2022年のグッドデザインと印刷

掲載日:2022年11月14日

2022年度グッドデザイン賞の大賞を始めとする特別賞が、11月1日に発表された。今年は特に社会課題解決型のデザインが多く見られ、その中で印刷関連会社も健闘している。

公益財団法人日本デザイン振興会が主催するグッドデザイン賞は、デザインを、暮らしや社会をよりよくするものという観点で捉えている。対象領域は工業製品、建築、ソフトウェア、システム、サービス、社会活動など広範に及び、審査においては、見た目の美しさや機能のみならず、デザインの背景、プロセス、目的、成果などを多角的に評価する。
審査を通じて新たなデザインの可能性を発見し、人々と共有することで、次の創造へ繋げていくことを目指すアワードである。

2022年度は、審査対象数5715件に対し1560件が受賞。受賞提案の中から特に優れたデザインと評価された「グッドデザイン・ベスト100」を選出。さらに、その中から大賞を含む特別賞が選出された。

以下、最高賞のグッドデザイン大賞ほか、受賞デザインの一部を紹介する。

小さな経済圏で人々の隔たりをなくす取り組みが大賞に

地域で子ども達の成長を支える活動 [まほうのだがしやチロル堂]

(アトリエe.f.t. /合同会社オフィスキャンプ /一般社団法人無限)
グッドデザイン大賞

まほうのだがしやチロル堂

奈良県生駒市にある、駄菓子屋の形をとった子供たちの居場所。困っている子供が気軽に入れるよう、誰もが集まりたくなる環境を整えた。店内通貨「チロル札」で駄菓子を買い、軽食を食べることができる。そのほか店内でゲームをしたり、大学生スタッフに宿題を教えてもらうなど、子供たちが思い思いに過ごしているという。小学生の口コミから、土曜日や長期休暇の来店客は1日300人を越える。活動の賛同者が増えたことから、2022年4月からサブスク方式で寄附をする仕組みを構築した。

グッドデザイン大賞は近年、社会課題解決型のデザインが受賞する傾向が強まっている。
2018年度は「貧困問題解決に向けてのお寺の活動[おてらおやつクラブ]が受賞し、社会活動がデザインとして評価されたことが話題となった。その後も2019年度は開発途上国向けの簡易な「結核迅速診断キット」、2020年度はポータブルな水のインフラ「WOTA BOX」、2021年度は外出困難な人が就労できる「『分身ロボットカフェDAWN ver.β』と分身ロボットOriHime」がそれぞれ受賞している。
今年のグッドデザイン賞全体の傾向として、審査委員長の安次富隆氏は、社会にあるさまざまな「隔たり」をなくすデザインが多かったと述べている。また、審査副委員長の齋藤精一氏は、小さな経済圏での優れた試みが多く見られたことに言及している。今年度大賞のチロル堂は、今年のデザインの潮流を象徴するものだったと言える。

紙と印刷によるグッドデザイン

今年度の受賞デザインから、印刷会社が関わった事例、印刷や紙加工を活用した事例を紹介する

かるた [さかなかるた]

(株式会社 千葉印刷)
グッドフォーカス賞[技術・伝承デザイン]
さかなかるた
2020年度東京ビジネスデザインアワード最優秀賞受賞を契機に、千葉印刷がSANAGI design studioの井下恭介氏・増谷誠志郎氏とともに開発した。オンデマンド印刷機 イリデッセによるメタリック印刷とクリアトナーの厚盛り印刷で、魚の表皮をリアルに再現し、視覚と触覚で楽しめるかるたとなった。デジタル印刷機の用途開発にチャレンジした事例である。

ボディソープ [地球の未来にまじめなボディソープ]

(パルシステム生活協同組合連合会)
グッドデザイン・ベスト100
地球の未来にまじめなボディソープ
持続可能性を追求した商品設計とリサイクルの仕組み。容器には、凸版印刷が開発した耐水性のある紙パック「キューブパック」を採用。原料は環境や人権に配慮して産直提携を結んだ生産地のものを使用。使用済み容器は、週1回の注文商品配達時に回収し、高効率のリサイクルを実現。生活用品の分野で紙を活用した脱プラスチックの試みが進んでいることを象徴する事例と言える。

Book [Tactile Graphic Books of Chinese Language for Primary School]

(Zhanjiang University of Science and Technology /Guangdong Ocean University )
グッドデザイン・ベスト100
Tactile Graphic Books of Chinese Language for Primary School
中国における小学校国語教科書の補助教材。視覚に障害のある子供を支援することを目的に、教科書に印刷された動物・植物・乗り物など80点の絵柄を、触って認識できるようにした。UVインキによる点字印刷の技法を用いて絵柄の上からドットを印刷している。また、音声案内が聞けるQRコードを付与した。晴眼児と視覚障害児が同じ教材で学ぶ機会を提供し、インクルーシブな社会を目指す取り組みとして評価された。

日めくりカレンダー [Koyomi〜書くことで日本の美を体験するデザイン〜]

(東湘印版株式会社/フラックス・ジャパン合同会社 /Fraxtech合同会社/鈴木猛利)
グッドデザイン賞

Koyomi〜書くことで日本の美を体験するデザイン〜

東湘印版が制作した、日本の書を手軽に体験するための日めくりカレンダー。書家の鈴木猛利氏による漢字を毎日一文字鑑賞でき、漢字の意味、筆順も掲載している。カレンダーの右下に書くスペースを作り、購入者自ら、書を実践することを促している。海外向けのギフトになるほか、日本人が書の魅力を再発見するツールにもなっている。

プリントシール [カラフルストマ]

(小林稔)
グッドデザイン賞
カラフルストマ
内科医の小林稔氏が開発した、オストメイト用プリント柄付きパウチ用シール。オストメイトとは、ストーマ(人工肛門・人工膀胱)を造設した人を指す。日本ではストーマのパウチの色は透明、グレー、肌色しか選択肢がないという。これを鮮やかな色合いにすることで、オストメイトが明るい気持ちで生活できるのではないかとの思いから生まれた。和紙素材のB5判シールを各社の形状線を印刷したクリアファイルに挟む仕様になっている。

クレヨン [海のクレヨン]

(スカパーJSAT株式会社)
グッドデザイン賞

海のクレヨン

衛星写真に写る海から抽出した色を再現した12色のクレヨン。クレヨンに色名はなく、抽出した場所の経度緯度が記されている。パッケージの表面には12個の穴が開き、それぞれに違う色が覗く。箱を開くと色の基になった衛星写真が現れ、これをめくるとクレヨン本体が現れる。世界のさまざまな場所にさまざまな色の海があることを知り、地球環境への意識や創造性、広い視点を育くんで欲しいという想いから開発された。パッケージの製造と販売代行を福永紙工が行っている。

活動 [アンボックス]

(福永紙工株式会社)
グッドデザイン賞
アンボックス

福永紙工が、デザインチームNEWとともに取り組んできた、「新しい箱」の開発プロジェクト。「二次使用できる」「ゴミの低減につながる」「余計に作りすぎない」「脱プラ」をキーワードに、パン屋のため、花屋のためなど用途を限定し、それぞれに最適な箱を設計・テンプレート化した。メーカーやデザイナーが製品案件に合せてテンプレートを活用し、福永紙工がその製造を担う。「中小企業が自社の技術をブランド化し、時代に合わせた質の高い価値を提供する姿勢」が評価された。

ビール6缶パック [アサヒスーパードライ エコパック]

アサヒビール株式会社
グッドデザイン賞
アサヒスーパードライ エコパック
ビール6缶パックの包装材を、缶の上部だけを固定する形にすることで、省資源化。缶蓋に爪を突き立てる構造で従来以上の缶保持力も実現した。
このパッケージは、日本印刷産業連合会主催「第61回ジャパンパッケージングコンペティション」で経済産業省製造産業局長賞、日本包装技術協会主催「2022日本パッケージングコンテスト(第44回)」でテクニカル包装賞、日本パッケージデザイン協会主催「日本パッケージデザイン大賞2023」でアルコール飲料部門銅賞・特別審査員賞と、日本の主要なパッケージアワードそれぞれで評価されている。


今年のテーマは「交意と交響」。多様化・複雑化する社会の課題を解決するには、分野や領域を超えた「意の力」が必要であること、また社会に存在するさまざまなデザインが関係し合い、さらに響き渡らせていくことが大切であるという意味が込められている。
これからのデザインは、一企業・団体の利益にとどまるのではなく、事業パートナーや顧客、地域社会などとの共生を考えていかなければ成り立たないことを示している。
この観点で審査されたデザインの中に、紙と印刷が生かされていることは嬉しい。

受賞したデザインの発展とともに、今後も新たなグッドデザインが生まれることを願う。

グッドデザイン賞公式サイト  

(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)

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