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作業の進捗状況や原価の把握が難しく、ブラックボックスとなりがちなプリプレス部門の実績管理システムの例を紹介する。
JAGATでは標準原価を活用した部門別利益管理(PMPシステム) を提唱している。標準原価の設定にしても、日々の運用にしても手間がかかるのがプリプレス部門である。理由は作業項目が多い上に個々の仕事やオペレータのスキルによって作業時間のばらつきが大きく、標準作業時間を設定しづらいこと。そして、細かい作業の積み重ねであってもPC上で1人のオペレータにより自己完結してしまうので、ブラックボックス化して進捗状況や原価状況が把握しづらいことがあげられる。
JAGATではプリプレス部門の作業実績を把握し、生産性を分析するシステムの例として、次のようなWebアプリケーションをコンサルティング対象企業に提供している。
図1.作業実績登録画面 (図をクリックすると拡大されます)
基本的には作業日報の電子化である。ポイントは、受注番号と作業内容を紐付けて登録することと、売上の立たない作業内容も記録することである。そして、「単価」の欄には受注金額ではなく、「標準原価」が入る点である。
以下の図2は一日分の作業結果をリスト表示したものである。 (図をクリックすると拡大されます)
作業内容を見てみると以下の3つに分類することができる。
直接作業(特定の受注に紐づく作業) | (1)売上が立つ | 例:組版、スキャニング |
(2)売上が立たない | 例:データのバックアップ | |
間接作業(受注とは直接紐づかない作業) | (3)売上が立たない | 例:設備のメンテナンス |
プリプレス部門の特徴として、「(2)直接作業ではあるが売上が立たない」業務の比率が高い点がある。プリプレス部門の価値的生産性(部門売上)を上げるには、(1)の業務の比率を向上させることが重要である。
まず、(2)にあたる業務には、どのようなものがあって、どれくらいの時間を使っているのかを把握したうえで、その業務の効率化は可能かを検討する。こうした業務は、個々のオペレータが個々の判断で行っているケースも多く、業務ルールをきちんと定めるだけで大きな成果が得られるケースもある。
その上で、作業時間の長い業務については、得意先に費用を認めてもらうような働きかけをしていく。いきなり商慣習を変えるのは難しい面もあるが、客観的なデータに基づいてアクションを起こすことは非常に大切である。
※(2)の中には「間接業務」扱いとするものもある。図2の例では「入稿チェック」 。厳密なルールがあるわけではなく、判断は各社によって異なる。
図3は、一日の作業結果(図2)の生産性分析である。生産額計は標準原価での合計金額である。表の見方としては、まず直接作業時間の比率(生産時間/勤務時間)である「稼働率」を確認する。つぎに直接作業時間の使い方として、「効率(生産額計/生産時間計)」を確認する。この値が、部門の標準原価(分)を上回っているかどうかが評価基準となる。「生産時間」には(2)の業務に費やす時間も含まれるので、その長短が「効率」の値にも大きく影響する。
図4は、受注単位での集計結果である。(図をクリックすると拡大されます)
図4の(標準原価換算)売上合計と実際の売上金額のプリプレスに該当する部分とを比較する。評価のポイントは、売上金額が標準原価の合計を下回っていないかどうか、営業の積算項目に漏れがないかどうかである。特に重要なのは後者で、事前見積りの段階ではプリプレス作業の詳細は不明なことが多く、事前と事後とではギャップが出やすい。あるいは営業マンが受注したいがために、あえて積算項目からはずしていることもある。
商印では精算見積りという慣習がないケースが多く、見積り条件と異なったからといって必ずしも追加費用を請求できるわけではないが、その事実を得意先に伝える、あるいは次の受注時に活かすことは大事であろう。
また、プリプレス部門の生産性評価を受注金額と作業時間実績の比較でのみ行っているケースも見られるが、前述のように受注金額が常に妥当であるとは限らないので、それだけだと評価を見誤る恐れがある。
(研究調査部 花房 賢)