21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「ルール?展」は、さまざまなルールをデザインの視点で捉えることで、これからのルールのあり方を社会に問う企画である。
2021年7月2日から11月28日まで、21_21 DESIGN SIGHT(東京・六本木)のギャラリー1&2で、「ルール?展」が開催されている。
本展は、法律家の水野祐氏、コグニティブデザイナーの菅俊一氏、キュレーターの田中みゆき氏の3名が展覧会ディレクターチームとなり、それぞれの視点をもとに議論しながら企画・構成された。
ディレクターズメッセージの中で水野氏は「法を含むルールがわたしたちを自由にするものであってほしい」、菅氏は「ルールは、行動や思考をデザインするためのツールとしても使うことができる」と述べている。マイノリティーに関する活動を続けている田中氏は「多数派でできた社会のルール」に疑問を呈している。
ルールを自分事として捉える
本展ではルールを私たちの思考や行動様式を形成するものとして幅広く扱っている。鑑賞者がルールを自分事として捉えるよう、時に体を動かし、時に意思表示をする仕掛けを作品の随所に取り入れている。
展覧会の受付を済ませた鑑賞者を待っているのは「鑑賞のルール」。
台の上に並ぶ多くのスタンプから2種類を選び、展覧会ハンドアウトの表紙に押すと、「たまに見上げなければならない」「どこかでしゃがまなければならない」など自分だけのルールが印字される。
ギャラリー1の展示、ダニエル・ヴェッツェル氏(リミニ・プロトコル)ほかによる「あなたでなければ、誰が?」は、与えられた質問に「はい」「いいえ」で答えると、その結果とともに、これまでの来場者の回答傾向や関連の統計データが表示される。自分の選択が統計を構成するサンプルとなることを知った鑑賞者は、自らが本展の主人公の一人であることを実感する。
ルールはいかに生まれるか
石川将也氏・nomena・中路景暁氏による「四角が行く」は、大きさの違う3つの直方体が載ったベルトコンベアに、穴の開いたゲートが次々に流れてくる作品だ。ゲートが近づくと、穴の形に合わせて直方体がパタンパタンと回転し位置を変え、ゲートをスムーズにくぐり抜ける。ルールの本質を象徴的に表した作品である。
展覧会ディレクター企画の「企業が生むルール」は企業独自の試みが業界標準となる事例を紹介している。規格化されるデジュール・スタンダードと、普及によって事実上の標準となるデファクト・スタンダードを取り上げ、前者の例としてシャンプーボトルのきざみとQRコード、後者の例としてキーボードの配列とカッターナイフの刃が紹介されている。
既存ルールに疑問を投げかける
葛宇路(グゥ・ユルー)氏による「葛宇路」(2017年)は、北京市内の無名の道路に、作家が自身の名前を表した標識を設置した顛末を記録した映像作品。
この標識は数年間にわたり実際に中国の地図サービスに反映された。やがてメディアを通じて中国当局の知るところとなり標識は撤去されたが、その後中国では、無名の道路の管理が進んだという。
政府による統治の盲点を示し、行政を動かした作品として知られている。
田中氏・菅氏・野村律子氏による映像作品「ルール?」は、聴覚障害者や視覚障害者たちが多数派とは異なる手掛かりやコードを駆使して生活する様子や、エレベーター内における他者との距離の取り方など明文化されていない振る舞いのコードを紹介する。
NPO法人スウィングの「京都人力交通案内『アナタの行き先、教えます。』」は、ずば抜けた記憶力で京都市内の複雑なバス路線を暗記しているQとXLの2人が、街に出て自発的にバス案内をする活動を紹介している。
道路運送法や迷惑防止条例など公共ルールの狭間で成り立つユニークな試みである。
ルールは作られ、発展する
菅氏と平瀬謙太朗氏の「鬼ごっこのルール」は、鬼ごっこから派生した遊びのルールを関係図で示し、身近な遊びに見るルールの変遷を紹介している。
一般社団法人コード・フォー・ジャパンの「のびしろ、おもしろっ。シビックテック」は、テクノロジーによって市民が地域課題を解決するシビックテックに焦点を当てる。
参加型合意形成プラットフォーム「Decidim」を利用し、「履歴書にテンプレートは必要?」などに対する意見を鑑賞者から募っている。
Whatever Inc.の「D.E.A.D. Digital Employment After Death」(2020年)は、自分の死後に、AIやCGなどを活用した復活や労働を許可するかなどを意思表明するプラットフォームだ。
会場では、鑑賞者自身の意思を記す用紙が用意され、記入済みの用紙を持ち帰ることができる。
現行法では、死亡者の肖像権や人格権は相続されないが、生前の肖像や音声などを活用するテクノロジーが注目されるなか、死後のルールに関する議論が始まっているという。社会の進歩とともに新たなルールが必要となることを示している。
日々変化を遂げる展覧会
本展は各種メディア・SNSの影響で注目が集まり、若い層を中心に来場者が増えているという。鑑賞の自由度が高いことから、体験型の展示に積極的に参加する姿がある一方、ルールの余白の中でさまざまな意図しない行動も見られるようになり、作品保護や最低限の秩序維持のため、会場ルールが日々見直されている。
その過程を会場内にある「会場ルール変更履歴」のボードに掲示し公開している。展覧会の運営自体が、会期中に変化を遂げていく作品の一つとなるのだろう。
ルールとは、人が環境に適応するため、または立場の違う人同士の折り合いをつけるため、必然的に作られてきたものである。無視できるものではないが無批判に従うものでもない。ある時は使いこなし、ある時は作り替え、能動的に関わることが自由に生きることにつながる。そしてルールに完成形はなく、運用の中で常に見直していくべきものである。
印刷会社の仕事も無数のルールで構成されている。自社の業務を捉え直す上で示唆に富む展覧会である。
(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)
会員誌『JAGAT info』 2021年9月号 「デザイン・トレンド」より一部改稿
ルール?展
会場:21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー 1&2
会期:2021年7月2日(金)―11月28日(日)
*8月14日(土)より事前予約制
休館日:火曜日(11月23日は開館)
開館時間:平日 11:00-17:00、土日祝 11:00-18:00(入場は閉館の30分前まで)
主催:21_21 DESIGN SIGHT、公益財団法人 三宅一生デザイン文化財団
後援:文化庁、経済産業省、港区教育委員会
特別協賛:三井不動産株式会社
展覧会ディレクターチーム:水野 祐、菅 俊一、田中みゆき
グラフィックデザイン:UMA/design farm
会場構成:dot architects
オンライン体験設計:奥田透也