本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
2010年2~3月に調査した印刷会社経営動向調査の最新レポートがまとまった。景気低迷とメディア変革期が同時に訪れ、印刷会社はかつてない局面の経営判断を求められている。印刷会社の経営と戦略、設備と投資スタンスを同時に調査する唯一の本レポートから最新動向を見る。
2010年で32回目を迎えた『JAGAT印刷産業経営動向調査』 は、印刷会社の経営状況について、1.業績、2.戦略、3.設備の観点から詳しく調べている。 戦略について調べるのは、業績という結果だけを見ても結果を生んだ理由がわからないからだ。業績を生むのは行動であり、行動を生むのは思考や戦略である。
従って戦略と業績の相関を調べれば、良い業績を生む印刷会社に共通した考え方や戦略がある程度明らかになる。業績良好な印刷会社に共通する思考特性や戦略をベストプラクティスと捉えて見れば、印刷業界におけるエクセレントカンパニーのひとつの姿をイメージしやすくなる。
『JAGAT印刷産業経営動向調査』では、戦略や思考を探るために、1.ビジョンと戦略、2.経営特性、3.戦略・課題・コストの視点(財務・顧客・生産・営業・マーケティング)、4.人材と変革、の視点から50を超える選択式の設問を設定している。 設問は、印刷製品の生産工程別(DTP、刷版CTP、印刷、加工、Web制作)の保有状況、どこを強化・縮小したいかの意向などを、印刷業界に即して聞いている。
たとえばどの工程を持つと業績が良くなる、という相関はあるのだろうか。 また、たとえば印刷会社経営では、見積もり、売価、標準原価、実際原価、売上原価、仕入原価など、実に多くの価格(コスト)を扱うが、ほとんどの印刷会社はすべてを等しく重視できるリソースを持つわけでない。それでは、どの価格を重視する印刷会社の業績が良い傾向にあるのだろうか。
調べていくと、業績の良い会社は長期視点に立った思考や戦略を多く採る傾向にあることに気づかされる。顧客の声を聞く仕組みを作り、的確に目標市場を定め、継続的に原価低減努力をし続ける体制を整え、原価低減度を測定する指標を決め、業績変動を管理会計で正確に捉え、適切な人事制度で処遇する。 持続的に業績の良い印刷会社は、このようなPDCAの仕組みがうまく回っている。
日々判断を迫られる細かな、時に大きな一つ一つの問題に、高い正答率で答え続ける組織的な仕組みをいかに作るかである。 ただし、印刷会社の平均従業員規模というのはそれほど大きくない(工業統計では1事業所平均11人)。それほど大きくないなら、高い正答率を有する経営者の属人的な能力で良い。しかし持続的に成長する会社を目指すなら、個人能力やノウハウ、暗黙知を会社の仕組みに置き換え続けることのうまい組織を作りたい。
印刷会社はグラフィックス表現や顧客のコミュニケーション支援といった、感性領域に片足を踏み込むような、数字で捉えづらいビジネスが多く、会社の仕組みに置き換える量がとても多いかもしれない。 業績の良い印刷会社は「良い顧客を持っているから」と言われることは多いが、それは彼らの思考や戦略の結果、顧客に選ばれ続けていると考えて手本にしたほうがいい。
最新調査結果では、中期経営計画の導入を考える会社がこの4年で最多の57.0%に上った。経済環境とメディア環境が同時に大きく変わりつつあり、戦略見直しや計画立案の必要性が高まっている。 次代にも必要とされる印刷会社になるため、できるだけ多くの判断材料をもとに、想像力をたくましく可能性を考え、より多くの選択肢からより適切な戦略を選ぶようにしたい。
(JAGAT 日本印刷技術協会 研究調査部 藤井建人)
関連ページ
引き続き導入意向の高いWeb to Print、カーボンフットプリントへの関心も高い
【印刷産業経営力調査の概要】
概要:印刷会社170社から調査票を回収
内容:印刷会社の経営状況、戦略、設備
期間:2010年2月~3月
「JAGAT印刷産業経営動向調査2010」
体裁:A4版、104ページ
定価10,000円(税込)、JAGAT会員特別価格5,000円(税込)
発行:社団法人日本印刷技術協会 研究調査部
購入:申込書 に必要事項を記入してFAX送信ください。
【構成】
1.2009年度の印刷会社の経営動向
(1)経営動向の概況
・メディア変革期の印刷会社経営について
・印刷市場と印刷経営の考察
(2)経営動向指標
・貸借対照表、損益計算書
・生産性、収益性、安全性、人員構成等
・1人当り指標(売上高、加工高、人件費、機械装置額等)
2.印刷会社の業績と経営戦略
(1)業績と経営戦略の概況
・業績良好な印刷会社経営者の思考を探る
・業績良好な印刷会社の戦略
(2)経営戦略
・事業領域、戦略、事業分野、市場ポジション
・財務、顧客、生産、営業、マーケティング、人材と変革
3.印刷会社の設備動向
(1)設備動向の概況
・次年度の設備投資予定
・設備投資の傾向
・印刷機の保有、導入・廃棄意向、満足度
(2)設備保有状況、導入・廃棄意向、満足度
・製版・刷版
・印刷機付帯設備
・製本・後加工
(3)DTP環境
・PCの種類と台数
・アプリケーションの種類とバージョン
・データの入稿形態
4.参考データ
(1)セグメント別の経営指標
・データ:損益計算書・収益性指標・安全性指標・生産性指標等
・セグメント:2地域別(東京とその他地域)、従業員規模6段階別、業種業態6分類別、オフ輪の有無別)
(2)月次の各種前年比推移