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ネットやデバイスにおける変化や今後のビジネス機会について、また印刷業を取り巻くコンテンツ流通の現状や課題についてお話を伺った。
2010年4月16日、クロスメディア研究会は特別セミナー「「印刷業界視点でみるコンテンツ流通・情報通信の最新動向」」を開催した。講師は情報通信総合研究所 仁木孝典氏と経済産業省 境真良氏。
まず仁木氏より、最近の情報通信を取り巻く動向についてお話いただいた。同社でのここ1年間の調査研究テーマから今回抽出いただいたキーワードは「Twitter」「Ustream」「SNS」「電子書籍・電子コミック」「アプリストア」など。
仁木氏によると、モバイルに関してはネットワーク→端末→コンテンツ・アプリ間での好循環が起こっているという。モバイルWiMAXをはじめ「いつでも・どこでも」ブロードバンドにアクセスできる環境が整ったことで、ネットブック、デジタルフォトフレーム、スマートフォンなど新たな携帯端末がつぎつぎ登場し、ユーザーのモバイル利用が加速した。
携帯端末のトレンドとしては、、「MID(Mobile Internet Device)/またはUMPC(Ultra-Mobile PC)」と呼ばれるネット接続できるパソコンとしての機能を持ちつつ手のひらサイズである情報端末が各社からリリースされ、2010年4月以降、AppleのiPad、DellのSteak、HPのHP Slateなどタブレット方MIDが本格展開する。電子書籍向けのタブレット端末としては、Notion InkのADAMやPlastic LogicのQueが注目されている。
電子書籍専用端末としては、市場を開拓してきたKindleやSony Reader以外にも昨年ごろからBarnes&NobleのNookなどの新端末が各社から登場している。Kindleはユーザーに通信料金を意識させないビジネスモデルであり利便性が高い。
アプリケーションの充実については、近年の特徴として、基本的に利用無料(フリー)であるほか、mixiやTwitterのようにパソコンでもケータイでも同じように利用できるFMC(固定・移動の融合サービス)的利用、TwitterとUSTREAMの連動のようんなアプリ間の連携、それに位置情報、購買履歴、ネット上の履歴などのラフログ的なコンテンツ活用があげられる。
そのほか、印刷業界に関連する話題としては名古屋テレビの印刷コンテンツサービスなどを紹介した。
後半は印刷に絡むコンテンツ流通の動向について印刷の歴史的意義などを絡めながら境氏よりお話を伺った。なお講演のなかで「版面権」および「ePub」について触れられていたが、印刷業界にとってかかわりが深いキーワードであるため、後日境氏より下記のようなコメントをいただいた。
■版面権について
三省庁電子書籍会議に関与している出版社の一部が、この機会に版面権を著作権法に追加するよう文化庁に要請しているという情報があります。
版面権には、実質的には紙書籍を出版した出版社に電子化関与権を法律上保証することで作者と電子出版社の間で中抜きされることを防ぐという意味があり、形式的にはレコードの著作物と平仄を合わせるという意味があります。ただ、これには、平仄を合わせること自体に意味はないし、中抜きを防ぐには紙書籍出版時に契約上手当てすればよいという反論もあります。ただでさえ錯綜する著作権に、また隣接権者を一つ増やすと、問題を助長するだけという考え方は一般の理解を得やすいでしょう。
文化庁の態度は、硬軟両方伝わっており、けして楽観できません。問題はどこまで出版社が本気でこの権利を取りに行くかというところだと思います。ただ、電子書籍ビジネスへの移行は出版社として利益にかなうことは皆わかっているので、版面権の付与を本件とバーターするまでのポジションはとれないと思います。よって、個人的には、版面権成立の可能性は低いと思います。
■ePubについて
三省庁電子書籍会議の主要テーマの一つに電子書籍の標準データフォーマットがあります。DRMなどは本来各社が勝手に決めるべきであり平場で透明性を上げるための議論をする意味は全くないですから、B2Bのためのデータフォーマットということになります。
全く新しいものを作るのは非効率的なので、市場にあるXMDF、TTime、ePUBの三つから選ぶということになるのでしょう。このうち、ePUBは現時点では縦書き対応ができないか、不十分ですので、その強化をする必要があるでしょう(これを、便宜的にePUB2とします)。
ePUBが現時点のバージョンでは不十分で、ePUB2にするのであれば、関係者の負担は新しい規格をつくるのと比べてそう小さいわけではありません。つまり、ePUB2にはそれだけでメリットがあるわけではありません。敢えて言えば、それがアメリカ標準のePUBであるというだけです。どの規格が勝つか。いくつも視点があります。対応機器の普及度、システム更新の安価さ、既存コンテンツの流用可能性、etc。いずれも重要です。
まったく個人的意見ですが、重要度は、上に上げた順番だと思います。ただ、「対応機器の普及度」には、既存機器をアップグレードする可能性や、普及している機器がサポートするフォーマットへの変換可能性を十分に勘案しなくてはなりません。さらにいうと、ePUB2がどう決まるかはかなり重要です。ePUB2が決定する前にこのような動きが出ているわけですから、敢えて囲い込み戦略の一環としてXMDFともTTimeとも互換性がない仕様にするというやり方も考えられます。
そういう意味では、ベストはePUB2がXMDFやTTimeと互換性がある形に決まることで、その場合はePUB2だけに標準フォーマットを指定してもいいくらいです(実際には、IEC規格になっているXMDFも標準指定が必要かもしれませんが)。セカンドベストは、XMDF、TTime、ePUB2を全て指定することです。現実問題としてブラウザを複数積むことに何ら問題はないので、こうなるかなぁとも思っています。
とにかく、出版社と配信ビジネスの間はきちんとレイヤー切りされているべきものです。仮に両者の間に独占配信契約が結ばれるとしてもそれは経営上の判断で、契約上の縛りですから、これに技術で実体を与えてはいけないと思います。