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世界の印刷用紙市場の現状と展望
従来の製紙産業は日米欧の3極構造だったが、新たに中国が加わり、勢力図や需給バランスが大きく変わった。日本は2001年に中国に抜かれて世界3位に落ちて以降、差は開く一方だ。
日本における印刷用紙の長期需給は、2000年前後までGDPに比例するように右肩上がりに増えてきたが、21世紀からは横ばいで推移するようになった。インターネットに代表されるメディア多様化の影響を受けたためである。そして2008年のリーマン・ショックを機に需要が激減し、2009年に至っている。
底打ちは終えたようだが、回復の足取りは鈍い。原油価格高騰に伴う値上げや大型の景気後退、広告宣伝費の縮小が他メディアへのスイッチを促した形になった。景気が回復したとしても、印刷用紙需要が2007年までの水準を回復するとは考えにくい。いわば新しいステージに突入したと捉えたほうがよく、これまでとは異なる水準に落ち着くまで減少が続く可能性が出てきた。
2009年は中国がアメリカを抜いて世界最大の生産国になると見られ、勢力図がまた変わる。中国は国策的に古い設備を廃棄する一方で大規模な新型設備を積極的に導入しつつ、生産能力の増強を図り続けている。
塗工紙では2009年に年産95万トン程度の新設備が稼動し、2010年から2011年前半にかけても120万トン程度の新設備が見込まれる。さらに微塗工紙では、2010年から2011年前半にかけて年産300万トン以上の新設備が稼動する見込みだ。
とりわけAPP Chinaが海南島に展開する設備は年産100万トンの空前絶後の規模という。北越製紙の2008年の年産は105万トンだったので、日本で3番手に位置する製紙会社が一気に増えるぐらいのインパクトであり、一時的な供給過剰は避けられない情勢と見られる。
2000年代前半、中国は国内企業保護のため外国企業をダンピングで提訴していたが、現在は著しい輸出増で貿易紛争を起こし、アメリカなどから提訴される側に回っている。
紙パルプ関係の有力調査会社RISIの短期見通しによれば、アメリカの消費は2007~2009年にかけて3割減少したが、回復が見込めるのは1割程度という。在庫調整終了と広告需要回復で2010~2011年にかけて一時的な回復は見込めるが、持続的な成長が期待できるわけではない。
欧州は2008~2009年で17%減少したが、このうち約8割は回復が見込めるという。主として東欧での需要が拡大することによる。
発展途上国では年率5~10%程度の需要拡大を期待できるが、世界の需要が2007年水準を回復するのは2015年以降になるという。
各調査の結果を勘案すると、先進国の需要減を新興国の需要増が上回って世界全体の消費が増える展開は望みにくいようだ。
メディアの多様化や広告不況による紙離れは各国共通だが、日本の場合は少子高齢化要因が加わるので、国内需要の伸びについても先行きは厳しく見ざるを得ない。
国内製紙会社は優れたエネルギー効率や高い生産性を国際競争力の源泉に、輸出に活路を開こうと内需型産業からの転換を図っており、2009年10月は過去最高の輸出量を記録している。
(「JAGAT info」2010年2月号)