コロナ禍にあって刻々と変化していく状況を正しく把握するために、データを視覚によって伝える、データビジュアライゼーションという手法が注目されている。
世界規模で刻々と状況が変化している現在は、情報が錯綜し、ともすれば疑心暗鬼に陥ったり、逆に楽観しすぎてしまったりと、冷静な判断がしにくくなりがちだ。
しかし、現状を正しく理解できれば、適切な対処や今後の見通しについて考えることができる。
正確な情報を分かりやすく伝えるためには、視覚に訴えるデザインの手法が大きな力を発揮する。
新型コロナ発生後、世界各地で、感染の広がりや、対策の進捗状況などを示すWebコンテンツが多数作成されている。発信主体は大学、ニュースメディア、自治体、専門家有志によるものなど、幅広い。
その一部を紹介する。
ジョンズ・ホプキンズ大学「COVID-19 Dashboard」
米国ジョンズ・ホプキンズ大学のシステム科学工学センター(CSSE)は、世界保健機関(WHO)やアメリカ疾病対策予防センター(CDC)などのデータを用いて、新型コロナの感染者数、症例致死率、検査率などを地図に示し、各国ごとのデータも閲覧できるようになっている。
ワシントンポスト
ウイルス感染をシミュレーションする記事
「Why outbreaks like coronavirus spread exponentially, and how to “flatten the curve”
(コロナウイルスなどのアウトブレイクは、なぜ急速に拡大し、どのように「曲線を平らにする」ことができるのか)」
を無料公開した。そのほかにも新型コロナに関する最新情報を、グラフや地図を交えて伝え続けている。
日経ビジュアルデータ
日本経済新聞が提供する、図と写真によってニュースを分かりやすく伝えるコンテンツ。
「新型コロナウイルス感染世界マップ」、「チャートで見る世界の感染状況 新型コロナウイルス」、「チャートで見る日本の感染状況」などを公開し、更新を続けている。
東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイト
東京都の検査数、陽性者数、相談件数などの推移を表示するWebサイト。ITで社会の課題解決を目指す一般社団法人コード・フォー・ジャパン が作成を請け負った。ソフトウェア開発のプラットフォーム GitHubを活用し、オープンソースの仕組みでサイトを構築した。サイト設計の情報は誰もが閲覧し、改善提案をすることができる。公開後、外部からの改善提案を受け、日々表現や動作などを改善している。
東京都の取り組みに刺激を受け、神奈川県、北海道などの自治体で、対策サイトが立ち上げられている。
コード・フォー・ジャパンは、Webサイトに「新型コロナウイルス感染症対策サイトのためのデータ公開支援」ページを作成し、自治体の取り組みを支援している。
東洋経済オンライン「新型コロナウイルス 国内感染の状況」
日本国内の感染症の状況を、グラフと地図で伝えている。全国の情報と都道府県別の情報を一覧できる。
厚生労働省の報道発表資料および、前述した「東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイト」のデータを用いて作成し、ソースコードをGitHub上に公開している。
COVID-19 Japan – 新型コロナウイルス対策ダッシュボード
コード・フォー・ジャパンのメンバーで、福井県鯖江市のソフトウェア開発会社 株式会社jig.jp 創業者 福野泰介氏らが立ち上げた。
(参考:新型コロナ患者数など一覧 鯖江の起業家ら専用サイト:日本経済新聞)
日本全国と都道府県別の患者数、病床数を一覧できる。
データビジュアライゼーションの力
以上のコンテンツやWebサイトは、データを視覚化するデータビジュアライゼーションという手法で作成されている。
同様の手法としてインフォグラフィックスもあり、両者の厳密な定義はない。どちらも、情報という、目に見えにくいものを、見やすい形にする手法を指すが、あえていえば、以下のように使い分ける傾向がある。
・目的
データビジュアライゼーションの目的は、受け手が意思決定するための判断材料を提供することにある。インフォグラフィックスの目的は、データを通じて情報発信者のメッセージを伝えることにある。
・表現
データビジュアライゼーションは、元データに手を加えずに、シンプルに見せる。インフォグラフィックスは、元データから特徴的な要素を拾い出し、イラスト化するなど、インパクトのある見せ方をする。
・動的か静的か
データビジュアライゼーションは、Webサイトを利用した動的なコンテンツである。日々数値を更新したり、作り手と受け手の意見交換を通じて、コンテンツやデザインを改善していくことも可能である。
インフォグラフィックスは元々、出版物や公共のサインなど静的なコンテンツに使われる手法を呼び表した言葉である。デザインが固定され、内容の変更が容易ではない場合が多い。
・制作方法
データビジュアライゼーションは、コンピューターのプログラムを利用して自動生成する。インフォグラフィックスは、人の手で加工する要素が強い。インフォグラフィックスも、現在ではAdobe Illustratorなどのグラフィック専用ソフトで作成する場合が圧倒的ではあるが、手書きで作成することも不可能ではない。
膨大なデータをリアルタイムで共有するためのコンテンツは、データビジュアライゼーションという呼び方がふさわしい。
データビジュアライゼーションの主な担い手は、その分野に長けたデザイナーやITエンジニアである。一方では、データを容易に可視化できるツールが提供されているために、専門スキルがなくても、コンテンツを作ることが可能になってきている。
例えばビジネス向けに、Tableau、Microsoft Power BI、GapminderなどのBI(Business Intelligent)ツールと呼ばれるものがある。
現在は、人と人との対面コミュニケーションが制限されているかわりに、インターネットを介したコミュニケーションが進化しつつある。
デザイナー、エンジニア、企業や自治体、地域で活動する人々など、様々な分野の人々が、SNSやオープンソースで集合知を得ながら作り上げるコンテンツが、今後増えていくのではないだろうか。
(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)
参考資料:
『データビジュアライゼーションの教科書』(秀和システム 2019年5月)
『プロ直伝 伝わるデータ・ビジュアル術―Excelだけでは作れないデータ可視化レシピ』(技術評論社 2019年5月)
『デザイニング・データビジュアライゼーション』(オライリー・ジャパン 2012年6月)