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電子書籍の現在を冷静に捉える。
もし電子書籍時代が本格的に到来したら、出版社と印刷会社の役割はどのように変わるのだろうか。
■電子書籍の現在を冷静に捉える
アマゾンの“Kindle”、アップルの“iPad”が発売になり、電子書籍の実用化が一気に現実味を帯びた。2009年の年初からグーグルブックサーチ和解問題への対応を迫られていた日本は、立て続けに海外勢に情報流通革新を突きつけられ、黒船来襲のごとく右往左往する形になった。
状況を客観的に捉えてみよう。日本の電子書籍の市場規模は2002年に10億円だったが2009年には574億円に伸びた。紙の出版物市場の規模は1.9兆円なので、全出版物市場における電子書籍のシェアは2.9%である。米国電子書籍の市場規模は290億円程度と言われ、日本より小さい。
日本の電子書籍市場が大きいのは、携帯電話がガラパゴスと揶揄(やゆ)されるほど独自進化し、携帯電話で読む・見る環境が普及したこと、世界に類がないほどマンガが充実していることによる。端末でもソニーのLIBRIe、 松下のΣBookなどの国産品が以前からあり、実は日本は電子書籍大国である。ただし、世界シェアは取れていない孤島での状況である。
■iPadのもたらす情報革命
iPadは米国で4月3日に発売されて、1カ月で100万台売れた。Xperiaが日本で売れたとは言っても5万台なので、桁が違う。この1カ月で1200万本のアプリケーションと150万冊の電子書籍を売り上げたという。アップルは「革新的で夢のようなデバイス」と表現している。日本でも発売後は事前の予想以上に操作性が良いと評判になり、あっという間に品切れになった。
かつて、コンピュータはコマンドを理解した者が操作するものだった。それがグラフィカルユーザーインターフェイスになり、ユーザーはビジネスマンを中心とした一般の生活者に広がった。これがiPadではタッチユーザーフェイスでさらに格段に使いやすくなり、ユーザーが高齢者や幼児に拡大しようとしている。情報革命が起きている。
■電子書籍化で売れる本、必要な能力
1968年にアラン・ケイ(米国・計算機科学者)は“ダイナブック”の概念を提唱した。ダイナミック・ブックの略で、静的な紙の本と対比した“動的な本”をいう。電子書籍の時代はいよいよこれが現実になる。
iPadで電子雑誌のベストセラーは“WIRED”である。同誌はIT系雑誌なので、ゲームやマルチメディアの感覚を持った編集者やデザイナーがいて、誌面に当たり前に動画を組み込み、インターフェイスに相当な工夫をこらしている。
電子書籍市場で売れるのは、紙の本を単に電子に置き換えたものでなく、ユーザー視点で作り込んだものになりそうだ。そうすると、ゲームや動画のエッセンスを身に付けたデザイナーが不可欠になるだろう。
絵本“トイ・ストーリー”は読み上げ機能もあるし、子供は絵本の中で遊ぶこともできる。子供にしてみれば楽しくて仕方ないに違いない。“リッチな表現力”が勝負になってくるようなのだ。
もし紙の本を出さなくなったとき、出版社と印刷会社の役割はどのように変わるのだろうか。垣根は限りなく低くなり、両者の事業領域は重なり合っていくのではないか。爆発的に増える次代の情報コンテンツの加工を担うのは、次代の流通を担うプレイヤーは、誰なのか。商機はどこにあるか。通信事業者、印刷会社、広告代理店、システムインテグレータなどが入り乱れて参入に意欲を見せている。
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