日本グラフィックデザイン協会の2024年版年鑑に掲載された作品を紹介する「日本のグラフィックデザイン2024」が7月1日~8月25日まで東京ミッドタウン・デザインハブで開催された。その概要を紹介する。
日本グラフィックデザイン協会(以下、JAGDA)はグラフィックデザインの振興と文化や産業の発展などを目的とした公益社団法人である。
JAGDA発行の年鑑『Graphic Design in Japan』(以下、年鑑)は、正会員を対象として過去1年間に手掛けた仕事・作品を募集し、正会員の互選で選ばれた29名の委員によって選出された入選作品を収録している。
今回は全国の正会員から約2100作品が出品されて約580作品が入選、その中から「亀倉雄策賞」1作品、「JAGDA 賞」10作品、「JAGDA新人賞」3名がそれぞれ選出された。また、選考委員がおのおの最も興味を持った作品を「This One!」としてコメントと共に紹介しており、好評を博している。
会場では、入選作品の中から受賞作品をはじめとする約300作品を実物と上映で展示した。以下、受賞作を中心に紹介する。
亀倉雄策賞
JAGDA初代会長を務めた故・亀倉雄策氏の名を冠した賞で、応募作品の中から、年齢やキャリアを問わず、最も輝いている作品とその制作者に贈られる。今回は北川一成氏によるアートプロジェクト「KAMIZU」が選ばれた。
KAMIZUの公式ウェブサイトによれば、このプロジェクトは、「世界のあらゆる所でがんばっている人達をこっそり応援する」ことを目的にしているという。キャラクターには、みんなを優しく照らす「きいちゃん」、強い力を持つ「いかづち」、3本足を持ち道案内をする「やたがらす」などがあり、いずれも現代的でユーモラスにデザインされている。これらのキャラクターを使用したお守りなどを、提携する神社で授与するほか、和菓子や帆布バッグなどのコラボレーション商品を開発している。2020年のコロナ禍に、北川氏が神社や企業とコラボレーションすることで実現した。本賞の選考においては、常識を覆すディレクションと突出した造形力などが評価された。
北川氏は、デザイン・ブランディング・印刷・加工などを⼀貫して手掛ける企業「GRAPH」の代表であり、デザイナーでもある。
今回の受賞を受け、「一つひとつのグラフィック表現における芸術性を担保する一方で、総合的なブランドとしての価値を高めるよう努めてきたことが、このたびの評価にもつながったものと感じております」と述べている。
JAGDA賞
本賞は、10種類の作品カテゴリーそれぞれの高得票作品から選ばれている。その一部を紹介する。
植原亮輔氏による、アルゼンチン産ナチュラルワイン「Livvera」のロゴは、植原氏らが運営するセレクトショップで販売するワインのエチケット(ラベル)にあしらわれたもの。「Livvera」は、女性の名前「LIV(= Life)」と「VERA(=Truth)」を組み合わせた言葉で、ラテン語「libera=自由」にも似ていることから、女性的でありながら凛とした存在感のあるイメージでデザインしたという。
玉置太一氏による新聞広告「ユニクロ 母の日・父の日」は、『ちびまる子ちゃん』のキャラクターを借りて、親子のコミュニケーションを喚起することを狙ったイメージ広告である。2023年5月10日に「母の日」、同6月14日に「父の日」の広告が出稿された。母の日の場合、まる子が描かれた15段広告とお母さんが描かれた15段広告が別々のページに印刷されており、その間の紙面を抜くことで両者が向き合う紙面が現われ「話そうよ、母の日に。」というキャッチコピーが読めるようにページ編成された。
岡崎智弘氏による映像作品「cup / horse / bottle」は、フランスのエルメスから依頼を受けたイメージ広告。ブランドを象徴するコーヒーカップ、馬のシルエット、化粧品ボトルのそれぞれをモチーフにして、ストップモーションアニメーションを制作した。
加藤亮介氏・加藤千洋氏による「(ふつうの)マヨネーズと(ふつうの)ケチャップ」のパッケージデザインは、「優れた料理家や職人とつくる人生で一度は体験したい味わい。」をコンセプトとする調味料ブランドのポリシーを体現したもの。瓶を覆う包みは、手工芸的なデザインにすることで丁寧な手仕事のイメージを、また外装はシンプルなダンボール箱によって商品が目指す「ふつう」を表現した。
柿木原政広氏によるブックデザイン『TANAAMI!! AKATSUKA!! / That’s All Right!!』は、集英社のプロジェクト「マンガアートヘリテージ」の一環で出版された、アーティストの田名網敬一氏と漫画家の赤塚不二夫氏とのコラボレーション作品を紹介するもの。作品自体が持つインパクトを生かすために、無駄なデザインを避けることを心掛けたという。
JAGDA新人賞
年鑑出品者の中から39歳以下の有望なグラフィックデザイナーに贈る賞で、今回は坂本俊太、 岡﨑真理子、山口崇多の3氏が選ばれた。
坂本氏はhakuhodo DXDに所属する傍ら、2020年よりクリエイターズクラブ「NEW」を運営している。受賞作の一つは、グラフィック作成アプリケーション「脳波書 no ha sho」。書家の脳波を計測し、創造性などの数値からデジタル書画を生み出す実験的なプロジェクトから生まれた。本作はJAGDA賞も受賞している。
岡﨑氏は2022年にグラフィックデザインスタジオREFLECTA, Inc.を設立。コンセプトの視覚的翻訳を得意とし、展覧会やイベントなどの総合的なグラフィックデザインを軸に、多岐にわたる活動を展開している。受賞作の一つは、科学技術館を会場に開催されたアートイベント「EASTEAST_TOKYO 2023」の総合デザインである。アートに関わる個人や団体が分野を超えて集う場であることを表すため、タイトル文字を幅の異なる線が重なる形にデザインし、さらにタイトル中の「_(アンダーバー)」の文字を曲線的に変形させ、紙面に躍動感を出した。
山口氏は2021年にデザイン事務所colléを設立し、企業のCI・VI、ブランディング、パッケージデザイン、サイン計画などに取り組んできた。受賞作の一つは、竹尾が2023年に開催した企画展「TAKEO PAPER SHOW 2023『PACKAGING―機能と笑い』」の出品作「Paper tube flowers」。蓋付きの紙管に紙棒をつなげて花と茎のように見せた実験作である。紙管は容器として機能することから、パッケージにもインテリアにもなる製品としての実用化が考えられる。
またThis One!に選ばれた作品として、岡本健氏による京都の和菓子工房「御菓子丸」の商品「鉱物の実」のパッケージ、富田光浩氏による、古い民芸品などを革で包んでアップサイクルするプロダクトブランド「YARD」などを紹介。
そのほかにもポスター、新聞・雑誌広告、プロダクト製品、プロモーション映像など、さまざまな分野の作品が展示されていた。それらを通覧することで、グラフィックデザイナーとクライアントとの関わりや、新しい表現手法の探究などが垣間見えてくる。デザインに携わる人にとって学びの多い展覧会であったといえよう。
なお、入選作を収録した年鑑『Graphic Design in Japan 2024』が発売されており、全国の書店やネットストアで購入することができる。
東京ミッドタウン・デザインハブ第109回企画展
「日本のグラフィックデザイン2024」
会期:2024年7月1日(月)~8月25日(日)
会場:東京ミッドタウン・デザインハブ(東京都港区赤坂9-7-1 ミッドタウン・タワー5F)
主催:東京ミッドタウン・デザインハブ
企画・運営:公益社団法人日本グラフィックデザイン協会(JAGDA)
展覧会URL→
『Graphic Design in Japan 2024』
発行:六耀社
発行:2024年7月
体裁:A4変型(天地280mm×210mm)/468頁/カラー/上製本/ケース入
編集長:中村至男
ブックデザイン:関本明子
価格:16,500円(税込/送料別途)
(JAGAT 石島 暁子)