ロングライフデザイン賞は、長年にわたって消費者に支持されているスタンダードなデザインに贈られる。2018年にはどんな製品やサービスが選ばれたのだろう。
私たちはともすると、デザインの価値とは、斬新さや華やかさにあると思いがちである。
しかし、使いこんだ日用品も、街の風景に溶け込んだ建物も、本もテレビ番組も、私たちの暮らしに関係あるものは全て、誰かがデザインしたものである。
私たちは、意識・無意識にかかわらず、デザインに囲まれて生きている。
公益財団法人日本デザイン振興会によるロングライフデザイン賞は、長年にわたって消費者に支持されているスタンダードなデザインを顕彰するもので、毎年、グッドデザイン賞と同時に発表されている。
2018年度グッドデザイン・ロングライフデザイン賞受賞デザインの一部を、キーワードとともに紹介する。
昭和の技術 再発見
しょうゆさし「G型しょうゆさし」(白山陶器株式会社)
1958年から60年以上にわたり製造を続けている卓上用磁器製しょうゆさし。
開発当時、時代に即したモダンな生活用品として提案された。
現在は、プラスチック製などさまざまな素材の商品が市場に溢れているが、G型しょうゆさしは、液だれしないことや形の美しさで根強い人気がある。
1960年に第1回グッドデザイン賞(Gマーク選定)を受賞し、1977年にグッドデザイン賞20周年記念ロングライフ賞を受賞している。
「東京タワー」(日本電波塔株式会社)
1958年に竣工された総合電波塔。東京のシンボルといえる存在だ。メインデッキ(150m)とトップデッキ(250m)の2つの展望台があり、2018年1月には、展望台来場者数1億8000万人が達成された。
設計指導に当たった内藤多仲(ないとう たちゅう)博士は、耐震壁による耐震構造理論を考案し、名古屋テレビ塔、通天閣、さっぽろテレビ塔なども手掛けている。
2012年に新たな電波塔、東京スカイツリーが完成してからは、災害時の予備の電波塔としての位置付けになっているが、東京の風景にすっかり馴染み、季節ごとのライトアップなどは都心の風物詩となっている。
「チキンラーメン」(日清食品ホールディングス株式会社)
NHK連続テレビ小説「まんぷく」で話題となった世界初のインスタントラーメン。
発売当時のデザインを一貫しながらも、時代の変化に合わせて独自性を追求し続けている。
情報技術の普及
「Suica」(東日本旅客鉄道株式会社)
2001年に利用開始。
JR東日本では1990年から磁気式自動改札機を導入してきたが、よりメンテナンスコストやイニシャルコストがかからない仕組みが求められ、ICカードに着目した。
このカードの登場によって利用者にとっての利便性が向上しただけでなく、乗り換え、乗り越し精算のストレスも軽減した。交通の他に、店舗でも使え、日常的な移動や買い物の行動スタイル自体を大きく変えた。
今やJR東日本のマスコットと言えるSuicaのペンギンは、もともと絵本作家 坂崎千春氏作の『ペンギンゴコロ』に始まるペンギンシリーズのキャラクターである。
「駅すぱあと」(株式会社ヴァル研究所)
1988年に登場し、今年で30周年を迎える。
乗り換え検索の先駆者。インターフェースやプラットフォーム等が大きく変化する現代においても、その変化にしっかりと対応し適応している。
現在、クラウド型APIの「駅すぱあとWebサービス」、全国の鉄道網を一枚で表示する「駅すぱあと路線図」(グッドデザイン賞2017受賞)、社内システムと連携する「駅すぱあとイントラネット」、通勤費管理や旅費交通費精算の社内システムを構築する「駅すぱあとSDK/ネットワークSDK」などの法人向けサービスのほか、個人向けのモバイルアプリも提供している。
キャラクターに注目
「機動戦士ガンダムシリーズ」(株式会社サンライズ)
1979年放送開始で2019年で40周年を迎える。
従来のロボットアニメに多かった単純な勧善懲悪ではない「リアルロボットアニメ」のジャンルを確立した。
第1作目は視聴率低迷であったが固定ファンを持ち、その後じわじわと人気が高まって一大ブームを巻き起こした。今や国内だけでなく海外でも人気が高い。
公式ガンダム情報ポータルサイトの「GUNDAM.INFO」がある。
「ゴジラ」(東宝株式会社)
1954年封切映画「ゴジラ」を始めとした国内実写映画29作品、ハリウッド映画2作品、国内アニメ映画2作品がこれまでに上映され、来年で生誕65周年を迎える。「もっとも長く継続しているフランチャイズ映画」としてギネスに世界記録認定され、国際的にも注目を集めるキャラクター。
「はらぺこあおむし」(株式会社偕成社)
アメリカのグラフィックデザイナー エリック・カール氏による”The Very Hungry Caterpillar”を、もりひさし氏が日本語訳し、1976年に偕成社より発売された絵本。
当時アメリカでは、ページによって大きさが違う上、穴も空いている製本・加工を引き受ける会社が見つからず、日本で製本・加工を行った。原書の初版には「Printed in Japan」の表記がある。
2017年には、世田谷美術館で「エリック・カール展 The Art of Eric Carle」が開催され、エリック氏も来日し話題になった。
一時的に話題になるデザインが、その後長年にわたって愛され続けるとは限らない。逆に、発売当時は大きな話題にならなくとも、長期にわたり市場に生き残るデザインもある。
今年のグッドデザイン賞受賞デザインは、10年後、どんな風に発展しているのだろう。ロングライフデザインとなるよう、事業継続してほしい。
※写真は「2018年度グッドデザイン賞受賞展」会場より
(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)