新しい生活様式のもとで生まれるニーズに応えるために、今後デザインはどんな形で力を発揮できるだろうか。
正確な情報を伝える
感染の広がりや、対策の進捗状況などをいちはやく正確に伝えるためには、ウェブコンテンツが力を発揮する。現在、ビッグデータを視覚化し動的に表現するデータビジュアライゼーションという手法を用い、新型コロナの最新情報をグラフや地図の形で提供するコンテンツが多数登場している。
世界と日本の状況はかなり可視化されてきたが、市区町村単位になると、公開する内容にも表現手法にも温度差がある。公開内容は自治体の方針で規定されてしまうかもしれないが、表現の仕方には工夫の余地があるだろう。
検査・相談窓口や各種支援制度など自治体独自の施策は、住民が特に知りたい情報であるが、周知するのは難しい。自治体ごとにウェブサイトの特設ページやパンフレットなどが作成されているが、必ずしも伝わりやすいものにはなっていない。印刷会社の中には自治体向けの案件を受けている会社も多い。情報を整理し、読みやすく魅力的なデザインのコンテンツを提案することは可能なのではないか。
今やマスク着用・手洗い・ソーシャルディスタンス・Stay homeが最低限の社会ルールとなった。町中のいたるところに、こうしたルールの遵守を促すポスターやステッカーが見られる。多くの印刷会社がポスターのデザインを手掛け、手軽にプリントできるようにウェブサイトでデータを公開して無料でダウンロードできるようにした。印刷して無料配布、または販売するケースもある。印刷会社の社会的責任を果たしながら、自社アピールにもつなげる試みだ。
顧客の営業を支援する
地域の企業・団体は印刷会社の重要なパートナーであり、その存続は印刷会社の存続にも関わる。今、あらゆる事業者が業績を落とし、今後どう立て直していくべきかを模索している。その悩みを丁寧にくみ取り、打開策を一緒に生み出していくことで、印刷会社と顧客の双方が生き残る道を開いてほしい。
感染防止の設備、営業支援など、印刷会社が提案できることは多いものの、他業界も次々に参入している中では、早めの対応と優れた提案が必要だ。
飛沫防止のフェイスシールドやシート・パーテーションが印刷業界のほか、サイン・ディスプレイ業界などで制作されている。これらは相手に安心感を与える一方で、コミュニケーションが遮断されるような冷たいイメージも与えてしまう。しかし印刷・加工で絵柄やロゴを加えれば雰囲気が和らぎ、POPやインテリアの効果も期待できる。人々の心に疲弊感がある現在、こうした潤いのあるデザインが求められてくるのではないだろうか。
ソーシャルディスタンスのためのフロアステッカーは用途に合わせて素材・形・サイズを変えた製品が販売されている。プリントマスク、マスクケースなども多様な素材や形のものが販売されている。
テイクアウト・デリバリーOKのポスターが各地で作成され、商店会などの協力を得て活用されている。オンラインマーケティング、バーチャル展示会などの需要もある。
オンライン授業の増加に伴うデジタル教材、オープンキャンパスに代わる大学紹介のコンテンツ、企業説明会が制限されるなかで企業と学生をマッチングするためのコンテンツなど、印刷会社が参入できる分野がまだまだある。
地域コミュニティを再構築する
地域イベントが中止になり、公共施設の利用も制限され、人々が集う機会が失われているなかで、地域のつながりをどう守っていくかは新しい課題だ。
印刷会社は、地域のあらゆる企業・団体との取り引きを通じて地域ネットワークを築き、まちの振興を担っている場合も多い。その地位を生かして、地域の再構築の事業に積極的に取り組んでいくことが必要だ。
情報誌や地域ポータルサイトなどのメディアをもっていれば、地域をつなぐ情報を発信してほしい。
時代に合わせてこれまでにない製品やサービスのアイデアを生み出すために、デザインの考え方は大いに役立つ。
アフターコロナも見据えて
コロナ禍は長期戦といわれているものの、いずれは落ち着きを見せる時期がくる。今年需要が増したコロナ対応の製品・サービスも、やがては不要になってしまうものと、新しい生活を支えるスタンダートとして残っていくものがあるだろう。アフターコロナを見据えて、一過性ではない事業構想を練ってほしい。
(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)