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印刷・出版業界のM&Aは40業種中30番目の少なさで、M&Aが活発とは言えない業界である。しかし今後は事業承継も含め海外勢と戦っていく視点も求められてくるのではないだろうか。
日本のM&A件数は1997年の金融ビッグバンを境に顕著に増加した。年500件前後で推移していたが、その後は2005~2007年に年間2700件前後で推移するまでにM&A市場が活性化した。
2008年以降は一連の金融危機の影響で減少した。2008年は11%減、2009年は18%減で1957件と、6年ぶりに2000件台を割り込んだ。
M&Aの内容にも変化が現れた。海外企業が国内企業を買うタイプが減る中でも、技術獲得を目的にする中国企業による対日投資案件が増えている。また、国内企業同士によるM&Aも堅調だ。
特長的なのは、印刷業と同じ内需型産業による海外企業の買収が増えていることだ。2009年は、この国内企業が海外企業を買うタイプのM&Aが金額トップ20のうちの9件を占めた。
内需型産業が、先細りの確実視される国内市場を背景に海外市場に成長を求め始めている。日本製紙によるオーストラリアン・ペーパーの買収、INAXによる衛生陶器海外大手のアジア部門買収、ヤマトホールディングスによる中国の物流会社買収、住友林業によるオーストラリアの住宅販売会社買収など。
従来は典型的な内需型と見られてきた産業までもが海外進出に乗り出している。コスト削減を目的に生産地を海外移転する従来の動きとは異なり、消費地を海外に求める動きである。
強い法規制、厳しい消費者要求、高い税率の中で生き残ってきた国内産業は、海外でも通用する多くの技術やサービスをもっているのではないだろうか。国内勢の健闘に期待したい。
国内M&A動向を網羅的に把握するレコフによれば、印刷・出版業界のM&Aは毎年安定的に30件以上ある。しかし、40業種中30番目の少なさで、M&Aが活発とは言えない業界である。
2000年以降のM&Aを分析すると、印刷会社のM&Aの対象は、同業の「出版・印刷(25%)」が一番多い。「ソフト・情報(23%)」「サービス(20%)」「電機(7%)」「アミューズメント(4%)」「通信・放送(3%)」と続く。
同業同士の集約化案件も多いが、IT化、デジタル化、インターネットビジネス、エレクトロニクス関係など、どちらかと言えば隣接業種との案件が多い傾向にある。
KindleやiPadの登場により、電子書籍へのシフトが急に現実味を帯びている。しかしこうした軽薄短小モデルは、ソニーのウォークマンが世界を席捲したように、かつては日本メーカーの一番得意とした分野だが、今は日本勢が勝てない。
Google検索もそうだが、世界的にも評価の高い日本の出版文化を始めとした日本の「知」が、日本企業を介することなく流通し始めている。いわゆる「知を使う知の技術」において日本勢が存在感を示せていない。
あらゆる市場に歴史をもつ企業が万遍なく存在する日本市場の多様性は、他国にない素晴らしさだ。反面、中堅企業が多く、グローバル競争で戦える日本企業の少ないデメリットも指摘される。
これからのM&Aでは、事業承継も含め、国内市場を国内勢で協力して整備し、海外勢と戦っていく視点も求められてくるのではないだろうか。
(「JAGAT info」2010年5月号)