コロナ禍で大きく揺れた2020年、印刷とデザインをめぐるトピックを振り返る。
2020年も、緊急事態宣言発出される4月始めまでは経済がそれなりに動き、デザイン関係のイベントなども行われていた。
2月5日に、東京都が主催し、公益財団法人日本デザイン振興会が企画・運営する東京ビジネスデザインアワードの2019年度提案最終審査が行われた。
都内のものづくり企業とデザイナーが協業してユニークな事業提案を披露するなか、出版印刷を手掛ける研恒社は、デザインコンサルティング会社のkenmaとともに「『ノート設計システム』のビジネスモデルを拡張するプロダクト提案」を発表し、テーマ賞を受賞した。
両社は受賞を機に、ルーズリーフブランド「PageBase(ページベース)」を立ち上げ、12月には、リングを使わずスライド式の金属クリップで書類を綴じる「SlideNote(スライドノート)」を発売した。どんな用紙にも対応するのでファイリングの自由度が増す。スタイリッシュなデザインで、ビジネスシーンでの活用も見込んでいる。
リクルートホールディングスが運営するクリエイションギャラリーG8は、2月25日〜3月28日に、原田祐馬氏が代表を務めるデザインスタジオ UMA / design farmのデザインプロセスを紹介する「UMA / design farm展 Tomorrow is Today: Farming the Possible Fields」を開催し、好評を博した。
UMA / design farmが手がける分野は、グラフィック、空間、展覧会、企画開発と幅広いが、原田氏は紙と印刷に愛着を持っており、本展でも竹尾 淀屋橋見本帖のVIや、「紙器具(しきぐ)」を提案する大成紙器製作所のブランディング、かみの工作所のプロダクト「CMY」などが展示されていた。
コロナ禍で生まれた製品・サービス
4月以降、緊急事態宣言発出にともない、印刷会社も、その顧客である地域の企業・団体もこれまでにない困難に直面した。
多くの印刷会社が、顧客とともにコロナ禍を乗り越えるため、営業支援の製品・サービスを開発している。
小ロット対応の印刷通販「一作屋」を運営する松本印刷は、感染防止のパーテションやスクリーンに印刷を施した製品を紹介した。アクリルパーテション「エチケットボード」吊り下げ式のパーテーション「エチケットスクリーン」などを開発し、飲食店や美容サロンなど様々な利用シーンを提案している。
近藤印刷は、飛沫感染を防ぐハンディ・マウスシールド、エレベーターや自販機の操作ボタンを素手で触らないためのノンタッチ・チャーム、洗ったマスクを干すためのマスクハンガーなど多彩なノベルティーを販売している。
佐川印刷は、愛媛県のイメージアップキャラクター「みきゃん」などをプリントしたオリジナルマスクをデザイン。また、コロナ差別防止の「シトラスリボンプロジェクト」に賛同し、プロジェクトのロゴをあしらったマスクをチャリティー販売した。
マルモ印刷は「マスクケース付きPP 封筒」を発売した。封筒を受け取った後、ミシン目で切り取るとマスクケースになる。抗菌ニスを使用しており、オリジナル印刷も可能である。
またフリーペーパーやWebサイトなどを活用した取り組みもあった。
長野県松本市の藤原印刷は、テイクアウト情報に特化したウェブマガジン『to go MATSUMOTO』を発行。さらにテイクアウト商品をSNSで「#togomatsumoto」をつけて共有するよう呼びかけ、多数の利用者が投稿した。
学生の就職活動にも制限がかかるなか、企業と就活生のマッチングを支援する取り組みもあった。石川県金沢市の能登印刷は県内の企業・団体を紹介する就活情報誌『Be Connect with @22卒』を発行し、各企業の若手社員が働く様子や企業の未来への取り組みを紹介するとともに、新時代の就活に必要な情報を提供している。
リアルとオンライン それぞれのイベント
展覧会・見本市などのイベントは中止・延期をよぎなくされたが、そのなかでも「WEB文紙MESSE2020」(8月1日〜31日)、「新しいオンラインフェスティバル・紙博」(8月3日〜14日)などが開催され、印刷会社も参加して自社製品をアピールした。
秋以降は、リアルイベントも再開されるようになった。主催者それぞれが、万全の感染防止策をアピールしつつ、経済活動を前に進めようという姿勢を見せた。
例年の賑わいに比べれば多少さびしい印象はいなめないが、出展者が絞られているためにバイヤーの目にとまりやすく、商談が進むというメリットもあった。バイヤーもコロナ禍による低迷からの回復を目指しているためか、出展者への質問にも熱が入り、出展企業からは、従来よりも引き合いが多く手応えを感じたという声をきく。
9月2~4日に東京ビッグサイトで開催された、リード エグジビション ジャパン主催の国際 文具・紙製品展 ISOTでは、加藤製本が運営する文具ブランドの「CRU-CIAL」、シール・ステッカー製造の扶桑が展開する布に貼れるステッカー「irodo」などが注目を集めた。
ISOT会場で発表された第29回 日本文具大賞では、紙の専門商社である相馬 が開発した「ホントの紙ねんどつくるキット」が機能部門グランプリを受賞した。
10月7日〜9日に東京ビッグサイトで開催されたビジネスガイド社主催の第90回東京インターナショナル・ギフト・ショー秋2020でも、印刷・紙加工分野からの提案が見られた。
東京都中小企業振興公社による中小企業プロモーション支援事業(伝える力向上プログラム援)のブースでは、東洋美術印刷の「Qtte(キュッテ)」、miura-ori labの「ミウラ折り 折り袋―オリフクロ―」などが紹介された。
「オリジナルプリント.jp」をはじめとした自社ECサイトをもつイメージ・マジックは、日本初というINKCUPS社のロータリーUVプリンター HELIXでプラカップへのプリントを実演した。
グッドデザインと印刷
時代を象徴するデザインを選定するグッドデザイン賞は、10月30日に2020年グッドデザイン大賞ほか特別賞を発表した。
コロナ禍にもかかわらず、昨年とほぼ同じ応募があり、受賞件数が若干減ったものの、受賞企業数が増えている。
受賞デザインのなかには、商業印刷などを手掛ける佐賀県の三光の「3mmLEAF3/4、3mmLEAF2/1、FILENOTE」や、特殊印刷を得意とする東京の技光堂の「メタルフェイス」など、印刷会社が事業主体となった提案があった。
そのほか、印刷に関わりのある提案も見られた。鹿児島県のひより保育園は、食育活動の成果をレシピ本『「ひより食堂」へようこそ 小学校にあがるまでに身に付けたいお料理の基本』にまとめ、グッドデザイン金賞を受賞している。
2021年 コロナ禍の学びを力に一歩前へ
1月7日に首都圏の1都3県に緊急事態宣言が再発出される見込みだ。今後しばらくは、これ以上感染を広げないことが、何を置いても重要になる。
一方では、2020年にチャレンジした成果を発展させるための準備も進めたい。新しい生活様式に役立つもの、疲弊した人々の心に癒しと希望を届けるものなど、印刷・加工分野から、2021年を象徴するデザインが生まれてほしい。
(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)