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先行き不透明感が増すなかで始まった2010年。”電子書籍元年”と言われ電子化に一定の方向性が見えて、印刷会社にとっては変化への様々な調整や対応が本格化し始めた年。2011年は2020年へ向けた新たな10年の始まりと位置づけられる。”電子書籍元年“の翌年はどんな年になるのだろう。
■2009年:リーマン・ショックの影響が印刷市場にも波及
現時点で「工業統計」は4人以上事業所に限定した印刷産業出荷額を公開しており、2009年は過去最大の9.4%減になっている。3人以下事業所の構成比は2%前後のため、印刷産業の出荷額全体が約9%減という未曾有の大幅減少になったと見てよい。2009年はリーマン・ショックによる金融危機が本格化、年初から大型の景気後退を迎えた。発注者心理は冷え込み、企業の広告宣伝費は11.5%減と大幅に引き締められ(電通「日本の広告費」)、近年の印刷市場を底支えしてきた商業印刷分野が特に大きな影響を受けた。JAGATの調べによる印刷会社売上高伸び率は約6%減と過去最低を記録した。印刷業の破綻数は174件で過去5年の最多だった(帝国データバンク調べ)。
■2010年:印刷市況、全体に軟調も春先と年後半にかけてやや持ち直し
2010年は、未曾有の落ち込みを記録した2009年の流れを引き継いで始まった。春先にかけて景気が持ち直す過程では、印刷会社の売上高も徐々に下げ幅を縮めた。ところが5月にギリシャの財政赤字粉飾による欧州発の信用不安、7月の参院選で与党惨敗による政局の混迷を経て、景気が失速するとともに印刷会社の売上高も再び軟調さを増していった。10月までの段階で印刷会社の売上高伸び率は約4%減となっている。「JAGAT印刷産業経営動向調査2010」によると、印刷会社の営業利益率は初めて1%台に低下した。2010年も印刷会社の破綻は続いたものの、破綻の規模は2009年よりやや小さくなり、いったん状況は落ち着きを取り戻している。
■2010年:景況感、印刷会社経営者の声
年初は景気がリーマン・ショックの影響で先行き不透明感が濃く、「受注してもデフレで売上、利益につながらない」、「見通しが立たず、将来の目標が立てられない」、といった声が多かった。やや持ち直した春には「小ロット印刷の受注強化で増収」、「年度末需要があった」、「想定以上の業績」との声も聞かれた。反面、「小ロット化や受注単価下落で売上は大きく前年割れ」、「印刷通販と競合」との声も。初夏には「実体の見えない電子書籍狂想曲に踊らされています」、「売上が久しぶりに前年を越えました」など。景気が腰折れた夏以降は、「3ヵ年事業計画を作ります」、「大手印刷会社のリストラ発表に驚いた」、「デジタルサイネージに対応します」と、先を見据えた声が増えた。年末にかけて政権与党や政局混迷への失望の声が増えていった。
■2010年:主要印刷製品動向
広告市場は回復に向かったが、10月までの段階では商業印刷への波及は限定的だったように思われる。DMや折込チラシなどは増え始めたが、フリーペーパー・フリーマガジンなどは戻りが遅れているようだ。ただし各方面からの声を総合すると、年後半にかけて少しずつ持ち直していったようだ。出版印刷は継続的な出版不況の影響と、出版業界で進んだ返品率改善の影響を受けた。2010年は「電子書籍元年」と言われたが、出版印刷市場への直接的な影響はまだ見られない。2010年時点で電子書籍市場と従来型出版市場は独立した別の市場として機能しているように見える。電子書籍を作っても「制作コストを回収するほど売れない」という現実的な声も聞かれた。包装印刷は生活者の消費や企業の輸出回復に伴い、比較的堅調に推移し始めているようだ。景気回復局面における需要回復の差が製品別に出てきている。
■2010年:トピック、日本のものづくり、日本の印刷技術
2010年10月、技能五輪国際大会の国内最終予選で最高得点を出して日本代表候補の座を手にしたのは、亜細亜印刷(長野)の伊東真規子選手だった。中小印刷業界から初の日本代表選出となり、国内印刷業界の裾野の広さ、技術水準の高さを改めて感じさせる結果となった。技能五輪でオフセット印刷職種が正式競技に採用されてから過去2大会は、凸版印刷の選手が日本代表として出場していた。2007年沼津大会は鈴木康弘選手が6位入賞、2009年カルガリー大会は菊池憲明選手が金メダルと、2大会連続で上位入賞を果たし、日本の印刷のものづくりの定評の高さを裏付けてくれていた。次回2011年ロンドン大会は10月に行われる。ぜひ注目して応援したい。同社の藤森社長はJAGATでの講演(12月21日)で、「中小印刷業界の底辺からの押し上げを図りたい」と意気込みを語った。
■2011年に向けて:経済見通しの概要と印刷市場の関係
いくつかの懸案事項をはらみながらも、新興国マーケットが牽引する形で世界経済は正常化に向かっている。印刷市場でも2010年は年後半に向けてある程度印刷需要が戻っていった。背景には、行き過ぎた部数削減の見直しや、印刷メディアのデジタルメディアにない特性の再評価などがあったもようだ。景気はリーマン・ショック後の新しい水準に落ち着きつつあり、印刷産業を取り巻く各種産業も緩やかに持ち直し始めた。有力各機関の経済見通しを総合すると、2011年の国内経済成長率は2010年に続くプラス成長となるが、成長率は2010年より鈍化する。各種景気刺激策が順次縮小または終了するため、2011年の国内経済は景気刺激策を縮小しつつの自律成長を試される。おおよそ1%台前半の成長率では、印刷需要が大幅に増えるほどの波及を経済に期待することは難しい。印刷会社は引き続き経済成長に頼らない方向での成長分野開拓が求められる。
■2011年に向けて:印刷市場周辺と印刷会社経営
電子書籍プラットフォームビジネス構築競争は印刷会社、通信事業者、広告代理店、システムインテグレータ、メーカーなどが入り乱れて参入し、早くも競争が激化している。現時点では、印刷ビジネスを通じて蓄積した情報加工技術を強みに印刷会社が一歩リードしているようだ。アウトプットする媒体が紙から液晶に変わっても、印刷会社の技術は変わることなく生き続ける。その意味で印刷会社はメディアプロフェッショナルなのであり、メディアは変わっても地域や企業の情報加工ニーズや情報発信ニーズに不可欠な存在であり続けるだろう。そして印刷会社はメディアプロフェッショナルであることを強みに、中長期的にソリューションプロバイダーに進化していく。2011年を2020年に向けた新たな10年の始まりの年と捉え、新しい印刷会社像を描いてみたい。
※ソリューションプロバイダーとは…顧客視点で特定メディアに偏ることなく、地域や顧客の課題や困りごとに最適なメディアや手法の組合せによる解決を提供する存在。
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