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デジタルサイネージとAR(拡張現実)の動向
株式会社JAMMU 代表取締役/デジタルサイネージ総研 営業部長 西澤佳男
デジタルサイネージには3つの特徴がある。(1)公共の場所に設置されるネットワーク化されたディスプレイによる広告や情報表示、(2)セグメント化されたターゲットに対して「今だけ、ここだけ」の情報を配信するプッシュ型メディア、(3)ロケーションにひも付くことが強み。
ロケーションによる分類(デジタルサイネージ・コンソーシアムの指標部会による試案を一部補足)では、交通、流通・チェーン、滞留する特定施設、小売店舗、その他の5つのグループに分けられる。期待する効果による分類では、広告型、販促型、行動誘導型、情報サービス型に分けられる。また、視聴者の状態による分類(視聴態度)や、画面サイズによる分類ができる。
広告型のビジネスモデルでは、ロケーションオーナーと広告主とメディア事業者の3者がいる。メディア事業者はハードウエアをメーカーから仕入れて、鉄道や郵便局、チェーン店、ショッピングセンターなどに設置し広告を流す。広告主は広告料をメディア事業者に払い、メディア事業者はロケーションオーナーにハードの設置料を払う。
デジタルOOH(Out Of Home)広告のアメリカ市場規模は、PQ Mediaの2008年発表によると、2006年が17.6億ドル、2007年が21.9億ドル、2008年が24.3億ドル(前年比11.2%増)で、2012年に向けて年率12.9%増で40.1億ドルに達する。2011年のアメリカのデジタルサイネージ市場は広告・コンテンツが40億ドル、ハードウエアが25億ドルで、市場全体では65億ドル(約6500億円)と予想されている。
日本のデジタルサイネージ市場は、富士キメラ総研によれば、2009年602.7億円から、2012年には829.2億円、2015年には1263.5億円と急激に拡大する。しかし、実際には2010年、2011年となだらかな伸びになるのではないか。
海外の事例を見ても、日本に比べて技術的に優れているかどうかよりも、当たり前のツールとして使う行動様式や社会環境があることが大きい。あとは投資規模がかなり大きい。
日本市場が海外並みに大きくなるために、一番必要なことは何か。「デジタルサイネージの可能性を調査してください」とよく言われるが、調査会社に頼まないで「えいや」でやってみることのほうが大事だ。それほど難しいことではない。
印刷会社に対するデジタルサイネージの依頼は間違いなく増えてくるし、人材的な部分と、クライアントと結び付いている部分を考えても、デジタルサイネージに参入できる可能性は非常に高い。使っているソフトも同じアドビのソフトなので、垣根は低いのではないか。
デジタルサイネージに関連するキーワードとして、モバイルとの連動、インタラクティブ性、位置情報、ジェスチャー認識、アンビエント、メディアアーキテクチャー、電子ペーパーなど、いろいろあるが、これらに結び付いてきそうなのがARではないか。
AR(Augmented Reality)とは、通常の知覚にコンピュータで生成された情報をレイヤーとして重ね、現実を強調、拡張させる技術である。携帯電話との連動により、現実空間を仮想的に透視できる。現在はプロモーションツールとして利用されているが、行動誘発するソーシャルメディアへ変化していく可能性がある。
日本はARに関してはわりと進んでいて、例えばFLARToolKitというARを実現するツールを利用して、実写内の空間にマーカーを置くと画像が魔法のように飛び出てくる。アムステルダムのLayar Reality BrowserはARを実装した携帯電話のブラウザで、そのようなARシステムが世界各地で動いている。
ARと従来メディアの関連では、住友商事が2009年11月16日付の日経新聞を皮切りに3回にわたって日本初となるAR連動型の広告を展開した。アメリカの有名なカルチャー雑誌『Esquire』2009年12月号もARの特集をしている。従来メディアは経済的にも困難な状況にあるので、新しいメディアの力を使って何とかしたいという思惑があるのではないか。
従来メディアは新しいテクノロジーに嫉妬すると言われる。新しいメディアであるデジタルサイネージもARに嫉妬するだろうか。デジタルサイネージとARの関連は、まだまだこれからではないか。例えば、ARを利用した映画「トランスフォーマー」のキャンペーンでは、通行人がキヨスク端末に近づくと頭にトランスフォーマーのかぶり物が乗る。
公衆の面前でコンピューティングするという意味でヨーロッパではpublic computingと言うことが多いが、AR技術を使うことによってcontext aware computingに変化していく。つまり、生活者の行動様式を認識して、それに基づいてコンピューティングしていくという考え方、空気が読めるコンピューティングで、デジタルサイネージのロケーション特性を拡張させるのではないか。
中国語でARは「増強現実」、現実を増強(ブースト)することである。ARとデジタルサイネージを考える時には、連想する力をブーストするもの、行動をブーストするもの、ヒトとヒトの関係性をブーストするもの、この3点が大事になってくる。
(本記事は、2010年2月5日PAGE2010「C4 デジタルサイネージとAR(拡張現実)動向」の抜粋です。後編「デジタルサイネージのコンテンツ需要は爆発的に増加する」は後日掲載いたします。)
(「JAGAT info」2010年4月号より)