JAGAT info」カテゴリーアーカイブ

印刷業定点調査 各地の声(2019年5月度)

5月の売上高は△1.7%、2カ月ぶりのマイナス。4月は10連休前の駆け込み需要が売上高を押し上げたため、5月はその反動減があった。4月と5月を合わせると通算0.4%増であり、差し引きで見れば表面的な売上高は決して悪くはない。価格の上昇傾向も売上高を押し上げる方向に働いている。 続きを読む

Webコンテンツ制作の現場における記事作成の未来

なぜ、文章作成アドバイスツール『文賢』を開発したのか?

ネット上には情報があふれ、いかに読んでもらうか、いかに検索して選んでもらうかの工夫が求められている。SNSは個人の情報発信のハードルを大きく引き下げる一方で誤解から生じる「炎上」と呼ばれるトラブルが多発している。読みやすく誤解のない文章表現を誰もができるようにするにはどうしたらよいだろうか。株式会社ウェブライダー代表取締役 松尾茂起氏に自社開発の文章作成アドバイスツール「文賢」についてうかがった。

ウェブライダーは、ウェブ集客を支援する、コンサルティング・ツール開発・コンテンツ制作を事業としており、京都に本社を置いている。世の中には多くの校正ツール、校閲支援ツール、推敲支援ツールがあるが、「文賢」の最大の特長はウェブライダー自身がコンテンツ制作をしやすくするために開発した点である。人はどのような文章を読みやすいと感じるのか、あるいは炎上を防ぐためにどのようなことに気をつけたほうがよいかを研究、分析した結果のノウハウが組み込まれている。ウェブでは、読み手が何名訪問して何分滞在して記事のどこからどこまで読んだのか、どのリンクがクリックされたのかといった行動を把握することができる。これが印刷物と決定的に違う点である。ウェブの読者の行動を徹底的に分析することで、わかりやすさや読みやすさの定義ができ、それがツール化されている。

「文賢」の基本機能は以下の7つである。

  1. 文章表現 文章内の表現を豊かにし、より伝わりやすくするための類語や言い換え言葉の候補を提案する
  2. 校閲支援  誤字脱字や誤った使い方をしている言葉、避けるべき言葉を指摘する
  3. 推敲支援  文章をもっと読みやすくするという視点でチェックする。例:同じ文末表現の連続使用、50文字以上の文に読点がないなど
  4. アドバイス  社内ルールなど気をつけたいことを登録しておき、チェックリストとして表示することで、書きあがった文章がルールに沿っているかの最終確認を促す
  5. 文章を確認する  書体を変えて見返したり、音声読み上げで書いたものを耳で確認したり、印刷物として読むことで、第三者視点での確認を促す
  6. 辞書登録  「文賢」が持っている辞書以外の文言をチェックしたい場合、文言の追加や削除ができる
  7. Chrome拡張機能 GoogleのウェブブラウザーのChrome拡張からスムーズに「文賢」にアクセスできる

文章表現機能は、文章をより魅力的にする機能である。例えばグルメライターであれば「美味しい」ということをただ「美味しい」と表現しても飽きられてしまう。表現のレパートリーが乏しいとすぐに行き詰ってしまうが、「文賢」を使えば候補となる表現がいくつも列挙される。「複雑で深みのある味」「スケール感が半端ない」「イマジネーションを刺激する」「言葉を並べつくしても伝えきれないくらいの」などの表現があり、言葉に困らなくなる。

炎上を予防するには

ウェブで炎上する代表的な原因は次の3つではないかとウェブライダーは考えている。

  1. さまざまな視点や価値観を持つ人が読むことを想定できていない
  2. 誤解を生む表現を用いている
  3. 本来はクローズドな範囲で留めておくべき内容を公の場で発信している

ウェブライダーが運営しているワインのサイトの中には閲覧者が50万人、平均滞在時間が18分という記事がある。この50万人の中に記事に対して嫌悪感を抱く人が2、3人いたとする。その人達が悪意のあるツイートをしたとすると、ごく少数派の意見がソーシャルメディア上を流れ多くの人が目にすることになる。ネット上では個人の声の影響力は非常に大きいためメディアを運営することは大きなリスクを背負うことになる。そこで「文賢」では炎上を防ぐためのチェックがある。

一例として、メールでのお客様対応の文章を紹介する。ウェブサービスを提供している会社にユーザーからログインできなくて困っているという問い合わせが入り、それに対してサポート担当からメールを返信するという想定で、文章を作成する。

「文賢」が指摘する改善点

この文章の改善点は図2の通りである。


3つ目にクエスチョンマークを使わないという指摘がある。これは文中にクエスチョンマークがあると「バカにしている」と感じるお客様がいるからである。ウェブライダーはWebサービスのサポートを12年間続けており、これまで27,000件の問い合わせにお応えした実績がある。この経験からお客様がどのような表現を使うと不快な思いをされるのかの理解を深め、社内で共有している。

メールは1回送ってしまったら後で取り返しがつかない。メールを利用したマーケティングツールは非常に進化しているが、文面についてはチェックが行き届かずにいまだにトラブルが起こっている。ウェブライダーは、「文賢」を通じてコミュニケーションスキルを磨いていただければと願っている。

「文賢」を使っていると知らず知らずに豊かな表現力が身につくし、誤解を招くような表現に気を付けるようになる。するとコミュニケーション不全によるトラブルが減って世の中が良くなるというのが開発コンセプトである。

また、「文賢」は、使う人たちが学びを得られるツールになることを強く意識している。そのためアドバイスにおいても「こうすべき」という断定はしない。「わかりやすいかもしれません」「可能性があります」というようにユーザに問い直すような表現にしている。なぜなら、直接、答えを返してしまうと「文賢」に丸投げしてしまい自分の頭で考えなくなるからである。問いが思考を生み、思考が言葉を生むという流れをツールで実現したい。Twitterでの騒ぎなどを見ていると言葉を不用意に発していると感じる。思いつくままに発しているので、配慮が足りず誰かを傷つけ、自分も傷ついてしまう。本来、言葉とは発するのではなく大切に紡いで、編むものである。ウェブライダーは「文賢」を通じて言葉を紡ぐお手伝いをしていきたいと考えている。

(文責 研究調査部 花房 賢)

『JAGAT info』2019年9月号

JAGAT info 2019年9月号表紙

■特集|JAGAT印刷産業経営動向調査2019 設備投資編
設備投資意欲は減退傾向が高まるも川上志向が明確に

■特別企画
印刷ビジネス変革期と働き方改革時代における採用と育成
JAGAT「2019年度新入社員意識調査」より

■地域活性ビジネス研究
コンテンツツーリズムによるまちづくり
富山県南砺市に見るアニメ聖地巡礼の発展プロセス

■私の若手社員時代
同業の先輩経営者、仲間の支えで経営者人生をスタート
―目標は高く、目の前の試練から逃げない生き方を―
池田印刷株式会社 代表取締役社長 池田 幸寛氏

■マーケティング情報
出版ビジネスの最新動向2019
印刷書籍と電子書籍の関係、静かに進行する出版インフラの再構築

■デジ印奏論
デジタル印刷の解像度

■技術トレンド/クロスメディア
進化する動画マーケティング

■技術トレンド/グラフィックス
ウェブコンテンツ制作の現場における記事作成の未来
〜なぜ、文章作成アドバイスツール「文賢」を開発したのか?〜

■Education
印刷業に必要なAIアセスメント人材

■エキスパート資格
「情報」教育とDTPエキスパート

■デザイン・トレンド
インフォグラフィックスで情報にストーリーを持たせる

■メディア業界動向
新聞・通信社の情報サービスの現状と動向
〜スポーツコンテンツの充実・発信が進展 井上 秋男

■森裕司のデジタル未来塾
IllustratorとInDesignの組版機能

■デジタル印刷最前線
紙にこだわり独自色を出す印刷通販「プリンパ」とCD/DVD制作の総合サイト サウンドプレスを運営
株式会社クロスメディア

■DTPエキスパートのための注目キーワード
印刷用紙と規格

■クロスメディアエキスパート試験でも役立つ課題解決入門
AI顔認証技術と拡張現実 影山 史枝

『みんなの印刷入門』のご案内/中途入社・若手社員フォローアップ総合研修のご案内/JAGAT大会2019開催のご案内/『印刷産業経営動向調査2019』のご案内/印刷界OUTLOOK/図書のご案内/Keyword2019/西部支社便り/印刷ビジネス開発実践講座のご案内/『DTPエキスパート受験サポートガイド』のお知らせ/ニュースラウンジ/通信教育のご案内/印刷経営ウオッチング/消息

2019年9月15日発行 A4判

JAGAT info 最新号
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印刷業定点調査 各地の声(2019年4月度)

4月の売上高は+1.9%。昨年4月は+0.1%と前年同月が高かったにも関わらずプラスとなったことは、体感的には数字以上の繁忙さだったと思われる。用紙調達難による需要減もあったが、大型連休前の駆け込み需要が上回った。用紙価格の転嫁、印刷の価格修正も一定程度ながら受け入れられ、表面的な売上高を押し上げた面もある。 続きを読む

アニメと地域活性に関する研究会を開催

6月11日、研究会セミナー「アニメを活かした地域活性化と事業展開」を開催し、好評を博した。また、セミナーの最後に発表された富山県南砺市の事例は現地での取材を含め『JAGAT info』9月号に掲載予定である。

コンテンツツーリズムの有力な一手段として

アニメの舞台となった場所を訪れる「聖地巡礼」。元々作品の舞台を訪れる行為は映画や文学などで昔から見られたが、アニメの舞台モデルを訪れる行為が近年注目され、政府の進めるインバウンド戦略の有力な一つとしても期待されている。

2018年2月に内閣府より発表された海外の日本通に対する調査では、欧州の75%、アジアの57%、北米の23%の人が、日本に興味を持ったきっかけとしてアニメ・マンガ・ゲームを上げている。また、日本アニメの海外市場は2014年から2017年にかけて約3倍へと急成長した。

アニメを題材とした地域の観光資源化は今後、成長分野の一つとなりうる可能性を秘めている。しかし、大きな期待とは裏腹に聖地巡礼をどのようにビジネスとして成立させ、地域の持続的な発展に役立てるかというノウハウの蓄積は進んでいない。そこで本研究会では、印刷会社や研究者、アニメの制作会社といった分野の専門家を招き、様々な視点から聖地巡礼ビジネスを考える研究会を企画した。

地域活性化に貢献するアニメの力

まず最初にJAGATの主幹研究員藤井建人から、印刷会社による地域活性化の動向について発表を行った。印刷会社では地域活性事業に取り組む企業が増えている。JAGATの調査では61.9%が既に取り組んでおり、残り39.1%の中でも必要性を感じないと答えた企業は15.3%に留まった。地域に根ざした印刷会社では周辺地域の活力を上げていくことが結果的に自社の利益に繋がると捉えることが多く、地域活性事業で関係性を深め、地域に新たな価値を創造する構図も生まれている。コンテンツツーリズムは関連グッズや観光MAP、ポスターなど印刷物に限らず地域に派生的な経済を多くもたらすと見られ、印刷会社の持続的な仕事になる部分もあるだろうと注目している。

アニメ関連産業に印刷会社が新規参入した事例について、近年アニメコラボカフェの事業を始めたサイバーネット社の会長、高原一博氏と村上直樹氏が講演した。コラボカフェとはアニメやゲームをテーマとした料理やサービス、内装などを提供し、数か月ごとにテーマ作品を切り替えていくコアファン向けのビジネスモデルである。サイバーネットでは、ザイコンのデジタル印刷機を保有しており、内装やグッズの制作コストを他のコラボカフェ事業者より安く、機動的に用意できる。こういった部分を強みとし、海外からもファンが訪れる一種の聖地を作りだした。

成長するアニメコンテンツにどう関わるか

デジタルハリウッド大学の荻野健一氏は地域から聖地を生み出す聖地創生という考え方を提唱している。日本のアニメ会社はほとんどが東京に集中しており、舞台に選ばれた地域が後から作品を知って作品のファンを受け入れるという流れが多い。聖地巡礼の成功には地域の協力が不可欠であるため、熱意のある地域と作品との高い偶然性が必要とされる。荻野氏は、今後は作品を待つだけではなく、地域の物語を発掘し、それを利用しやすい形でアニメ制作会社に提示することが必要だと考えている。地域が主体的に作品に関わることで、作品と一緒に地域の魅力も知ってもらう仕組みを作り、聖地巡礼を地方創生に結びつける方法を提示した。

ピーエーワークスは富山県に本社を置き、地域と関係の深いアニメ会社としては第一人者的な企業である。そんなピーエーワークスの役員が立ち上げ、現在のピーエーワークスの地域活性事業を担っているのが、一般社団法人地域発新力研究支援センター(PARUS)である。現代表は前職が印刷会社勤務だった佐古田宗幸氏であり、PARUSがアニメのコンテンツ力を地域の活力に繋げるために、どのような活動を行ってきたか講演を行った。聖地巡礼を地域振興に活用した最も先進的な例の一つと言える。詳しくは『JAGAT info』9月号で4ページに渡って掲載する。

おわりに

研究会当日は、コンテンツ事業に力を入れている大企業から地域活性に興味を持つ全国の中小印刷会社など、業界内外から40人以上が参加し盛会となった。アニメ・マンガ・ゲームといったコンテンツ産業は成長を続けており、波及効果も大きい。今後もクールジャパンやコンテンツツーリズムといった領域には引き続き注目し、研究会等でも取り上げていく予定である。

(JAGAT研究調査部 松永寛和)

■関連イベント

アニメを活かした地域活性化と事業展開 ~聖地巡礼によるツーリズムと印刷会社の役割を事例に~

『JAGAT info』2019年8月号

JAGAT info 2019年8月号 表紙

■特集 「2018年度印刷産業経営動向調査」戦略分析
転換期を乗り越える次世代戦略を求めて
強まるマーケティング志向と働き方改革の影響

■特別寄稿
日本とオーストラリアの印刷ビジネスにおけるイノベーション
業界の一大変革期を乗り切るアントレプレナー達
ガレス・トマス/山田 仁一郎

■私の若手社員時代
同業の先輩経営者、仲間の支えで経営者人生をスタート
―目標は高く、目の前の試練から逃げない生き方を―
池田印刷株式会社 代表取締役社長 池田 幸寛氏

■マーケティング情報
地方創生戦略は何が変わるのか
「まち・ひと・しごと創生基本方針2019」を読み解く

■デジ印奏論
電子写真方式デジタル印刷と紙の関係

■技術トレンド/クロスメディア
広がるIoT

■技術トレンド/グラフィックス
普及期を迎えたプロセスレスプレート、デジタルメディアは足踏み

■Education
印刷ビジネス開発への挑戦!自社の弱みを強みに変える逆転の発想
「印刷ビジネス開発実践講座」受講インタビュー
株式会社小西印刷所

■エキスパート資格
デザインとすうがく

■デザイン・トレンド
暮らしを彩る紙製品
「インテリア ライフスタイル 2019」に見る印刷業界の提案

■メディア業界動向
令和初の業界動向
〜厳しい経営環境と新たな取り組み進展 井上 秋男

■デジタル印刷最前線
仮説検証型ショールーム キヤノン「Customer Experience Center Tokyo」

■森裕司のデジタル未来塾
PDFを活用しよう!

■DTPエキスパートのための注目キーワード
UVインキ

■クロスメディアエキスパート試験でも役立つ課題解決入門
O2OからOMOへ 影山 史枝

JAGAT夏フェスセミナーのご案内/印刷産業経営動向調査2019のご案内/印刷界OUTLOOK/キーワード2019/西部支社便り/印刷ビジネス開発実践講座のご案内/図書のご案内/JAGAT通信教育講座のお知らせ/『みんなの印刷入門』のご案内/ニュースラウンジ/JAGAT夏フェス2019のご案内/JUMP東北開催のご案内/印刷総合研究会・印刷産業経営動向調査2019報告会のご案内/印刷経営ウオッチング/消息

2019年8月15日発行 A4判

JAGAT info 最新号

印刷ビジネス転換期を乗り越える戦略とは

「2018年度印刷産業経営動向調査」の結果がまとまった。『JAGAT info』では7月号で概要を報告したが、8月号では戦略分析編として、9月末に刊行が予定されている『JAGAT 印刷産業経営動向調査2019』に先がけて、経営戦略と業績の相関関係、業績良好な会社の思考特性について概要を紹介している。

デジタル化社会になって印刷会社のビジネス環境が大きく変わっており、品質の高い、あるいはすぐれた印刷物を低価格で提供できれば、売り上げ拡大につながるということが難しくなっている。そういった従来どおりのビジネスのやり方で生き残ることができる印刷会社もあるだろうが、それはごく一部の会社だけだろう。となると、自分達の印刷ビジネスのあり方を変える必要があり、そういう意味で転換期であり、次世代に向けた戦略が必要になる。それは、前号の紹介で印刷ビジネスの本質が変わりつつあるようだと言及したことにつながる。

そのことは、ビジネスの現場のところでは当然のように意識されているようで、「2018年度印刷産業経営動向調査」の設問「強化したい工程」では、今回から調査項目に加えた「企画・マーケティング」は、いきなり2番目となり55%の会社が強化したいという結果になった。これからの売り上げを作っていくために、顧客の期待に応えるサービスをビジネス化していく上では企画・マーケティングが重要な役割を担うという表れだろう。

なお、強化したい工程でトップは、7年連続で「デザイン」となっている。いくら素晴らしいマーケティング企画があっても、その施策を実施するにあたっては、説得力のある表現が不可欠である。例えば、さまざまなデータ分析に基づいてピンポイントのターゲットが選定でき、的確なコンテンツを提供できる素晴らしい施策だったとしても、最終的にはターゲットを動かくすだけの表現ができないとならない。そういう意味でもデザインは重要な訳である。

また、最近は「働き方改革」ということで、人手不足対応を含めて、社員の労働環境の改善も課題になっている。これらの問題に対してどのような制度を作ろうとしているのか。ほかにも、財務視点、顧客の視点、内部プロセスの視点や組織や人材の視点などさまざま調査項目から、経営者が次代の戦略をどのように考えているのか、また業績の良い企業はどのような経営視点を重視するのかを探っている。自社の時代の経営戦略を考える上で参考にしてほしい。

JAGATinfo8月号の目次はこちら

■関連イベント

最新調査にみる印刷経営と戦略、設備2019【東京・大阪・愛知】