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クリエイティブ路線に進む印刷会社の、コロナ禍での生存戦略とは

JAGAT info 12月号ではアワードを受賞するような一品もののポスターなどを手掛け、ブランド力の向上や新たな受注に繋げているショウエイの事例を報告した。今回はその一部を抜粋して紹介する。

製版の技術でクリエイティブ分野に進出

ショウエイは製版会社として培った技術を元手に近年はクリエイティブ路線に舵を切り、海外の賞を受賞するような印刷物を手掛けるようになったことで、業態転換に成功した。今回のコロナ禍では、他の印刷会社と同じく、ショウエイの主力である大判プリンター系の印刷受注も苦境に立たされている。そのような最中にあって、ショウエイらしさを模索しつつ、どのような展開につなげているのだろうか。

ショウエイは1952 年に、東京都文京区小石川にある印刷会社の集積地で創業した。技術革新によって製版業界は全体の規模が縮小し、業態の転換を迫られるなか、2009 年に導入したのが大判インクジェットUV プリンターのTruepress Jet2500UVだった。最大印字幅は2500mm ×1300mm。厚みも50mm まで対応することができる。最大7 色での印刷が可能であり、高度なデザインや他にはないアイデアを実現することが可能だ。

大量印刷の分野に新規参入しようとすれば、設備投資はどうしても大規模になりがちであり、ロットの確保も難しい。しかし大判プリンターであれば、製版会社として培った技術力をベースに、1 枚から勝負することができるのは大きな強みである。

そして2015 年には、本社を文京区の江戸川橋に移転した。受賞歴を競うようなデザイナーとコラボし、世界三大広告賞の「CLIO AWARD」ブロンズ賞と「One Show」シルバー賞を受賞した。

大判プリンターの導入を振り返って

まず大きかったことは、最終成果物を自分たちの手で作れるようになったという点である。大判インクジェットUV プリンターを導入したことで、直接顧客から発注を受けて、製品を納品できるようになった。結果、顧客層は大判プリンター進出以前とは8 割変化したとのことである。

ショウエイに持ち込まれる、アワードを狙うような案件では、最初は漠然としたアイデアであることも多い。そういったアイデアベースの相談でも、一緒に試行錯誤していくなかで具体的な形となっていく。大判プリンターの導入という設備面での変化だけではなく、それに伴う業務の変動に合わせて、受け身的な営業体制から能動的で提案型の営業へと会社の体質を変えていった。このことが、ショウエイの成功の秘訣であるといえよう。

「CLIO AWARD」「One Show」の受賞以降も、毎年大きな賞を受賞している。アワードのビジネスとしての波及効果から積極的にデザイナーとコラボしてきたショウエイであるが、何度となく刷り直しを行うことを考えれば、採算度外視だともいえる。それでも同社がアワードに向けて協力するのは、ブランド力の向上や、営業の接点につながるからだ。

賞を取ったり個展を開いたりするようなデザイナーは、プロジェクトの中でもそれなりの地位にあることが多く、ゆかりのあるデザイナーからの指名により交通広告やイベントの仕事を受けることもある。また、デザイナーは横のパイプが太いため、新規顧客にも関わらず「一度ショウエイと仕事をしてみたかった」と話をもらうことも多い。先行投資が“ 収穫” に結び付く流れができている。

コロナ禍での新しい挑戦

そのようななか、コロナ禍はショウエイのビジネスモデルを直撃した。それでも、できることをやっていくしかない。そこでショウエイが行っているのは、「改めて種をまく」である。2020 年6 月にデザイン事務所とコラボしたNHK番組のポスター「浮世絵 EDO-LIFE -The HiddenEssence-」が、第99回ニューヨークADC賞で3 部門を受賞した。

これまでの仕事を丁寧にこなしつつ、新しい仕事も始めている。その一つが2020 年4 月から開始した、抗菌印刷によるオリジナルの飛沫防止シートだ。今はどのお店に行っても設置されている飛沫防止シートであるが、美観を損ねているのは間違いない。そこでショウエイでは、きちんと設計して印刷も施し、無粋ではなく、業務上も使いやすい飛沫防止シートを設置している。

コロナ禍が長期化する恐れももちろんあり、デザインと機能さえきちんとしていれば、今後常設することを念頭に、設計・印刷したものを設置するニーズも出てくるだろう。日本中にある飛沫防止シートの何割かでも印刷物に変わるのならば、ビジネスチャンスとなる。もちろん、何の実績もないところに入っていくのは簡単ではない。そこでショウエイでは、これも先行投資と割り切って、まずは自社の持ち出しもありで設置した。これを実績として、営業活動を行っているところだ。

その他に新規事業の中心として考えているのが、動画である。ショウエイではYouTube チャンネルを以前から開設しており、実験的な印刷などを紹介していた。そのチャンネルでJAGDA(公益社団法人日本グラフィックデザイナー協会)の新人賞も獲得した田中せり氏を招いて、「田中せりに聞きたい10 のこと」という企画を行っている。動画の視聴者はデザイナーが中心であることから、ショウエイにとっては“ 見込み客”でもある。

デザイナーが定期的に訪れるようなチャンネルにできれば、一つのコミュニティとして機能させられる。デザイナーからの受注の強化にもつながるだろう。また、デザインの教科書的な動画の販売も考えている。危機的な状況だからこそ、ただ待つだけではなく、自分たちから積極的に動く提案型の営業を行ってきたという経験を生かしている。ショウエイらしさとは何かを見つめ直しつつも、クリエイティブという自社の強みとともに、印刷だけにとどまらない業態へと変化する道をショウエイは模索している。

(研究調査部 松永 寛和)

工夫を凝らす余地はまだ残っていませんか?

12月2日より「JAGAT大会オンライン2020」が好評開催中だ。テーマは「with/afterコロナの経営を考える」。JAGATによる研究調査報告はもちろん、特別講演ではオイシックス・ラ・大地株式会社執行役員COCO/株式会社顧客時間共同CEO取締役の奥谷孝司氏を講師に迎え、生活者の消費行動が大きく変容しつつある昨今、企業は顧客とどのようにコミュニケーションを取るべきかをテーマに約1時間、論じていただいている。この機会に是非、お申し込み・ご視聴いただきたい。
さてJAGATでは、秋口に入りオンライン形式の催事を積極的に開催している。つい先週、12月1日には、10月に開催された「トピック技術セミナー2020オンライン」をさらに掘り下げることをコンセプトに、「デジタル印刷技術の最新事情ディスカッション Part2」を行った。タイトルにディスカッションと付けている通り、登壇したデジタル印刷機メーカーの方は講演前半で技術や新製品などに関するプレゼンを行い、後半はJAGATの登壇者4名からの質問に回答するという進行方式であった。
開催にあたっては、新型コロナウイルス対策として登壇者同士の距離を保ちつつ、透明アクリル板の仕切りを配置した。従来のリアルセミナーであれば、会場でそのまま聴講するだけでよいが、オンライン形式で配信するとなると、さらに工夫が必要となってくる。例えばテレビの討論番組を思い浮かべてほしい。ディスカッションの映像を挟み込むとなると、その内容はもちろんのことながら、飛び交う言葉のキャッチボールの中で話者の姿を的確に追いかけるというカメラワークも重要な要素となってくる。ちなみにこのセミナーでは、ビデオカメラの取り扱いに長けたJAGATのスタッフが(文字通り)腕を振るい、リアルのライブ感を演出した。
このコロナ禍で急速に進んだオンライン配信だが、やり方に工夫を凝らす余地はまだまだ残っているといえるだろう。これは仕事全般にもいえることで、何を維持して、何を変更して、そして何を新たに始めるべきかの判断が今まで以上に、かつ迅速に求められる。『JAGAT info』2020年11月号では、印刷会社がコロナ禍で行った対応策について特集したが、お話を伺った3社の取り組みは、まさに三者三様であった。しかし、これからの時代をしっかりと見据えていこうとする真摯な姿勢は、各社とも共通している。
このような未曾有の状況だからこそ、改めてもう一度、足元を見つめ直すことが重要だろう。そして、自社の強みとは何かと問いかけてみる。そのためのヒントを、JAGATではこれからも提供していく。

(『JAGAT info』編集部)

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