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※オンライン校正は、印刷会社側の作業を効率化するのだけが目的ではなく、顧客満足度を向上させるためのツールである。
チラシやカタログ制作では、下版まぎわに赤字修正が集中する場合が多い。オンライン校正は、印刷会社側の作業を大幅に効率化するだけでなく、発注者側で修正の最終確認ができるため、「見落とし」や「事故」を防止することができ、顧客満足度を向上させることができる。オンライン校正の実際について、昭栄印刷の小野和夫氏に話を伺った。
■オンライン校正システム導入の背景
昭栄印刷は、情報誌、出版系の印刷物に特化した印刷会社である。売上の約7割が情報誌で、地元の情報誌や求人誌等、地域情報誌をメインのターゲットにしている。新潟に本社が、東京に営業所があるが、全国の情報誌を幅広く受注して仕事を進めている。
昭栄印刷が導入したオンライン校正のシステムは、AGFAのApogee Portalを2008年5月に導入し、6月から稼働開始している。
現在、取引先4社、10誌の仕事(月刊9本、週刊1本)で運用している。トップクライアントであるこの4社に対する囲い込みや、新たなサービス提供のために導入した。順次、お客様に提案を勧めている段階である。
導入前の仕事の流れとしては、お客様が作ったデータを営業マンが取りに行くか、宅急便で送ってもらい、データをお預かりしていた。データをコピーしてチェックし、オペレーターが内容に問題がないか確認した上で、お客様のところに校正紙をお持ちする。お客様に確認いただき、決定原稿なり指示なりをいただいて帰ってくる。お客様が全国にあるので、そういうやりとりに時間がかかっていた。
■オンライン校正システムの導入前・導入後
データや校正紙のやり取りが、インターネットとオンライン校正のシステムに置き換わったことで、お客様が直接当社の仕組みを利用して、確認して承認までできるというシステムの流れに変わった。お客様は24時間、都合の良いタイミングで入稿、校正、承認が可能になった。
昭栄印刷としても、お客様に対してギリギリまで詰めたスケジュールを提案することが可能になった。
また、以前は良くあった、リンク画像の添付漏れで、電話して「画像が1つないので持ってきてほしい」「FTPで上げてもらいたい」と依頼することもなくなった。
オンライン校正のメリットとして、まず、スケジュールに余裕ができる。お客様にWebの画面でページを見てもらい、承認なら「承認」を、だめなら「だめ」というボタンを押してもらう。
「承認」ボタンを最終的に全てのページに押すと、自動的にCTPの版出力が開始する。お客様に承認された1、2分後には版が出てくる。
8版出力するのに30分もあればこと足りるので、お客様にWeb上で承認していただき、極端な話、30分後には印刷が可能である。
2番目に、進行管理が容易になる。Web上の画面にページが並び、全部のページにアイコンが出てくる。承認されていればブルー、未承認ならオレンジ、否認なら赤というふうに、見た目で簡単にわかるので、誰でもどこからでも情報が簡単にわかる。お客様も見られるし、昭栄印刷でも見ることが可能である。
3番目に、遠隔地との共同作業が容易になる。最終的に、昭栄印刷のRIPにデータが貯まっているので、どこから見ても同じ最終的な印刷結果を確認できる。
4番目、「入稿したいとき、校正したいとき、承認したいとき」に作業を行うことができる。お客様はインターネットで入稿し、カラーマッチングされたプリンターで色を確認して、OKならWeb上で「承認」ボタンをクリックするだけである。極端な話、印刷開始の30分前までに終われば良いという形である。
5番目に、承認の工程・権限が明確になる。「承認」というボタンを押さざるを得ないので、このシステムを導入することで承認の工程・責任が明確になるケースが非常に多い。それに、プリフライト結果が報告されるので、解像度が足りないとか、RGBが入っているとかなどもお客様が直接確認できる形になる。
■オンライン校正で目指す効果
効率の向上や省力化なども当然だが、まず顧客満足度の向上を目指している。
こういうシステムで納期を短縮し、利便性を高め、無駄な工程を排除し、コスト削減した結果をお客様に製品として提供する。
これを印刷会社側ではなく、お客様側の視点に立ってやっていこうと考えている。印刷会社側のメリットは結果として付いてくるものと考えて、全国のお客様にお勧めしている。
それから、顧客満足度の向上イコール顧客の囲い込みである。オンライン校正システムをお客様に導入していただくのは簡単ではないので、作業工程の棚卸しを行っていただくことになる。
昭栄印刷は、オンライン校正のシステムで入稿される仕事についても、「承認されたから刷りましょう」という進め方をしていない。先ほど、「承認」を押せば30分後には印刷できると述べたが、そういうふうに進めている仕事はない。
顧客満足度を高めるために提案しているので、これに変えたからといって、「承認したのだからこれはお客様のミスだ」というのは意味がない。オンライン校正システムで承認いただいた仕事だからこそ、社内の検査課で徹底的にチェックして、お客様のミスを発見する体制を整えている。バーコードのようなものも全部問題ないかチェックしている。
■スムーズな導入には
オンライン校正を始める前から、お客様のモニターやプリンター等のカラーマネジメントサービスを実施していた。トップクライアントの4社は、モニターやプリンターのカラーマネジメントを何年も積み重ねているので、普段の作業から昭栄印刷の色を確認していただいていた。
そのため、新たに「オンライン校正だからプルーフはこれだ」と説明するよりは、壁は多少低かった。
Apogee Portalを提案する際は、まず営業マンが伺って、経営者や発注権のある人に説明する。実際にゴーが出ると、現場の人には「何で変える必要があるのか、今までのやり方ではだめなのか」と言われるが、実際の画面や操作を見てもらい、印刷会社のスケジュールを詰められるシステムであることを説明すると、理解してもらえる。
初めから「承認して30分で版を出してくる」と言うと、印刷会社には魅力的に聞こえるが、現場の人には恐怖である。自分が「承認」ボタンを押すことで、版が出てきて刷られてしまう。その責任感は相当なものだろう。
それを突きつけてもうまくいかない。新しく始めるからこそ、今は承認しても徹底的にチェックしている。現状は「承認」ボタンを押されても、こちらから確認の電話が行くので、安心されている。
しかし、お客様もスケジュールは詰めたいので、協力しあって、承認したら30分で印刷できるところまで持っていこう、一緒にやっていこうという話をさせていただいている。
さらに、これは社内の話だが、切り替えた頃、毎月の仕事できれいな表紙の印刷物が、いつもと違い暗くなっていることに印刷のオペレーターが気付いた。ところが、「この仕事は今月からオンライン校正になって、お客様が見ているのだから問題ないだろう」と判断して、そのまま印刷を続行した。
オンライン校正だからこそ、「お客様は承認されているが、いつもより表紙が暗い。良かったのだろうか」と声をかけられるようにしたい。
最後に、今までは金曜日いっぱいにデータを完成させて、印刷会社が土曜日午前中にデータを引き取りに行って校正を出している会社があった。
それを昭栄印刷に変えていただいたところ、金曜の夜、何時でもいいのでデータを完成し、オンライン校正で承認まで行って気持ちよく休めるようになり、非常に喜ばれている。
(テキスト&グラフィックス研究会 会報No.286号より抜粋)