「2023年度グッドデザイン賞受賞展」が10月25日~29日に開催された。1500点を超える受賞作品の中から印刷・メディアに関わるデザインを中心に紹介する。
2023年度グッドデザイン賞は、5447件が審査対象となり、二次の審査を経て1548件が受賞した。受賞デザインから特に優れたものが「グッドデザイン・ベスト100」に選ばれ、さらにその中から「グッドデザイン大賞」「グッドデザイン金賞」などの特別賞が選ばれた。
10月25日~29日には東京ミッドタウンで、全受賞作品を展示する「2023年度グッドデザイン賞受賞展」が開かれた。
グッドデザイン大賞を受賞したのは、有限会社オールフォアワンと株式会社山﨑健太郎デザインワークショップによる高齢者向けデイサービス施設「52間の縁側」である。
介護施設だけではなく、地域の人たちが気軽に立ち寄ることができ、学び舎・遊び場、就労支援などみんなの居場所となるケア施設を目指して設置された。
近年のグッドデザイン大賞は、社会的な活動が受賞するケースが増えており、社会課題の複雑化と、デザインの多様性が示されているといえる。
印刷・メディアの分野のグッドデザイン
今年度の受賞作品の中には、印刷関連の最新技術や、多様なニーズに応える新しいコンテンツも見られる。ここでは「グッドデザイン・ベスト100」を受賞したデザインの一部を紹介する。
YYSystem
[株式会社アイシン]―グッドデザイン金賞―
主に聴覚障害者を対象に、声や音を可視化する独自のアルゴリズムをコアとして「意思疎通支援」を行うアプリケーションシリーズである。
同社は自動車部品とエネルギー・住生活関連製品の製造販売を手掛けており、聴覚障害を持つ社員とのコミュニケーションをとるために、音声認識システムを独自開発したという。
会議など仕事の場で活躍する「YYProbe」、会話だけでなく笑い声なども文字化して日常生活をサポートする「YY文字起こし」などのラインナップがある。
構造色インクジェット技術
[富士フイルム株式会社]―グッドデザイン・ベスト100―
インクに色素を含まず、その代わりに特定の光波長を反射する微細構造を構築することで発色させる新しいインクジェット印刷技術である。光の干渉・分光を利用して、発色して見えるインクの開発、インクジェット印刷を制御する技術、デザインデータと出力物を結びつける画像設計技術を掛け合わせることで実現した。
「自然界の色を印刷で再現できないか」という社内デザイナーの夢が取り組みのきっかけだという。
自然界の昆虫や鉱石などの色を出力出来るだけでなく、パール調木目など自然界に無い新たな表現も可能になり、デザインの幅を広げることができる。
『きみの名前がひける国語辞典』
[小学館 / 大日本印刷株式会社 / 株式会社DNPメディア・アート / 小学館集英社プロダクション]
園児~小学校低学年を対象にした既刊の『小学館 はじめての国語辞典』1万8000語収録を底本とし、購入者が希望する項目名と紹介文(語釈)を入れた特別版。制作には、大日本印刷が協力している。表紙は10色から選択できる。
2023年3月に税込価格15,000円で限定100冊を発売し、翌日に完売したという。
審査では「辞書なんか売れないという通説を、シンプルかつ軽やかなアイデアで覆した」と評価された。
視覚障がい者のためのレース実況生成AI「VoiceWatch」
[株式会社電通]―グッドデザイン・ベスト100―
音声によるレース実況生成AIで、「物体認識AI」「兆し発見AI」「発話フレームAI」という3つのAIを組み合わせ、実況フレーズを生成する。視覚障害者が、観客席で聴覚を通じてスポーツ観戦を楽しむことができる。トヨタ・モビリティ基金の支援を受けたプロジェクトである。
渋谷区公式サイト 渋谷区ポータル
[株式会社博報堂アイ・スタジオ / YO inc.]―グッドデザイン・ベスト100―
UXデザインとアクセシビリティに注力した渋谷区公式ウェブサイト。年齢・居住域(国内外)・言語・性別・心身の状況などの多様性を重視し、あらゆるユーザーが使いやすいインターフェースを実現した。
このほかにも、印刷・メディアが社会課題の解決に寄与した事例が数多く見られる。グッドデザイン賞の公式サイトには、全ての受賞デザインが紹介されているので、参考になるデザインを探して欲しい。
グッドデザイン賞の公式サイト→
(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)
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