2月28日〜3月31日にGOOD DESIGN Marunouchiで開催された「漫画とデザイン展」を通じて、日本の漫画文化の到達点と、デザインの可能性を考える。
公益財団法人日本デザイン振興会(以下、JDP)が運営するGOOD DESIGN Marunouchiは、2015年の開設以来、デザインと人、デザインと社会をつなぐコミュニケーションプラットフォームとして、さまざまな展覧会などを開催してきた。
コロナ禍でデザイン界も揺れた2021年、新たな視点からデザインの可能性を示す場を人々に提供すべく、JDPはGOOD DESIGN Marunouchi初の企画展公募を実施した。25件を超える応募の中から選出されたのが、関口いちろ氏らのチームが提案した「漫画とデザイン展」だった。選出理由には、漫画をデザインとして分析した独自性、デザインの領域拡大というグッドデザイン賞の方向性との合致、文化の発信地である有楽町との親和性などを挙げている。
漫画は娯楽文化としてあらゆる層に浸透しており、特に現在は、巣ごもり需要で漫画市場が拡大している。しかし、そのデザインを意識して読む人は少ない。
本展では、漫画作品がどのようにデザインされているかを多角的に示した。パネルによる解説とともに出版された漫画本の実物を多数展示、体験コーナーもあるため、参加者が楽しみつつ、いつの間にか漫画デザインの奥深さに触れられるような展示構成となっていた。
同展の来場者数は1万3082人、SNSなどを通じて多数の反響があった。身近なテーマからデザインの気付きを促すという当初の目的は達成されたといえる。
本展は、漫画を通してデザインを知り、デザインを通して漫画文化の多彩な魅力を再認識する機会であった。また、印刷・加工の工程が果たす役割も来場者に感じ取ってもらえたのではないか。出版社、作者、デザイナー、印刷・加工会社、それぞれが連携することによって漫画文化が形作られていくのである。
漫画は、時々の世相や読者の欲求に応じて、テーマや表現を進化させていくものであり、デザインにも常に新しい発想が求められる。そこに難しさはあるが、自由で実験的な表現が可能な分野でもあり、他のデザイン分野に与える影響も大きいのではないか。
さらにこれからの漫画では、電子出版の課題が重要になる。今後は、紙と電子のデザインがどう連携していくのかについての探求も進んでいくだろう。
(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)
※会員誌『JAGAT info』 2022年5月号「デザイン・トレンド」より抜粋改稿
巡回展情報
「漫画とデザイン展 大阪」
会期: 2022年8月26日(金) – 9月4日(日)
会場: KITAHAMA N Gallery (THE BOLY OSAKA B1F)