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大型の景気後退が続き、百貨店を始めとした小売業が伸び悩む逆風の中で通販市場が伸び続けている。
JADMA(日本通信販売協会)の推計によると2008 年度は6.7%の成長で9 年連続の成長、市場規模は4 兆1400 億円と初めて4 兆円の大台に乗せた。2009 年6 月26 日付の日本経済新聞の朝刊一面に、「通販、コンビニ・百貨店抜く」「市場、8 兆円強に」という見出しが躍った。日経は通販の市場規模をJADMA の倍と推計したのである。
JADMA の推計値4 兆円とは紙カタログを主力とする会員社の物販通販の売上高が基礎になっている。従って、アマゾンや楽天といった非会員ネット専業社の売り上げは含まれていない。また、通販といってもすそ野は広く、広義には鉄道や飛行機のオンラインチケット販売も含まれるが、これらもJADMA の推計値には含まれていない。
日経は、JADMA の推計値に野村総研のネット通販の推計値を加算した8 兆円を通販市場全体と捉えて記事にしたのである。
通販会社にとっては折からの広告不況が追い風になっているという。広告費が低下したので、大企業でなくても一流新聞やテレビに通販広告を打てるようになった。メディアの多様化でインターネットや携帯電話といったチャネルが増えたことも通販の市場規模拡大に寄与しているし、近年はテレビ通販の躍進も著しい。
2008 年度の通販企業ランキング(通販新聞社調べ)を見ると、1996 年に設立されたばかりのジュピターショップチャンネルが1317 億円を売り上げて6 位にランクインし、2000 年に設立されたQVC ジャパンは710 億円で9 位である。ほかの市場でこれだけ歴史の浅い会社が続々と上位にランクインすることがあるだろうか。参入障壁の低い通販市場ならではで、成功は簡単ではないが、顧客に支持されるビジネスモデルを構築すると、シェアの確保に時間が掛からない。
現在、日本の通販企業売上高1 位はアマゾンジャパンで年商2510 億円(事業開始2000 年)、2位がアスクル(同1997 年)で1905 億円といった具合で、通販の市場は数年のうちに勢力図が目まぐるしく変化するという活性化した状態にある。
通販ユーザーの利用媒体推移(JADMA「全国通信販売利用実態調査」)を見ると、インターネットは2006 年にカタログの利用率を追い越し、2008 年に52.3%と初めて50%台乗せしている。一方、紙のカタログは2006 年からの3 年で40.3%、41.6%、39.8%と推移し、初めて40%台を割り込んだが、40%台前後で下げ止まりつつあると見てよいのではないか。必ずしも紙の減少分がネットにスイッチするわけではない。
新聞広告と雑誌広告は2 年連続で低下しているが、折込チラシとDM、フリーペーパーは紙のカタログと同様に横ばいで推移している。新聞と雑誌は部数減に比例して低下している。
インターネットや携帯電話などによるマルチチャネル化が従来型総合通販会社の収益に必ずしも寄与していないのは、上場総合通販会社の決算発表などから明らかだ。通販会社は紙媒体も含めたマルチチャネル化をどのように収益に結び付けるか苦慮している。市場は拡大しているが、今後は勝ち組と負け組に分化していく可能性が高い。
(「JAGAT info」2010年1月号)