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ビジネスをして行く上で迷いはつきものだが、一昔前には人の迷いにつけこんだマーケティングというのもあった。
今でもブランディングや差別化、ロイヤリティというテーマがあり、企業や製品のイメージ向上をはかる広告がなされたりしているが、これを裏返すと製品や サービスそのものには特別な優位性がないことが多い。もし明らかなアドバンテージがあれば、それを理解してもらうことが広告の第一使命で、ことさら製品・ サービス以外の要素を駆使したり他のイメージを借用する必要もない。
ビジネスがうまくいっているときに、競合相手が現れ、自社よりも優れたものを安く提供するようになることがある。その時に先行しているビジネス側は、新興勢力に対して牽制をするような広告を打つ。それは利用者が競合会社の新しい製品やサービスに対して自然に抱く心理を突いたものである。人は新しいものに対して期待をする半面で、不安(Fear)があり、不確実(Uncertainty)なところがあり、疑念(Doubt)もある。これを煽って既存製品のリスクのなさや、これからの改善の可能性などを訴え、利用者を引き留めようというマーケティングで、FUD戦術ともいわれる。
一般に市場で大きなシェアを握る企業の広告戦術にFUDはよく用いられる。典型的なのがかつてのIBMであり、そののちのMicrosoftであるといわれる。これに対して新興勢力は市場がFUDに染まらないように対抗して情報発信や信頼を得るための活動をしFUDを論破しなければならない。ここからが本題だが、自分はFUD戦術を仕掛ける方だろうか、仕掛けられる方だろうか? FUDを仕掛けるのは新興勢力に侵食されるのではないかと思っているところであるし、新興勢力というのは先行者に負けない製品やサービスがあると自負しているところである。
かつてマスメディアが情報伝達の王者であった時代は、FUDを仕掛ける側が非常に力をもっていた。それに反論するために、同じように金をかけて広告を打つことは、新興勢力にとってはとても負担の大きいことであったからだ。しかし本来FUDは、利用者側が正しい知識を持つようになれば氷解する性質のものだ。だから今はいろいろなメディアや情報伝達の方法が発達したために、FUDを煽って新興勢力を牽制できる期間が短くなりつつある。価格はkakaku.comなどで比較されるし、WebサイトでもユーザのコメントやBlogなどの評価記事のようなCGM/UGCも書かれるので、あまり事実と反したFUD攻勢をするとかえって逆効果にもなる。
FUD攻勢を仕掛けるというのは、一般には先に悪意があって企んでするものではなく、おそらく生物としての人間が本能的な防衛反応として、相手の弱みを嗅ぎ付けて脚色するようなものであろう。だから自分も競合に対して知らず知らずのうちにFUD戦術を使っている場合がある。FUDの多くの場合は、次に競争力のある製品やサービスが登場するまでの間に競合相手が割り込まないよう時間稼ぎをするためであって、FUD攻勢で将来ビジネスが有利になるようなものではない。だがFUDの自覚がなくて行っていると、今度は自社の対抗力が身につく前に逆に論破される羽目に陥るだろう。
意識するとしないとにかかわらず、自分のビジネスに関連したFUDの罠に自分がはまらないようにしなければならない。繰り返すが、新しいことをするにはかならずFUDがついてまわる。それを自分で検証する能力を持とう。それにはやはり勉強が必要で、知識と、客観性で論証するのである。またそうしておくことが、周りの人に対する教育のためにも重要である。誰しも同じようなFUDを経験するのだから、先に乗り越えたものが、後の人を指導していかなければならない。
クロスメディアエキスパートの試験でロジカルシンキングを重んじているのも、そのような理由からだ。