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『ページと力 』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『ページと力』
発行所 青土社
鈴木一誌著 四六判 367P 2800円(税別)

 

表紙の題名を見た瞬間「ページと力」とは何を意味しているのか,すぐに理解できなかったが,第3章「ページネーション」の中の「行を演出する」の項を読むことで,その真意が理解できた。それほど含蓄がある内容である。

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本書はタイポグラフィに関する素材が豊富に解説されその真髄を追及しているが,単なるグラフィックアーツ関連のハウツウ本でもないところに意義がある。タイポグラフィに関して,広角な視点から分析および解析をしている。

ページネーションとは,本来「丁付け」という意味に使われ,その後「ページを構成する文字・図形・画像を一括してレイアウトすること」という意味として捉えられていた。

しかし本書では,「一つずつの活字を拾うことで行になり,行が集まってページとなる。ページネーションとは,本の1ページを生み出していく行為でありつつ,同時にページ相互の連続性を誕生させていくことだ」と述べている。

いつもながら著者のレイアウトはユニークである。例えば段落改行の1字下げはしないで行頭を揃えていること,また「ランニングヘッド」とは柱のことであるが,本書の柱の組様式が珍しい。

なかでも第2章の中の「日本語の特質とデザイン」および「印刷という定点」の内容は,印刷人にとってここだけでも読む価値がある。そして最後に「ページネーションのための基本マニュアル」は,DTP関係者の指針になるであろう。

 

(2003年7月15日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『印刷入門 』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『印刷入門 』
発行所 社団法人日本印刷技術協会
相馬謙一著 B5判 100P 1800円(税込)

 

大分前からデジタルワークフローの必要性が唱えられているが,それほど普及していないのはどうしたことか。

主な理由としては印刷工程の標準化が遅れていること,そしてデジタル環境の条件がそろっていないことであろう。デジタルワークフローの究極は,CTPワークフローの実現と言っても過言ではない。

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従来はプリプレスから後工程まで分断された作業工程において,専門家集団により専門化して扱われていたが,いまやフルデジタル化の実現により,トータルな知識が求められている。

本書は印刷全般を広く捉えた技術解説書であり,印刷のノウハウを網羅したガイドブックともいえる。印刷メディアに関わる分野の人のために,新技術をベースにした印刷入門書として活用できるし,またプリンティング・ディレクターにとっても,改めて再学習の要点をコンパクトにまとめている。

プリプレス,プレス,ポストプレスの基本技術から,新技術の特殊印刷という分野に至るまで,広く浅くまた平易に解説しているので理解しやすい。

本書は次代の経営者にとって,新しい印刷技術は知識だけではなく,デジタルマネジメントやコミュニケーションというスキルが求められる,ということを示唆している。

 

 

(2003年7月24日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『現代装幀』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『現代装幀』
発行所 美学出版
臼田捷治著 四六判 261P 本体2600円(税別)

 

最初に第Ⅰ章「装幀の愉悦」を読むことで,本書の全体像を把握することができる。「装幀」とは外箱やカバー,表紙など本の外装のみを手掛ける仕事を言うのに対し,本文から外装までのすべてにわたって,一貫した構造的な視覚化を図る取り組みを「ブックデザイン」と区別して扱っている。

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戦後の出版史を振り返ると,目を引く一つの顕著な現象は,本作りにデザイナーが参加する比率が大幅に増加したことである。戦前には多くの著名な画家や書家が本の装幀に携わっていたが,現在では専門の装幀家が存在している。

戦後という新しい時代にふさわしい方法論を提示したのは,グラフィックデザイナーの原弘である。原は戦前からデザイナーとして実績を重ねていたが,装幀を本格的に手掛けるのは戦後からである。

原のデザイン的な手法を特徴付けるのは「タイポグラフィ」の視点である。タイポグラフィとは,元来ヨーロッパにおける概念であるが,タイポグラフィによるアバンギャルドな手法を十全に咀嚼(そしゃく)しながら,それを日本の装幀に取り入れたことである。そして装幀に替わる「ブックデザイン」の概念を明確に提示した。その後継として多くのグラフィックデザイナーが活躍したが,なかでも杉浦康平の功績は大きいものがある。

第Ⅳ章「システム・構造と用紙」の中の,「タイポグラフィの変遷・写植」や「日本語の美しい組版の系譜」などの内容は,時代の流れとはいえ,現代の安易なDTP依存過多の体質に対する示唆になるであろう。

 

 

(2003年10月1日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『Unicode標準入門 』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『Unicode標準入門 』
発行所 祥泳社
トニー・グラハム著 乾和志・海老塚徹 訳 B5変 455P 3800円(税別)

 

コンピュータの世界では文字コードや字種が,送る側と受け手側のコンピュータが同じ環境にないと,同じ文字を表示できないという問題がある。これは日本語だけでなく,世界共通の問題である。ここにUnicode標準の意義がある。

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日本ではJIS漢字を基本としながら,ローカルな拡張文字コード体系の「今昔文字鏡」,BTRONのOS対応の「超漢字」などが生まれている。また住民基本台帳や電子政府化のための文字種とコード体系が検討されているなど,近年文字コードについていろいろな論議が交わされている。

Unicode標準は,漢字圏・非漢字圏を含めたグローバル・スタンダードの文字コード体系のことである。日本ではJIS漢字コードが基本となっているが,同じ漢字圏でも中国や韓国などは,それぞれ独自のコード体系をもっている。

Unicodeの解説を取り上げている本はいろいろあるが,ほとんどは主題に対する補足として説明しているものが多い。ところが本書はUnicodeや文字集合について,文字・グリフ・フォントなどの基本的なことから,Unicodeの背景などが解説されている。

普段一般ユーザはUnicodeを意識してはいないが,さまざまなOSやプログラム言語でサポートされている。 Unicode標準をサポートしているのはWWWアプリケーションだけではなく,最近のOSではシステムが提供するサービスに最初からUnicodeのサポートが組み込まれている。

Windows,MacOS,UNIX,Linuxなど幅広い。

 

 

(2003年10月6日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『ICタグって何だ?』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『ICタグって何だ?』
発行所 カットシステム
荒川弘煕編 NTTデータ・ユビキタス研究会著 A5判 190P 1800円(税別)

 

ICタグというのは,その名のとおり「ICチップの荷札」のことで,このICタグという言葉,あるいはその技術的名称であるRFIDという言葉が,2002年末くらいからにわかに脚光を浴びるようになってきている。理由は,本書の冒頭のタイトルにあるように,ICタグが「ユビキタス・コンピューティング社会期待の星」だからである。

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RFIDというのは,Radio Frequency IDentificationの略で,「無線認証」という意味。RFIDの代表的な例は,JR東日本の「Suica」である。従来のプリペイド式カードと違って,ピッとかざすだけで改札を通ることができる上,何度でもチャージし直せる便利さは,一度(ひとたび)使い始めたら,だれもがもう後戻りできないと感じるのではないだろうか? この「Suica」が,ヒトが使うICカードであるのに対して,本書が中心的に扱っているのは,モノの管理用に使われるICタグのほうである。

「第2章 ICタグの応用分野」の「2.1 ICタグのある風景」や「2.2 用途による分類」を読めば,ユビキタスの夢物語を現実化する上で,ICタグがいかに重要な役割を果たすかがよく分かる。例えば,車の盗難防止のために,ICタグを車のキーに埋め込む,書店での万引き防止のために,ICタグを書籍に埋め込むといったように,あらゆるモノにICタグを付ける計画は着々と進んでいる。

本書は,ICタグの技術,標準化動向,業界動向についてはもちろん,その課題や将来展望についても,非常に分かりやすく簡潔にまとめているので,ICタグとユビキタスについて考える際には,間違いなく必読の書といえよう。

 

(2003年12月25日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『Acrobat 6.0+PDF パワー・クリエイターズ・ガイド』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『Acrobat 6.0+PDF パワー・クリエイターズ・ガイド』
発行所 アスペクト
諌山研一ほか著 B5変形 238P 2400円(税別) 

 

「Acrobat1.0」の登場は1993年であるが,日本語版の「Acrobat3.0/PDF1.2」は1997年である。その後フォント埋め込みが可能なPDF1.3が1999年に登場した。

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その後大きな変化は見られなかったが,2003年に「Acrobat6.0/PDF1.5」にバージョンアップされ,本格的なPDFの実用化の動きが見えてきた。しかしAcrobat6.0/PDFになったといっても,まだ完全とは言えない。そこで新たに「PDF/X」が話題になっている。

Acrobat/PDFは,ビジネス文書交換だけではなく,グラフィックアーツ業界においてもPDFによるデジタルワークフロー実現に大きな期待を寄せられていたが,今まで十分に活用しきれていない状況である。

いまやDTPは印刷物制作におけるスタンダードな手法であり,電子送稿によるデータ入稿がスタートしようとしている。PDF/Xを入稿用データとして出力トラブルを避ける,新たなDTPワークフローの確立が必要である。しかしPDFファイルにすれば問題はない,と考えるのは早計である。それなりの知識と経験が必要である,と本書は警告している。

PDFに関する解説書が数多い中で,本書は最もグラフィックアーツ業界寄りの技術的内容にまとめられている。グラフィックアーツ関係者のみならず,ビジネス関係者にとっても実用書として参考になるが,なかでも「PART 03 PDFを利用した校正ワークフロー」「PART 04 PDFによる高度なカラーマネージメント」,加えてコラム欄の「PDF/Xの概略」「Macintosh版/Windows版の違い」「望ましいPDFワークフローとは?」など実用的で必読の書といえる。

 

(2004年2月9日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『デジタル時代のクリエイターに求められる条件』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『デジタル時代のクリエイターに求められる条件』
発行所 すばる舎発行
大内エキオ著 B6判 207P 1500円(本体価格)

 

グラフィックアーツデザインの世界でも,またインダストリアルデザインにおいても,常に創造性がある技術者は求められるものである。それがクリエイターであろう。そしてデジタル時代には,それにふさわしいクリエイターが求められる。

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デジタル化が進むにつれ,デジタルデザインとかデジタルクリエイターと称するビジネスや職業が増えている。本書はアプリケーションの解説書でもなく,デザインの教科書でもないし,またマニュアル本でもないとことわっている。本書はクリエイターになるための指針を示したもので,デジタルクリエイターを志す人への道標となるであろう。

クリエイターにはアートディレクター,デザイナー,コピーライター,イラストレーターなど,創造的な仕事に携わる技術者が多いが, たとえコンピュータのMacをいくらうまく使えても,その道のスキルがなければ満足な仕事はできない。

つまり各分野のスキルを磨くことが大切で,コンピュータはデジタルワークの手段であり道具である。そしてデジタルを感じさせないデザインが大切である。すなわちスキルがあるのと,ないのでは,雲泥の差と言う。

第4章「デジタル時代にも役立つアナログスキル」は含蓄がある。著者のアナログ時代の豊富な経験が紹介され,デジタルクリエイターを目指す示唆となっている。「Macありき」から育った現代の若者たちには,アナログ時代のスキルやセンスを身に着けることが重要と,著者は言う。これはDTPによる印刷物制作にも共通して言えることであろう。

 

(2004年5月10日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『本は変わる!印刷情報文化論 』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『本は変わる!印刷情報文化論 』
発行所 東京創元社
中西秀彦著 B6判 209P 1400円(本体価格)

 

近年出版不況が唱えられている中で,その原因として若者の活字離れが言われて久しいが,それに対して本の造り手側の努力は見直されているのだろうか。 著者は過去の本誌欄で数回紹介したことがある中西印刷の経営者で,著者の長年にわたる印刷経営の経験から,またIT経営者としての視点から,現代,未来のメディアの変化を捉えている。多くの印刷経営者の示唆に富む内容が盛り込まれている。

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従来の概念の本という印刷物は,紙という材料と情報を売っているわけだ。つまり売価の付加価値は「紙とコンテンツ」と言える。紙の本がなくなるとか,なくならないとかの議論があるが,グラフィックアーツとしての本は,本としての利点があり,本としての価値がある。従って現在の形態の本は簡単にはなくならないと,著者は言う。

しかしベストセラーの本は別として,多種少量出版の形態になることは免れないであろう。そこで注目を浴びたのが新デジタル方式の「オンデマンド印刷」である。しかしこの形態は,印刷プロセスが変化しただけで,最終結果は紙上の印刷物の形になる。従って,単に小部数印刷や短納期だけを特徴としても商業ベースに乗りにくい。つまりスピーディなインターネット出版にはかなわないことになる。

新しい情報伝達方法は,デジタルコンテンツを先にインターネットで出版し,その後必要に応じて紙の出版物にする形態が一般的な手段になるであろう。現在まだ紙の本の利便性はあるが,未来は紙の本だけの手段だけではなく,電子媒体を使っての読書形態が増えるであろう。そして紙の上の技術革新は「オンデマンド印刷」が最後であろう,と言う。

 

(2004年5月17日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『編集者の組版ルール基礎知識』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『編集者の組版ルール基礎知識』
発行所 日本エディタースクール出版部
野村保惠著 A5判 184ページ 1890円 

 

組版ルールと言うと堅苦しい感じを与えるが,可読性を高めるための慣習的な組み方を意味する。つまり読みやすく,誤読されないようにすることが第一義の目的である。

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かつてある著名な編集長いわく,本の売れ行きは組版の良しあしで決まるわけではなく,内容が本の売れ行きを左右すると言ったことがある。これは真理であるが,組み方はどうでもよいという意味ではない。

パソコンの組版ソフトを使えば,だれでも文字組版ができるようになった。そのためDTPの普及により,組版品質は低下したと言われている。しかし組版ソフトのデフォルト値のままで,どうして標準レベルの組版ができないのであろうか。

つまり多くの組版ソフトのデフォルト値が,標準レベルとは言えないということである。従って組版ルールにはいくつかの選択肢があるわけで,正しい選択をするために組版知識が重要なカギになる。

本書は単なる組版ルールの解説書ではない。組版ルールには守らなければならない部分と,レベルに合わせて許すという部分があると言う。どのように組めば体裁が良いか,なぜこのように組むのか,などの理由を解説しているので理解しやすい。

日本語組版には縦組みと横組みがある。例えば音引きや拗促音には縦組み用と横組み用とがあり,その使い分けが必要である。そして約物が連続した場合の組み方がある。

本書には欧文組版のオックスフォード・ルールとシカゴ・ルールが解説されているが,一般の組版解説書としては数少ない例である。そして関連書に「本づくりの常識・非常識」があるが,併読を勧めたい。

 

(2004年6月24日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

『標準DTPデザイン講座 基礎編』

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『標準DTPデザイン講座 基礎編』   
発行所 翔泳社
生田信一・板谷成雄共著 B5判 224ページ 2520円 

 

本書はグラフィックデザインを主体としたDTPの基礎知識の解説で,内容はグラフィックデザイナーを対象としている。グラフィックアーツの視点から印刷技術を捉え,図版を豊富に使いDTPの基礎を理解しやすく構成されているが,内容の間口が広範囲になっているため,基礎知識として焦点が絞りにくいきらいがある。

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しかも基礎的知識として,必要な内容が不足している感がある。また一般の印刷業界用語で表現したほうが理解しやすいと思える個所が散見される。

例えば,印刷に重要な「トラッピング」の知識や処理テクニック(チョーク,スプレッド)について,表面的な解説で終わっているのは物足りない。

また,カラー画像処理のテクニックなどについて,印刷製版に関連した基礎知識なども解説を加えたほうが親切であろう。従って,本書は基礎編となっているが,DTPの上位を目指す中級ユーザクラス向きと言える。

気になるのは,「文字の基本知識」の章の書体見本に,標準DTPで使えない写研書体(本蘭明朝,ナール)が挙げられているが,これは誤解を招く。そして,グラフィックアーツとして重要なタイポグラフィについて,もう少し深く触れてほしかった。多くのDTP関係者には,アナログ時代の印刷技術の継承が欠乏しているからだ。

そのほか,多くの解説書がそうであるが,製本に関する「面付け」の中で,ほかの製本様式と異なる中綴じの面付け方法について,具体的に解説があったほうが良いと思える。

 

 

(2004年6月28日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)