クリエイションギャラリーG8(株式会社リクルートホールディングス運営/東京・銀座)で、2019年2月22日(金)から 3月28(木)まで「光るグラフィック展2」が開催された。
デジタル技術の進化やインターネット環境の変化により、現実と仮想の境界がなくなってゆく中で、「オリジナル」の所在はどこにあるのか、現実空間と仮想空間のそれぞれに置かれたとき、グラフィックはどのように存在するか、参加者が体験する展覧会を目指した。
「現実と仮想の境界」と聞くと、何か哲学的なような、難しいことのように思ってしまうけれども、実際に鑑賞すると、とても面白い展覧会である。
会場を、作品を展示した実空間と、その展示風景をバーチャルギャラリーとして再現する3D空間に分けて構成している。
本展の醍醐味はなんといっても、メディア・アーティストの谷口暁彦氏が手掛けた仮想空間・バーチャルギャラリーだ。
会場のいちばん奥の場所にあり、壁面いっぱいに展覧会の風景を再現した3D空間が投影されている。ゲームコントローラーを使うと、視点や立ち位置を動かして、会場の隅々まで鑑賞することができるし、3D空間内で写真を撮影することもできる。
ただし、3D空間に広がっているのは、実空間の単なるコピーではない。
同じようでいて、実は変化しているところがある。
例えば、実空間の平面作品が3D空間では壁面から飛び出していたり、逆に実空間の立体作品が3D空間では平面作品になっていたり、または、絵画作品がアニメーション作品に変わっていたり。
展示会場だけではなく、会場の外にあるリクルートGINZA8ビル1Fロビーまでを再現してあり、そこにも、ちょっとした仕掛けがあった。
実空間と3D空間のどこが同じでどこが違うのかを探しながら、会場を行ったり来たりすることで、実空間の作品の見方も変わってくる。
実空間の作品は、企画協力の田中良治氏らがセレクト、あるいは新たに制作を依頼しており、いずれも「オリジナル」の所在への疑問を投げかけるものだ。
例えば、原田郁氏は、3Dモデリングソフトを用いて、コンピューターの中に架空の世界を作り、そこで擬似体験した風景をもとに、絵画を制作するという、独特のスタイルで活動を続けている。
カワイハルナ氏は、アニメのセル画と同じ技法を用いて、物事に対する既存の概念を超えた表現で、独特の立体物を描いている。
多彩な創作活動で知られる長谷川踏太氏は、今回「枯葉踏みとポテトチップス」という作品を展示した。「作者が幼少期に開発した、おいしいポテトチップスの食べ方」を鑑賞者が体験できる趣向だ。
その他にも、2016年に亡くなった佐藤晃一氏が、印刷博物館主催の「グラフィックトライアル2013 ―燦(さん)―」で制作した、蛍光インキの実験作「かがやく少女」、亀倉雄策氏による大阪万博ポスター(1967年)など、見ごたえのある作品が並んだ。
バーチャルリアリティの技術と、クリエイターの創造力が一体となった、不思議で、楽しく、ちょっと考えさせられる展覧会だった。
光るグラフィック展2 “Illuminating Graphics 2”
会期:2019.2.22 金 – 3.28 木
時間:11:00a.m.-7:00p.m. 日曜・祝日休館 入場無料
主催:
クリエイションギャラリーG8
企画協力:
田中良治(Semitransparent Design) 谷口暁彦 萩原俊矢
参加作家:
藍嘉比沙耶
exonemo
大島智子
葛西薫
亀倉雄策
カワイハルナ
北川一成
groovisions
小山泰介
佐藤晃一
Joe Hamilton
鈴木哲生
谷口暁彦
永井一正
永田康祐
Nejc Prah
長谷川踏太
原田郁
UCNV
参考:「光るグラフィック展(2014年)」
紙からデジタルへとメディアが変わりつつある中で、15組のグラフィックデザイナー、デジタルクリエイターの作品を同じサイズの光るモニターで展示し、クリエイターの多様な表現やアプローチを紹介した。
*初出:「紙とデジタルと私たち」2019年2月28日
(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)