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年齢や障害の有無に関係なく多くの人が利用できるように、印刷だけでなく家電製品や日用品向けに開発されたフォント。
日本のパッケージフォントの多くは、出版印刷を想定したデザインとされてきた。イワタのユニバーサルデザイン(UD)フォントは、市販フォントとして初めてUDの考え方に準じてデザインされている。
■ユニバーサルデザインフォント
UDフォントは松下電器との共同開発で、松下が仕様と評価を、イワタが文字のデザインを担当し、2006年に発売した。ターゲットは、横組みで10文字程度の文章、操作表示で、シルクスクリーン印刷用、読みやすく、誤読しにくい文字作りが目標である。現在、UDゴシックが6ウェイト、UD丸ゴシックが3ウェイト、全部で9書体ある。
UDとは、年齢や障害の有無に関係なく多くの人が利用できるように考えられたデザインのことで、アメリカのメイス博士により1990年代に提唱された概念である。バリアフリーが高齢者や障害者など、特定の人を対象にしたデザインなのに対し、UDは健常者も含めたすべての人が対象である。日本では約10年前からメーカーや自治体などが取り組み始めている。メーカーなどでは、環境やエコへの配慮とともにUDは必須条件になっている。
■UDに対応した文字とは
文字のUDとは何かというと、できるだけ多くの人が見やすく読みやすいデザインと解釈している。開発当初、従来のフォントに対していろいろな要望があった。フォントを使うデザイナー側からは、印刷時につぶれやすい文字、誤読しやすい文字に対処してほしい。家電を使うユーザーからは、リモコンの操作表示の文字が小さくて見づらい、文字が細くこすれて見えにくい、逆に太過ぎてつぶれて見えにくいといった声があった。
見えにくいという中には、弱視(ロービジョン)ということがある。矯正視力0.05以上0.3未満で、国内での障害者は35万人、潜在的には100万人以上いると言われている。
白内障は、40歳くらいから始まり、50歳で約半数、80代、90代でほぼ100%の人が、程度の差はあれ白内障になると言われている。主な症状としては、細かいところが見えないとか、かすむ、まぶしいなどである。
見えにくい文字とはどういうものか、焦点がずれた場合には、線が太過ぎるとつぶれて見える。光量が多過ぎると、線が細い場合にこすれて見える。文字デザインそのものにも、見えにくくなる要因がある。アルファベットの「S」と数字の「3」「8」は、焦点がずれた場合に判別しにくい。「O」「C」「G」も同様である。「R」「B」も、下のほうが隠れた場合に判別しにくい。「6」「9」という点対称の文字は、180度回転すると同じになるが、こういう文字はディスレクシア(読み書き障害)があると判別しづらい。
UDフォントを評価・分析するために、4つの要素に分けた。「視認性」は文字一つひとつの構成要素が見やすいかどうか、「判読性」はほかの文字と誤読しにくく、判別しやすいかどうか、「デザイン性」はシンプルさや美しさ、整理整合性、「可読性」は、単語、文章にした時に読みやすいかどうかである。
これらの要素は、必ずしも両立できるわけではない。視認性と判読性を重視するあまり、可読性が損なわれることもある。今回は家電製品の機能表示用という目的がはっきりしていたので、優先順位を、視認性、判読性、デザイン性、可読性の順に付けている。
実際にデザインに配慮したところは、懐の広さである。字面をいっぱいにデザインしている。字面率にして95%である。つぶれ対策として、濁点、半濁点などの隙間を十分に確保した。また、画線をシンプル化し、ゴシック特有のゲタも排除して部首をなるべく大きく取っている。変形にもある程度耐えられる文字となっている。家電製品で表示用に使われている文字は、7割以上が変形の文字である。また、最近の家電製品は和欧文が混植されているので、大文字の欧文と仮名・漢字の高さが揃うように、ある程度調整している。これらも家電製品では重要な要素である。
■使用事例
松下製品の操作表示、銘板、品番などは松下の規定で使用が義務付けられていて、家電製品、テレビやリモコン、炊飯器、洗濯機など、すべての製品に使われている。バスの停留所の看板にも使われている。当初はシルクスクリーン印刷を想定していたが、画面でも使いやすいことから高齢者向けのテレビ電話に使われている。プレイステーション3のゲームに使われた理由は、見やすいだけでなく、和欧文や英語がたくさん出てくるので、一緒に組んだ時に高さが揃って見えるのがよいと、デザイン性で評価された。
(この続きは、Jagat Info 2008.9月号、詳細はテキスト&グラフィックス研究会会報誌 Text & Graphics No.270に掲載しています)
2008年10月