印刷価格は下がるのが当たり前で、確かに下がり続けてきた。しかしいよいよ、2022年からはあらゆる指標が印刷価格の上昇を告げている。この変化は戦略の転換を迫り、新たな価値創造の必要性を高めている。データに基づき識者、経営者と議論する。
■印刷価格の値上がりを示す指標が相次ぐ
印刷会社からは、営業担当者が初の値上がりで戸惑っているとの声も聞かれる。現役世代はインフレ局面への対応を誰も知らない。そして印刷価格の値上がりは、物価高騰を吸収するには充分ではない。この状況を印刷経営者はどのように見ているのか。そもそも、従来型の原価に希望利益を乗せて売価とする価格設定で良いのか。政府が推進するDX戦略には、こうした請負型取引における積算見積への問題提起といった、従来の商慣行の変革にまで踏み込む言及が見られる。そこでは、従来型はいわゆる合理化貧乏の構造要因の一つに位置付けられている。
■印刷価格を巡る発注者の価値観の変化
印刷価格の動向について定評のある『印刷料金2023（経済調査会）』が今年も2月1日にpage2023会場で先行発売になる。本書に掲載される印刷価格は広く印刷会社を対象にした調査の分析結果だが、いよいよ初の上昇になったもようだ。JAGATの印刷業毎月観測アンケートの調査結果も上昇を示しているので、調査協力社はずいぶん前から既に対応していると思う。ただし物価や資材の上昇幅には追い付かない。経営収支が苦しいことに変わりはないが、少なくとも発注者の価格に対する姿勢が変わってきたことの意味は大きい。
■価値創造の手段としてのSDGs
そこで2月9日は、オンラインカンファレンス「SDGsとESGのリスクとチャンス －収益性と社会性の両立に向けて－」を開く。田中信康氏（岐阜・サンメッセ）と江口聡氏（横浜・野毛印刷）から、SDGsを価値創造と業容拡大に応用した実際を聞く。両社は最新の経営戦略であるCSVを重視し、地域社会や顧客業界に良い影響を与えたリターンを受け取る基本思想が共通する。また、ラボ・研究所を設立して研究開発・コンサル機能を持つ点も同じだ。逆に異なる点もある。いずれにせよ、SDGs/CSVの利点は、社員が課題解決思考になる点、見込み客が共感してくれて市場が広がる点、取引が長く太くなる点という。世界的なサステナビリティの潮流を背景に、顧客が印刷会社を選ぶ視点は価格第一主義だけではなくなった。
■物価高騰局面に必要なスタンスとは
こうした印刷価格を巡る数十年単位の環境変化は、攻守に大きな戦略の変化を迫っている。インフレを重く受け止める必要があろう。印刷価格は下がることが前提で売価は上げられないからこそ、印刷業界は長年、合理化投資やコストダウン、原価管理に注力した。今までのデフレでは、物価下落を味方に価格の目減りを上回る速さでコストダウンして利益確保する戦略が主だった。ところが、合理化努力を上回る物価高騰の局面で採るべき戦略は逆である。焦点は価値創造に移らざるを得ない。インフレでは価格修正やサービス見直しなどプライシング施策が効果的になる。
■価格動向の分析とプライシングの議論
2月10日は、オンラインカンファレンス「価値創造時代のプライシング－印刷サービスの値付けに関する論考－」を開催する。価格設定というセンシティブなテーマなので、なかなか言いにくい部分も多々あるが、できるだけ定量的なデータに基づいて議論する。初めて生まれたこの機運を、収益改善に生かせないか。『印刷料金』の著者であり印刷積算の第一人者である高見隆登氏に、岩村貴成氏（オフセット岩村）、笹井靖夫氏（共立速記印刷）といった若手経営者2氏を迎え、物価高騰時代の価格設定のあり方について議論する。（JAGAT研究調査部 藤井建人）
■SDGsとESGのリスクとチャンス －収益性と社会性の両立に向けて－
日時：2023年2月9日（木） 16:00〜18:00
形式： Zoomによるオンライン開催
参加費：13,000円（税込）／ 1名（3セッション以上申込みは割引あり）
詳細とお申込み：https://page.jagat.or.jp/session/detail_156.html
■価値創造時代のプライシング －印刷サービスの値付けに関する論考－
日時：2023年2月10日（金） 13:30〜15:30
形式： Zoomによるオンライン開催
参加費：13,000円（税込）／ 1名（3セッション以上申込みは割引あり）
詳細とお申込み：https://page.jagat.or.jp/session/detail_157.html
■page2023オンラインカンファレンス（計11本）2023年1月31日～2月10日
基調講演（1本、1/31）
カンファレンス＋セミナー（10本、2/6-10）
■『印刷料金（積算資料）2023年版』 
発売日：2023年2月6日
※2月1日開幕のpage2023会場で先行発売
体裁：B5判、390頁
発行：一般財団法人経済調査会
定価：3,772円（税込）
販売：JAGAT Book Store