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新たに色のビジネスを模索、探し出していくためには、印刷業界も慣れ親しんだCMYKもしくはRGBの世界からさらに人の眼の機能についても十分に理解していく必要性あるのではないだうか。
ユニバーサルデザインもしくはユニバーサルフォントと言ったことが業界でもよく話題になる。すべての人のためのデザインを意味し、最初からできるだけ多くの人が利用可能であるようなデザインを目指している。ユニバーサルデザインの認知が広がり、高齢化が進む日本で誰もが暮らしやすい社会が実現することが望まれている。一方、高齢化社会が進み、老眼や白内障など衰えによる障害をかかえる人が増加している。製品の小型化やデジタル化が急速に進み、Web画面やリモコン操作表示、携帯電話のプッシュボタン/カーナビ表示などの文字、さらにマニュアル類、保険などの約款や新聞などの既存の紙媒体も含めて、身の回りのモノすべてについて、見えにくさや間違いやすさといった障害を取り除くことが重要になってくる。こうしたユニバーサルデザインの重要性も当然のことながら印刷でも文字や色に代表されるユニバーサルデザインの要素が重要になってきている。文字におけるユニバーサルデザインで特に重要なことは、視認性や判読性、デザイン性、可読性が挙げられる。「視認性」は文字一つひとつの構成要素を視認しやすくし、[判読性]は誤読しにくく他の文字との判別をわかりやすくさせ、「デザイン性」はシンプルや美しさが求められ、「可読性」は文字列としての単語・文章の読みやすさなどが重要となってくる。文字の大きさを変えて読みやすくしたり、配色によって可読性を向上させるといったことは、当然のこととして行なわれている。
色に関しては、さらにその先に使用者の人の眼の機能にも踏み込んでより本当に使用者の立場に立った仕組みが必要となるのではないだろうか。単に高齢化と言ってもさらにそこから眼に関しても踏み込んだ考慮しなければならない。高齢になると通常、目の水晶体(カメラのピント調整レンズと同じ役割)の機能低下が起きる。水晶体の調整力が低下するといわゆる老眼になる。近い距離を見るときに凸レンズで調節力を補うことが必要となる。日常の動作で目を細めたり、老眼鏡のお世話になったり、はたまたiCanSee(iphoneのアプリケーション)の出番であったりする。同時に水晶体の透過濃度も加齢により濁っていく。その濁り方も500nmから短波長側での吸収が増して、全体が黄色っぽくなる。ただしその濁りの変化は緩やかなために、当事者にとっては外界の色が急に黄色っぽく見えるようなことはないのだが、微妙な色の識別には影響があると言われている。それによって色合いに対する全波長域での比視感度も落ちてくる。10代と70代の比視感度曲線を比較すると水晶体が黄色っぽく濁ることに影響されて、特に短波長側での相対感度の落ち込みが多い。ブルー系の色に対する感度が大きく下がり、ブルー系の色は、暗く見えてしまう。そうした現象を十分に理解した上で、照明を上げるとは、デザインや文字の配色には、そのような配色は避けるといった対応も場合によってはしなければならない。知覚を制限するものを考慮すれば誤読などを減少させさらに認識しやすく、かつ高いレベルのユニバーサルデザインを保つことは可能になると言える。
13人に1人の男性(女性の方は遺伝的に300に1人)は、赤色と人の目に対する分光感度がいちばんよいと言われている緑色の区別がしにくい色弱者の方がいると言われている。そんなことがわかっているのであれば、知覚を制限するものが現存している以上、それを踏まえた配色や色使いをその状況に応じた形で対応していく必要がある。例えば、プレゼンテーションで使用されるポインタの色やデジタルサイネージなどはじめに色を使用するメディアでの配色のデザインなどにおいてもカラーユニバーサルデザイン(カラーUD)考慮して、誰にでも見やすい色の組み合わせやデザインを行うことが求められている。
知覚を制限する側面から前文で述べさせてもらったが、知覚(視覚)を利用する側面から述べさせてもらう。新しい情報メディアとして話題になっている3Dテレビも、人間の眼の仕組みから見ると人の眼の機能の視差によって得られる立体感を応用したものである。人間の目は対象物を見る時に、左と右とで少しずつ異なる映像を見ており、この差を視差である。この3Dの基本原理は、この視差を人工的に作り出して、平面のテレビの画面に映った映像にもかかわらず、見ている人の脳内ではそこに奥行きや立体感といった感覚にさせている。視差を人工的に再現するために人の右眼が見ている映像・左眼が見ている映像をそれぞれ撮影する必要があり、3D映像の制作現場では、2つのレンズで同時に両方の映像を撮影できるように設計された専用のカメラが使用される。3D用に撮影された右眼用・左眼用の映像を、どのような仕組みで見る人のそれぞれの眼に届けるか、いろいろな試みの中で、緑 と赤のフィルターを使ったメガネを通して見るプリミティブな方式から、偏光フィルターや液晶シャッターのメガネ、画面自体にフィルターをかけて裸眼で見る技術まで、様々な工夫がある。オリジナル映像が持つ情報量を忠実に再現できる方式ほど、より優れた3D方式とされている。このような3Dテレビも人の受け止め方(視覚)を利用したものの一つと言える。
このように物理的な色から発せられる情報を、人がそれをどのように受け止め感じるのか正確に理解すべきである。印刷のビジネスから新たな色のビジネス展開にはぜひ必要な色の知識体系を構築していくことが必要ではないだろうか。こうした色のビジネスには、色を認識するメカニズムや色を測定・管理するための理論を理解し、さまざまなデバイスで一貫した色再現を行うための技術や知識を有する人材の育成が急務となっている。
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