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印刷業定点調査 各地の声(2021年7月度)

5月の売上高は+18.2%と高い伸び。消費増税前の駆け込み需要があった2019年8~9月以来の2ヵ月連続プラス。ただし2019年5月比は売上高△12.7%、受注件数△21.3%。実質は15~20%減で推移していると見た方がよい。4月の19年比はそれぞれ△7.2%、△12.4%だったので5月は4月より相当に減速したのが実際である。 続きを読む

多方式のテキスタイルプリンティングを武器にデジタル展開を図るパイオニア

JAGAT info 2月号ではテキスタイル印刷でデジタル展開を進める堀江織物株式会社の事例を紹介した。 今回はその一部を抜粋して紹介する。

堀江織物の成り立ち

堀江織物は愛知県北西部の一宮市に位置している。染色業は水の豊かな土地に集積してきた歴史があり、一宮市にも木曽川・長良川・揖斐川の木曽三川が流れている。これら尾州エリアの河川は尾張工業用水として整備されており、かつては染色業専用の排水設備も作られるなど、地域の繊維業を支えていた。

堀江織物は元々撚糸業を営んでいたが、1950 年には合繊維物製造業に進出。しかし、アパレル関係の売り場に中国製品が進出してきたことで一度は廃業を経験することになった。

しかし、廃業の翌年、1975 年のぼり旗や紅白幕の印刷に参入。1988 年にいち早くオートスクリーン捺染機の4色機を導入し、機械化・効率化に力を入れていくことになった。捺染業の世界では、どのような技術が使われているのか。今後の課題や展開をどのように考えているのか。堀江織物株式会社の取締役マーケティング部部長であり、家業に入る前は広告代理店に勤め、伝統的な染物に留まらない発想を持つ堀江賢司氏にお話を伺った。

複数の印刷方式が生んだ機動力

紙と同じようにテキスタイルにおいても、印刷する対象や用途によって印刷方式を使い分けていく必要がある。では、堀江織物は、どのようにさまざまな印刷方式を使いこなしてきたのだろうか。のぼり旗製造業に参入した同社が最初に導入したのが、紙の印刷で言うところのオフセット印刷にあたるオートスクリーン捺染機であった。インクは主力製品がのぼりであるため、顔料インクを使用している。

現在の堀江織物では、オートスクリーン捺染機は6色機と8 色機が置かれている。機械のスケール感は、輪転機をイメージするとかなり近い。実際に機械を見るとイメージしやすいが、ロールに巻かれた布をセットし、巻き取りながら染色していく。印刷が終わった布はそのまま乾燥部へと移動していく。なお、堀江織物では特色を自社で作成している。グラデーションなどは苦手だが、コーポレートカラーの再現などは得意としており、発色の良さも手伝って現在も主力印刷システムとして活躍している。

堀江織物がインクジェットプリンターを初めて導入したのは2000 年である。当時の主要な取引先にはパチンコ関係が多かった。曜日ごとに催し物が変わり、それに合わせてのぼりも切り替えるため、多種類の注文が入ったという。2010 年にはインクジェット工場を増築。その2 年後には工場を移転し、設備増強を行った。現在ではダイレクト印刷機が10 台と、昇華転写印刷機が15 台稼働している。近年では、昇華転写印刷の品質を生かして、アニメや芸能人のグッズなども作成している。

ラテックスインクプリンターを導入したのは2014年と、比較的最近である。堀江織物ではシルクスクリーンやインクジェットプリントはポリエステルに絞っていたが、塩ビ系のターポリンのニーズもあり、当初は溶剤プリンターを導入していた。だが、ラテックスインクプリンターを導入したことで、塩ビ系以外のさまざまな素材への印刷が可能になった。アイデア次第で気の利いた商品を作れるのが利点である。

また、堀江織物では、比較的小型の機械を使い、DTG(Direct-To-Garment)も行っている。これは、無地のT シャツなどすでに縫製が済んでいるものに印刷を施すというものだ。今後、世界的にデザインの細分化や在庫レスなどの動きが進むことでデジタル印刷の割合は増えると考えられており、堀江織物でも投資を続けてきた分野である。そういった準備のかいもあり、コロナ禍においてはオンデマンドのオリジナルT シャツプリントが一気に伸びた。インクジェット印刷でも、急きょ製作した布マスクが大きな売り上げを生んだそうだ。自由に印刷方式を選べることが、商品展開の機動力を生んでいる。堀江織物では昇華転写印刷やダイレクト印刷を含め、売り上げの約50%をデジタル印刷で作っている。同社はこの動きをさらに加速させ、T シャツをはじめとしたさまざまな製品をオンデマンドで製造する新工場を、本社前に建築中である。

印刷会社のテキスタイル導入

堀江氏いわく、最近、紙の印刷会社がテキスタイル印刷に興味を持ち、相談を持ち掛けてくることが増えているという。その際には、ラテックスやUV であれば可能ではないかと勧めるそうだ。求められる設備投資や技術が比較的少なく、印刷対象も自由度が利く分、ノベルティ的な小物やDTG にも適したラテックスやUV が、投資としては成功しやすいのではないかとのことだ。

ビジネスモデルとして考えられるのは、販促企画を一括して受注した際の+ αとしてテキスタイルを導入するというパターンである。テキスタイルの業者からすると、印刷会社の多くが校正刷りのやり取りや納品でラストワンマイルを握っている点はうらやましく見えるそうである。

もう一つ考えられるのが、テキスタイルの印刷会社とアライアンスを組むという方法である。発注時に紙の販促物と布の販促物を同時に頼めれば、顧客としても利便性が高い。実際、堀江織物では、直接間接をまとめると、印刷会社からの外注は売り上げの大きな割合を占めるそうだ。

印刷媒体を超えたウェブ連携へ

紙と布の印刷会社の境界線は、デジタル印刷によるスキルレス化やIT の連携により、これまでより薄くなっている。堀江織物も変化を体現している会社の一つである。

堀江氏は2013年に株式会社OpenFactoryを設立した。OpenFactoryは現在、製造工場1社だけではまかないにくい個別製造の発注プラットフォームを作るべく紙の印刷会社とも協力してデジタルプリントのプラットフォーム「Printio」というサービスを立ち上げている。これは、ユーザーと工場とを仲介する小ロット印刷のBtoB サービスである。ユーザーがウェブサイトやバックオフィスなどでPrintio に発注すると、内容に合わせてPrintio が適切な工場に注文を行い、必要な個数が生産、納品されるという仕組みを目指している。

Printio が構築しようとしているビジネスモデルについては、「page2021」のオンラインカンファレンスにて2 月22 日開催のセッション「デジタル印刷で切り開く新規ビジネス」で詳細に語られる予定だ。

テキスタイルの印刷では、紙とはまた違った技術が使われているが、適切な印刷方式を選ぶことが事業の幅を持たせ、会社を強くしていく点では同じである。堀江織物も積極的に新しい方式や技術に挑戦し、経営を前進させてきた。デジタル印刷機の活用にも先進的に取り組んでおり、デジタルの強みを生かす事業を構築するため、紙の印刷会社とも協力しながらオンデマンドのWeb to Printを強化しようとしている。

(研究調査部 松永 寛和)