第30回 日本文具大賞2021では印刷会社がグランプリと優秀賞を獲得した。競争の厳しい文具分野で健闘する印刷会社の取り組みを紹介する。
リード エグジビション ジャパン(2021年7月15日よりRX Japan株式会社に社名変更)主催の第16回 ライフスタイル Week 夏が6月30日~7月2日に東京ビックサイトで開催され、3日間合計2万4418人の来場者があった。
構成展の一つである第32回 国際文具・紙製品展 ISOT 夏(以下、ISOT)ではさまざまな産業からユニークな製品が提案されるなか、印刷会社も独自ブランドの製品をアピールした。
同展内で表彰式が行われた第30回 日本文具大賞2021(以下、文具大賞)では印刷会社がグランプリと優秀賞を獲得した。
以下、文具大賞受賞企業とISOT出展社の一部を紹介する。
山口証券印刷株式会社
硬券乗車券専用の活版印刷機で作った本格仕様のきっぷ型メッセージカード「いろ色きもちきっぷ」が文具大賞 デザイン部門 グランプリを獲得した。「ありがとう」「おめでとう」「自由記入」の3種類が15枚ずつ入ったセットになっている。郷愁と物語性を感じさせ、大人から子供まで楽しめるコミュニケーションツールとなる点が評価された。同社は、鉄道関連の印刷物制作のノウハウを生かし、きっぷをモチーフにしたデザインステーショナリーブランド「Kumpel」を4年前から展開している。「いろ色きもちきっぷ」もそのラインナップの一つだ。交通系ICカードが普及しても、硬券タイプの乗車券にコレクションとしての価値を見出すファンは少なくない。加えて若い女性を中心とした紙ものブームやレトロブーム、コロナ禍でコミュニケーションの大切さが再認識されていることなどが、グランプリ受賞につながったといえる。
大栗紙工株式会社
発達障害当事者の声から生まれた、目に優しいノートのブランド「mahora(まほら)」が、社会貢献度の高さを評価され、文具大賞 デザイン部門優秀賞を受賞した。無線綴じノートの受注生産を手掛けてきた同社は、発達障害者が既存のノートに不便さ感じていることを知り、より使いやすいノートの開発を始めた。発達障害者を支援する一般社団法人UnBalanceの協力を得て障害当事者約100名へのアンケート調査を実施し、寄せられた声を基に試行錯誤を重ねた。「紙からの反射光がまぶしい」「罫線が見分けにくく、書いているうちに行が変わってしまう」「罫線以外の情報が気になって集中できない」などの悩みに応えるため、中紙には光の反射を抑えた国産色上質紙を採用、罫線は、太罫・細罫が交互に入るタイプと網掛けの帯が入るタイプの2種をデザイン、そして日付欄などを取ったシンプルな構成とした。発達障害者だけでなく誰にとっても使い心地の良いノートとして訴求している。
大阪シーリング株式会社
新型コロナウイルス対策製品と、シール・ラベル・パッケージのアイデア製品を出展し、来場者の注目を集めた。同社は社会課題に対し、シール・ラベル印刷でどのように貢献できるかという視点で製品開発を行っている。飛沫感染から目を守る「マスク装着アイガード」は販売数130万枚突破。初出展の「ワクチン接種会場設営シールセット」は会場案内・番号・名札などのシールが用意され、会場設営担当者の負担を軽減する。また、ユニークな文具・雑貨のOEM事業「Item OSP」の新製品として、魚をさばくように開くメモシール「サバカレター」、動物の口を開くと文字が現れるメッセージカード「パカっとメッセージ」などを紹介した。企業の要望に合わせて企画から製造までを担うことで、多様な展開が可能なビジネスモデルである。
株式会社研恒社
スライド式リングレスノート「SlideNote(スライドノート)」を紹介した。金属クリップを使用し背の部分を横に引っ張ると外れる仕組みのバインダーで、用紙に穴を開けずに綴じられる手軽さ、目的に応じて内容をカスタマイズできる柔軟性、用紙の無駄が出ない環境配慮などが特徴である。同社は商業印刷を主軸としながらオリジナルノート作成サービスも手掛けてきたが、2019年度 東京ビジネスデザインアワード テーマ賞受賞を機に新たなブランド「PageBase」を立ち上げた。「PageBase」はカスタマイズ用紙のECサイト「Paper & Print」と「SlideNote」で構成される。展示会やメディアへの露出で認知度を高め、より良い使い勝手を目指して改良を重ねた。2020年12月の販売開始以降、ビジネス用途を中心に売り上げが好調だという。顧客の要望に応えて今回、既存のA4サイズ以外にA5サイズを発売し、カラーバリエーションも増やした。今後は大手量販店での販売も予定している。
佐々木印刷株式会社
3年手帳シリーズなどのオリジナルダイアリーを出展した。同社は、広報誌や商業印刷物などの企画から制作までを手掛ける一方、1959年から農業日誌「3年連続日記」を発行し続け、農業協同組合(JA)を通じて販売している。見開きで4日間3年分を記録する仕様で、前年同時期の作業内容などが一目で分かる。近年はその実績を生かし、一般向けの3年手帳も企画している。3年間の同日を比べるデイリータイプのほか、曜日で比べるウィークリータイプがあり、サイズもB5・A5・A6などをそろえている。「4月始まり 四角い手帳 3年ウィークリー」は記入欄に罫線がないカジュアルなタイプで、ISOT会場ではスタンプなどでデコレーションした使用例を展示し、来場者の注目を集めた。小売店のほか、自社ECサイトとAmazonでも販売、手帳メーカーと並んでメディアに度々取り上げられるなど、健闘している。
以上の事例は、ありふれた文具であっても、まだまだ新製品が生まれる可能性があることを示している。人々の多様な要求、身近に感じる不便さなど、日常に潜む課題を拾い上げることが、開発の出発点である。
(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)