2019年にさまざまな分野で導入が増えた「需要によって価格が変わる」ダイナミックプライシング。 電子ペーパーを採用した電子棚札システムを活用して、リアル店舗でも大手家電量販店などで採用がはじまっています。
ダイナミックプライシングとは
ダイナミックプライシング(料金変動制)とは、需要の高い・低いに応じて価格を変える手法のことです。一般的には需要が高いときには価格を高く、需要が低いときには価格を安くすることで売り上げの最大化を目指します。 飛行機のチケットやホテルの宿泊料金などで採用されており、利用した経験がある方も少なくないと思います。
さまざまな条件・データに基づいて値段を自動変動するAIの予測精度も向上しました。2019年にはアミューズメントパークの入場券、サッカーのチケット販売、ライブチケットなどが相次いで採用するなど、今まで使われなかったような分野でもダイナミックプライシングの導入が進んでいます。
従来ダイナミックプライシングは、宿泊する権利といったかたちがないサービスに対して採用されてきました。またリアルタイムで価格変動するという性質上、オンラインで購入する方式がほとんどでした。しかし最近ではリアル店舗で、商品に対してもダイナミックプライシングが採用されています。
電子棚札システムによる価格変更
大手家電量販店のノジマは、2019年10月にPOSデータと価格表示を連携した電子棚札システムを全184店舗で導入したと発表しました(→リリース)。また同業種のビックカメラでも全店で店頭価格を変更できるダイナミックプライシングのシステムを2020年を目途に導入することが報じられています。
ノジマやビックカメラで採用されているのが電子棚札システムと呼ばれる電子ペーパー等で価格表示をデジタル化するしくみです。
電子ペーパー棚札は書き換えるときしか電力を使わないため、ボタン型電池で数年は持ちます。そのため省電力で長期間稼働したいという棚札のような用途に適しています。また液晶棚札と比べて視認性が高いというメリットもあります。液晶棚札と比較すると書き換え速度が遅いといったデメリットもありますが、書き換え頻度は多くても1日に数度のため影響は少なくなります。
海外では家電量販店、空港の免税店などで電子ペーパー製の棚札を見かけます。また液晶と電子ペーパーを使い分けている店舗もあります。電子ペーパー棚札では Spectra3色電子ペーパーが使われており白黒赤または白黒黄色の3色が使えるので、売り出し中や特売など価格を目立たせたいときにも最適です。
棚札がデジタル化することで、サーバーからすべての子機ディスプレイまで一度に情報を更新することが可能です。大型店舗では価格を変更するときに人手だと半日かかってしまうこともありますが、電子棚札システムであれば消費税増税で全商品の価格変更といった場合にも短時間で対応できます。また競合店舗の価格に合わせて値下げする、天気が悪い場合は値引きするといった対応も可能になります。
新たなクロスメディアの基点としても期待
今は電子棚札システムは省人化や人的ミスの防止を目的に採用されることが多いですが、近い将来にはコンビニ、スーパーなどでもダイナミックプライシングを目的として導入するところも増えていくと考えられます。
さらにリアル店舗からWebへと誘導するクロスメディア的な用途としても期待されています。前述のビックカメラでは、一部店舗でNFCタグを内蔵した電子棚札にアプリを入れた対応スマホをかざすとネットストアの商品レビューや動画の商品説明を見れるようになっています。
店舗に設置されている電子棚札は、サーバーと接続されデジタル情報を表示できる端末という意味では、商品単位のデジタルサイネージとも言えます。今までプロモーションを考えるときにはデジタル情報の表示先としてスマホを前提に設計するのが当たり前でしたが、今後はそれ以外にも「商品の在庫情報を表示する」「限定クーポンを配布する」といったかたちで電子棚札に情報を表示する選択肢も考えられるのではないでしょうか。
(JAGAT 研究調査部 中狭亜矢)