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かつてない逆風に晒された印刷市場だったが、変化の胎動も見えてきた。変化の多いだろう2010年、印刷会社はメディア・コンテンツのソリューションプロバイダーとして、地域における有力な情報加工の担い手として地位を高める。
■2007年:印刷市場は10年ぶりの拡大だったが
経済産業省の「工業統計」によれば、印刷産業の出荷額は1991年の8.9兆円をピークに低下基調が続き、2006年まで9年連続で低下して7.0兆円まで縮小した。2007年は10年ぶりに増加したが、これは資源価格高騰、良好な景気の地合い、2度の全国規模選挙(衆院選、統一地方選)による需要、フリーペーパーブームなどの寄与によると見られる。つまり、縮小トレンドの転換によるものではない。
■2008年:年初から次々と逆風に晒された印刷市場
「工業統計」は4人以上規模事業所に限定した印刷産業出荷額を公開しており、2008年は4.0%減になっている。3人以下規模事業所の構成比は2%前後のため、印刷産業全体が2008年は約4%減という大幅減少になったと見てよい。年初から株価暴落、製紙産業発の再生紙偽装問題による顧客へのお詫び、資材料価格高騰による顧客への値上げ要請が押し寄せ、秋にはリーマン・ショックといった具合で、印刷会社は営業以外の部分に大きな労力を費やさざるを得なかった。
■2009年:未曾有の不況に喘いだ印刷会社経営
2009年はリーマン・ショックによる金融危機が本格化、年初から大型の景気後退を迎えた。発注者心理は冷え込み、企業の広告宣伝費は引き締められた。上場印刷会社4~9月期の売上高前期比は9%減の大幅な落ち込みである。JAGAT調べによる2009年1~9月の印刷会社売上高前年比は6%減である。また、印刷・情報用紙の国内出荷高は11月速報段階までで20%減と落ち込んでいる。大手・中堅・中小といった規模を問わず、印刷会社の2009年は大きく落ち込んだ2008年の落ち込み幅をさらに上回るかつてない状況を迎えた。
■2009年:景況感、印刷会社経営者の声
春には「グーテンベルクが印刷機を発明して以来の危機」との声も聞かれた。また、需要減による受注競争の激化や「さらなる」安値受注を訴える声も増えた。「『仕事がない』、『仕事が去年より3割減った』が挨拶言葉になった」という切実な声もあった。それでも3月の定額給付金を皮切りに断続的な景気刺激策が打ち出されていくと、印刷会社経営も少し持ち直した。秋には「少しずつではありますが、仕事が増えてきました」との声も。しかし政権交代後も具体的な景気刺激策が見えず、印刷会社経営も好転の兆しが見えないうち、二番底懸念の可能性が高まり、デフレ宣言されるに及び、政権与党への不安の声が散見されるようになった。
■2009年:主要印刷製品動向
企業の広告宣伝費の圧縮、急減により、広告宣伝費を発注原資にすることの多いチラシ・カタログなどの商業印刷物、フリーペーパーなどの印刷需要が特に冷え込んだ。印刷会社は官公庁、自治体の財政難で拡大の見込みにくい官公需から民需へのシフトを進めてきたので、商業印刷物需要の減少が経営に与える影響度が高まっている。また、書籍・雑誌といった出版物は継続的な出版不況の影響を受け続けている。紙器・パッケージ、シールなども企業の在庫調整の影響を強く受けた。
■2009年:トピック、日本の印刷技術と印刷経営への注目
2009年9月、カルガリーでの第40回技能五輪国際大会で、日本代表の菊池憲明選手(凸版印刷)は「印刷」職種で優勝して日本に初の金メダルをもたらした。日本の印刷製品のクオリティは世界的にも最高水準との定評は以前からあり、今回は競技の結果が定評を裏付けた形だ。また、2009年12月の第27回優秀経営者顕彰(日刊工業新聞社)では、最優秀経営者賞に水上印刷(東京都新宿区)の水上光啓氏が選出された。また、大日本印刷がジュンク堂書店などの大手出版流通各社をグループに迎え入れるなど、印刷会社主導による出版業界再編も脚光を浴びた。外需型産業がもてはやされるなか、典型的な内需型のように言われる印刷産業だが、2009年は不景気のなかでも国際的にも、産業界においても存在感を示し続けた。
■2010年に向けて:経済見通しの概要と印刷市場の関係
景気は2009年に引き続いて二番底を試すような神経質な展開を引き継いで始まる可能性が強く、印刷市場も予断を許さない。民間有力シンクタンクと政府による実質GDPの成長率予想は大半が3年ぶりのプラスだが、政府も民間平均も1%台の決して高いとは言えない予想が大方で、現時点では残念ながら頼りにできるほどの経済成長は見込みにくい。印刷会社には自律成長路線を模索するような業態変革の検討も一策となる。
■2010年に向けて:印刷市場周辺と印刷会社経営
2010年も印刷需要の周辺では電子書籍化や電子新聞化の動きがある一方で、発注者向けセミナーが満員で追加開催となったほど関心の高いMUD(メディアユニバーサルデザイン)や、環境対応でのカーボンフットプリントなどの動きも見込まれる。メディアプロフェッショナル、ソリューションプロバイダーとしての印刷会社は、プリントメディア加工で培った技術で変化に対応し、2010年以降も地域経済におけるコンテンツ制作加工の有力な担い手として存在感を発揮すると思われる。
<関連セミナー>
2010年1月29日開催 「2010年の経済、メディア環境、印刷市場見通し」
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