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日本の季節と色と形(4)

会員誌『JAGAT info』の表紙のデザインについて紹介する。

会員誌『JAGAT info』の表紙のデザインは、印刷文化を語る上で欠かせない、色と形をテーマにしており、現在は「日本の形シリーズ」として、本誌の発行時期の歳時や風物をモチーフを主体にして、季節感と日本情緒が感じられるようなものとしている。

参考:『JAGAT info』バックナンバー 

では最近のバックナンバーから、表紙に描かれたモチーフについて解説し、制作手法を紹介しよう。

2024年10月号 「キノコ」

『JAGAT info』2024年10月号 表紙

そろそろ肌寒くなる時季であることから、鍋物や煮物などの温かい料理に活躍する食材であるキノコをテーマにした。
料理にキノコ類を入れるとうま味が増すし、シンプルに、バター焼きやホイル蒸しにしてしょうゆを垂らしてもおいしい。制作中は、我が家の食卓でもキノコを入れた炒め物や自家製の「なめたけ」の出番が増えた。
表紙に描いたのは椎茸・エリンギ・松茸・舞茸・ブナシメジ・エノキタケだが、他にも多くの種類がある。品種によって色も形もさまざまであり、それぞれの特徴を出すのは難しくもあり楽しくもあった。
制作に当たっては、色鉛筆で手描きした後、スキャンし、ptohoshopで色調を調整した。

なお、キノコで思い出すのは、2024年12月19日に逝去された絵本作家・いわむらかずお氏による『14ひきのあさごはん』。どんぐりパンときのこのスープを囲んだ朝食風景が微笑ましかった。

2024年11月号 「サザンカ」

『JAGAT info』2024年11月号表紙

サザンカとツバキは、どちらもツバキ科ツバキ属に属していることから、区別がつきにくい。
しかしよく観察すると明らかな違いがある。
例えばツバキの花弁は付け根が合着して筒状になった、いわゆる合弁花であるが、サザンカの花弁は一枚ずつ分かれている。そのため花が終わるとツバキは咲いた形のままポロリと落ち、サザンカは花弁が1枚ずつ散る。
雄しべの形も、ツバキの場合、花の中心部の花糸(雄蕊の中で、先端の花粉嚢を支える部分)同士が接着して筒形になっているのに対し、サザンカの花糸は一本一本が離れている。
また葉を見てみると、ツバキの場合、先が尖った卵型でつやと厚みがある。一方サザンカの葉はツバキより小ぶりで、表面に艶はなく、葉の縁がギザギザしている。
制作に当たっては、11月号と同様、色鉛筆で手描きした後、スキャンし、ptohoshopで色調を調整した。

2024年12月号 「白蛇」

『JAGAT info』2024年12月号表紙

2025年の干支にちなみ白蛇をテーマとした。
白蛇はアオダイショウなどが色素異常で白化した個体(アルビノ)のことを指す。山口県岩国市には古くから白蛇が多数生息し、白化が子孫に受け継がれている希少な例であることから「岩国のシロヘビ」として国の天然記念物に指定されている。
日本の絵画ではたびたび、琵琶に絡み付いた白蛇が描かれている。その由来は、白蛇が弁財天の使いであり、弁財天が持っている楽器が琵琶であることによるとされている。
筆者は爬虫類が苦手ではある。しかし白蛇の顔をよく見ると、目は丸くて赤く、口元は笑っているようにも見えなくもない。そのため、描き上げた白蛇の表情は可愛げのあるものとなった。
制作に当たっては、白蛇と琵琶を色鉛筆で描いてスキャンし、和紙のテクスチャーに色を乗せた画像を背景に合成した。


表紙絵を担当していると、日本文化の歴史や他国との関係などを知ることができ、対象となるものを観察することで思わぬ発見もある。今後もさまざまな題材を通じて、日本の風物の魅力を伝えていきたい。多忙な日々を送る読者の方々が、本を手に取る一瞬にホッと一息ついていただければ幸いである。

(『JAGAT info』制作担当 石島 暁子)

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印刷白書2024

印刷白書2024
印刷産業の現在とこれからを知るために必携の白書『印刷白書2024』
第1章 Keynote 「共奏」ビジネス
第2章 印刷産業の動向
第3章 印刷トレンド
第4章 関連産業の動向
第5章 印刷産業の経営課題
ご注文はこちら発行日:2024年10月31日
ページ数:120ページ
判型:A4判オールカラー
発行:公益社団法人日本印刷技術協会
定価:9,900円(9,000円+税10%)
JAGAT会員特別定価:8,300円(7,545円+税10%)

解説

印刷産業のこれからを知るために必携の白書『印刷白書2024』

あらゆる産業を顧客とする印刷産業は、さまざまな産業と密接に関わりを持っています。「印刷白書」では、印刷産業の現状分析から印刷ビジネスの今後まで幅広く取り上げています。

印刷・同関連業界だけでなく広く産業界全体に役立つ年鑑とするために、社会、技術、産業全体、周辺産業というさまざまな観点から、ビジョンを描き込み、今後の印刷メディア産業の方向性を探りました。

印刷業界で唯一の白書として1993年以来毎年発行してきましたが、2024年版ではdrupa、サステナビリティ、事業承継などの項目を追加しました。

印刷関連ならびに情報・メディア産業の経営者、経営企画・戦略、新規事業、営業・マーケティングの方、調査、研究に携わる方、産業・企業支援に携わる方、大学図書館・研究室・公共図書館などの蔵書として、幅広い用途にご利用いただけます。

「第1章 Keynote」では印刷会社の「共奏ビジネス」をテーマに、印刷ビジネスの課題解決に取り組んでいます。「第2章 印刷産業の動向」では印刷産業の現状と課題を俯瞰的に捉え、「第3章 印刷トレンド」では技術課題を整理しました。「第4章 関連産業の動向」ではクライアント産業の動向を探りました。「第5章 印刷産業の経営課題」ではサステナビリティから人材まで印刷産業が取り組むべき課題を整理しました。
印刷メディア産業に関連するデータを網羅し、UD書体を使った見やすくわかりやすい図版を多数掲載し、他誌には見られないオリジナルの図版も充実させました。

CONTENTS

第1章 Keynote 「共奏」ビジネス
印刷ビジネスは「創注」から「連携」、そして「共奏」へ

第2章 印刷産業の動向
[産業構造]多くの可能性を秘めている印刷テクノロジーの対応力
[産業連関表]あらゆる産業に提供される印刷製品・関連サービス
[市場動向]共創による価値創出へのビジネスモデル革新 インフレ時代の利益成長に向けて
[上場企業]サステナビリティの実現と企業価値向上を目指す上場印刷企業
*関連資料 産業構造/産業分類・商品分類/規模(1)/規模(2)/規模(3)/産出事業所数(上位品目)/産出事業所数・出荷額/調達先と販売先/産業全体への影響力と感応度/最終需要と生産誘発/印刷物の輸出入額と差引額/印刷製品別輸出入額/印刷物の地域別輸出入額/印刷物の輸出入相手国/経営動向/上場企業/生産金額(製品別)/生産金額(印刷方式別)/売上高前期比・景況DI/設備投資・研究開発/生産能力/紙・プラスチック/印刷インキ/M&A

第3章 印刷トレンド
[デザイン]消費者ニーズに応えて進化するデザイン
[ワークフロー]印刷に新しい価値を吹き込むオンデマンドサービス
[drupa]drupa2024でデジタル印刷の将来は見えたか
[後加工]受注単価の値上げに取り組み、第3の市場開拓を模索する製本業界
*関連資料 設備投資の動向/フォーム印刷業界

第4章 関連産業の動向
[出版業界]出版市場の動向と読書バリアフリー
[新聞業界]新聞ならではの信頼性を確保しつつ進むデジタルシフト
[広告業界]広告費は過去最高の7.3兆円、インターネット広告は3.3兆円に
[DM業界]ターゲット精度の向上と顧客データの活用・解析でDM効果の最適化を図る
[地域メディア]地域メディアが持つ本質的な効果と事業創出力 派生的効果の包括的評価に向けて
[通信販売業界]通販・EC市場売上高は13兆円超えと成長続く 目立つ老舗カタログ通販企業へのM&A
*関連資料 出版市場/新聞市場/広告市場/通販市場
[コラム]自分を幸せにしてあげていますか?

第5章 印刷産業の経営課題
[サステナビリティ]ビジネスに直結するサステナビリティ サプライチェーン全体で環境対応を考える
[地域活性化]経営資源を活用した地域活性化による企業成長 起業しやすい地域づくりで差をつける
[経営管理]人口が減少する成熟社会の企業経営を考える 経営者に求められる「市場創出」のマインド
[事業承継]未来を見据えたベンチャー型事業承継の提案 自社の経営資源に後継者の意志を融合する
[デジタルマーケティング]デジタルマーケティングはAIマーケティングへ進化、そしてAIインダストリーへ
[AI活用]進化が進む生成AIとAI技術 今後の利活用の鍵は各工程における連携
[労務管理]省力化対応の観点から考える新しい労務管理
[人材]経営戦略とともに捉える人的資本の形成
*関連資料 クロスメディア/AI活用/人材

●巻末資料
DTP・デジタル年表/年表

2000年代の広告を振り返る

アドミュージアム東京で開催された「『コレって広告?!』展 ―拡張する21世紀の広告クリエイティブ―」の展示内容を通じて、21世紀に入り急速に変容している広告の役割について考える。

(さらに…)

最先端の科学技術を身近に感じる展覧会

デザイン専門の展示施設 21_21 DESIGN SIGHTで9月8日まで開催中の企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」は、最先端の科学技術とデザインの融合によって生み出されたプロトタイプを通して、未来の社会や暮らしの姿を想像するきっかけを提供している。

「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」展示風景(ギャラリー2)

展示風景(ギャラリー2)

未来のかけらとは、今すぐ実用化には至らないもの、未来の社会や暮らしの姿を予感させるものといった意味合いである。

その名のとおり、本展は最先端の科学技術の成果と、これを具現化したデザイン実験を通じて、来場者が未来の姿を想像するきっかけとなることを目指したものである。

本展の展覧会ディレクターを務めるデザインエンジニアの山中俊治氏は、工業製品のデザインを手掛けながら、各分野の専門家との協働で科学技術とデザインを融合させながら、数多くのプロトタイプ(試作品)を発表してきた。

会場では山中氏らの研究成果をアイデアスケッチを交えて紹介するほか、デザイナー・クリエイター・科学者・技術者の参加を得て、多彩なコラボレーション作品を展示している。触って楽しむことのできる展示もあり、科学技術の世界を身近に感じられるような工夫がなされていた。

山中氏によるアイデアスケッチ

山中氏によるアイデアスケッチ

「触れるプロトタイプ」(山中研究室+新野俊樹)

「触れるプロトタイプ」(山中研究室+新野俊樹)

以下、展示の一部を紹介する。

nomena+郡司 芽久 「関節する」

nomena+郡司芽久「関節する」よりフタユビナマケモノの前肢骨の模型

nomena+郡司芽久「関節する」よりフタユビナマケモノの前肢骨の模型

動物の関節の仕組みを再現した骨格模型を展示している。模型のモデルはアビシニアコロブスの頭蓋骨、フタユビナマケモノの前肢骨、キリンの後肢骨の3種類で、いずれも立体パズルのように、骨の部位をバラしたり組み立てたりすることができる。個々の部位の接続位置には目安となるマークが付けられ、内部にはしっかり接続させるためのマグネットが仕込まれている。

とはいえ骨の構造は複雑であるため、一度バラすと元に戻すのが思いのほか難しく、それだけにピッタリと合わせたときは達成感を味わえる。

このように遊びながら学べるところがユニークで、動物の骨格構造を体感的に理解するのに資するのではないか。

千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)+山中 俊治 「Robotic World」

 

千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)+山中俊治「Robotic World」よりHalluc IIχ

千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)+山中俊治「Robotic World」よりHalluc IIχ

開発中の移動ロボットなどのプロトタイプを、アイデアスケッチや設計図と合わせて紹介している。それらに共通するのは、モーターやケーブルなどの構造を美しくデザインしていることと、生き物の姿を思わせる柔軟な形と動きである。

例えば移動ロボットのHalluc IIχは、多関節ホイール・車輪モジュール8脚とモーター56個を装備しており、車両モード・昆虫モード・動物モードに形態を変化させることで、車輪による走行のほか、歩行のように一歩ずつ脚を上げ下げして進んだり、進行方向を自由に変えたり、段差を乗り越えたりすることができる。

人が容易に入り込めない場所での作業などに活用できるのではないか。

東京大学 DLX Design Lab+東京大学 池内与志穂研究室 「Talking with Neurons」

東京大学 DLX Design Lab+東京大学 池内与志穂研究室「Talking with Neurons」

東京大学 DLX Design Lab+東京大学 池内与志穂研究室「Talking with Neurons」

iPS細胞からできた脳の神経細胞(ニューロン)と遠隔で「会話」をする作品である。会場では過去のインスタレーションの映像を展示している。

その仕組みは、まず神経細胞が集まってできた神経組織(神経オルガノイド)に電極を付け、参加者がマイクを通して入力した音声を電気信号に変換し、電極を通して神経細胞を刺激する。そこで神経細胞から発せられた信号をリアルタイムで音や映像データに変換し、スクリーンに映し出している。

神経細胞を既存の技術に組み込むことでどのような未来が待ち受けるのか、考えさせられる研究である。

A-POC ABLE ISSEY MIYAKE+Nature Architects  「TYPE-V Nature Architects project」

A-POC ABLE ISSEY MIYAKE +Nature Architects 「TYPE-V Nature Architects project」より一枚の布から縫製せずに立体化して作られたブルゾン

A-POC ABLE ISSEY MIYAKE +Nature Architects 「TYPE-V Nature Architects project」より一枚の布から縫製せずに立体化して作られたブルゾン

衣服を作る際、通常は多数の布のパーツを縫製して身体のラインに沿った形に仕上げる。しかし本プロジェクトでは、熱を加えて布を収縮させるスチームストレッチ技術と、布の収縮パターンを計算して自動で服の折り目を設計する技術を組み合わせることにより、一枚の布を縫製せずに立体化させている。

会場では、この手法で作られたブルゾンのほか、半円形のランプシェードや折り鶴など、布で作ることが難しい形状のプロトタイプを展示している。

衣服の自由な形とともに、布を利用した新しいプロダクトの可能性も示している。

山中研究室+新野 俊樹 「Ready to Crawl」

山中研究室+新野俊樹「Ready to Crawl」

山中研究室+新野俊樹「Ready to Crawl」

3Dプリント技術で作られた生物型機械のシリーズを展示している。これらは、パーツの全てが連結した状態で設計・出力するため、組み立てる作業がほとんど不要であり、内部にモーターを挿入して電源を入れると動き始める。

複雑曲面や柔軟構造を生かした機構によって、本物の生き物そっくりの有機的な動きを実現している。このような研究が進めば、複雑な機構を持つ装置を低コストかつ短期間で開発できるようになるかもしれない。

山中研究室+稲見自在化身体プロジェクト 「自在肢」

山中研究室+稲見自在化身体プロジェクト「自在肢」よりロボットアームを装着したイメージの展示

山中研究室+稲見自在化身体プロジェクト「自在肢」よりロボットアームを装着したイメージの展示

「自動化」が人間の作業を機械に置き換えるのに対し、「自在化」は主体的な行動を支援する技術であると定義し、その研究の一環として「自在肢」を開発した。ロボットアームを装着したベースユニットを背負って使用する仕組みである。

また、装置の開発と同時に、使用することで脳の働きにどのような変化が起きるのかについても研究している。

身体に装着する装置といえば眼鏡や義手など機能の不足を補うものが思い浮かぶが、「自在肢」は機能拡張という視点が斬新であり、これが普及した場合、人間の暮らしや思考にどのような変化が起きるのか、興味深い。

山中研究室・村松 充+宇宙航空研究開発機構(JAXA)・ミズノ 「emblem」

山中研究室・村松充+宇宙航空研究開発機構(JAXA)・ミズノ「emblem」のコンセプトデザイン

山中研究室・村松充+宇宙航空研究開発機構(JAXA)・ミズノ「emblem」のコンセプトデザイン

ウエアラブルな個人用飛行装置のコンセプトデザインを展示した。

この装置は身体に装着して飛行でき、また装置単体でも無人航空機として機能する。そのため、例えば災害時に救助者をいち早く被災地へ派遣した後、装置のみを先行して返却させるといった運用も可能である。

現在、実現に向けて開発が進められている。


本展の展示内容はいずれも、高度な科学技術の世界をデザインの力で美しく、あるいはユーモラスに視覚化しており、またSFの世界が現実になったかのような、心躍る要素もある。ぜひ会場に足を運び、自分にとってあるべき未来像を描いていただきたい。

企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」

会期:2024年3月29日(金)〜9月8日(日)
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2

展覧会ウェブサイト  

 

(JAGAT 石島 暁子)

会員誌『JAGAT info』 2024年7月号より一部改稿

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