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さまざまな人たちと話していると、ときどき景気のいい印刷会社の話が話題になる。それはどんな会社か。ここ2~3カ月で聞いた話から共通項を見つけ、そういった印刷会社の特徴を浮き上がらせてみる。
不景気が続いている。株価は9000円前後に落ち込み、円高が進んで為替は84円台に突入した。金融資産は目減りするし、円高は輸出企業に打撃だ。円高も円安もメリット・デメリット両面あるが、外需頼みの日本経済にはデメリットの方が大きそうだ。 印刷会社にとっては用紙代高騰が落ち着くなどのメリットはあるだろう。しかし、円高を嫌って海外に生産拠点を移す顧客企業が増え、印刷受注そのものが減ってしまったら、用紙代が下がっても元も子もない。
二番底なき景気回復はない、という見方もある。株価は当面、底を練るような展開を続けそうだ。円ドルも1995年の79.75円をひとつのメドに、一方では政府・日銀の介入をにらむような神経質な展開になりそうだ。 米FRBはリーマン・ショック時に相当なドルを市場に供給したし、米政府は輸出振興でドル安を容認している。日本政府は政権与党の代表選の行方が不透明なだけでなく、たとえ代表が決まってもねじれ国会が待っている。印刷・出版業界でも電子書籍化の行方を計りきれないし、業界内外を見渡してもどうにも方向感を持つことが難しい状況だ。
ところが、すべての印刷会社が悪いかというと、そうでもない。残念ながら個別の事例を挙げることは差し控えるが、各方面と情報交換していると、「○○は調子がいい」、「××は21世紀の最高益らしい」といった話が聞こえてくる。 そういった会社の共通項を考えてみたい。 ・社長がきょろきょろしている。 ・他社にない製品や手法を持っていて、それらに自信を持っている。 ・売りたいものが明確で、それを売るためのセールスツールやトークが確立されている。 ・従業員のモチベーションアップがうまい。 ・無理難題を吹っかけてきた顧客との取引を切った話を嬉しそうにする。 最近聞いた3社の話の共通項はだいたいこんな感じだ。必ずしもすべて3社に共通しているわけではないが。
(1)きょろきょろとは、社長が常に好奇心いっぱいであちこちにアンテナを張り巡らしていて、いろいろな試行錯誤をしているという意味だ。試行錯誤というくらいで、ダメなときの撤退は早い。 (2)(3)独自の製品や手法などを持っていて、社員に売り方、話し方まで細かく指導し、共有していることが多い。 (4)褒めたり、報奨金もあるが、残業者に弁当を出したり、従業員の話や悩みを聞いたり、地道なところで従業員に気を配っている。 (5)顧客の要望にどこまで応えるかだが、社員の疲弊を考えた、値上げを飲んでもらえなかった、という話である。自信の裏返しであろう。
景気もメディアも大きな節目の変革期にあって、先行きは誰にもわからない。しかし、時代は変わっても、気の利く、困りごとの相談に乗る、顧客より、競合他社より半歩先を行って役に立つ、といったビジネスの根本は変わらない。 皆で知恵を出し、想像力をたくましく、できるだけ多くの情報をもとに将来を考えるのは素晴らしい時間だ。きょろきょろ状況を眺めておいて、時代が変わるときにきっと生まれるチャンスを逃さず捕まえるようにしたい。
(JAGAT 日本印刷技術協会 研究調査部 藤井建人)