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エネルギーや用紙の高騰、エコ志向、情報通信の加速度的な普及など、印刷を取り巻く環境は厳しさを増している。大量印刷中心のビジネスモデルは縮小せざるを得ないだろう。あるいはインクジェットや電子写真方式のデジタル印刷が主流となる時代が来るかもしれない。
テキスト&グラフィックス研究会では、「最新デジタル印刷とインクジェット技術」として、インクジェット技術の特徴や課題について取り上げた。
インクジェット方式は、大別するとオンデマンド方式とコンティニュアスに分けられる。
オンデマンド方式には電気機械変換方式(ピエゾ型)、さらにピエゾ型にはユニモルフ型ピエゾと積層型ピエゾに分けられる。エプソンは、ユニモルフ型と積層型ピエゾを採用している。
また、京セラはユニモルフ型ピエゾ方式を採用している。
電気熱変換方式にはサーマルジェット型(バブルジェット型を含む)がある。
コンティニュアス方式は連続吐出方式とも言われる。例えて言うと、ホースから飛び散る水道の水を安定的に制御し、ドロップ(インク滴)にする技術である。飛び散るドロップの向きを変える偏向制御型があり、コダックが採用している。また、ホースの口を小さくし、より小さく飛び散るドロップをコントロールする方法が発散型である。
ピエゾ素子をプラス電極、マイナス電極で挟んだサンドイッチ構造となっている。電圧をかけるとピエゾ素子が厚くなり振動板が収縮する。その力がインク室に加えられインクを吐出する。
この原理を応用しているのがピエゾ型ヘッドである。
図2_ユニモルフ型ピエゾヘッド
エプソンは、積層型ピエゾヘッド方式を採用している。この方式はピエゾ素子を何層にも重ねてたもので、より精密な制御が可能である。
1インチの印字幅の中に、1440のノズルを配列することで1440dpiを実現している。
積層型ピエゾヘッドの動作原理は、ピエゾ素子の両端にある電極に電流を流すと、積層ピエゾ素子が伸張し、圧力が発生する。この圧力がインク室の振動板を押すことでインク室容積が減少する。インク室容積の減少分がインク滴となって、ノズルより吐出される。通電時間や電圧を制御する事で、インク滴の変調を行うことが可能である。
図3_エプソン積層型ピエゾヘッド
図4_積層型ピエゾヘッド動作原理
京セラでは、ラインヘッド型インクジェットヘッドを採用し、ヘッドサイズは200×25×58mm、ノズル数はヘッドあたり2656となっている。
1ヘッドの印字幅は4.25インチ(108mm)で、解像度は600dpi×600dpiとなっている。また、印刷速度は75m/分となっている。
基本構造として、一つのヘッドユニットの印字幅は4.25インチ(108mm)あり、千鳥状に配列された2656個のピエゾ・アクチュエータを持つ。このヘッドユニットを横方向に5個並べて541mmの印刷幅を確保し、用紙搬送方向にKCMYの順に各色ヘッドユニットを並べている。
菱形のピエゾアクチュエーターを採用しているところが特徴的である。
図5_京セラヘッド基本構造
ヒーターに通電すると瞬時に約300℃の高熱となる。ヒーターに接した部分が核沸騰という沸騰現象を起こす。核沸騰により瞬時に発生した気泡がノズル近傍のインクを押すことで、インク滴となりノズルより吐出される。
HPサーマルインクジェットヘッドも、構造は異なるがこの動作原理を応用している。
図6_サーマルインクジェットの動作原理
図7_HPサーマルインクジェット
インクの供給タンクに圧力を加え、共振部で振動を与えることでインクが球になる。チャージ電極で電荷を与え、高電圧をかけることで偏向版に引き寄せられる。この方法でインクの吐出を制御することができる。高速に制御することができる。
Drupaで紹介されたコダックのコンティニュアス方式は、さらに最新技術が採用されている。インク滴形成手段は、共振方式ではなくノズルヒーター方式である。インク偏向手段は、高電圧偏向板方式ではなく、エアーフロー方式やノズルヒーター方式である。
図8_連続噴射型インクジェット
インクジェット方式には、常に以下のような課題が発生する。インク不吐出、インクの着弾点精度やインクにじみによる印字品位。スメア、インクミスト、インクボタ落ちによる汚れ。裏移り、乾燥時間、ニジミ、耐光性・耐湿性・耐熱性、耐ガス性などの用紙適性である。
また、これらの課題を克服するキー技術として以下がある。
ノズル-紙間距離を制御する紙搬送機構、ヘッドユニット実装機構。負圧制御、インク残量検知などのインク供給技術。キャッピング、インク吸引、フェイス面拭きなどのメンテナンスステーション。インク材料、インク溶媒、紙質、コーティングなどのメディア技術である。
「Memjet」とは、オーストラリアのベンチャー企業が開発した新しいインクジェット技術である。サーマルジェットの1種だが、インクでヒーターの熱を下げるところが独創的である。1/10のコストで10倍のスピードが出ると言う。
あと数年で、実用化できるだろうと言われている。
テキスト&グラフィックス研究会