本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
■構造改革の始まった出版業界
出版市場は2009年まで13年連続の縮小を続けており、2010年も縮小が確実視されている。市場規模は2兆円を割り込み、ほぼ20年前の水準に戻ってしまった。ところが市場縮小の一方で、新刊の出版点数は増え続けてきたため、返品率40%台という非効率が常態化していた。
出版社は送品から返品を引いた差し引きが売り上げなので、出版不況下、多く送品して差し引きの売り上げを増やそうと考えがちだ。しかしこのままでは返品が増加し物流費だけが膨らんでしまい、ひいては出版インフラの存続が危うくなる。
そこで2010年1月、出版取次最大手の日販は“総量規制”に踏み切った。半ば強引に書店への送品を平均5%減らす措置を採ったのだ。出版社は驚き、抗議もあったというが、時間とともに多くの出版社が返品率改善への取り組みに理解を示し始めた。
■出版流通効率化で市場活性を
電通の調べによると、雑誌の広告収入は2007年から2009年にかけての2年間で34%減、1550億円も減少した。雑誌の収入構造は雑誌により異なるが、だいたい販売収入6~8、広告料収入2~4ぐらいの割合ではないか。
これだけ広告収入が減ると、雑誌の発行継続が相当難しくなる。雑誌は書籍より利益率がよいと言われ、雑誌の売上高は出版社・取次店・書店の利益の源泉として、出版業界全体を支えてきた。
ところが雑誌は下げ止まるどころか、部数減にいまだ歯止めがかからず、今後の見通しも立てにくい。今後は書籍の販売で出版業界が成り立つ構造を考える必要があるだろう。
欲しい時に、欲しいものを、欲しいだけ届けられれば効率がいい。返品率40%は市場全体の不利益と捉え、ステークホルダーが協力して出版流通を効率化し、書籍販売を主軸にして出版市場が活性化する状況を作り出す必要がある。
■2010年は電子書籍に関する“利害調整”の年
2010年は電子書籍元年と言われたが、実際には様々な関係者間の利害調整の始まった年と言える。著者、出版社、書店、図書館、印刷会社、通信業者、メーカー等……。電子出版に係る争点や問題点が洗い出されつつあり、これから解決が進むことになる。
電子書籍の普及は、まず電子書籍端末の普及が前提になる。国民の数十%が保有するまでの時間を考えると、BtoCよりもBtoBでの普及が先行する可能性が高い。図書館向けや学校向けといった学術・法人向け用途である。既に米国や中国では相当電子図書館化されたという。
生活者全般に電子書籍コンテンツが行き渡るまでには相当の利害調整やインフラ整備を終えねばならず、現時点でBtoCの課題は多いとされる。
■電子出版は従来出版を超えられるか
振り返れば、DTP化は作業工程のデジタル化であり、これは生活者に関係のない部分であった。電子出版時代が到来すると、読書環境そのものが変容し、デジタル化の影響は生活者に及んでいく。
電子出版は一つの有力な方法ではあるが、従来出版を凌駕するインフラを備えるまでには相当な時間があるだろう。整備すべきルール、利害調整結果、端末の普及度などを見極める必要があり、電子出版が短期間に従来出版を超えると考えるのは現実的でない。しかし電子出版はコンテンツの有力なマネタイズ方法であり、出版市場に再成長の機会をもたらす可能性があるとの視点で見る必要がある。
プリンティング・マーケティング研究会2010年10月1日開催セミナー「電子書籍で出版業界はどう変わる」より