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『 オフセット印刷の管理法-変動要素とトラブル対応』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『オフセット印刷の管理法-変動要素とトラブル対応』
発行所印刷学会出版部
照井義行著 A5判 131ページ 2940円

 

本書は,印刷雑誌に1年間連載した「オフセット印刷の管理法」を1冊にまとめたものである。近年印刷経験のない,非印刷業や製版業者などが印刷機を導入するようになったことから,いろいろな印刷に関するトラブルが発生するようになった。

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いまやプリプレスはデジタルの世界であるが,印刷機はまだアナログの世界である。つまり多くの変動要素が介在している。オフセット印刷は水と油の反発を利用した印刷方式であるから,水の管理は重要な要素であるが,そのほかに印刷は用紙,インキ,環境維持など変動要素の固まりと言える。

本書は単に印刷技術を解説したハウツウものではなく,著者の現場の豊富な経験則に基づいた印刷実務に関する貴重な教科書である。いかに良い品質の印刷物を生み出すかを追及している。すべての産業に言えることであるが,「生産性の向上と品質の向上」は永遠のテーマである。

プリプレス工程は以前と大きく変わってきたが,印刷工程について言えば印刷機というハード面の技術的進歩はあるが,印刷原理は大きく変わってはいない。従って作業の標準化を図り,変動要素を人間の経験と勘に頼らず数値的に管理しようというのが,今,提唱されている「CIP3/CIP4」の考え方である。

印刷の原点は印刷機にあり。まずは印刷機の標準化を図ることが,良い印刷物を作るためのキーになるという。印刷オペレータへの貴重な教科書であり,作業標準書としても参考になる書である。

 

 

(2005年3月31日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『<考察>日本の自費出版 』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『<考察>日本の自費出版』
発行所 東京経済
渡辺勝利著 B6判 199ページ 1050円 

 

近年本が売れなくなったとか,若者の活字離れが嘆かれているが,出版社側の反省や努力が足りないことも批判されている。その反動として今や自費出版の全盛時代であるが,自費出版と商業出版はどう違うのか。本書により改めて認識させられる。

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つまり自費出版と商業出版との違いは,採算ベースに乗るかどうかであろう。しかし最近「e-Book」とか電子書籍が注目を浴びているが,これらの利点は商業出版のような過剰な売れ残りによる在庫問題や品切れの問題などの心配がないことである。

パソコンの普及から10年の間に,電子出版と呼ばれる分野は飛躍的進歩を遂げている。一般人がパソコンを利用して,容易に文章作成が可能になったからだ。従来出版物と言えば「紙としての本」を考える時代が長く続いていた。それが「紙としての本」とは全く別の出版が行われるようになった。それが紙以外の「モノ」であるFDやCD-ROMと呼ばれる出版物である。

著者いわく「ベストセラー作りの本」という本があるが,ベストセラー作りのノウハウがあるならば,出版不況というものはないと言う。自費出版ブームと言われているが,「売らない自費出版」と「売りようがない自費出版」があるからだ。

自費出版の受注側は出版社を始め新聞社,印刷所,または印刷団体などと,窓口は幅広くなっている。自費出版を志す人は,本書を読んで自費出版とは何かを認識することである。それは自費出版であって自費出版でないという実態もあるからだ。安易に自費出版に走ることへの危険性を示唆している。

 

 

(2005年4月4日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『秀英体研究 』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『秀英体研究 』
片塩二朗著
発行所大日本印刷株式会社 B5判 736ページ 価格12600円 

 

過去に固有の活字書体名に関する研究や文献が刊行されることは珍しいが,本書は大日本印刷の記念事業の一つとして刊行されたものである。「秀英体」は「秀英明朝体」の代名詞で,大日本印刷の前身である「秀英舎」の名から命名された活字書体名である。

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「秀英体」は「築地体」と並び称され,今日まで文字文化の伝統を印刷業界に継承してきた。本書は「秀英体」に対して,多角的にメスを入れ分析・調査している貴重な資料である。これを見ると大日本印刷の歩みは,秀英体の歴史と言っても過言ではないであろう。秀英舎の源流は「築地体」にあると言われているが,1907年からの大改刻と取り組み「秀英体」が完成されたわけである。

業界最大手の大日本印刷も2003年3月末をもって,創業以来127年続いた金属活字の終焉(しゅうえん)を宣言した。しかしながら「秀英体」は,日本の活字文化を支えてきた大きな柱であることは,貴重な歴史上の事実として後世に残ることであろう。本書は「秀英体」の中で,特に「平仮名書体」の形姿の変遷に注目し,豊富な活字見本帳を基に重点的に調査・分析されている。

「秀英体」における大改刻は,ポイント制活字への移行と機械式活字母型彫刻機によるところが大である。現代の「新秀英体」の改刻の歴史は,1949年(昭和24年)の機械式活字母型彫刻機(ベントン母型彫刻機)の導入から始まる。そして「新秀英明朝体」のコンセプトはCTS(電算写植機)に継承され,さらにデジタル化しDTPのアウトラインフォントにまで至っている。近い将来「秀英体活字資料館」の設置を計画しているという。楽しみである。

 

 

(2005年4月11日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『最新DTP技術読本』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『最新DTP技術読本』
Professional DTP編集部著
発行所 工学社 A5判  223ページ 価格2415円

 

DTPの世界は変わったし,また今後の技術動向も変わろうとしている。そのキーワードは標準化であるという。本書はDTPの新しい動向を,「DTP」「データベース」「プリプレス」「プルーフ」「印刷」「CIP4」の6つの分野に分けてまとめている。

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内容も通常の解説本とは異なる角度から捉え,すべての分野で最新の技術動向を解説している。新技術動向を会得するのに役立つ,DTP上級者向けの解説書と言える。

今まで論じていたプリプレスの川上工程とか,後工程の川下工程という言い方は,いまや一つのワークフローとして見る必要がある。キーワードは,「カラーマネジメント(CMS)」「RGBワークフロー」「PDFワークフロー」,そして「CIP4」である。

特に第4章「プルーフ」で,今後の課題である「カラープルーフ」について取り上げ,新技術動向が解説されている。「JMPAカラー」「オンラインプルーフ」「リモートプルーフ」「インクジェット・プルーファ」などが参考になる。

最近デジカメ入稿が急激に増加し,スキャナに代わるデジカメの実用化が今後予想されるが,撮影時にデザイナーやカメラマンが画像の条件設定を心得るべきである。そしてデジカメのワークフローのトラブルを回避するためには,入稿の標準化が必要になる。

DTPになって責任の所在がボーダーレスになっているという。お互いの役割分担を認識することが必要で,ほかへの思いやりと,標準化や数値管理の必要性を示唆している。最近のDTPの話題はカラー問題が多くなっているが,フォント問題が解決したわけではない。ここでは外字問題を解決すると思われるアドビシステムズの「SING」を紹介しているのが参考になる。

 

(2005年4月14日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『焼跡のグラフィズム『FRONT』から『週刊サンニュース』へ』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『焼跡のグラフィズム『FRONT』から『週刊サンニュース』へ』
多川 精一著
発行所 平凡社 新書  195ページ 価格756円

 

本書は,「気がつくと戦争しかなかった時代」を生きた,著者の優れた宣伝技術とデザインを戦後のジャーナリズムに生かそうとした記録で貴重な証言である。

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著者が東方社,文化社,サンニュース社を経て,敗戦まで対外国宣伝誌「FRONT」に携わり,出版物の読ませる世界から見ることの重要さに開眼したという,著者の戦前戦後の出版記録と生活記録を表現している。

昭和16年12月8日の日米開戦の時からこの記録は始まる。著者は外国向けの宣伝物を制作していた東方社に開戦の翌年に入社。府立工芸を卒業し,先輩の原弘先生の助手として,写真を使った出版物のビジュアル化の先駆けである雑誌「FRONT」を発行していた。

戦時中の軍国主義国家である日本における,日本国民の日常生活の悲惨さ,軍部の官僚主義などに対する批判を,出版人という環境視点から厳しい目で観察しているドキュメントである。

文中頻繁に出てくる制作スタッフの原先生とは,戦後のデザイン界をリードした原弘のことで,タイポグラフィの視点から「ブックデザイン」の概念を当時から取り入れている。著者が尊敬し師弟関係にあるグラフィックデザイナーである。

戦時下の現象は現在の世代では考えられないが,戦前・戦中・戦後に生きてきた人たちは,本書を読んで特別な感銘を受けると思う。特に当時10代後半を過ごした人たちは,勤労動員に狩り出された経験や,B29の焼夷弾(しょういだん)攻撃に遭い家を焼かれ,食糧難にあえいでいたという苦難を経て今日がある。本書はこの経験を平和の願いとして,戦争を知らない世代に反面教師として役立つことを願っているという。

 

 

(2005年7月11日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『図説中国印刷史』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『図説中国印刷史』
米山 寅太郎著
発行所 汲古書院 四六判 283,11ページ 3675円 

 

本書は,大修館書店の月刊学術雑誌『しにか』に,平成4年4月から平成7年3月まで連載の「中国の印刷」をまとめて単行本化したものである。唐時代から清時代までの印刷史の特徴と各種版本の発展について,および明・清の活字印刷について解説されている。

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印刷術の起源は中国に発し,紙の発明とともに古代中国が世界の文化の発展に大きく貢献したものの一つである。本書は,第8章までが唐時代から清時代までの印刷史の特徴と各種版本の発展について,そして第9章では明・清の活字印刷についてそれぞれ述べられている。

特に宋代の出版は幅広い範囲に拡大していったことであるが,特筆すべきことは宋の慶歴年間(1041~48)に畢昇が活字による印刷術を発明したことである。これはグーテンベルグの活版印刷に先立つ400年前のことである。内容は各章ごとに節に分けられ,一貫性のある組み立てとなっており考証も行き届いた細大もらさぬ記述で,中国印刷術の発展を通覧できるようになっている。

特に印象深いのは,第1章第2節「唐代の印刷」における印刷術の起源について述べた部分である。中国では唐前期の印刷物はまだ発見されていないが,日本では770年に印刷された「百万塔陀羅尼経」が現存し中国現存の唐後期の印刷物よりも早い,と述べていることである。

総じて言えば,本書はこれまでの各方面の研究成果を踏まえた,現代日本の書誌学の水準を示す代表作であると言えよう

 

(2005年7月14日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『印刷メディアの基本設計』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『印刷メディアの基本設計』
和田義徳著
発行所 日本印刷技術協会 B5判 84ページ 1600円

 

現代はパソコンを使って文章作成やレイアウト,デザインなどが容易にできるため,プロとアマの差は少なくなっている。著者は,「プロとアマ」の違いはなければならないという。しかし,プロのための必要な要素が欠けてはいないであろうか。

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メディアは多様化しているが本書は,デザインとは情報を可視化するもので,抽象的なイメージやアイデアを具体的に存在あるものにする作業であるという。DTPはいまや印刷物制作のためのツールとして常識になった。そしてデジタル作業環境は,工程の境目がないシームレスな環境になっているのが特徴である。

副題に「企画デザインのセオリーを学ぶ」とあるように,単にDTPやデザインに関する解説書ではなく,カテゴリーを第1章から第7章に分け各セオリーを解説する。第3章「表現段階に必要となる基礎知識」,第5章「製造段階に必要な基礎知識」,第7章「実務で使いたい色彩の基礎知識」などが,「印刷メディアの基本設計」の中核部分として実用的な解説になっている。

印刷メディアの商業デザインや印刷物は企画方針に沿った制作行為で,企画意図やアイデア特性を理解した上で設計図を作らなければならない。つまり設計能力が問われる。

その時に必要なセオリーはいくつかあるが,特に第5章に「製造段階に必要な基礎知識」が上げられている。例えば,組版ルールはセオリーであって組版の基礎知識は不可欠である。しかし,単に組み方ルールの視点から捉えるのではなく,デザインという見地からレイアウト効果を考えるべきである。つまり効率良く使うべきであるということを示唆している。

 

(2005年10月3日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『欧文書体 その背景と使い方』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『欧文書体 その背景と使い方』
小林 章著
発行所  美術出版社 B5判 159ページ 2625円 

 

本書は,デザイン誌『デザインの現場』の連載記事を元に書き下ろしたものである。昔から,日本におけるコマーシャル・デザインや商業印刷物,または書籍印刷物の欧文組版の質的貧弱さやあか抜けないことは,よく外国人から指摘されたものである。

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それはあたかも外国で日本語組版をし,印刷物が作られた状態と似ている。日本語組版ルールを逸脱したレイアウトが行われ失笑されたものである。「漢字・仮名」についても同じことが言えるが,欧文書体の成り立ちや背景を知らずに,見掛けの良しあしで書体を選択しても良い結果は得られないわけだ。

著者は,世界的に著名なタイポグラファのヘルマン・ツアップやアドリアン・フルティガー,マシュー・カーターなどと親交が深い本格的なタイポグラファである。本書は欧文書体を理解するのに優れた数少ないガイドブックで,著者は本文中に次のような名言を吐いている。「悪い書体はないが,悪いフォントはある」。意味深な言葉である。

欧文の印刷物を作るには,まず「欧文書体」の真髄を知ることが大切という。現代のDTPデザイナーや印刷関係者には,欧文に関する知識の乏しい人が少なくない。欧文組版ルールに関しても,基礎知識すら心得ていない印刷プロも多い(和文組版についても言えるが)。まず欧文書体について,その成り立ちと背景は最低限学ぶべきであろう。

しかし日本には,適切な欧文書体や欧文組版を学ぶガイドブックは多くはないが,これだけ豊富に欧文書体を取り上げて解説を付している書は少ない。優れた解説書である。タイポグラファやグラフィックアーツ関係者など,欧文書体を学ぼうとする人たちにとって福音となる書であろう。

 

(2005年10月6日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『誤記ブリぞろぞろ―校正の常識・非常識』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『誤記ブリぞろぞろ―校正の常識・非常識

野村 保惠著
発行所 日本エディタースクール出版部 B6判 213ページ 1470円

 

印刷原稿がパソコンを使って作成されるようになってから久しいが,印刷物上の誤記や誤植は枚挙にいとまがない。つまり入稿データにミスが多いからだ。印刷物作成工程では,原稿入稿から最終成果物に至るまでの中間で「校正」というチェック工程があるから,誤記や誤植が表面に現われる率はそれほど目立っていない。しかしその校正作業での見逃しが,誤植として表面化するわけである。

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チラシ印刷などで,商品価格を一桁間違えて印刷し,印刷所が損害賠償をした例は少なくない。「て・に・を・は」の間違い程度であれば許されるが,致命的なミスは命取りになる。「校正恐るべし」である。

一般に,パソコンで作成された原稿は編集者あるいは発注者をとおして印刷所に入稿される。原稿作成時の誤記・誤植の原因はいくつかあるが,その多くは著者やオペレータの同音異義語の入力ミスである。つまり「かな漢字変換」の誤変換である。

「校正」は出版社にとっては,また印刷所にとっても不可欠な作業である。「校正」に求められる要素は【1】字体の確認【2】組版ルールの確認【3】素読みの3つであると,著者は強調している。著者は出版関係での校正・校閲作業の経験・知識が豊富なベテランであるためすべてに含蓄がある。「引き合わせ校正」も重要であるが,素読みのできる人が求められる。

6章で,具体的な例として「パソコン・OCRの誤植例」を挙げている。本書を座右の銘として,著者,編集者,DTPオペレータなどはぜひ参考にされたい。執筆者は心して原稿作成をしないと,「ミス」は「ロス」につながることを肝に銘ずることである。

 

(2006年3月2日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『オフセット印刷技術─作業手順と知識』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『オフセット印刷技術─作業手順と知識』

小林 章著
発行所 オフセット印刷技術研究会編・著 B5判 360ページ 3800円

 

いまやプリプレスはデジタルの世界であるが,オフセット印刷機はまだアナログの世界と言える。つまり多くの変動要素が介在しているからだ。

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オフセット印刷は水と油の反発作用を利用した印刷方式であるから水の管理は重要な要素であるが,そのほかに用紙,インキなどの変動要素が介在している。

印刷技術のノウハウの伝承が次第に薄れている中で,本書は印刷現場における印刷技術の作業手順と知識に関して,「第Ⅰ編作業手順」「第Ⅱ編知識」「第Ⅲ編オフ輪印刷」に分類し,広範囲に詳しく解説されている。

「第Ⅰ編作業手順」の主な内容は,安全作業・印刷インキの準備・湿し水の準備などを,また「第Ⅱ編知識」では用紙・刷版・印刷インキ・製本・加工・印刷機から見たCMSなど,そして「第Ⅲ編オフ輪印刷」では作業手順・関連知識などについて解説している。

「印刷の原点は印刷機にあり」と言う。従って印刷機周辺技術の標準化を図ることが重要である。近年印刷機の自動化が進み,スイッチを押せば印刷ができると考えられているが,印刷現場のノウハウの伝承が崩れてきている現実を見逃してはならない。日常的なトラブル対策や予防措置にもノウハウと技術が必要であろう。

本書は,印刷現場ではどのようなノウハウと技術が必要かという観点から,初心者から上級者までを対象にまとめられている。「印刷作業標準書」作成の参考書になるであろう。 本質的な印刷品質をチェックする目と知識を習得し,どうすればよいかの判断力を会得していなければ通用しない。

印刷現場管理者にとって必読書と言える。

 

(2006年3月6日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)