

しかしその280年前の1590年ころ,コンスタンチノ・ドラードという日本人修道士が母型や活字,印刷機を日本に持ち帰り,島原の加津佐において日本で初めて金属活字の活版印刷を始めている,ということはあまり知られてはいない。その後秀吉,家康のキリシタン弾圧により,日本に芽生えた活版印刷が跡形もなく消滅した。つまり本木昌造まで約400年の空白期間がある。

それを掘り起こしたのが本書である。

著者は国内の長崎,島原,天草,そして海外は天正遣欧少年使節がとったコースを丹念に回り,詳細に取材している。ドラードがリスボンで印刷技術を習得する過程を克明に描写しているが,印刷に深入りしないで人間「トラード」の信仰と印刷に懸ける情熱を通しての生涯を描いている。著者の情熱をも感じさせられる書である。

(プリンターズサークル2002年7月号「Book Review」より)       澤田善彦

 

(2002年12月12日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『日本語のデザイン』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『日本語のデザイン』 
発行所 美術出版社
永原康史著 B5判 本体2500円(税別)

 

「日本語はもともと文字をもたない言語である」といわれている。この本は単なるフォントデザイン解説書ではなく,「日本語をデザインする」ことを考えたグラフィックデザイナーの思考の跡である。

著者は,日本語の文字組みの基本は「ベタ組み」といわれているが,それは情報の大量生産,大量消費のための組版システムであるという。そして組版をデザインの問題として考えるならば,基本としてのベタ組みは既に役割を終えて再検討の時期にきているという。

第1章から第6章で構成され,どの章も含蓄のある内容であるが,なかでも第3章「女手の活字」,第6章「文字産業と日本語」が興味深い内容である。「女手」とは仮名のことであるが,第3章の「女手の活字」では,日本語のデザインを語る上で重要な要素に仮名の「連綿」と「散らし」があるという。

「連綿」とは「つづけ字」のことで,「散らし」は「散らし書き」の意味で現代の「チラシ」に通ずる。「連綿文字」による組版は活字時代には困難であったが,写植文字盤で印字可能とし,その後デジタルフォントにより連綿体組版が可能になった。

第6章「文字産業と日本語」では「明治の混乱と組版」と「戦争と組版」が面白い。戦時中の1940年に,政府統制下で文字組版における書体の使い方,活字サイズ,行間などの組版様式が制限されたと記されているのが興味深い。 読者の参考のために,高島俊夫著の『漢字と日本人』(発行所 文芸春秋)の併読を薦めたい。        澤田善彦

 

(2002年12月20日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『原弘と「僕達の新活版術」』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『原弘と「僕達の新活版術」』
発行所 DNPグラフィックデザイン・アーカイブ
川畑直道著 A5判 317P 本体3333円

 

原弘は,著名なデザイナーらと共に戦後デザイン界をリードした大家の一人である。しかし本書で描いているのは,既に名を成した後の原弘の姿ではない。著者は原弘という人物の研究を志して,その生涯と足跡を余すところなく描いている。最初に本のタイトルを見る限り,グラフィックデザイナーの原弘と「新活版術」の意味が理解できなかった。

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「新活版術」は「ニュータイポグラフィ」の意味で活版印刷術のことではない。「デザインは芸術ではない。結果として芸術と見るのはよいが,芸術は自己表現である。デザインはあくまでも目的を果たすものだから。」これが原弘の生涯を貫いたデザイン観である。

1930年代は印刷メディアそのものが大きく変容した時期といわれているが,DTPによるグラフィックアーツにおける変化の面では現代にも当てはまることである。

原弘はグラフィックデザインだけではなく,ブックデザインの装幀にも優れた才能を発揮した。そして欧文タイポグラフィにおける内的構成として,基本書体はサンセリフ書体を推奨していた。1920年代に生まれた欧文活字のサンセリフ体「フーツラ(futura)」が,原弘により1960年以降の日本において流行したことは印象的である。

原弘の残した足跡は数知れないが,特に印刷関連では欧文印刷研究会の活動である。欧文印刷研究会は1940年2月に結成されたが,戦後の欧文書体や欧文印刷の品質向上に貢献し,欧文タイポグラフィの境地を開いた先達者として原弘の存在は忘れられない。         澤田善彦

 

(2002年12月27日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『印刷屋の若旦那コンピュータ奮闘記Part2』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『印刷屋の若旦那コンピュータ奮闘記Part2』
発行所 印刷学会出版部
中西秀彦著 B6判 183P 本体1200円(税別)

 

本書は,1999年に発刊された『印刷屋の若旦那コンピュータ奮闘記』の続編となるPart2である。「印刷雑誌」に1998年5月号~2001年12月号まで連載された,44回分のコラムを収録し単行本化したもので,Part1同様に分かりやすい用語解説とイラストが楽しい。

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Part1は1999年4月号のBook Reviewで取り上げたが,その時代は1995~1998年の間における自社の変動と印刷業界を観察したもので,いささか古いトピックスもあった。

今回の連載時期は,CTPやオンデマンド印刷,オンライン・ジャーナルといった,21世紀の印刷業を方向づけるような新技術の導入された時期にあたる。しかも印刷業界が不況のあおりを受けた社会的背景もある。

新しい読者のために改めて紹介すると,著者の中西印刷は120年以上の歴史をもつ著名な印刷会社である。Part1の時もそうであったが,印刷とコンピュータを巡る実際の状況が捉えられるようになっている。

いずれの章も興味深く一気に読み下せる内容であるが,なかでも「終点・CTP」「出発・CTP」や,「ITばあさんが行く」「DTPは印刷会社からなくなるか」などは,コンピュータから逃避しがちな印刷屋の経営者にとって示唆に富む内容であろう。

印刷業界の技術的問題や展望だけではなく,不況で暗くなっている業界の現状をユーモラスに明るく語り,印刷の将来に夢と希望をもたせながら印刷業界に警告を与えている。          澤田善彦

  

(2003年1月14日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『DTPフォント完全理解』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『DTPフォント完全理解』
発行所 ワークスコーポレーション
和田義浩他共著 B5判 212P 3000円(税別)

 

DTPの誕生以来,日本語フォント環境は変化してきた。また21世紀に入り新しいフォント環境が生まれ,フォントフォーマットを覚えるだけでも大変である。今までフォント関連の解説書や参考書は数多くあるが,解説内容には隔靴掻痒(かっかそうよう)の感があった。

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フォント環境は0S環境の変化に関係している。つまりMac OSではPS(OCF/CID)/TrueTypeフォント,WindowsではTrueTypeフォント,そして新たに両者共通のOpenTypeである。なぜDTP関係の日本語フォント環境はこのように複雑なのであろうか。

「DTPのトラブルの大半はフォントに起因し,そしてフォントのトラブルは難解といわれているが,理屈が分っていれば理解しやすい」と著者はいう。それはフォントの問題というよりも,コンピュータのOSとアプリケーションに関連しているからだ。

本書はフォントに関する周辺知識のことから,トラブルの原因や対処方法など,微に入り細にわたり解説している。加えて本書の組版レイアウトはユニークである。特にノンブルの位置,柱の組み方が特徴的である。

OpenTypeの登場で,DTPにおけるフォント環境は整備されたといわれているが,アプリケーションの対応が不十分という現状では,一概に喜んではいられない。フォントに関して外字環境の違いが引き起こす混乱は,OpenTypeになっても当分の間続くであろう。まだ普及していないとはいえ,今後の対応として第6章の「OpenTypeフォントの全貌」の解説は,DTPユーザに大いに参考になる。

 

(2003年3月24日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『文字大全 雑誌・書籍・広告・パッケージ』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『文字大全 雑誌・書籍・広告・パッケージ』
発行所 美術出版社
B5判 111P 2500円(税別)

 

本にはそれぞれの性格があり,個性がある。それとともにフォント(書体)にもいろいろな表情がある。例えば新しい─古い,男性的─女性的,堅い─柔らかい,力強い─弱々しい,明るい─暗いなどの表情の違いがある。

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文字(フォント)でデザインするという言葉がある。書体から来るイメージの特徴を捉え,それを生かしてデザインすることを意味する。つまりグラフィック表現としての可能性の追求である。

日本語の組み方のルール作りは難しいといわれる。同じ文章でも組み方によって印象が違ってくる。巷(ちまた)で見かける書籍のレイアウトが,しばしば新鮮さを求めるあまり奇抜なデザインをする傾向が見られる。またやたらに多くの書体を使っているデザインがあるが,少ない書体で印象を与えることが大切であろう。

本書は,雑誌・書籍・広告・パッケージなどの各分野で,タイポグラフィに関する数々の実例を紹介した本で,カテゴリーを「文字を組む」「文字でキメル」「文字をつくる」の3分類に分けて,文字の効果的な使われ方を網羅している。

なかでも「文字デザインの基本」の項で,書体のタイプデザインとロゴタイプのタイプデザインの違いを解説しているが,多くのグラフィックデザイナーやタイプデザイナーの参考になるであろう。

 

(2003年4月3日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『ページと力 』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『ページと力』
発行所 青土社
鈴木一誌著 四六判 367P 2800円(税別)

 

表紙の題名を見た瞬間「ページと力」とは何を意味しているのか,すぐに理解できなかったが,第3章「ページネーション」の中の「行を演出する」の項を読むことで,その真意が理解できた。それほど含蓄がある内容である。

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本書はタイポグラフィに関する素材が豊富に解説されその真髄を追及しているが,単なるグラフィックアーツ関連のハウツウ本でもないところに意義がある。タイポグラフィに関して,広角な視点から分析および解析をしている。

ページネーションとは,本来「丁付け」という意味に使われ,その後「ページを構成する文字・図形・画像を一括してレイアウトすること」という意味として捉えられていた。

しかし本書では,「一つずつの活字を拾うことで行になり,行が集まってページとなる。ページネーションとは,本の1ページを生み出していく行為でありつつ,同時にページ相互の連続性を誕生させていくことだ」と述べている。

いつもながら著者のレイアウトはユニークである。例えば段落改行の1字下げはしないで行頭を揃えていること,また「ランニングヘッド」とは柱のことであるが,本書の柱の組様式が珍しい。

なかでも第2章の中の「日本語の特質とデザイン」および「印刷という定点」の内容は,印刷人にとってここだけでも読む価値がある。そして最後に「ページネーションのための基本マニュアル」は,DTP関係者の指針になるであろう。

 

(2003年7月15日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『印刷入門 』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『印刷入門 』
発行所 社団法人日本印刷技術協会
相馬謙一著 B5判 100P 1800円(税込)

 

大分前からデジタルワークフローの必要性が唱えられているが,それほど普及していないのはどうしたことか。

主な理由としては印刷工程の標準化が遅れていること,そしてデジタル環境の条件がそろっていないことであろう。デジタルワークフローの究極は,CTPワークフローの実現と言っても過言ではない。

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従来はプリプレスから後工程まで分断された作業工程において,専門家集団により専門化して扱われていたが,いまやフルデジタル化の実現により,トータルな知識が求められている。

本書は印刷全般を広く捉えた技術解説書であり,印刷のノウハウを網羅したガイドブックともいえる。印刷メディアに関わる分野の人のために,新技術をベースにした印刷入門書として活用できるし,またプリンティング・ディレクターにとっても,改めて再学習の要点をコンパクトにまとめている。

プリプレス,プレス,ポストプレスの基本技術から,新技術の特殊印刷という分野に至るまで,広く浅くまた平易に解説しているので理解しやすい。

本書は次代の経営者にとって,新しい印刷技術は知識だけではなく,デジタルマネジメントやコミュニケーションというスキルが求められる,ということを示唆している。

 

 

(2003年7月24日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)