会員誌『JAGAT info』の表紙は、印刷文化を語る上で欠かせない色と形の魅力をテーマにしてデザインしている。最近の表紙を例に制作意図を紹介する。
現在は「日本の形シリーズ」として、本誌の発行時期の歳時や風物をモチーフにしたイラストを主体に、和紙のテクスチャーや日本の伝統文様を組み合わせて、季節感と日本情緒が感じられるようにデザインしている。
今回は、2024年3月号の「貝合わせ」について紹介する。
着物の柄などにあしらわれる文様の一つに、貝殻の内側に絵が描かれた「貝合わせ」がある。これは、蛤の殻を用いた遊びの情景を題材としたものである。
「貝合わせ」は平安時代に貴族の間で始まったとされ、元々は、蛤の殻の大きさや色合いの美しさなどを競ったり、貝を題材にした歌を詠み合ったりするものだったという。
やがて、貝殻を左貝(出貝、だしがい)と右貝(地貝、じがい)に切り離し、殻の外側を上にして並べ、対になる殻を見つける「貝覆い」という遊びが生まれた。現在では「貝覆い」のことも「貝合わせ」と呼ぶことが多い。
殻の内側には対の目安となる絵が描かれており、その題材には『源氏物語』『伊勢物語』などの物語の一場面、花鳥風月など、さまざまなものがある。
表紙絵では、春の花として、コブシ・レンギョウ・ホトケノザをあしらった。これらの花には梅や桜に比べると目立たないが、よく近づいてみると、複雑で美しい造形に驚かされる。
制作に当たっては、色鉛筆で描いた原画をスキャンした後、Photoshopで調整を行った。
今後もさまざまな題材を通じて、日本の風物の魅力を伝えていきたい。多忙な日々を送る読者の方々が、本を手に取る一瞬にホッと一息ついていただければ幸いである。
(『JAGAT info』制作担当 石島 暁子)